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442.青木家ご訪問2

作者体調不良により、本日短めです。本来なら後半まで書くつもりだったのですが……

 ちょっと状況を整理しておこう。

 青木は洗面所に置いてある服を見ただろうか。言うまでもなく完全に女物である。そしてそのわきにウィッグ。うん。普通においてあると髪の毛の長さまではわからないから、あれがルイと同じ髪型だというのはわからないだろう。おーけい。大丈夫。


 とはいえ、青木がどこまでみたのか、というのは実のところ判然としていない。

 いちおう後ろを向いたけれど、まあ、その。胸を見られたのなら、特別問題はないとは思うんだ。

 でも、下がなぁ。

 それで、私、ルイさんですが!? っていう勇気は正直あまりない。

 ……おまえが好きになったのは、実は男だぞというのはちーちゃんの助けになるだろうけど、その先入観は、あの子のためにも良くは無いだろう。

 こっちも嫌だし。青木が「実は男の娘が好き」だというのを通り過ぎて、「俺、ゲイなのか」と天を仰ぐ姿は容易に想像できる。


 女子であろうとするちーちゃんが、彼氏に「お前は実は男だから好きだ」と言われたら、大ダメージだろう。

 もちろん、あのカップルに関してはほんと、青木が「女子として」ちーちゃんを好きなのは間違いないんだけどね。


 人は性別で恋をするのか?

 違うだろう。「恋を終わらせるのに性別は必要」だけれど、第一印象は、ただそこにある等身大の相手だけだ。

 身近にいくつも、そういうのを見てきている身として、その問いにはそう答える。


 でも、終わる理由としては、それはたしかにあるのではないかとも思う。

 ならば、千歳のためにも、ちょいとお節介をしておいてあげたい。


「ご、ごめんっ。見るつもりは全然なくてその……」

 どうやら青木はこちらの反応から、見知らぬ女子がシャワーを浴びてると思ったらしい。

 外にあるのは女物の服というのもあるからだろうか。

 少なくとも、こちらがルイさんだ、というのは思わなかったようだ。

 ウィッグがないとさすがに、印象も全然違うから、そこらへんもあるのだろう。

 なら、とりあえず、やれることは一つだ。


「あの、深月先輩、呼んできてくれますか? 何も聞かずに」

 とにかく不機嫌そうな声を出して、先方を誘導する。そう。いま一番青木にされて困るのは、あいなさんと話をして、泊まりに来てるのがルイだとわかること。

 口裏を合わせる前にあいなさんから、ぽろっとルイの名前が出てしまっては困るのだ。

 まだ、青木に、ナニをどうみたのかも聞けていないのだから。


「は、はいっ」

 青木は、女子につるし上げられると思ったのか、そそくさと部屋のほうに向かって、すぐにあいなさんを呼んでくれた。まだまだ酔っ払いなあいなさんは、なんなの? ととろんとした目を弟に向けている。

 よかった。あいなさんの酔っ払いレベルは、ほろよいから始まり、普通の酔っ払いになって、最後に迷惑な酔っ払いになる。最後になる一歩手前といったくらいだろうか。


 二人きりで話をしたいので、と伝えると、青木は死刑執行前みたいなしょんぼり顔で居間のほうに向かっていった。久しぶりにやっちまったーという感じだろうか。

 

 それに対して姉の方はぽへーっとしながら、何があったの? と疑問顔だった。

「それは、こっちの台詞です。青木はオールだって聞いたように思いますが」

「んー、なんかあんまり盛り上がらなくって、っていってたけど、あいつのことだから、彼女のことでもつっこまれて、三次会はやめて帰ってきたんだと思うよ」

 ほら、若い男の子だといろいろと言われたりするじゃない? と言われて、きょとんと首をかしげておく。

 彼女を持ったことがないもので、いまいちそういうのは解らない。

 飲み会っていっても、だいたいは聞き役に回るか、写真の話ばっかりしているのだ。


「そして、風呂場の水音を聞いて、こうなった、と」

「いちおー、信のやつとしては、お風呂の水音がっ! ねーちゃんがだしっぱだと思って! と、言い訳はしてたけど」

 どうして、そこでねーちゃんの友達が来ていると思わないのか、本当にわからないと、あいなさんは不満げに頬を膨らませた。

 カメラがあれば撮りたい絵である。


「それはそうと、これからどうするかですね。いちおうその、ルイとして裸を見られた、ってなるのは回避したいところです。最悪ばれても特別なにもないとは思うのですが、ちーちゃんのこともあるし」

「そうね。でも、そうなったらどうするの? 新しい設定とか入れちゃう?」

 あいなさんにそう問われて、うっ、と声を詰まらせてしまった。

 たしかに、一時的なことだからあいなさんの友人Aみたいな感じで話をしてしまってもそれはそれでもいいように思う。


 けれど、正直これ以上いろんな人格をご用意というのは果てしなく疲れる。

 おまけに、あいなさんの友達のカメラ好きな女の子という設定にしてしまうと、もろにルイさんやんとなりかねない。

 となると。


「いえ、久しぶりに元クラスメイトとの旧交を温めようかと思います」

「うわぁ、それでいっちゃうんだ?」

 いいの? あの子どうみても、女の子の裸を見た、と思ってるみたいだけど、と言われてまあそうですよなーと苦笑を浮かべる。


「そこはほら、高校時代にある程度女装姿を見せてもいますし。いまこの状態であっても別に、あぁお前そこまでいってしまったんだなとか思われるだけですから」

 別に、青木にそう思われてもどうでもいいので、というと、どうでもいいんだ? とあいなさんに苦笑を漏らされてしまった。


 でもほら、元クラスメイトが久しぶりにあったら、美女になってましたっていう経験は、将来的に千歳(ちー)ちゃんのことが露見する時の助けにもなると思うんだよね。初めてというより、二回目の方が、変っぽさが軽減されるというもので。


「となると、とりあえずは男子状態に戻すということでいいかしら?」

「そうなりますね。あ、でも着替え……」

 今日はルイのままでずっと過ごすつもりだったので、男ものの服までは持参していない。

 青木の前で女装姿をさらすのは別に問題はないけれど、ルイの服装で出るのはさすがにちょっと危険が危ないような気がしてならない。


「ま、そこはこっちでなんとかするけど……そもそも男に戻すっていうのが、無理っぽく感じちゃうというか」

 ははは、とあいなさんはバスタオルを体に巻いているこちらを見て、乾いた笑いを浮かべた。

 え? バスタオルってこう巻くものだよね? 別におかしくないと思います。

 というか、服を着るわけにもいかなかったし、なによりずっと裸で話なんて出来るわけないし。寒いし。


「ちょっと、切りかえのためにも時間かかるだろうから、お風呂入ってあったまってでてきなさいな。眼鏡はシルバーのほうは持ってきてるんだっけ?」

「今日はそっちのみですね。洗面所にバッグを持ってきていただけると」

 はいはい、とあいなさんは呆れた声を漏らしながら、どっちもどっちのアホさかげんかなぁこれは、と結構失礼なことを言ってのけたのだった。

ラッキースケベされても、特別なんら感情は動かないルイさんでございました。

そして後半戦は、青木氏とバカ話予定です。

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