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042.

「しっかしよく休み取れたよな。忙しかっただろうに」

「確かに忙しかったけど、普通の学校の学園生活だって、味わいたかったし」

 十月末の日曜日。文化祭当日のその日に、木戸は昇降口で待ち合わせていた相手を招き入れた。

 そう。木戸のメル友でもある崎山珠理奈嬢である。

 彼女は、自分の学園祭は今年もでられそうにないとしょぼんと肩を落としている。彼女の学校は芸能人学校だけあって少し特殊な日程なのだそうで、二月あたりに開かれるのだそうだ。今のところスケジュールが空くかどうかは、活動次第ということらしい。これでも売れっ子な女優さんなのだし、日に日に仕事も増えているから出られないかもという懸念はわからないでもない。

 けれど、その、本来は美少女なはずの彼女の姿をみつつ、木戸はうわぁと頭を抱えたくなっていた。

「それで、馨は今日は忙しいの?」

「クラスの出し物のほうの差配はある程度終わってるんで、あとは二時間くらい拘束されるだけではありますが……それで変装のつもりで?」

「え? あたりまえでしょ? あたしみたいなのがこんなところにいたら、大変だもの」

 マスク越しに彼女はえっへんと胸を張った。相変わらず自信ありげに胸をそらしているけれど、目深な帽子と黒眼鏡とマスクという出で立ちではまるっきり様にならない。

「だったら、もっと地味目にしましょう。被服室はかりれる……か」

 みんなの荷物置き場になっている被服室にこそこそと彼女を連れていくと、彼女の変装をとりあえず解く。

 いうまでもなく、素のままの彼女はさすがに女優さんだけあってかわいらしい。

 彼女がいうように変装しないと大変なことになるのはわかるけれど、さすがに不審者ルックで校内を回らせるわけにはいかない。よく警備員さんがこれを通したものだと思う。

 髪型を整えて、手持ちのスペアな度無しの眼鏡を貸してやる。黒縁のしっかりとしたやつだ。

 ウィッグを貸すのはさすがにやめた。眼鏡の替えをもってるのはともかく、男子のバックからウィッグがでてきてはさすがに、気持ち悪いだろう。

「どう? さっきより幾分ましだとおもうけど」

「馨の癖に生意気じゃない」

 彼女はこちらが設定した変装にまんざらでもない様子だ。三つ編みを二本作ってやって少し地味目の文学少女風にする。黒縁の眼鏡は木戸がコンタクトをつけてるときにつかってるものだ。本当は女の子向けの眼鏡なんてモノが用意できればよかったんだろうが、学校で女装する機会なんてないと願っている身としては、実戦配備するようなことはないのである。

 そんな彼女の変装を終えて昇降口に向かったところでひょっこりと、知り合いに出会った。

 さっきぴろぴろ携帯に連絡が来ていたけれど、ちらっと今見てそれだと悟った。もう一人今日は外部から友人が訪ねてくるのだ。

「はわっ。ル、じゃなかった。馨ちゃん!」

「エレナは今日もそっちかぁ。その制服ってなんかのコスプレの?」

「そ。聖アルス女学園の制服。いちおうこれも男の娘コスだよ?」

 あわあわと隣にいる女の子の姿を見つけて、それでもすんなり今の状態を告白してくれる。

 エレナの今日の格好はどこかの学校の制服っぽいけどリアルにはないだろうというような、あいまいな制服だった。とはいえ改造制服みたいなかわいらしさは健在で、どうしようもないほどまばゆい太ももも丸出しである。

「でも、女の子連れなんて、馨ちゃんもスミにおけないね?」

 紹介とかしてくれないのかな?

 可愛く小首をかしげられつつ左腕をとられる。もちろん胸はまったいらなので、感触は堅いはずなのだが、なかなかに柔らかさが感じられる。なるほど。胸に注目がいきそうだけれど、回してきた腕なんかも柔らかいのか。まったくもって男子だとは思えないボディだ。

 ちなみにその反対側では、ぎんと崎ちゃんの視線が鋭く光っていた。

「えと、友達の」

「崎山といいます。馨さんの友達の」

「そう。友達の、崎山さんかぁ。私は三枝エレナっていいます。馨さんには、その、写真を、撮ってもらってます」

 なぜか、「友達の」を強調したエレナは、少し照れたような両手を胸の前で会わせて少し恥ずかしそうなポーズをとっている。絶対それ演技だろうというのはわかっていたのだけれど、さすがに二次元を三次元に持ち出す姫君だけはある。可愛い。

「ちょ、な、なんなのよっ。あんたあんな、かわいい子の撮影してるとか……」

「話せばとっても長い。長い訳なのだから、エレナ! 悪ふざけしすぎるんじゃありません」

 ぴしりと言ってやると、はーい、とかわいらしく肯定の声がでる。

 ふう。今回ばかりは仕方ないけれど、なるべくこいつとは男同士、女同士で会ったほうがいいのかもしれない。男女で会うと心臓に悪い。

「エレナと俺は同志というか、ある意味仲間だな。それとこれでいちおうその世界では人気な性別不明な男の娘コスプレイヤーだから」

「男の娘って?」

 きょとんとする、崎ちゃんに男の娘について軽くレクチャーをする。広義とはいえ実際最初にあった頃に、自分のそっくりさんが男の人だった経験がある人としてはそこそこ耐性もあるだろう。

「ま、仕事で精一杯な人間としては、二次元のゲームとか、しかも男性向けってなると疎いのはしゃーないところだな」

「いや、いやいやいや。まって。まって! この子どうみたって女の子……うちの業界でもそういういわゆる、女装とかオネェとかいるけど、ぱっと見でわかるもの」

 そりゃあんたとあったときのあの人はわからないレベルだったけどと付け加える。ああ、あのクラスで例外行きなのか、と顔を覆う勢いだ。それをすら木戸はあっさり見破ったというのに。どうにも見慣れてるかどうかでだいぶ印象はかわるらしい。ネコ好きはその顔でうちの子がわかるというが、そういうものかもしれない。

「そりゃ、三次元ではぱっとみでわかっちゃう人ばっかりですけどねぇ」

 ふふっと、エレナが愉快そうに微笑を漏らす。実際はそうじゃない人もわんさかいるんですよとでも言いたそうだ。けれど、彼女が言ったのは別のことだった。

「二次元、アニメとか漫画とかのキャラならいくらでも描き分けができるし、声を当てるのだって女の子がやっちゃうから、そちらの世界には、男の娘は結構いるんですよ」

 それを体現するのが、私の使命なんです、とない胸をはると、珠理奈はふーんと、気のない返事をした。もう理解する気がないのだろうか。

「でも、声だけ聞いてると女の子にしか聞こえないし、エレナさんは女の子ってことでいいのかしら?」

「そこは内緒なんです。話題性はあるにこしたことはないでしょう?」

 もう、男の娘という特殊性の理解は無理と思ったのだろう。エレナはぱちりとウインクをしながら、どきりとするくらいかわいらしい声を漏らした。まったくいつ聞いてもかわいらしい女声である。木戸であっても、そこまでかわいい声は狙わないと出ない。むろんエレナだって狙ってだしているのだろうけれど、あまりにかわいすぎて、このキャラで今日は行くのか? と思ってしまうほどだ。もしくは、聖アルス女学院のその該当キャラがこんな声なのかもしれない。

 エレナのきらめくかわいい女声は、実際ルイがするよりは負担が遙かにすくない。地声もそこまで低くはないし、普段の声に少しブーストをかけるくらいでかわいい声なんて出せるのだ。

 それをうらやましいか、といわれたら……ルイとしては複雑だとしても木戸としては男としては少し高すぎる低音というものもやっぱり必要には違いない。木戸には男としての生活もあるのである。

「ええ。人は謎があれば、それに引きつけられてしまうもの。だったら、あたしも深くは聞かずに、感じたままでいきましょう」

 その声を聞いて満足というか、考えることを放棄した崎ちゃんは、なぜかエレナの反対側の木戸の腕に抱きつくようにしてくるのだった。ライバル意識でもあるのだろうか。こちらはほどよいサイズの胸の感触が腕に当たる。いわゆる女の子の胸という感じである。

「ところで、馨はどうしてそんなにそわそわしているのかしら?」

「ああ。いやね。美人二人に囲まれてしかも二人が言い争いとかしてるわけで」

 回りの視線が痛いのですと言うと、二人ともうわっと気づいたようだった。

 それなりに自分がどう映っているかはお互い理解はしてくれているらしい。

「ところで、馨ちゃんは自分のクラスとかのほうは仕事いいの? 前に聞いてた話だと喫茶店やるとかでてんやわんやだーって」

「あっ。いちおうお願いはしてきたんだけど、そろそろ戻らないと怒られるかも」

 ちらりと時計を見るとさすがに時間的にはまずい段階には来ていた。崎ちゃんの髪の毛をいじるというイベントでそれなりに時間を食ってしまったらしい。

 あんまり相手はできないよと二人には先に話をしていたけれど、さすがにここまで時間がないと申し訳ない。

「だったら、崎山さんだっけ? 一緒に回るってことで、どうかな?」

 馨ちゃん忙しいみたいだし、と。なぜかわしりとエレナは崎山さんの腕をとる。

 まったく女優さんと知っててこれをやっているのだとしたら相当にチャレンジャーである。でもエレナってわりとテレビはアニメとニュースしか見ないから実際しらないってこともあるかもしれない。

「馨が忙しいってのは知ってたし。別につきあうのはかまわないけど」

「いやでも、いきなり初対面の二人ってどうなの」

 そりゃさすがに放置はどうなのか、とも思っていたけれど、二人が一緒という想定もしていなかったから頭の中がごちゃごちゃになる。いいんだろうか。エレナのことだから上手くやるのだろうけど。

「かわいい女の子とお知り合いになるのは、楽しいからっ。馨ちゃんも気にしないで自分の仕事やって?」

 馨ちゃんのあっちの姿は内緒にしといてあげる、とエレナに耳元でささやかれて、ああ変な誤解されてるかなぁとがっかりする。けれど隠していただけるのであればそれ自体は大変にありがたいことには違いなかった。

 去年は描かれなかった学園祭であります。ようやくエレナと珠理ちゃんを会わせることができたっ。誰と友達で、それがルイとしてなのか木戸としてなのか。

 基本ゆるぐだなので、バレもそんなに警戒も意識もしていないのですけれど。

 

 それでこの文化祭編ですが。明日ちゃんとアップできるといいなぁ……みたいな感じです。加筆修正をかなりすることになりそうで。でも、楽しいので!

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