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043.

 教室に戻るとそこは一つの戦場になっていた。

 今年の学園祭のクラスの出し物は、「喫茶店」であるのは準備段階で伝えたけれど。

 その後のスピーディーな動きには、木戸もうへぇと思ったものだった。

 服装に関しては手芸部が全面協力して、ケーキはもとより、お茶や軽食まで幅広く提供するカフェにしあがったのだった。

 そして抽選という話もしたけれど、この学校でやってる飲食店は数も絞られるわけで。必然的にはらぺこな人達はうちにくるわけだ。

 もちろんうちはケーキ主体なので、がっちりランチというところとは棲み分けてはいるわけだけれど。

 それでも休憩を求めてくるってことは、きっとみんな文化祭とかたるいって思ってるんだろうなぁ。いや、だって、休憩所っていう品目がまともに通りそうだったっていうし。

 木戸としては自分の学校のイベントにそこまで熱はいれられないし、協力する余裕もない。

 写真がらみならなんでもどうでもいくらでも協力はするし、もうした。けれどそれ以上の行動は正直「主役のかたがた」にやっていただきたいところだ。

 目の前のメイドさん達を見ながらも、一時間接客役を減らしてもらえたことに少しだけ安堵している自分がいる。

 文化祭当日。オープンしている時間は人手が必要だ。とはいえそれぞれみたいものは違うし、いつやるかというのはすでにシフトが組まれている。

 通常は三時間で交代なのだけれど、木戸だけは二時間でいいということになっているのだ。

 多少他のメンバーよりも時間を短くしてもらえているのは、料理メニューの写真撮影なんかをこなしたからであるのはいうまでもない。

 そう。うちのクラスには写真部はいない。そして去年の一件で木戸は写真が撮れる人認定を受けているのだ。こういった催しでもぜひ手をかしておくれ、といわれてしまったのだ。

 写真を撮るのに使ったのは、家でつかっているコンデジである。

 一眼を持ってくるのは悪目立ちするし、料理メニューで背景ぼかしたりとか飛ばしたりとかそういうのはしないで行こうと決めたのだ。

 危険な橋は渡りたくない。

「ぬぉお。女の子かわいい。かわいい!」

 そんな戦場に交代要員として入る。男子は制服の上にエプロンをつけるだけの軽装だ。

 背後にBGMとして、女子の衣装をほめている青木の声が聞こえるが、そこらへんは無視しておこう。店の外観だとかをつくる裏方な彼はメイドさんを見に来ただけでいずれは居なくなるはずだ。八瀬と回る約束をしていたような気がする。

 女子の制服はエプロンドレス姿。いわゆるメイドさんのそれである。

 会議をしているときは女子からだいぶネガティブな意見も多かったのだけれど、今となってはもう、みんなのりのりである。恥ずかしさを突破してしまえば衣装で遊べるというのは割と楽しくなるものである。

「いらっしゃいませ、お席へご案内いたします」

 とはいえ、さすがにおかえりなさいませは恥ずかしいらしく、一般的な受け答えをするようになった。

「ぷぅ。こういうかっこ、木戸くんがした方が絶対似合うのに」

 ぷんすかとミステリー研究会の佐々木さんにふくれられてしまったのだが、仕方ない。

 今はただもぶ5をつとめるだけで精一杯なのである。

 ひたすら案内して、注文をとって飲み物とケーキを出していく。

 そしてどれくらい経っただろうか。

 やたらと仲良くなってるエレナと崎ちゃんがご来店してくださった。

「さぁ、ウェイターさん注文をとりに来てくださいな」

「珠理ちゃんは何頼む? 割とメニュー豊富っぽいけど」

 ほとんど女子高生同士なノリで席に座る二人。どうせエレナが強引にひっぱりまわしてあんな風になったのだろう。コスプレイヤーをやってるだけあって、木戸にはないポジティブさがある。もしくはあのキャラの特性なのかもしれない。

「いらっしゃいませお嬢様方。さぁさっさと注文をつけてくれませんかね」

「じゃー、注文しちゃうけど、馨ちゃんはメイド服着た方がいいと思う」

 かわいくなーいと、エレナからおしかりの注文がくる。

「当店ではそのような注文は受け付けておりません」

「じゃーせめてうさみみとかつけよう?」

「ウサみみかぁ。あんがい華奢だし似合うかもね」

 崎山さんや。適当なことを言わないでください。そのまま放置してしまったら普通にバニーさんやってなんてあの可愛らしい顔で言われてしまう。なんだかんだで断っているけれど、エレナには今まで何回かコスプレやろうようと誘われているのである。

「さて。じゃあ普通に注文しよう」

 他のお客さんも来ているところだし、といいつつメニューを閉じながら彼女は紅茶とマロングラッセを注文、エレナはカステラとコーヒーにしたようだった。

 では少々おまちをと伝えてバックヤードに戻る。

 そこでいきなりクラスメイトの山田さんに声をかけられた。 

「ちょ、あれって、木戸くんの知りあいよね?」

「ん? そうだけど」 

 山田さんはコスプレイヤーさんである。さくらと仲が良くてときどき撮影もしているという話を以前聞いたことがあるのだが、ずいぶんと熱心にこちらを見つめてくださる。

「どうして木戸くんがあの男の娘キャラオンリーなエレナちゃんと知り合いなの!?」

 きゃーんときらきらした目を向けられてしまうと、なかなか答えに困ってしまう。

 なぜと言われても、撮影しにいって知り合っただけだ。

 ただ、ルイとしてなのがややこしい。

「いろいろと合ったのですよ、いろいろと……ね」

 なので、少し遠い目をしながら、意味深に言っておく。詮索されたくない事情があると思わせる演技である。いろいろ聞かれちゃったらそうするといいよーとエレナが教えてくれた方法である。

「ふぅん。でもいいなぁ。私服も可愛いし。隣の子もなにげに美人さんだよね。おとなしめにしてるけど肌とかちょーきれい」

「私服じゃなくて、あれも男の娘キャラらしいぞ。学園生活をおくっていますみたいなキャラらしい」

「そうなんだ。でもいいなぁ改造制服っぽい感じで可愛いし」

 眼福でありますーと、彼女は満面の笑顔を浮かべつつ、紅茶とケーキをサーブしにいく。

 別のお客さんに笑顔を浮かべているものの、視界の端にはしっかりとエレナ達の姿をとらえている。

「おまちどおー」

「お、来た来た。なんかさっきから熱烈な視線を感じるんだけど、私浮いちゃってる?」

 こそりと後半だけ声を潜めてエレナが耳元でささやいてくる。

「あーレイヤーさんがいるから、それでだ。別の意味で目は引いてるみたいだけど……」

「かわいい子はどこでも目立つもんよ。ていうか、そういう自覚なかったの?」

 崎ちゃんが少し不思議そうに首をかしげる。

 視線が自分に集まるのが当然と思っておいでのこの女子高生は、エレナも同じくらいに注目を浴びる存在だと認識しているらしい。

「イベント会場ならまだしも、普通の場所でこういう格好したの初めてだし……正直ちょっと不安はあって」

「そんなのぜんっぜん気にしないでいいのに」

「そうそう。全然気にする必要はないぞ。普通に改造制服みたいに見られてるみたいだし」

 不安がる姿もそれはそれで可愛らしいのだが、それでも彼女には笑顔の写真のほうがよく似合う。

「そう、かな」

 少し恥ずかしそうに笑いながらコーヒーに口をつける。

 元ネタのキャラの設定なのか、それとも素なのかがいまいちわからないものの、是非とも撮影しておきたい姿だ。

 手元にあるのがトレイではなくカメラならば良かったのに。

「あ、そういえば馨ちゃん今日はカメラ持ってないの?」

「ああ、いちおうコンデジは持ってきてるけど、仕事中だしな。それにそちらのお嬢様を撮ると肖像権がどうのとうるさそうだし」

「別にあんたになら普通に写真撮られてやってもかまわないわよ。仕事離れたつきあいしてるんだし」

 あと、あの子になら……とごにょごにょ言っているが、聞かなかったことにしておこう。

「それじゃあ、後で撮らせてもらおうかな。記念写真的なやつを」

 もちろん非公開ですがね、といいつつ、山田さんにちょいちょいと腰の辺りを小突かれる。

 混んできてしまってるので、きちんと働けということだろう。

「それじゃ、残りの仕事やってくる。後で合流しよう」

 ごゆっくり、といいつつ席を離れると、がんばってーと黄色い声援が聞こえてきた。

 もちろん、エレナのほうの声援なのは言うまでもない。

 ああ。やっぱり男の娘はいいものです。個人的にエレナさん大好き! 味付けとしてはかなり女子よりなこの子であります。メイド服きさせた上でうさ耳とか猫耳とか装着していただきたいものです。

 猫耳つけるならもちろん首輪と鈴もつけるべきデス。こだわりです。

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