421.恋愛相談2
「おおおぉ、部屋着のルイさん。かわええぇーーー」
「ちょ、相談事のためだからっ。いくら真矢ちゃんでもはめ外さないで」
着替えを済ませて、居間に戻ると真矢ちゃんがこちらの姿を見るなり、テンションを爆上げしてきた。
部屋着っていっても別に、いわゆる寝間着ってやつじゃなくて、このまま近所のコンビニにはいけるつもりなのだけど。
「で、でも、ミニスカで厚手のざっくりニットとか、部屋だからこそコートをきていないという、この感じが! お家にいます! というたまらん感じがっ」
「……ほほぅ、次から撮らなくていいと?」
ふぅーんと、言ってあげると、びくんと真矢ちゃんの体が凍りついた。
「や、やだなぁ。ルイさんったらそんな。別に本来の目的は忘れてないですよ? ケーキの売り場がどこかーってことでいいんですよね?」
じぃっと、カラになったお皿を物欲しげに見つめる真矢ちゃんは、冗句を言ってくれた。
うん。場を和ませるためのものだよね? 本心じゃないよね?
「で。告白されたときのお話になるんだけど。真矢ちゃんは男の人から声をかけられたとき、どうしているのかを教えていただきたいわけで」
「……えーと。その。告白されるっていうか、萌えとかは言われるけど」
あ、素直なお答えありがとうございます。
視線をそらしまくりな姿も可愛いので、一枚撮らせていただきました。
「って、ここでも撮るんですか!?」
「撮るよ。相談しつつ、真矢ちゃんがいい顔したら撮ろうと思って」
「……うぅ、このお馬鹿さまは……ほんと、こんな人に告白しようとした女の人って一体だれなんだか」
んー、恋バナをする、ということならその時の表情は是非撮っておくべきものだと思うのに、なぜか真矢ちゃんには、お馬鹿さま扱いを受けてしまった。
「えーっと、ああ、そろそろ時間かな。テレビつけるね」
ちらりと時計に眼を向けると、ちょうどいい時間だった。テレビの録画のランプも灯っていて、番組まるっと録画スタートだ。
これは、父様の要望でもあるんだけど、いちおうとっておくつもりでいる番組である。
三枝のおじさまとの話のネタにでもするのだろう。
「旅行番組ですか?」
「うん。偶然そのとき、その現場にいて撮影クルーさんたちと一緒になったんだよね」
撮影してから一週間。これが早いのかどうかはわからないけれど、宿のいい宣伝になればいいことだ。
旅館の番頭さんと、そして最初は崎ちゃんだけがテレビに映し出される。
まだ記憶に新しいあの玄関も、テレビというフィルタを通すとまた違うように見えるのが面白い。
「十五分だけ、って言ってたから、もうちょっとでお風呂かな」
番組は二部構成になっていて、片方は別のガイドが別の温泉地を案内するのだそうだ。
そして、すぐにお風呂のシーンとなって。
「ふぁ……エレナたん地上波にご降臨……だと」
真矢ちゃんが変な声を上げていた。実にオタクらしい口調に、あぁこの子もこっち側かぁとほっこりする。
そこでは、エレナが途中参加して崎ちゃんと一緒にお風呂に入っていた。
画面の左下には、撮影のためタオルを巻いていますというお約束のあれがくっついていた。
きっと、全国のエレナたんファンは、ふぁ!? ってなってることだろう。
実は女の子派大勝利となるのかもしれない。
「んで、これがあたしにってか、馨に告白してきた相手ってわけ」
ほんと、どうしてそうなったのか未だにわからん、と言ってやると、さらに真矢ちゃんはぽかーんとした顔になった。
「……エレナたんが、ルイさんじゃなくて馨さんに告白? へ? 百合的びーえるです?」
「百合じゃないし、びーえるでもないっての。っていうか、エレナじゃなくて、崎ちゃんの方」
つーか、あいつ、恋人いるから、というと、ふぁぅっ、と真矢ちゃんが女の子が出しちゃいけない声を上げていた。
「エエト、ゲンジツガのみこめなくて……」
ちょ、いろいろぶっこみすぎでしょうと、あわあわした真矢ちゃんの姿も撮影。
もうちょっと可愛いのを期待していたのだけど、まああわててるのも、可愛いと言うことで。
「珠理さんって、恋愛はいまはきょーみないです、お仕事が恋人ですとか言ってたけど……実はレズビアンさんなんです?」
「……告白されたの、馨だといっとろうに」
「もさ眼鏡マニア?」
う。真矢ちゃんの言葉がいちいちぐさぐさと突き刺さる。
まーそりゃ、馨の印象のほぼ全部がもさ眼鏡なのは仕方ないことなんだけど、そこを好きになったというのはさすがにどうかと思うのです。
そんなとき、真矢ちゃんのスマホがメッセージが来たことを告げる音声を出した。
ちょいと失礼しますよ、と真矢ちゃんは画面に眼を向けた。
「あばっ。ちょ、メッセージ多すぎっ」
「上のお兄さんからも来てたりして?」
「来てます。あぁ、エレナたん女子きたこれーって。俺がんばって、エレナたんにふさわしい男になって、エレナたんを嫁に迎えるお、って」
「まじ、可哀相……それとなく、無茶はやめてっていったげて」
ああ、そうか。実は女子ってわかるとそれだけ男性からのアプローチが増える、ということもありえるのか。
性別不明、だと怖くて手を出せないっていう人、多いだろうしなぁ。
まあ、実際は男の娘なわけだけれど。
「あー、エレナたん女の子派からは、勝利宣言で、男の子派からは、胸ぺったん胸アツってメッセージが山ほど」
「まー、あの画像で性別が判明しない時点でいろいろおかしいわけだけど」
ちなみに、崎ちゃんはあいつの性別知ってるから、というと、まじか! と相談ごとなんてきれいさっぱり忘れて、エレナさまの方に集中姿勢のようだった。
「ルイさんと仲良しというのは誰が見ても明らかだけど、まさか珠理さんとエレナたんが仲良しとは……それもやっぱりルイさん絡みでなんです?」
「どうなんだろうね。崎ちゃん的にはどうだったのかな。エレナの誕生日の催しに呼ばれてからさらに親密になったんだけど」
まあ、実際の二人の関係がどうなのかはよくわからない。
でも、案外連絡も取り合っているみたいだし、友達という関係性にはなってくれているのだと思う。
「まあ、そっちよりもこっちの話というか……真矢ちゃんとしては、その、異性に告白されたらどうする?」
話が進まないので改めて、本題を持ち出してくると、彼女はんむむ、と眉にしわを寄せた。
「だから、ルイさんの方が恋愛経験は……って、そだ。馨が告白されたっていってましたけど、ルイさん自体はどうなんです? いままでも経験は?」
恋愛経験があまりなさそうな彼女からは、やっぱり自分の経験の中から解決策がでる、ということはないようだった。
まあ、今回に関しては未来の親族交流ということで、いいとしよう。
ダメなら、よそを当たるだけのことだ。
一応、恋愛経験がありそうな……いや、青木に話をするのは無しだけど。
あとは、誰だ? ……あれ。身近な男ってゲイだったりトランスさんだったりばっかな昨今。
き、木村あたりに相談すればあれかな、なにか得るものはあるかな。ハハハ、あぅ。
「んー、まぁ、真矢ちゃんにならいいか。ちょっとプライベートなことだし、露見してよくないものもあるから、いろいろ漏れたら犯人は真矢ちゃんってことで」
それでいいなら、教えたげるけど、というと、なんですかその秘密感は、とイヤそうな顔をされてしまった。
まー、でも、翅とのゴシップネタがあるなら、語るとそこも触れないといけないわけでね。
「告白され経験としては、中学からあるんだけど、そこは、まー、なんていうか。学ランきてんのに告白とかしてくんなよばかーって感じで、とりあえずいいかな? 後半とかもうゲーム感覚で誰が落とせるのかみたいになっちゃってたし」
「……学校一の美少女を差し置いて、男にモテモテとか、どんな伝説ですか……」
しらーっとした顔をされたけど、さすがにそれは撮らない。
「いちおーね、そこは、かわいい子に声かけとこうとか、若気のいたりっていうかさ」
「若気のいたりで、同性に声をかける猛者が何人もいるっていう事実が幻想級です。ドラゴンを裏山でみましたー! ってレベルです」
「なに幻想級こわい」
それこそ、滅多に会えないレアモンスターみたいな扱いだろうか。
「ま、まぁ、一般的男子中学生のアレを考えて、後半はノリだったってのは認めます。最初の方の子、ちゃんと健全に育ってるか気になりますが」
「あぁ、それは……まぁ。八割方、彼女できたメールきたから、だいじょぶなんじゃない?」
「……えと、ルイさん? なに告ってきた相手とメールアドレス交換とかしてますか……」
いきなり、わーんと、ほっぺたさわってきた真矢ちゃんに、ちょっと引いてしまった。
えっ、こっちは別に、「いつか彼女できたら報告するから」ってんで、アドレス教えただけなんだけど。
「残り二割は?! いま電話して、良い声きかせたら、まんまとうっかり指定ポイントにきちゃったりしないんですか!?」
「やだなぁ。ルイが誘うなら、そういう人もいるかもだけど、あの当時はほんと、まんま男子だったんだよ? そりゃ……すっぴんで眼鏡なしで、上級生の女子からきゃーんかわいーとか言われてたけどさ」
「得体のしれない価値観の違う女子より、見た目かわいい同性をとった……ああ。世界はこういうあり方も許容なさるのかっ!」
おぅ、と真矢ちゃんはなぜか、敬虔な信徒のように祈り始めた。
いや、そこまで大仰な話じゃないし。それに、今はそれより大切なことが。
「こ、こほんっ。今は中学の話は無し。その後の話をします。あたしが告白されたのはせいぜい二回だけだよ。一回目は、同級生かつ、馨の親友でね。んで、お次はご存じ、HAOTOの翅さん。あれはもう、あたしが男だーっていっても、にこにこしながらつきまとってくるんだもん。いやとまでは言わないけど、可哀相だなって」
青木はとりあえず、目先を替えてくれた。替えた先が男の娘なのは、運命としかいえないだろう。その件についてはもうこちらからはなにもいえない。当人達の問題だ。
でも、翅さんはどうだろう? 男の恋愛期間は長いってなにかの本で読んだけど、あいつ、いうまでもなく滅茶苦茶モテるじゃん。アイドルなのに一途に思われてるとなんかむずむずしてしまう。
他のファンが刺しに来たりしないかとかときどき思ってしまうくらいだ。実際はルイさんラブな話は表にあんまり出してないから、安心はしているのだけど。
「えぇー、その頃のことも聞きたいんだけどなぁ。でもま、ルイさんが、あっ、これ恋愛系のあれだっ、て思ったころからでいいです。っていうか、ルイさんてきに恋愛ってどう思ってるんです?」
まずは、そこからっていうか、それがわかってれば答えも自ずとでるのでは、と言われて少しだけ顔をしかめてしまった。
恋愛について、客観的に、頭で考えるなら。
そんなもんをしてる暇はない。これにつきる。青木の件の時にもう結論は出していることだ。
結婚に関しては、まだ意識するような歳でもないからなんとも言えないけれど。
「じゃあ、あれです。たとえば珠理さんが裸で眼の前にいたとして、男性としてドキドキしたりします?」
「なかなかストレートな質問がくるね」
少し渋い顔をして悩みこんでいたからか、真矢ちゃんはずばっと切り込むように質問してきた。
いちおうレイヤーとしてルイに撮られている経験もあるからこその疑問というやつなのかもしれない。異性からの視線っていう感じはしてないはずだしね。
とはいえ、その質問はもはや、仮定ですらないもので。
答えは、知っている。
「……月が綺麗だった」
「なんですかその、月は見えているか! みたいなのは……っていうか。もう見たことある的なあれですか」
なんですか、相談っていうからピュアな関係かと思ったら、もうそんなところまで……と、真矢ちゃんがげんなりした声を上げた。自分なんて異性と温泉なんてないですようだ、とでも言いたいのだろうか。
「あーもー、そうじゃなくて。崎ちゃんは見られたなんて、欠片も思ってないよ。ただ、いきずりの女の子と混浴温泉に入っただけだーって思ってる」
相手にこっちの顔は見られてないもの、というと、真矢ちゃんはふむんとあごに手をあてつつ。
成り立つのかそんなことが……とつぶやいていた。
「あ、でも、成立するならそれってすごく奇跡的じゃないですか? 運命の相手とかそういう感じでテンションあがりません?」
「確かに、出先で偶然ばったりってのが何回かあったのはあったけどさ。それ言うと、あたし虹さんとも運命感じないといけない感じだよ?」
フォルトゥーナに行ったときのことだ。甘味処に行ったら思いきり彼の撮影と被った。おぉ偶然みたいな感じにはなったけれど、そっちもかなりの確率のように思う。
「ルイさんが、確率論からはずれた変態ってことで、納得しつつ。じゃあ次です」
「変態はさすがに、いいすぎ……」
その状態をみて、サイコロに選ばれてないというのが無茶ですとなぜか、マジ顔で怒られてしまった。
美容系は努力でなんとかした部分が大きいのだけども。
「お風呂での姿を見ても特に何も感じなかった、と?」
「まあね。そんな余裕はなかったよ。混浴ではあったけど、絶対あの子、馨が入ってるってなったら、めっちゃ怒るだろうし。あたしの裸は安くないんだからっ! とかなんとか言うに決まってるし」
なら、混浴はいらんでくれよと正直思うくらいである。
崎ちゃんなら、どこのお風呂もちゃんと女湯に入れるのだから。
「んじゃ、告白されたときのことは? 何か感じるものがあったから今そんな状態なわけでしょう?」
お風呂に一緒に入っても大丈夫なのに、なんで今回はこんなにうろたえてるんでしょう? と首をかしげている彼女の分析は確かに正解だと思う。
「すごく綺麗な顔してたんだ。普段あんまり見せない顔でね」
「そして、それを撮りたいと思ってしまった、と?」
「んー、実際カメラには手を伸ばしかけたんだよ。ただそれをやると怒られそうだったからやめたんだけど」
「……」
あれ? なんか真矢ちゃんが、うわぁーという表情でこちらを見ているのだけど。
どういうことなのだろうか。
「ええと、ルイさん? もしかしていい被写体を撮れなかったからもやもやしてただけなのでは?」
「……さすがにそれはない、と思う、けど」
今までだって撮りたくて撮れなかったものはさんざんある。
でもこんなに長く、うだうだやったことはない。
「でも、さっきから話を聞いてる感じだと、珠理さんのこと、特別な女性として意識してる感じが一切ありませんけど」
「特別な子だという意識はあるのはあるよ。だってガラス工房のときの顔ったら、写真集にすら載ってない顔だったし」
その後の植物園の時は、そうでもなかったんだけど、と付け加える。
あのときの、ガラス工房のときのあれ。あれは是非とも撮っておきたかった。
「はぁ。やっぱり被写体としか見てないじゃないですか」
「……そう言われてしまうとそうなんだけどね」
そこまで言われてしまうと、ううむ。崎ちゃんにはお断りをした方がいいんだろうか。
「ま、しょーじき、それで付き合ったとしても、悪くはないと思いますけどね。イヤでないなら、ですが」
「イヤでないなら、か。そこなぁ……前にルイが告白されたときに、後輩の子に言われたんだよね。デートとか無理っぽいなぁって。行く先々ほとんどカメラ禁止とか拷問ですが! ってなって」
「映画館とかですか。それくらい一緒に見てあげればいいのに」
「家で見る派です。外に出てるならどうしても撮影してたいって思いになっちゃうんだよね」
撮影禁止っていうのは、拷問に近いのです、と言うと、あーあ、と真矢ちゃんは頬杖をついて視線を背けた。
かなり呆れているらしい。
「で、珠理さんはそれを踏まえて、告白してるんでしょうか?」
一方的に舞い上がっちゃうと相手見れなくなっちゃうっていいますけど、という彼女の指摘に、んーと悩ましい声を上げる。
付き合いが長い彼女のことだ。カメラ優先というのは解ってくれてると思う。
その上で付き合うという関係になったら、どうなるんだろう?
町に買い物に行ったり、海とか山に遊びにいったり。
もちろん仕事もしたりという感じだろうか。
「踏まえてるとは思うけど、そうなるとまったくもって今までの交流とかわらない感じになるんだよね」
肩書きが変わるかどうかの違いくらいで、特別これといって今までとあまり変わらないような気がしてならない。
外に出るときに、馨として一緒に出掛ける機会が増えるくらいだろうか。
「……不憫だ」
「ん? なにか言った?」
真矢ちゃんがぽそっとなにか呟いたのが聞こえたので、首をかしげながら問いかける。
「んんっ、別に何でもないですよ。あとは若い人同士でやっていただくということで」
けれど彼女はわたわたしながら、もぅ、私の手には負えないのです、とこそっと言った。
「ところで。あの箱はなんなんですか? なんかリボンとかついててプレゼントっぽいですが」
真矢ちゃんが視線を向けた先。居間の端に置きっ放しになっていたものを見つけたようでそちらの話題を持ってくる。
もう恋愛相談はおしまいと言わんばかりの話題転換だ。
「開けていいよ。なんなら着てくれてもかまわない」
「えっ、衣装ってことですか? しかもプレゼントチックな」
おぉっ、と真矢ちゃんは着ると言う単語に反応して、とてとてそちらに向かってリボンを外した。
さあ、あれを見てどういう反応をしてくれるものだろうか。
「赤い……えっ、これって? サンタの衣装ですか?」
「うん。ミニスカサンタね。ご丁寧にワンピタイプで膝上二十センチくらいのやつ」
この前仕事で着たのだってもうちょっと露出は少なかったというのに……というと、どうしてこんなもんがーと衣装を広げながら興味深げにその赤い衣装を眺めていた。
「着てくれてもいいけど?」
「……無理デス。というかウエストいくつです?」
「試しにほれ、袖を通してみるといいよ?」
あむりと、アップルパイをいただきながらそういうと、えぇーと真矢ちゃんは微妙な声を漏らした。
「そもそもこれ、プレゼントですよね? さすがに両親は送らないだろうし……珠理さんって線もないと思うし、どなたからですか?」
まさかご自分でってことはないですよね!? と言われてこちらは少しだけうへぇと嫌そうな表情になってしまった。
「仕事では仕方ないから着るけど、さすがに自宅でまで着る趣味はないよ。それは翅からのプレゼントなの。着て写真ちょーだいって」
撮らんけどな、というと、えーーーと、真矢ちゃんは残念そうな声を上げた。
「絶対着て写真撮るべきですよ! ブーツとかも持ってますよね? 茶系のロングブーツ合わせたら絶対可愛いと思うんです、これ」
「真矢ちゃんまでそう言い出すか……たしかに、それにあうのは手持ちであるけどね。うっかり可愛いって思って買ったものの、撮影するなら動きにくいかもっていうロングブーツが」
ならっ、是非っと鼻息荒く詰め寄られてしまって、どうしようかなという思いのほうが強くなってしまった。
いちおう、永久隔離にしようと思っていたのに、まさかレイヤーさんに見つかるとは。
そう。レイヤーさんは自分で着るのはもちろん、他者の着せ替えも好きである傾向がある。
「ならお着替えしましょう! ほらっ。部屋の空調も効いてるからこれならいけますって」
この丈でも寒くないですよ! と眼をキラキラさせながらせまってくる彼女からは逃れられそうになくて。
「あぁ、ミニスカサンタ姿を崎ちゃんに送ったらどういう反応されるかな……」
げっそりそんな台詞を呟きつつ、今日の相談はこれで終わりだなとため息をつくルイだった。
その頃、崎山珠理奈は、とある洋館の一室に通されていた。
年末のイベントが明日からあるものの、今日だけはなんとかお休みを貰えたので、友人の家へとお呼ばれをしているところだ。
そう。エレナのセカンドキッチンに本日はお招きをいただいているところなのだった。
本日のお客は他におらず、ではわたくしめも下がらせていただきますので、ごゆっくりと、と執事の中田さんにうやうやしく礼をされ、そして、料理の完成を待っているといったところだ。
「相変わらず、凝った料理を作ってそうね」
「まあねぇ。珠理ちゃんの残念会だから豪勢にしてあげようかなって」
ふふん、とこんがりローストされたチキンをテーブルに運びつつ、エレナはからかうような言葉をかけてくる。
「うぐっ。まだよっ。別に馨から返事はもらってないもの」
「えぇー、でもボクも話はまだ聞いてないけど、あの鉄壁が落ちるとは思えないんだよねぇ」
ボクみたいにチョロければいいんだけどねぇ、と、おどけた顔の奥にあるのは、明らかにフォロー的ななにかなのだと思う。
「うぅ。べ、別に良いわよっ。一回でどうこうなるとは思ってないもの。あの朴念仁に向き合うならそれくらいの覚悟はしておかないと」
「ま、総じて男子のほうが精神年齢の育ちが遅いっていうしね。まあ、疲れてしまったらボクがおいしいご飯食べさせてあげるから」
ほら、スープもできたて、お肉も焼きたてだよ、と言われる通りにスプーンに手を伸ばした。
野菜ベースで作られたそのスープは、ほっこり優しい味がしたのだった。
相談する人選を思い切り間違えている件についてっ! いやぁ、真矢ちゃん再登場なわけですが、やっぱし根っこはレイヤーさんだなぁとしみじみ感じるお話となりました。
いちおー「恋愛感情なくてもカップルになれる前例」が本作にはあるので、まじでどうしたいのかは、本人達次第って話なのかなぁと。
そして、ルイさんが食いついたのは、告白場面ではなくその前のガラス工房のほうでしたーというわけで。「自然な」写真が好きなルイさんとしてはまあこれだなぁと。
不憫な崎ちゃんのフォローは一応最後にちょっとだけ。あまり不憫過ぎるとあれなので……
はい。では次回こそじーちゃんちにまいりますよー。




