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047.

 前回分が長かったのでくっつけるわけにもいかず、今回は短めです。

 今日はせっかくのあいなさんとの撮影だというのに、じみに早く帰ってこいとメールが来ていたのでしぶしぶ帰ることになってしまった。あいなさんはオフは今日しかないからばっちりとるぜぃと息巻いていたのだけれど、家からの呼び出しは珍しいからどうしようもないのだった。当然、ここ数週の仕事用の写真を見せてもらう時間もがくんと減ってしまったのは言うまでもない。

 しょぼんとしながら駅に向かって歩いていると、そこには駅舎に寄りかかる影があった。

 見慣れた女の子だ。そう。さきほど喫茶店で一緒だった相手である。

「まだ帰ってなかったんだ?」

「はいっ。ぜひお礼を言っておかないとなって思って」

 周りをちらりと見ても青木の姿はもうない。

 どうやら一人でずっとここでまっていたらしい。ルイを待っていたのだとしたらなんの用事だろうか。写真をいくらか寄こして欲しいとかそういう話だろうか。お礼を言いたいというだけではさすがにこれだけの時間を駅の前で待っているというのは難しいだろう。なんせあれから三時間近くは経っているのだ。

「ルイさんに聞きたいことがあります」

「答えられることならなんなりと」

 あれこれと考えていたら、彼女はずいとこちらの顔をのぞき込んで来た。

 じぃーと値踏みするような視線が向けられている。

 それを避けるように時計をちらりと見る。まだ時間的には余裕はある。早めにといわれたところで時間指定はないのだ。少しくらい相手をしてあげても良いだろう。

「ルイさん、ずっと苗字伏せてますよね。それって何か意味でもあるんですか?」

「んー。ハンドルネーム的なもの、って感じだよ? 結構芸能人とかでもそういうのいるじゃない? ヒデとかハナとか。そもそも伏せてるわけでもないし」

 特に深い意味はない。名前で呼ばれる方が自然になってしまっているし、形式張ったところでしか苗字は使わないだけのことだ。いちおうは豆木という珍しい苗字もつけてはいる。そもそも美咲ちゃんだって「未先」っていう名前だけの人ではないか。

「なら、もう一つ。木戸馨さんとあなたの接点は? 兄弟とかなんですか? 双子、とか?」

「ええと、どうしてそういう反応になるのかな?」

 唐突な申し出に、えー、と微妙な声を漏らした。木戸とルイの関係性に気付いた人間は今までいない。遠峰さんのときは無理やりだし、エレナのときや斉藤さんのときはこちらから漏らしている。

 そもそも、木戸馨が誰なのかすら彼女はついぞさっきまで知らなかったはずなのだが。

「前に、木戸さんと青木さんの写真をコラージュしたんですけど、そのときに、木戸さんが受けなのかなって髪の毛かぶせて眼鏡を消してみたことがあって」

 さっき、あの写真の眼鏡の人が木戸って人だって話を聞いて、それからルイさんとの関係性をずーっと気にしていたのだと彼女は言った。

 さすがはコラージュ娘である。その写真が外に出回らなくて本当によかった。

 それではまるで、青木とルイのからみシーンになってしまう。

 喜ぶのは青木だけだ。

「仲間。か。まあ、いっか。青木姉弟には内緒にしてほしいのだけど」

 うーんと、少し悩みながらそれでも、「作る楽しみを持っている人間」相手に無碍にもできないなと思ってしまった。

「内緒にするのが借りを返すということで、どうだろうか」

「はわっ」

 耳元で男声をだしてやると、彼女は驚いたようにして体をのけぞらせた。

「別に後ろ暗いところは全然なくてね。撮影のためにルイっていう形をとったほうがすごい自然で。このこと知ってるのは学校でも数人。写真部のさくらとか、演劇部の斉藤さんとその弟子とか。そんくらい。っていっても人間に興味ない美咲ちゃんは誰がだれやらって感じだろうし、みんな知らない内緒の話で、ひとくくりでいいと思うけど」

「それは……なんか反則ですよぉ」

 絶対双子とかそういうのだと思ったのに、と彼女は驚きのあまりぺたりとベンチに腰を落として苦情を漏らす。

「そんなにほいほいわかってしまったら困るでしょう? 写真撮影のためにつくったルイっていう存在がとやかく言われるのは困るし、もう一年以上これで来てしまっているんですもの」

 疑われても、自然の立ち姿でうやむやになる。そこまでやってこその女装というものである。

 最近、かわいいのすきーとかそっちの方でいろいろと感覚がおかしくなっているけれど、あくまでも写真とるためにこういう格好をしているだけだ。

「それじゃ、先輩がさっきかばってくれたのって?」

「あいなさんとは知らない仲じゃないし、ちょこっと助け舟を出しただけ。本当は青木の阿呆がきちんとフォローに回るべきだったのに、本当にへたれだから」 

 まいっちゃうよね、と言ってやると、美咲ちゃんはにやにやと苦笑を浮かべながら肩をすくめた。

「どんだけお二人はいいカップルなのかよくわかりません」

「まって。それは勘弁してー」

 本気で嫌がると、彼女はぷくくと笑顔を見せた。

「ま、無事に何事もなくてよかったじゃない? あいなさんの画像もいちおうは取り上げられなかったし」

 フォローはしたにせよ、ほとんど満点に近い成果ではないだろうか。

 それを引き出したのは彼女の技術と熱意なのだから、とてもよいことだ。

「先輩の写真なら、発表とかしちゃっても、いいんですか?」

 先ほどから考えていたのだろうか。遠慮がちなその問いかけに少しだけこちらも考える。

 こう来るとなると、とりあえずダメなところだけは押さえておかないといけない。

「自然の写真なら、とりあえずはおっけ、なのかな。石碑とかそういうのはさすがにダメだし、もちろん人物もダメ。エレナとのコラボでなんかやれれば楽しそうだけど、それはおいおいでね」

 あいなさんがしぶい顔をしたのは、商業作品を加工したというところが大きい。

 もちろん、自分の写真への自負とかもあってというところもあるのだろうけれど。

 ルイとしては日本料理を完成した後に香辛料をいれてインド料理風に味を変えました、ということ自体それはそこまでプライドを折られるというようなことではないのである。両方の写真が並ぶのであればそれはそれでいいと思う。

「それとこっちの姿の時は君の味方でも、普段はそうでもないから、そこは気を付けてね」

 どっちかというと被害者だからねぇ、と言ってやると、わかってますぅーとくすんと情けない声が漏れた。


 写真加工も侮れません。印象をがらりと変えてくださいます。

 もちろん眼鏡も! というわけで、人間の先入観って恐ろしいなぁと思います。


 さて。次回ですが木戸くんちにご招待です。まだ間取りとかほんのりしか考えてないのですが、家をでてる姉の部屋も当時のままになっております。

 女装に対して家族がどう反応するのか。そこらへんを少しでも感じていただけましたらなによりです。

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