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成人式・裏1

本日はさくらさん視点で、成人式の日です。2話終了予定

「あぁ、ほんとどうしてあの子はうちの市に引っ越してきてしまったのか」

 あたしは、集まる報道陣の群れをみながら、深いため息を漏らしていた。

 使われるのはせいぜい、夕方の番組の一分もあればいいほどなのだろうけれど。

 それでも、みなさんは、崎山珠理奈の成人式を見たくてならないのだ。


 あぁ、ほんとすごい被写体。それを好き放題撮れるはずのあいつは、妙なストッパーが入っていたりするし。

 こっちはこっちで、撮らせてもらっても、もっといけるよなぁ、もっと撮りたいなぁというレベルまでしか行けずにぐじぐじする毎日だ。


 というか! そのポテンシャルを全面的に出せるのが、男性のカメラマンだってのが、へんにゃりしてしまう。

 どうすれば、この気位の高いお姫様の気分を緩めて写せるのか。

 佐伯さん、ほんとまじ、ぱねぇって感じ。


「そして、隣にいると確実にこっちも映り込みするという現実……」

 さて。そんな珠理奈嬢が、この現場でどのグループにいるか、といわれれば、わたくし、さくらさんの隣に鎮座していたりするわけです。

 その反対側にはエレナがいるから、どうかカメラさん、三人組ではなく二人組で撮ってやっていただきたい。


 三人の中で比べられると、自分が外見的にダントツで劣っているのは分かっている。

 だからこその、そんな心の叫びなのだった。


 え? ああ。いちおう今日は振袖姿。さすがに両親に、せめて振袖姿を見せてくれと泣きつかれたのだ。

 ちなみに母親からは、木戸くんは振袖じゃないの? どうなの? とキラキラした顔で言われてしまったりもした。まあ、あいつのことだから、公的な場では男で通すだろうな、というくらいはわかっているのだけど。


「ま、あの人たちもお仕事だし。式さえ終わればいなくなるわよ」

 いつものことだから気にしないで、とさらっと言い放つのは珠理奈嬢であらせられた。

 黒地ベースに、明るい花が彩られている振袖姿は、大人になりましたという雰囲気をしっかりと出せていると思う。


 エレナたんは、紫ベースときました。

 まあ、赤と青を混ぜた色ーとかそういうことなんだろうけど。こっちもこっちでちょいと大人っぽさというか、色気というか、そういうものが演出されている。

 え、さくらさんの振袖はどうかって? 二人が女の子っぽくくるだろうなって思いはあったので、こちらは空色ベースのものを選んでいる。レンタル先はルイをモデルにして撮影したあの店だ。さくらちゃんなら値引きしてあげるよ、とか小春さんが言ってくれたのでそこに決めた。


「それより、別にあたしのそばにいなくても、さくらも友達としゃべってくればいいんじゃない?」

 知り合い、それなりにいるんでしょう? と言われて、まーそうなんですがーと、ちらりとスマホの画面を見た。

 生な珠理様ぱねぇ、オーラすげぇ、無理っ、一人でがんばっ、みたいなメッセージがずかずかと並んでいた。

 それじゃあ女優つながりで、ちづはいないのかといえば、斉藤のねーさんはなんかちょい遅刻気味なのだそうだ。

 ついたら合流する! とは言ってるけど、はたして会えるかどうか怪しいものだ。


「うぅ。でも、今日なら撮影自由にしていいんでしょ? それを言われると近くで張っていたいって思いも」

 そして、珠理さんのそばから離れない理由は、たった一つ、これだけのことだ。

 エレナたんもいることだし、別にあたしが離れたら一人になるってわけじゃない。

 でも、この、他称国民的美少女様は、え、今日なら無礼講だから、自由に撮ってもいいわよ、としれっと言ったのだった。


 それはもちろん、知り合いのあまりいないところでの式というのもあったのかもしれない。

 少しでも身内で固めておこうとか思ってるなら、まぁ。それは嬉しいことだとも思うし、撮影を餌に出されれば食いつくのは、写真家のサガというもの。


 うん。何でかんでいろいろおつきあいはしていても、ドラマ一本見させられてしまうと、うあ……ってなってしまうのが、彼女の実力というやつなのだ。普段はちょっと勝気な少女という感じでも、役に入れば千差万別してしまうところあたりは、すっごいなぁと思わせられる。


 それが友達というのは、純粋にありがたいというか、恐れ多いというか。

 もちろんそれをつかみ取ったのが、ルイのやつだっていうのは自覚しているし、そのおこぼれで仲良くしてもらってる自覚はあるのだけれど。

 撮っていいのなら、撮らないわけにもいかない。

 そこらへんのびくつきは、二年前の海の一件で覚悟は決めた。

 

 撮っていいかどうか、は先に頭にでてくるけれど、それでも撮りたいかどうかというのを考えられるようになったというか。

 あ、うん。ルイのやろーなら、撮りたければ撮ればいいじゃない? ってあっけらかんと言うのだろうけど。

 あたしの場合は、それよりも一歩、考える段階が入る。

 石倉さんあたりは、そういうのが天才肌ってやつなんじゃねえの? とかひどいことをさらっと言ったりもしたのだけど、まあたしかに、頭のねじがどこか飛んでるという意味ではそうなのかもしれない。 


「まあ、そういうことなら別にいいけどね。さくらみたいな子なら知り合いとかいっぱいいるかなーって思ったりもしたんだけど」

「それを言えば珠理さんの方が知り合いは多いんじゃないですか? 成人式だって都会でなうでやんぐな感じにというか」

 仕事仲間で同年代の人はいるだろうし、同じ事務所で参拝なんていうニュースもやってたりするのを見ていれば、そういうもんなんじゃないかなーという風には思うのだけど。


「あたしそんなに普通の友達はいないし。蠢は同い年でそこそこな関係ではあるけど、あっちもあっちで、さぁスーツなのか振袖なのかっ、みたいなゴシップ記事で煽られて、成人式まじだるいって言ってたし」

「あははっ。いちおう夏あたりにいろいろありましたからねぇ」

 大手のところはさすがに、もうすでに確定しているそれをわざわざニュースにしようとは思わないけれど、小さなところでネタをつかむのが大変といったところが、いまさら記事にしているというようなところなのだろう。

 蠢さんの成人式はもちろん男性用のスーツだ。関係者からすればそれが一番自然なのだし、違和感もない。

 招待状には、特別服装に関しては何も書かれていないし、だったら問題にもならないだろう。


「でも、それを言うならエレナだって、こうして堂々と振袖で大丈夫なの?」

 いちおう、エレナたんだって、戸籍上は男性なわけで、それでこの格好で問題にならなかったのか、という心配を珠理さんはしているようだった。いちおう性別不明の話題性も込みでの疑問なのかもしれない。


「んー、ボクとしてはもう、ホームページにも成人式に行ってきます! これはコスじゃないからねっ! ってコメントは載せてるんだよね。会場で見かけたら撮影してもいいよ? とも言ってあるからボクのファンの人がいたら、振袖姿が多少は拡散するかも」

 これで、実は女の子派大勝利かな? とにこやかに笑う姿が無邪気にかわいかったので一枚撮影。


「この前のお風呂の番組の一件で、そうとう実は男の娘派が苦境なのは事実……いいや、しかし私はまだ望みを捨てたりはしないっ!」

 くっ、とこぶしを握り締めてわざとらしく言ってあげると、またまたぁ、別にそこまで気を使わないでも周りの人は気にしてないと思うよーと緩い顔を見せてくれた。

 いやいや、めちゃくちゃ注目度高いと思うのですけれども?

 そりゃ、珠理さんの横にいるから自分のことを意識してる人なんてほとんどいないと思ってしまうのもわかるけれどさ。


「そうはいっても、エレナったらあの人のところに振袖姿見せびらかしたりしたいんじゃないの?」

「ふふ。そういうお話はお屋敷に戻ってからしよっか?」

 なんなら、ここで話してもいいけどガールズトークは密室でね、とエレナさんは人差し指を唇に軽くあてて、しーっという姿勢をとる。もちろんそれも一枚いただきました。

 ちなみに、エレナの彼氏である、よーじ君はこの会場にいたりするけど、声をかけてきたりはまったくない。

 それは最初から打ち合わせをしてあったことで、さすがに「男子高出身」で、その同級生だったよーじ君は一緒に成人式にでるといろいろまずいだろうという判断のもとの対応というやつなのだった。


 もう、友人の前ではべたべたなんだから、もう彼氏います! って言い切って公でいちゃつけばいいのに、なんて思うものの、エレナたんは、えぇーそんな公然といちゃつけるとしたら、学校の中でだけなんだから、という変なこだわりがあるのだった。

 学校で公然といちゃつけるなら、ここでもやってしまえよと思うんだけどなぁ。


「さくらちゃんは、今日は彼氏は来てないの?」

「あーうん。石倉さんは別の現場で撮影してる。成人式はいちおう稼ぎ場でもあるしね。一生の思い出に残る写真をってことで、上手い人は特にいっぱい声がかかるってわけ」

「それで、さくらちゃんはもうその振り袖姿撮ってもらったの?」

「……ええ。撮ってもらったわ。……数日前衣装選びしたときに、ルイにね」

 ちらっと視線を隣町の方に向けてしまうのは、まあ遠い目というやつである。


 石倉さんにも一応、振り袖姿の撮影については聞いてみた。

 別に撮ってやってもかまわねぇけど、金とるぜ、と普通にさらっと言われたので、さすがにそれはなぁとなってしまって、次善の案としてルイに頼むことになったのだ。


 当日はあっちも忙しいだろうし、小春さんのところで衣装を決めた時に呼び出して撮ってもらった。

 あぁ、可愛いなぁ、綺麗だなぁとかさんざん褒めちぎってくれた上に、普通に綺麗に写してくれたので、内心とても複雑な気分になったものだった。

 

 前に小春さんの依頼でルイを撮ったけれど、そのできと比べてこれはどうなのよって感じ。

 被写体のクオリティなんかの差し引きをしても、やっぱりあんにゃろうは女の子を撮るのがすごく上手い。

 このあたしですら、モデルっぽく撮ってくれたかと思えば、普通にスナップ風な日常の絵も撮ってくれるのだから。


「う……かなり羨ましい……」

「ボクはお屋敷で前に成人の写真は撮ってもらったよ。お父様もルイさんが撮ってくれるならって喜んでたし」

 本来は、どこかの写真家さんに撮ってもらう予定だったみたいだけど、まああのルイちゃんだしね、とエレナお嬢様はなぜか自分のことのように無い胸を張った。

 そりゃ、エレナたんを一番綺麗に撮れるのはルイに違いないから、その選択は正しいとは思うけど。

 そういえば、珠理さんのほうはどうなんだろうか? 今日は大人しく三枝邸で女子会みたいになる予定だけど、隣町に行かなくてもいいのだろうか?


「珠理さんも撮ってもらえばいいのに。振り袖姿見せびらかすって感じで」

 ちょっと挑発気味にどうよーって見せびらかせばいいのでは? と言ってやると彼女は、がくんと肩を落とした。

 えっ、なにこの反応は。


「ええと、ね。さくらちゃん。その話題もやっぱりガールズトークのうちだから、お屋敷でご飯食べながらにしよっか?」

 ほら、珠理ちゃんも背筋ピーンだよ? と日朝にやってる某CMの真似をしながらエレナたんは肩の後ろ側をぽふぽふ叩いた。

 はぁ、お仕事の一環みたいなものー、と言いながら珠理さんも背筋を伸ばす。

 へんにゃりしているのも可愛いのだけど、それでもこうやって凛としている姿もとても綺麗で、なかなか同い年の同じ性別の人だとは思えない被写体さんである。


「詳しくは後で聞かせてもらうとして、さて。そろそろ式が始まるみたいよ」

 アナウンスがなって、ざわついていた会場が静まりかえった。

 とはいえ、式そのものに対する姿勢は、みなさんあまりよろしいわけでは当然ない。

 なんとなく、小中学校でもこんな感じで話を聞いたよな、くらいな感じであり、かつどちらかというと退屈な話をされるんだろうなぁという予感の方が強いもので。

 それが二十歳になったからといって、急に大人の言いぐさがわかるのか、と言われたらたぶん、無理だろうと思う。


 そんな予感に苦笑を浮かべながら、開会の言葉を聞きつつ。

 市長からの挨拶が始まった。


 そして。

 報道陣がつめている中で、いや、だからこそ、その事件は起こってしまったのであった。

さて。隣の市はどうなってんの? ってことでさくらさんが語り部でございます。

ちょい短めなのは、仕様としかいいようもなく……orz


生珠理さんにはみなさんちょっと遠慮気味になってしまっている感じでしたね。

さて、次話はエレナたんちにいかせる予定です。

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