424.お正月の里帰り3
「なんていうか、馨……ルイってあんだけしかテレビに露出してないのにどうしてこんなに知名度あるわけ……」
「俺もしらん……わけでもないな」
さて、朝ご飯を食べ終えて、少し町の散策をしようなんてことになったのだけど。
これがまた、さっきの聖地撮影組み以外にも、割と町中にちらほら、ルイが前に使ってたカメラと同じものを使ってる人というのがいた。
まあ、お正月だから、神社にいくなら、どうせならここ! というこだわりが有る人が、ぼちぼちいるということなのだろう。
じーちゃんは、そりゃールイちゃんの影響にきまっとるじゃろーと、なぜかドヤ顔だったのだけど、それだけが原因というわけでもないような気がする。
「いちおーさ、ルイが撮ってきた聖地って他にもあるんだけど。それでもたぶんここが一番集まってるんじゃないかなって思うんだよね」
「ほほぅ。そう思う根拠は?」
「……ルイのファンが各地の聖地に一斉に行ってたりしたら、俺がイヤだ」
「まあ、そうね」
生暖かい姉の言葉に妙にゲンナリしてしまうのはなぜだろうか。
「それで? とりあえず町中うろうろしてる感じだけど、なにか目的はあるの?」
「んー、これと言っては正直ないんだよね。神社はもうちょいしてから行こうかなって感じだし」
ちょっと腹ごなしに歩こうかってくらいな感じ、というと、あーと姉さんは変な声を上げた。
「あんたったら、あー珍しく誰かに作ってもらった朝ご飯だー、って大喜びだったものね」
「だって、最近母さんご飯作ってくれないっていうか、むしろお前が作れーっていうじゃない?」
「あはは。母さんもばあちゃんにつっこまれてあたふたしてたよね、教育方針というだけで別にものぐさってわけじゃないし、馨がいない日は夕飯ちゃんと作ってるしってさ」
まあ教育方針でこうなったことは間違えようがないことではあるのだけど。
半分は、母さんったら朝寝てたいだけだと思うんだよねぇ。ほんと。
「でも、なんていうかほっこりする味って感じだったかな。山菜系が多いのも嬉しいし」
「なにげにそういうところが乙女主義よね」
そういうのがウエストラインに影響するんかーと、姉様がお腹をぷにぷにつついてくる。
コート越しだからあんまり感触はないと思うけどね。
「それより、食後に歩くってのが一番だと思う。どうしても冬真っ盛りでちょっと寂しい景色になってるってのはあるけど」
こういうのも好きだし、とカシャリと一枚風景の写真を抑えておく。
色彩はあんまりないけれど、それでもしっかり舗装されてない道だったり、あぜ道だったりがあったりすると、おぉって感じになる。
「うーん、でもこう見るとあまり新しいお宅って建ってない感じなのかしら。ちょっと過疎化がって話もあったみたいだけど」
観光客が来てくれるだけまだマシと思うしかないのか……とちょっとだけ心配そうな表情を姉は作っていた。
いやいや、姉様。これくらいだったらまだまだ人もいるし、みなさんも元気だから過疎がどうのっていう段階ではないと思います。
「それにほら、ちっちゃい子がいないわけでもないし」
ほれほれ、とカメラを向けた先には、小学校低学年くらいの女の子達の姿があった。
年始は家で過ごすものなのかと思いつつ、親が挨拶回りにいる間に遊んでるとかそういうことなのかもしれない。
そして。女の子四人組のうちの三人が、カメラを向けたらなぜか顔を隠した。
はい? えっと、それどういう反応?
「えっと、お写真撮らせてもらったらダメかな?」
「あのね、うさんくさいおにーちゃんたちにカメラ向けられたらこうしなさいってままが」
「ぶふっ。うさんくさいおにーちゃんだってよ、馨」
聖地なればこそ、それなりにファンキーなにいさんたちもやってくるというわけで。この町の大人は一応子供に自衛手段を教えているらしい。
「えー、みさちゃん。この人おにーちゃんなの? かっこいいおねーさんじゃないかなぁ」
「おんなのひとはあんなもっさい眼鏡とかつけないよー。女の子は可愛く! ってままもいってた」
ふむ、声もろくに変えていない状態で、三対一か。
一人だけきょとんとしながら、顔を隠していない子がいたけれど、どうやらこの状態で女性だと思われたらしい。
まあ、スタイルとか見れば、それなりにそう思う要素はあるわけだけれども。
「どっちみち、うさんくさいおにーちゃん、じゃないんだけどね」
それでも撮らせてもらっちゃダメかな? 可愛く撮っちゃうけど、と言ってあげると、んー、と悩みながら、やっぱりだめーと、恥ずかしそうに顔を隠されてしまった。
うぐっ。さすがに初対面だと心を開いてくれないらしい。
「ま、いつか撮られてもいいって思えたら今度ね」
「うん。もさいおにーちゃん」
ええぇ、かっこいいおねーさんなのにーと、やっぱり意見は割れたまま、四人組みの彼女達はきゃいきゃい騒ぎ始めた。
とりあえずそのまま粘るのもなんなので、諦めて歩き出すことにする。
「なんていうか、あれね。あんたいちおうそっちの格好でも幼女とかに声かけられるのね」
「そりゃ、まあ。ね。でも受け入れられるかどうかってのは相手次第だからさ」
さっき、ルイとして相手してたらあと、二、三言で撮らせて貰えてたような気がしてならない。
前から言っていることではあるけど、やっぱり相手の警戒を解いたりするためには、女子のスタイルでいた方がいいのである。
「さて、果たして巫女さんはこっちの格好でも撮らせて貰えるのかっ、なんていう話もないではないけど、そっちは心配してなかったりして」
いちおういろいろ見たし、そろそろ神社に向かいますか、と言うと、姉様は嫌がられるんじゃないの? と疑問を頭に浮かべた。
「表情がどれだけ柔らかくできるかが、勝負かな。巫女さん地味に撮られ慣れてるから、写ることは抵抗ないんだろうけど、ほら、自分に向けられるはぁはぁっていう感情と視線って、割ときもいじゃない?」
ねーさんだって、おっぱい見られまくるのイヤでしょ、というと、まぁそうだけどと煮え切らない声が返ってきた。
「どーしてあんたが、すんなり女子の立場で話しているのかが、ざわざわする……」
「いまさらでしょうに。なにげにルイのやつったら、イベント会場だと目撃情報が共有されるほどで、時々無遠慮な視線が向けられたりとかするし」
おっぱいはないがなっ! といってやると、見る目……いや、想像力が足りないだけだもんっ、となぜか姉様が反論してきた。
それって、触るとすごいとかなんだろうか。
いや、いちおう大きいおっぱいは見慣れてはいるけど、さわり慣れてるわけでは当然ないわけで。
慣れてるのはシリコンの胸パットとかなので、実物の柔らかさはちょいと体験したいような気がしないでもない。
ないけど、まあなんか触らせてくださいってお願いするのもなんか違うように思うし、姉のことだ、それでぴくりとも反応しない木戸を前にやっぱり地団駄を踏んだりするんじゃないだろうか。
「そして、この階段か……」
そんなことを思いつつ、間もなく神社に到着。
相変わらず姉さまはぐったりしながら階段を上っていた。
お百度参りというのが尊いものなのは、これほどの急斜面をなんども往復するからなのかもしれないなとちらっと思ってしまう。
最後の段を上ると、軽く風が吹き抜けていった。
そして、その先には、石畳の上でこちらを出迎えてくれる緋袴の巫女さんがたたずんでいた。
背中には、下結びをしているツインテールがゆるっと覆っている。いや、おさげと言ってしまった方がいいのかな。
「あ、おはようございます。お参りでしたら、どうぞ」
思い切り竹ぼうきを持ったままではあるけれど、出迎えてくれるその笑顔は背景もあってすさまじく幻想的で。
さすがに一枚撮らせていただきました。
「あの、お写真撮らせていただいてもよろしいですか?」
「って、馨。すでにあんた撮ってるじゃないの……」
姉さんがあきれた声をあげているけれど、しかたないじゃない。
竹ぼうきと巫女さんと、そして歓迎の表情と。そして厳粛な社屋の背景。
これを撮らないでなにを撮れというのだろう。
「これを事後承諾、といいます。こんなにかわいい巫女さんがいるなら、ぜひとも撮るべきです」
「ふふ。お客さんもカメラをおやりになるのですね。なんならポーズとかもとりましょうか?」
苦笑気味に巫女さんは声をかけてくれた。
あぁ、声もまじりっけなく女声で、本当にすばらしい。
エレナもぶっちぎりでかわいいけれど、この巫女さんも本当に、いい。
「はいっ、是非っ。あ、それとあと二歩ほど左にずれてもらっていいですか?」
少しだけ微調整をして、こちらも少し場所を移動。
うんうん。数年前にやった作品だけど、構図とかはしっかりと覚えているもので、ばっちりはまるように移動。
「では、いきますね。町のほうに視線を向けつつ、いっぱつ行きましょう」
はーい、少し心配そうな顔でー、というと、そのまま数枚シャッターを切っていく。
「うぅ。他にもいろいろ撮りたい場面はあるけど……今日はお預けってことにしようかな。あんまりテンションあげるとご迷惑になりそうだから」
「えっ、別に私は構わないのですけれど。何枚までなんていう規制はしてないですし」
「この子ったら、夢中になるとずっと撮り続けるから。たぶん最初の段階でセーブをかけてるんだと思います」
ほんと、この写真バカめ、と姉さまに言われてしまったけれど、自制できてるだけすごいと言っていただきたい。
「こほん。なら少しだけお話うかがっても?」
「はい。もちろんです。父からも笑顔で気持ちよく対応しましょうっていわれてますから」
ほほう、あの宮司さん。お子さんを思いっきりマスコットにする気まんまんらしい。
「では、その髪は地毛なんですか? かなりケアが行き届いててすっごいきれいですけど」
「おぉ。髪の話を聞かれるのは珍しいですね。はい。幼いころから伸ばすように言われていて、しっかりケアもしています。今日は二つに分けてますけど、一本縛りだったりなこともありますし、その……学校に行くときは編んだりとかも」
「おおぉっ。巫女モードの時と私服で髪型変えるのは素晴らしいですね! いいなぁ。地毛で遊べると楽しいって友達も言ってましたけど」
エレナがちょろっと言っていたことを思い出しつつ、ほめて反応をうかがう。
実際のところ、この子がいやいや今のようなことをやってないか、少し心配だったのである。
「あんた、ほんっと女の子との会話がなじみすぎよね……まあ、確かにきれいな髪だとは思うけど」
「女の子……ですか?」
あ、姉さんの一言に、巫女さんが少しだけ首を傾げた。
なるほど。ここに参拝にくる町の人たちはもちろん、聖地巡礼する人たちも、彼女のことをよくご存じなので、こういう反応は珍しいのかもしれない。
「何言ってるの、姉さん。こんなにかわいい子が、女の子のわけないじゃん」
「はは。よくそれ言われます」
お客さんのほうは、私のことご存知なんですね、と巫女さんは苦笑気味に定番セリフを肯定してくれた。
「……ぐふっ。どうしてこうやってほいほい男の娘がでてくるのか……本当にわけがわからない」
「まあ確かに、じーちゃんちのそばが聖地だったのはちょっとびっくりだったけど、ここ自体は有名だよ。ゲームのモデルになってるって、朝話したでしょ」
「そして、私もその作品のモデルになってるみたいで……なんど父におねだりしても、お前がやるには早すぎるっ、とか言われるんです」
もう、十六なんだし、ちょっとえっちだって言ってもやらせてもらいたいのに、と巫女さんはちょっとしょんぼりした声を漏らした。
「んー、まあでもさ。自分モデルであられもない作品ができちゃってて、それをやるのは、精神的に結構くるよ? お父様の判断は正しいように思うな」
木戸さんも、ルイさんはあはあ、とかぺろぺろとか言われてるのを見ると、結構ぞわりとしてしまいますしね。
それがエロゲのヒロインなんてなってたら、どうなんだろうって感じ。
っていうか、エロゲのヒロインっていうと、音泉ちゃんもだよね。今度、ねぇ、いまどういう心境? ねえねえ、って聞いてみようかしら。お金のためなんです……とかしょんぼり言われそうだ。
「はぁ。お客さんのような方にそういわれるなら、そうなのかもしれませんね……」
すごく気になるんだけどなぁと、巫女さんは少しだけ子供っぽい表情をのぞかせてくれた。
はい。もちろんその顔は、再現ではなく普通に撮らせてもらった木戸さんなのでした。
姉さまと一緒の町歩きとか、割と久しぶりだなーという感じでした。
お正月はぜひとも家族団らんしていただければと。。
え、巫女さんって、新キャラかよー! というつっこみが四方八方から……いやしかし最初から約束されていた存在なので!
さて、次話は巫女さんとその周辺というか、町の状態をお届けです。はっちゃけていきましょう。




