423.お正月の里帰り2
「で、相変わらず、夜明け前に出掛けるわけだ」
「ああ、姉ちゃん。お正月だし、止めないでほしいんだけど」
あれから、年越しの宴会をしつつ、寝床にいくと、ここで! と言われたところは姉と一緒の和室だった。
布団が二組引かれてあって、なんというか久しぶりに一緒に寝るねっていう感じ。
もちろん、変な気とかはおきることも当然なし。そりゃお前の姉ならそのおっぱいだけでご飯三杯いけます! なんていってくる相手もいるだろうけどね。
ん? 宴会については……そうだね。父さんが、じーちゃんから、お主なんでルイちゃんの生写真とか撮ってないんじゃーとか、滅茶苦茶絡まれていた。
銀香町の近くに住んでるんだから、一枚くらい撮ってこんか、とじーちゃんも涙目だった。
あのね、じーちゃん。入れ込むにしてもそこにいれこんじゃいけないと思うの。
母さんも、年越しそばを食べながら、遠い目をしていました。
ああ、年越しそばっていうと、じーちゃんのはなんと盛りそばで。
なんか日本酒ゆっくりのみながらそば食べたいとかそんな感じなんだって。暖かいのだと伸びちゃうしね。
牡丹と馨は酒はどうなんじゃ? と聞かれたのだけど、まあお付き合い程度で、と言葉を濁しておいた。
じーちゃん達がこのテンションでは、さすがに一緒にそれに混ざる勇気はない。
と、まぁ、そんなやりとりがあった翌日のこと。
まだ薄暗い玄関で靴を履いていると声をかけられたのだった。
「止めないわ。でも、あんたがでるってことは、この町でいい日の出の場所があるってことでしょ?」
さぁ、お姉ちゃんも連れて行きなさいと言われて、ため息交じりに肩をすくめた。
まあ、間違いではない。
この町の情報を調べつつ、一番日の出を撮るのによさげなポイントは確保している。
もちろん、そこに行くのは、ううむと思うことはないではないのだけどね。
なんせ、エレナが昔、行きたくて、遠くてむりーってしたところだから。その写真を送ったらボクとも一緒にいこう! ねっ、なんて可愛らしい声を上げてくれるに違いないのだ。
「ちなみに、朝早くいっても大丈夫なところなの?」
「それは大丈夫じゃない? この町で一番高台にあるってのが、神社なんだけどね。年越しでお参りする人もいるだろうし、お正月ならではの賑わいがあると思うよ」
どちらかというと年越しの時間の方が人気はありそうだけど、というと、まあそうかもね、と姉さんはちょっと考え込んでいるようだった。
そして、姉をひきつれつつ、荷物を持って出発。
神社までの道のりはこれまた十分程度だ。
鳥居の前で礼をしてから、数枚写真を撮らせてもらう。
まだ薄暗いのもあって、妙な雰囲気がある写真にしあがった。
「ひぃ。都会暮らしにこの階段はきついわ……」
「なにいってんの。高台っていった時点でこういうのがあるのは気付いてほしいもんだけど」
するする昇る木戸とは違って、姉さんはひぃはぁいいながら階段を上っていた。
まあ、一段ごとの段差が結構ある急な階段なので、確かにきついのはきついけど、これでも木戸さんは銀香の神社の階段もよく上るし、それなりに慣れているのだ。
というか、姉様はおっぱいが揺れてとても昇るのが大変そうだった。
うん。別になくてもいいよね、あんな大きなおっぱい。
「そして一番上にご到着」
まずは、神様にご挨拶でもしようか? というと、そうねー、とだるんとした声を上げてくれた。
もちろん手水舎で手を清めてからだ。
初詣がここになるというのはいいのかなとも思ったけど、まあ木戸家の氏神様という風に思えばそれはそれでいいのか、なんていう気にもなる。
「やぁ、おはようございます。あなた方も日の出の撮影ですか?」
こちらがカメラをつっているのを見たからか、宮司さんらしい中年の男性に声をかけられた。
ふむ。たしかにどことなく、雰囲気は、あの作品にでてきた彼に似ているかもしれない。まあ、あったのは立ち絵一枚だけだったわけだけど。
「はい。撮らせていただいてもよろしいですか?」
「ええ、かまいませんよ。他にも撮影の方、来てらっしゃいますし」
「……ええと、馨? どうしてみんなカメラを日の出の方向じゃない、石碑みたいなところに向けてるの?」
それになんか、どこかで見たことがあるカメラが多いと思うんだけど、と言われると、ほほぅカメラの違いに気付きますか、ねーさま、と少しだけ笑顔になってしまう。
「いわゆる聖地、と言われるところでね。作品のイベントの中で、日の出の中で告白されるシーンがあんの。それでそこが、まぁ……エレナのやつがさ、再現したシーンだったりするわけで」
「へぇ。あの子がね……ってことは、カメラに見覚えがあるのは?」
宮司さんがいるものの、「この情報は別に誰でも知っていることなので」そのまましれっと話しておくことにした。
「どこかの豆木さんが最初使っていたカメラだね。入門機ということもあって、写真を始めるって人にも使いやすいし、なにより安い。……他にもカメラがあってあえてあれを使うという可能性は……うん。カンガエナイデクダサイ」
割とマジに懇願していると、姉さんは、お、おぅ、と頷いてくれて、宮司さんは、少しハテナマークを浮かべているようだった。
「じゃ、三脚設置して、うちらも日の出準備しますかね」
「馨はあっちじゃないんだ?」
「んー、だって、俺は初日の出撮りにきたんだよ。モデルもいないし再現はしなくてもいいの」
うんしょ、とバッグから折りたたまれた三脚を取り出してじゃきんと伸ばす。
正直これくらいの暗さならば、がっちり両腕でホールドすればぶれないとは思うんだけど、去年あいなさんたちと撮りに行ったときは使ったし、まあ持ってくのが面倒とかじゃなきゃ使おうよって感じなのだった。
ほら、いちおう木戸さん男子ですし? 力ありますし?
……うそくせーとか普通に思われそうだった。
「おお、そこを選ぶとはなかなかお目が高い。町が一望できて朝日に染まるのも撮れるっていうんで、ある方は二台持ちでなんか撮ってましたが」
「ぐぬっ。二台持ちか。確かに日の出の方向と町をどこまでいれるのか、というのでちょっと葛藤はあったんですが、両方撮っちまえ、というのはさすがに新鮮な感じですね」
レリーズをつけて方向の固定をして、同時に二枚撮るというようなことはできないことじゃないだろう。
日の出の太陽の方に向けるのが一枚、そして、闇が晴れていく町の様子を一枚、という感じにするのだ。
「どうしたの? 珍しく悩み込んじゃって」
「いや、二台分を一台でまかなうにはどうしようかなって思ってさ」
うむん。最初に撮るべきなのは、やはり日の出の方だろう。稜線から上がってくるのは撮りたい。
なので、そっちに方向は向けて、何枚か撮っていく。
そして、その後すかさず町の方に方向を微調整して撮影。
よし、このプランで行こう。
「ところで、宮司さん。巫女さんは今はお休みなんですか?」
「ああ、あの子はお正月は激務になるからね。今は寝かせてあるんだ。本人は年越しくらいは出させて、十六なんだしって言ってたものの、結構眠そうで」
まあ、まだまだ子供ですよ、と宮司さんは朗らかに笑っていた。
わりと話題にされることが多いのか、こんな質問にもすんなりな返事だ。
そう。巫女さんである。この神社には例の巫女さんがいるのだ。
エレナがやったキャラのモデルになった子が。
朝に会えるかなと思っていたのだけど、さすがに時間が早すぎたらしい。
しかし、あのソフトがでたのがもう四年前くらいだから、モデルとして参考にされたのが十二歳ということになる。
その頃から巫女さんをやらせられていたとは、なかなかにこの親父さんも業の深い方である。
そう。エレナは男の娘コス専門なのだ。そのキャラだって当然、女装した巫女さんだったわけで。
「なら、後でまたお参りに来ないとですね。巫女さんの写真は撮ってもだいじょうぶなんですか?」
「あの子がいい、というなら撮ってもいいですが……中には変な目で見てくる男性もいるようなので、そこらへんはしっかりと規制をしてますよ」
現実と幻想を混同するような輩は大問題です、と宮司さんはため息交じりだった。
「あのゲームはあくまでもモデルになっただけで、本人に重ねちゃいけないですよね。宮司さんはあれはプレイ済みなんですか?」
「まあ、その、なんだね。ゲーム会社から贈答されたものを、あの子に隠れてこっそりと」
「いちおう18禁でしたしね」
当時、それこそ小学生をでたかどうかくらいな歳でしょ? というと、まあだからなおさらね、と宮司のおじさまは、視線をそらしてそっぽを向いた。
いくら、プレゼントとはいえ、ちょっとそういうのをやるのに後ろめたさみたいなのがあるのだろう。
「あの、馨? あんた、それっていつ頃やったの?」
エレナのコスロムの話をしっている姉さんは、あれ? と疑問を口にしたのだった。
「高校二年の頃かな。友達から借りたので、セーフ」
「……アウトじゃない? っていうか、あんたそれ年上から借りたの?」
今なら全く問題はないけれど、当時は16歳とかそこらへんだったので、へ? あんた何やってんの? という姉さんの反応もあながち間違いとはいえなかった。
「男の娘が出てくる名作なんて、18禁じゃないとないんだからしょうがないじゃないっ! って言ってたけど?」
ちなみに、エレナは18歳になるまでは中田さんに買ってもらってたのだそうだ。
お願いっ、とマリーさんばりに眼を潤ませて迫ったら、し、仕方ないですね……でも教育上好ましくないと判断したら取り上げさせていただきます、という約束をした上で、買いに行ってくれたらしい。
……エロゲ売り場で、執事然としたおじさまがふむ、とか選んでる様を想像すると、なかなかすごい絵だなぁなんて思ってはしまうけど。だって中田さん、そういうのやらなさそうだし。
「その通りです! 最近は普通の漫画にもでるようにはなりましたが……やはりじっくりやりこむためには、ゲームという媒体でなければっ」
「一本あたりが長いですからねぇ。漫画とかだと男の娘もので長く続くなんてそんなにないですもん」
歌舞伎のアレとか、他の要素をミックスさせて上手く形になれば長くもなりますが……と、深刻そうに言うと、ですなぁと宮司さんも思いきり乗ってきた。
あの、宮司さん? もしかしてもともとかなり男の娘好きな方だったりしませんかね? まあ確かに自分の子供を幼い頃から女装させて巫女さんにしてる時点で、そうだ! ってことなんだろうけど。
ほら、神社っていうと、衣をかえることによる神様パワー的なのとか儀式だったりとか、ありそうかなぁなんて思っていたわけだけど。
そんな疑惑が頭に浮かんだとき、タブレットからアラームが鳴り響いた。
音の設定は小さめにしているから周りには迷惑はかからないけれど、宮司さんは、おや? と言う顔だ。
「あと五分で日の出です。なので、そろそろスタンバイをしないと」
またあとでお参りにも来ますし、その時は巫女さんとも話させてくださいね、というと、ええ、ではよい撮影をと宮司さんは戻っていった。
そろそろ時間ということもあって、石碑の方に集まっている人達もテンションが上がってきてるようだった。
「姉さんは……まあ、適当なところで見てるといいよ」
そんな話をしていると、徐々に稜線が赤らんでいくようだった。
そこまで高くない山から浮かんでくる日の出。
海から昇るのも綺麗だけど、こういうのも幻想的で美しいと思う。
「よっし、いただき。でっと」
日の出の光が伸びてくるのは撮ったので、あとはぐりっと町の方へとカメラを向ける。
うんうん。一気に明るくなるこの感じ。シャッターを切りながら、ついふんすーと鼻息が荒くなってしまう。
そして、すっごくドキドキする。
始まりの写真は、お気に入りで上位にはいるものだものね。
「あけましておめでとう。今年もよろしくね、馨」
「はい、姉様、今年もよろしくお願いします」
「って、馨ぅー、口調ー」
どうして、その格好なのに、さらっと女口調なのよーと姉様に言われてしまったものの。
しかたないじゃないですか。
すごくいい写真が撮れたのだから。テンションが上がったときに女声になるようにしているのは、今までの訓練のたまものである。
と、まあぐだぐだな感じになってしまったものの。
今年一年も、よい撮影年でありますように。ばんばん撮らせていただきます。
男状態でも、ハイテンションになると女声。お約束かと思います!(ぇ、違うって?)
普通怒ると男声になるってパターンはありますけれどもね。
さて、初日の出です。今年はお出かけ中なので、神社からとなりました。
一冊目のコスROMでエレナさんがやってた場所がこの神社を舞台にしたもので、前の時は遠すぎて近くで似たところを探した、という経緯がございます。
いちおう男子状態ですが、これ、いったいいつまで続くんでしょうね……さぁ男子力を維持するのだっ。




