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414.温泉街に行こう4

本日はエレナさん→ルイさんということで、カメラ動きます。

「あぁ。どうして私はここでこんなことをしているのか。馨の寝顔は相変わらず可愛いけれど、まさかこの珠理奈さまが一晩をともにしてしまうとはー」

「なんて、考えて無いから」

 ボクが珠理ちゃんをからかうと、彼女は顔を真っ赤に染めながら、まだ薄暗い部屋の中であぅーと、出窓の外の風景を覗き込んでいた。ちなみに問題のルイちゃんはまだ隣の寝室の方ですーすー可愛い寝息を立てている。


 トイレに起きてみたら、ちょっと憂鬱げにそんな顔をしている彼女がいたというわけで。

 さっきまで、っていうか、三人で隣の寝室の方でごろんとしていたというのに、いつのまに抜けたしたのか。

 その内心を語るように、ボクがナレーションをつけてあげたのだ。


 さて、なぜに撮影クルーと一緒だった彼女が、この部屋に一緒にいるのか。それは少し時間をさかのぼることになる。

 

 狭いながらもきちんとした露天風呂で、撮影準備に入るスタッフを脇目に、ちらりと珠理ちゃんのようすを見ていると、あぁどうしてこんなところでばったり会ってしまうのかしら、と少し緩んだ彼女の姿が眼に入った。

 ほんと、わかりやすすぎて困ってしまうくらいに彼女はルイちゃんのことが大好きだ。明らかに他の仕事相手に向ける表情と違うのである。


「それではバスタオル着用ということで」

 これ使ってくださいとスタッフの方に渡されたものを見つつ、珠理ちゃんが着替え終わるのを待った。

 一緒でも多分気にはされないだろうけど、やっぱりこっちが気になるからね。

 男の娘の女子更衣室潜入ものも好きではあるけど、あれは見てるから楽しいのであって、自分でやるのはあまり好きくないのです。


「別に一緒に着替えてもいいんだけど」

 着替えてでてきた彼女は思いきりバスタオル姿で、ちょこんと待っていたこちらに声をかけてきた。

 相変わらず、女優さんだけあって隙のないボディだ。おっぱいは……まあ、バランスはいいと思う。

 どうしても二次元で巨乳キャラばっかりを見てるから、物足りなさはでてしまうところだけど。


 さっさと準備しちゃってね、という彼女の言葉ににこりと笑顔を浮かべつつ、スタッフのみなさんに一言伝えておく。

「私がこの扉を開けるまで、この中を見てはいけませんよ?」

「って、それなんて鶴の恩返しよ……」

 思い切りつっこまれたものの、いちおう今回の旅行自体が恩返しなのでネタとしては間違っていないはずだと思う。


 さて。そんなことを思いつつ、浴衣に手をかける。

 帯をほどくだけでするっと脱ぐことができるこの衣装は、なかなかに効率的だと思う。

 特に温泉巡りなんかの時は理にかなっている。


「お待たせしました」

「おぉ……」

 バスタオルを巻いて外に出るとスタッフのみなさんは、こちらに視線を向けてきた。

 いちおう、これでもレイヤーをやってきている身だ。こういうのは慣れてるけど。

 ちょっと値踏みをするかのような視線というものは、新鮮だった。


 イベント会場だと、基本、好きか嫌いか、で金になりそうかとは思ってみないからね。


「やはり予想通りです。きっと珠理ちゃんと一緒だと華々しい感じですね」

「大女優さまは、ボクと一緒で問題ないのかな?」

 くすりと微笑んであげると、べつにぃといいつつ、ちらっちらっと、ほほほーんと、大浴場の写真のできばえを一人覗いているルイちゃんに視線を向けてるのが見えた。

 いちおう、こっちの撮影をする交換条件として、今は水が入っていない大浴場の方の風景を撮影させてもらうというのを許してもらったのである。

 こっちで打ち合わせをしてる間はルイちゃんはそっちにご執心で。

 ほんともう、と珠理ちゃんからは呆れたため息をもらさせてしまったほどだ。


 さて、そんなルイちゃんは、チェックを終えたのか、こちらが出てきたタイミングで、そんな撮影風景を撮らせてください! とかなんとか、いつもの病気がでていたりして、珠理ちゃんからはあんたがあたしのこんな姿を撮るなんて百万年早いんだからっ、とかツン状態全面の攻撃を食らっているところだった。

 えぇ-いいじゃんとか言ってるルイちゃんは、マジ見た目は乙女でも乙女心とかはさっぱりわかんないお子ちゃまなのだと思う。

 これで気の利いた台詞でも言えば、ほんと、急接近もありだと思うんだけど。まあそんなの望むべくもない。 


 そして、撮影は始まった。

 これまで撮ってきた素材はすでに見せてもらっているし、あとはそれに合わせて合流しました、という感じに仕上げて行けば良い。

 テレビ的には現地で合流したとかなんとかいう話をナレーションに入れる予定らしい。

 うーん。さすがにこれでテレビにでるとなると、ファンの人達、特に女の子派は大勝利宣言を上げるかも知れない。あの珠理ちゃんが男とお風呂入るわけないじゃんって理由と、あとはタオル姿を見た上で。

 実際は、男の娘なのだけど、なかなか見破られないのが最近は楽しみだったりする。そもそもバスタオルをつけているけれど、胸はぺったんこだ。これを見ても女の子派大勝利だとしたら……うん。

 昔ルイちゃんが言ってたけど、女性の真価はおっぱい以外のところにあるのかもしれない。

「では、よろしくお願いします」

 スタッフのみなさんの顔を見回しながら、ボクは浴槽に足先を入れた。


 



「どうしたー? なんかすっごい疲れた顔してるけど」

「……前より、完成された体してて、女としての自信とプライドが……」

 木っ端みじんと、着替えてでてきた崎ちゃんはぐったりしていた。

 撮影中は気を張っていたんだろうけど、それが終わって着替えた後はへんにゃりしていたのだ。


 そうはいうもののバスタオル姿の彼女は十分にほっそりとしていて、肌も透けるように白かった。エレナと比べても遜色ないというか、十分魅力的である。撮影風景を撮影させてください! とお願いしたのは却下されてしまったけど、極上の被写体であることに間違いはなかった。

 佐伯さんほど上手く撮れるか、と言われたらさすがに今はまだ無理だけど、いつかは撮らせて欲しいと思っている。

 っていうか、あいなさんとかさくらには撮らせるのに、最近なかなかルイには撮らせてくれないのだ、この子は。


「あれで胸があったら、はたしてどうなったことやら、だね」

 一応、あれでエレナは男の娘として生きていきます宣言をしているので、薬の類いはやっていないのだけど。

 それでも、もし女子だったならどうだったか、といえば、きっとかなりのおっぱいさんだったのではないかと思っている。

 おかーさまの写真見せてもらったら、すさまじいボディーでしたよと伝えると、引きつった顔をされてしまった。女優さんがそんな顔をしないでいただきたい。


「あーあ。国民的美少女ーとか呼ばれてるけど、あんたらと絡むとほんとちょーへこむ。なんなのかしらねこの挫折感」

「そこはいい映像が撮れたって喜んでおけばいいんじゃない? それと見せ方に関してはエレナだって素人ではないし」

 うん。ここは間違いの無いところだ。あの子はなんだかんだいって、見られ慣れているし芸能人ではないけれど、それに類することはやってきているのである。


「そーなのよね。すっごくいい顔するの。守ってあげたくなるっていうか、きゅんとするというか。普通にあの子が会社の広告棟やればいいんじゃないのかな」

「そりゃねー。とてもそう思うけれど今は親父さん、もーべた甘よ? べたべた。ちょーべたべた。表に出さないでいたい感じでレイヤーとしての活動も自粛してくれると嬉しいみたい」

「ふぅん。でも辞める気はないのよね?」

「ない」

 うん。あれはまだまだレイヤーは続けるだろう。衣装作ってにこにこしながら会場に行くに違いない。


「そういえば、なにやらみなさん撤収ぎみだけど、崎ちゃんはこれからのスケジュールは?」

「ここの撮影が終われば明後日までオフよ。一応、素材のチェックをしてそれでオッケーでたっぽいから、他の宿に泊まるつもりでいるの」

 ここ、今日は安い部屋うまってるし、と彼女はため息交じりだった。

 貴賓室とか、高い部屋は空いているということでもあるらしいけど、さすがにそこに一人で泊まるわけにはいかないという考えなようだ。


「そもそも昨日からいろんな所まわって、今日もここで二件目だからね。マネージャーさんと別の宿を取る予定なのよ」

 お風呂も気持ちよかったし、ここの宿も気に入ったけど、宿は別よ、と少し残念そうにいう崎ちゃんに、にこにこと、この店のオーナーに近い人なエレナさんは無茶を言った。

「なら、ボクたちの部屋に一緒に泊まっちゃえばいいんじゃないかな?」

「はい?」

 エレナがひょこんと顔をだして、そんな提案をし始めた。

 ちょ、エレナさん? 唐突になにを言い出しやがるですか。


「……ちょ、エレナさん? 突然なんてことを……」

 同じことを崎ちゃんも思ったのだろう。何を言い出すのかと、眼をまん丸にしていた。

 驚いた顔は一枚カシャリ。後で嫌がったら消してあげます。


「無理じゃないと思うよ? 番頭さん! うちの料理、残り食材とかでいいのでもう一人増やすのはできます?」

 ちらっと視線を番頭さんに向けると、彼はちらっと厨房の方に視線を向ける。

 そちらの白衣のおやっさんは、びしぃっと親指を見せてくれた。任せてくんなぁという感じである。


「でも、さすがにそれは……ほら、マネージャーさんもきっと」

 その時、崎ちゃんのスマホがぷるぷる震えた。撮影中ということもあってバイブになっていたらしい。


「え、いや、送ったけど! でもそれは……えぇ。はぁ。わかりました……」

「なんだったの?」

 電話の内容はなんとなくわかるものの、いちおう聞いてみる。


「気を利かせたのか知らないけど、マネージャさんの手違いで、泊まる宿なくなっちゃった」

「なら、我らの部屋にGOじゃない?」

 ベッドもまあまあ三人いけると思うよ? とエレナが胸元で拳をグーにして前のめりになっていた。

 いや。まあ、別に崎ちゃんを泊まらせるのはいいと思うけど。

 御飯を一緒にとかいろいろ話きけて楽しそうだしね。

 でも、いいんだろうか。


 仮にも、男二人の部屋に彼女がきてしまって。


 もちろん対外的には全く問題はない。ルイとしては女性で通すしかない最近だし、エレナだってお嬢様とか呼ばれているのだから、こっちもやっぱり女性扱いだ。ただ本人的な問題ではどうなのだろう。


「う。この状態でこれから新しく宿探しはさすがに厳しいわね……なんなら泊まってあげてもいいわよ」

 ふふん、と上から目線の女優様に、そこは下手にでるところじゃないかなぁと思って、一言だけ追加させてもらった。

「では、朝あたしより遅くまで寝てたら、寝顔撮影するから、そのつもりでね」

「くぅ。仕方ないわね。いいわよ。別にあんたより先に起きてやるんだから」

 女優の朝の強さをなめんなーと言うと、あの崎ちゃんがあんなにはっちゃけてるだなんて、と周りからは生暖かい視線を向けられてしまった。

 さすがは、友達と言われてるルイさんだけあるなぁとかそんな声も聞こえるくらいだ。

 その声に悪意の様なものはない。

 やっとのあの子にも友達が……といった保護者的な感想が多いようだった。

 崎ちゃん……いくらなんでも気を張りすぎな気がする。気の許せる友達は少ないとは言ってたけどさ。


「さて、それじゃあんた達の部屋に連れて行ってちょうだい」

「はいはい、わかりましたよ。すごい部屋だから驚いた顔はばっちり撮らせてもらうからね」

「う、驚かないから。これでも旅行なれしてるもの」

 強がってそんなことを言う崎ちゃんではあるものの。

 エレベーターを昇ったさきにあるその景色を見た時と言ったら。

 二人でこんな部屋に泊まるなんてずるい、と素直に呟いていた顔は撮らせていただくのに成功したのだった。 


さぁ一緒にお泊まりすることになりましたよ!

というわけで、崎ちゃんがガツガツ行く子ならもっと発展もあるんでしょうが、意外にびびりなのですよね、ほんと。当初の計画ではもうちょっと無理矢理「泊めなさいよ」になってたんだけど、ここのところのあの子のへたれっぷりを見るに、追い込まれないと一緒に泊まるとか無茶な気になってしまい……


さて、次話はお部屋で夕飯風景です。二十歳になったので、エレナさまはお金にものを言わせてあることをやらかします。いつ書き上がるのかしら……(遠い目)

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