401.ゼフィ女の学園祭4
やっぱり翌朝になってしまったでござる。
しかして、今回は一万字程度の長文でござれば、しかとルイさんワールドをお楽しみください。
僕の名前は、遠藤蒼。今年高校生になったばかりの男子だ。
僕には小中学と一緒に遊んでいた親友がいた。
妙に気があって、それから一緒にいることが多くなって。
そんな彼女がゼフィロスに入学した。
お堅い学校として有名なあのゼフィロスだ。
制服はワンピースタイプに短めのジャケットというお嬢様風。
さぞや、あの子が着た姿は可愛いだろうななんて思った矢先。
高校に入る春に彼女から突きつけられたのは、異性交遊禁止の校則があるというお知らせなのだった。
だからもう会えないの、という彼女を前に、正直へたり込んでしまった。
だって彼女は親友で、一緒にいた時間も長い相手だったから。
彼女のスマホに電話をかけても着信拒否されていたし、家の電話にかけても出られないという風に説明された。
ああ、三年は会えないのか、とがっくりきたとき、ピンとひらめいたことがあった。
それからの僕は、研鑽を続けた。
いつか彼女に出会うために、プランを練ったのである。
そしてそれが叶って、いまやゼフィロスの要塞の中への侵入を果たしたのである。
どうして入れたのかって? それは僕もゼフィロスの制服に身を包んでいるからだ。
ちょっと身長が高めなのがネックになるかと思ったものの、違和感はあまりないようで、入り口の守衛さんに軽く会釈をしたら簡単に中にいれてくれたのだった。
やっぱりこの方法は正解だったらしい。
もちろん、誰もがマネできるわけではないと思う。
だって、ゼフィロスの制服は入手が困難と言われているものだからだ。
僕だってかなりの無茶をした。
まずは、制服を作ってるところのゴミをあさった。
なぜって? 生地を調べるためだ。どうしたって制服を作るときは裁断したあとに残りになる部分がでる。
それを元に生地業者に同じものを売ってもらった。
制服そのものを買うには、ナンバリングまでされるほどの厳重さだったけれど、生地はあっさり買えた。
まあ、いい生地だし値段はしたけれど、それは問題ない。なんとかやりくりできる額だった。
あとは、ゼフィ女の生徒の写真を望遠で撮った。
あまりに近いと不審がられるけど、今時のコンデジは40倍ズームとかがついているのですごいと思う。
そしてゼフィ女のパンフレット。
それを元に立体的に制服の構造を把握する。シルエットや縫製、どういう風に型紙を作ればいいか、なんかも試行錯誤しながらなんとかそれが形になったのが夏だ。
そこからはひたすら生地を切って、縫った。
もちろん縫い方にかんしても写真を拡大して参考にした。
守衛さんの目をごまかすだけなら、ここまでこだわらなくてもいいのかもしれないけど、院内に入ったあとに他の教師や、学生に見られた時に、縫い目がおかしいといぶかしがる人もいるかもしれないからだ。
そして、学校に潜入を果たしたものの。
あまりの別世界ぶりに、どうしてもお上りさんのように視線をいろいろと向けてしまうのは仕方ないと思う。
さすがはお嬢様学校と言われるところだ。
すれ違う方々もごきげんようとか言ってしまっているあたりで、隔離されているのはよくわかった。
こんなところでは、彼女も確かに男友達がいるとは言えないだろうし、縁を切ろうなんて話にもなるのかもしれない。
「でも、学校のために縁を切られるなんてイヤだ」
ぽそっと小声で呟きつつ、その相手を探した。
お祭りの雰囲気にあてられた生徒たちはたいしてこちらに感心をはらっていないのか、それともはらったうえで気付かないで済んでいるのか、結構な時間を探索することができた。
自作の制服はしっかり潜入に役立っているようで、不審そうな視線を感じることはなかった。
「これなら探せるかな。でも人が多すぎて」
いちおう、生徒数はそれなりにいるところである。一年の出し物をまわりつつ、それで探していくしかないかなと思ったそのときだった。
「ちょっとそこの方、お話をお伺いしてもよろしいかしら」
高飛車そうなお嬢様に思い切り捕まってしまったのである。
「さて、では関係者もそろいましたし、事情聴取とまいりましょう」
あいている教室の一つを拝借して、いままさに、審問が目の前で始められようとしていた。
ここでは撮影は禁止ですから、と最初に蓮花さんに釘を打たれてしまったのだけどしかたない。
教師や守衛に引き渡すのが筋なのだろうけれど、どうも蓮花さんとしてはその前に事情を聞いておきたいらしい。
そう思ったのは、やはりその制服の入手とか、そういった問題が絡むからなのだろう。
それを貸している生徒がいるとすると、その子も連座で罰則を受けることになる。
えん罪事件を去年引き起こしてしまっている彼女としては、しっかりそれを教訓にして物事に当たれるようになったようである。
「まずは、あなたは、うちの学生ではありませんわよね?」
じぃと責めるような視線を向けると、彼ははい、と弱々しい声を漏らした。
声変わりをまだ済ませていないといいたいところだが、小学生というわけでもないので、声は変わっている。
特別高く出そうとしていない、男声での返事だった。減点対象である。
「では、その制服はどなたから、借りたのかしら」
ちらっと、蓮花さんは呼び出した女生徒に視線を向ける。彼女はふるふると首を横に振った。
まあ、彼が言った名前が彼女だったのだから、なんらかのつながりがあると考えるのが筋だろう。
この場にいるのは、蓮花さんの仲間である生徒会のメンバーから数人、そして犯人の男性。そして、彼が是非呼んで欲しいといった一年の女生徒と、おまけでルイさんである。
本業もかつかつなのに、そんなに時間とって良いのかといわれそうだけど、女装男子を前にかかわらないことなど、出来はしないのである。まあ基本、蓮花さんの聴取を見てるだけだけど。
「これは借りたのではなく、自分で作りました」
「……はい? どういうことですの?」
蓮花さんがきょとんと眼を丸くしていた。たしかにそれが作れる高校生ってどうよって感じはしてしまうし、専門のメーカーじゃないと作れないと思ったのだろう。
「ひたすらデザインを研究すれば、それらしいものは作れますよ。ようはコスプレ衣装を作るのと一緒です」
あっちより、すでに立体モデルがあるから、やりやすいかもですね、とルイとしても補足をしておく。
そう。無理ではない、とは思う。それを成したのが高校一年生となると、どういう才能と執念だとなるわけだけど。
「デザインだけじゃなく、これは生地から同じものです。制服は買えないけど、生地は誰でも買えるので」
コスプレという言葉に少し不満を覚えたのか、彼からはこちらにそんな反論がきた。
いや、こだわってます宣言はいいけど、コスだってみんな頑張ってるんだけどなぁ。
「ナンバリングがない、ということであれば、その証明はつきますから、その件はいいでしょう。信じます」
あきらかにほっとした顔を一瞬だけ見せた蓮花さんは、表情をきりっとまた作って話しかけた。
「では、貴方がここに潜入してきた理由を伺わせていただこうかしら」
「それはっ。祥妃に会いたかったから、です」
ちらっと、呼び出されていた祥妃さんのほうを見て、彼はそう言った。
ふむ。不純異性交遊を禁止されているこの学校では、いままでの交友関係さえもシャットアウトしなければならないのだろうか。もはや尼寺といってしまってもいいレベルである。
「ちょ、なんですか、ルイさん。その我が校に呆れるような表情は」
あ、ちょっと引いてたのを蓮花さんにばっちり見られてしまっていたらしい。
「いや、さすがに友情を引き裂くというのは、やりすぎかなと思っただけですよ」
それが校風というなら、なんにもいいませんってば、というと、彼女は不満げな視線をこちらと、祥妃さんに向けた。
「祥妃さん。貴女はこの方にどのようにお伝えになったのかしら。この学院に通うからもう会えないとか?」
「……その通りです」
祥妃さんは視線をそらしながら答えた。どうやらまだなにか隠していることがあるらしい。
「まったく。ルイさんに誤解を与えたままというのもなんなので、はっきりさせておきますが」
はぁと蓮花さんはため息交じりに、異性交遊についての規則を話はじめた。
「異性交遊の禁止、ただし、婚約者、幼なじみ、社交の場などでの交流はその限りではない、とあります。さすがに合コンなどの異性交遊は禁止ですが、パーティーなどで異性を無視して壁の花になるなど、むしろ淑女として失礼です。そして幼なじみもですわ。気心を知れた相手との交友を引き裂くようなマネを我らはよしとはしません」
ぱしり、と生徒手帳を閉じながら、彼女は責めるような視線を祥妃さんに向けた。
これくらい、貴女だって知っていたでしょう? という顔である。
もちろん校則の全部を読み込むことはないだろうけど、ここの項目に関しては入学時にかなりしっかりと通達はしてある項目なのだ。
「あーあ。まったく蓮花様ったら、融通きかないんだから。そんなの決まってるじゃないですか。うざいからこれを気にフェードアウトしようって思ってただけですって」
「んなっ」
あ。侵入者くんの顔が固まった。
いやー、まあルイさんも女子との付き合いは長いわけで、こういう場面を見ると女って残酷だなぁとしみじみ感じてしまう。
男は過去に生き、女は未来に生きるなんていうけど、まさに過去を清算してしまえと思ったということなのだろう。
「ちょ、祥妃。それどういうことだよ! 僕達あんなに仲良しだったじゃないか」
「最初はね。でも中学に入った頃からは違ったわよ。なにが悲しくて、知り合いの男の子に自分の服貸してあげなきゃならないのか。イヤだっていったら泣きそうな顔で、本当にダメ? とか言ってくるし。そもそも成長期が来て男っぽいのに、どうしてあたしの服を着ようとするのかがわからない」
身長だって違うし体格だって違うのに、と祥妃さんは脳内できっとなにかを想像しているのだろう、あーやだもうっ、とぶちきれておいでのようだった。
「うわぁ」
なかなかに衝撃的なことをやっている二人でした。
恋愛がどうのとか、もうちょっと美談だと思っていたけれど、なんと二人は衣類が繋ぐ仲だったわけです。
「ええと、いまいち私にはなんのことだかさっぱりですが」
「あれです。彼ったらクロドレさんなんですよ」
「なんですの? そのドレッシングみたいなのは」
それとも外国人の名前なんです? と蓮花さんは困惑顔を隠せない。ああ、撮影許可下りてれば撮ったんだけどな。
「クロスドレッサー。異性の服を着るけどそれで外出をしようとかはせず、部屋の中で楽しむ派です。通常未成年の場合は母親のーだったり、年の近い姉や妹のという感じになるものですが、まさか幼なじみのとは……」
いや、外に出てるからクロドレじゃないのか? と少しだけ首をかしげておく。
ちなみに大人の場合は、自分で通販なんかで衣類を買うとのことで。ネット時代の恩恵というものである。
昔は、女装ショップみたいなところにこそこそ行ったというのだから、すごい時代である。
「僕はあれから君の服が着れなくて、君と一緒に居れなくてとてもつらかった。だからここまで来たのに。うざいとか……」
がくりと、彼は制服がしわになるのを気にせずに机につっぷした。
よっぽどショックだったのだろう。
「ええと、これどうしたらいいのかしら」
その様子をみながら、蓮花さんは困惑しつつ嫌そうに顔を歪めた。ほんとどうすればいいのかと。
まあまっとうなお嬢様の日常を過ごしてる彼女にはさすがに荷が重いことだと思う。なので、こっちは勝手に動かせてもらおう。
あーあこの時間のロスはきついぞうと思いつつ、ちらりと侵入者くんに向けて盛大なため息をついて見せた。
「私は今、猛烈に憤っています。どれくらいかって言うと、彼の写真を撮りまくってさらし者にしたいくらいです」
ほんともーどうしてそうなったのかと言ってやると周りの女子はさらに困惑を深めたようだった。
「ちょっとルイさまなにもそこまで」
そんな口を挟んできたのは祥妃さんだ。迷惑を被ってきたわりに、こちらの言いようには反応するとはお優しい限りである。
でも止まってやる気はない。規則がどうだなんてルイさん的にどうでもいい。
でもだ諸君。目の前にいる人はどうして許せるのだろう。
守衛さんをくぐり抜けたのは評価するが、それはただ制服の再現度が高いだけだろう。
化粧は、してないし、眉も……まあ、女子が見たらちょっとうらやむ眉かも。太すぎず、ちょっと男性的かなとも思うけど、ばっつり切り落として書いている子が多いのを考えれば、そろってるほうだと思う。
けれど、それは眉だけのことだ。すっぴんで女子に見えるだなんて、エレナをはじめそう多くはない。ルイさんだってお化粧の力を借りて今を作っているのである。
反論は……認めますが。
「私はこれで、男の娘の撮影には定評のある人間です。女装についてはちょっとうるさいですが、その見地からすれば、どうしてそうなった! と言いたいわけです」
うんうん、と、いまだ制服姿の彼に笑顔を向けておく。
そもそも、いくらお堅いゼフィ女に来るからって、ノーメイクとかまずありえないと思うんですが! と力強くいってやると、困惑気味ながら蓮花さんも、たしかにまじまじと見ると男性ですものね、とようやっと頷いてくれた。
守衛さんを上手くごまかしたのは、あとはウィッグなのかもしれない。髪が長くてスカート穿いてれば、高年齢のおっちゃんにとってはみんな女子に見えるっていうしね。
「そしてその着こなしもダメです。裁縫の技術はほめたげます。それなりに専門の職業にいずれつけばいいです」
うん。まずは褒めるところからね。彼のその技術はすばらしいモノだというのはあるのだし。
でもだ、それが活かせてないとしたら、どれだけ残念だろうか。
「服は良くても中身のコーディネイトが全然です。まずは、その巨乳。おっぱいです。なぜGカップ以上あるのか、お答えいただきたい所!」
くわっと、前のめりで聞いてみたら、ゼフィ所の子もちょっとそわそわしつつ、確かに……なんてことを言い始めた。蓮花さんだけはなんでこの人こんなことを、という感じだったが。
「でも、胸は女性の象徴で……」
「貴方は胸にひっぱられるように歩いていたからね。一晩で大きくなるのなら話は別だけど、胸なんて毎日ちょっとずつおおきくなるもんさ。……大きくならない人もいるけど、それはそれ」
ぷぃっとそっぽを向くと、これからですっ、と生徒会役員の子からぐっと握り拳とともに応援されてしまった。
いや、二十歳過ぎたらいろいろと、もう無理なんじゃないかなーなんて思う昨今です。
あ、自分のことじゃなくて、学術的にね。
ねーさまは大きくなってたけど、彼氏ができたからってことかなあれは。
「で、一晩でえた大きいおっぱいはあなたの姿勢を全力でダメにしたの。前屈みっていうか「重さにひっぱられてしまう」っていう感じでね。慣れてればこんな無様はしないし、それにバストアップなんて日々努力なんですっ」
一気にどうにかなって、どうしますかっ、というと、さすがに蓮花さんがよしよしと頭を撫でてくれた。
いや、別にこっちはおっぱいの大きさ気にはしてないけど、ちょっと心の吐露みたいに見えてしまったかも知れない。
「大きな胸を扱いたいなら、それをつけた状態でウォーキングの練習、それとGはいらないのです。Dくらいでも十分貴方の肩と身長などを考慮するとバランスが取れます。それと潜入って単語の意味をきちんと理解しなければいけません。目立ってどうすんですか!」
この学校なら、時々いるから頭痛ものですが……と天を仰ぐと、ルイさんったらと蓮花さんが胸を揺らしながら、哀れみのこもった視線をこちらに向けてくる。
もはや、クロドレがどうのという話の困惑は消し飛んだようだ。
「それと根本的な問題。貴方は衣類がどうだ、手に入らなくてどうだーといいますが、高校一年なのだから自分で用意したらいいんじゃないの?」
どうして、うざいと言われてまで友達のを着なければならないのか。というと、ああたしかにと皆さまそこで納得顔になってくれた。
祥妃さんとしては、自分の服が年頃の男に着られるのがイヤだ、絶交という流れであるなら、自分の服は手をつけないになれば問題解決ではないだろうか。少なくともキモさの半分は軽減されると思う。
「へ?」
そしてその当人はきょとんとした顔を浮かべていた。
なにそれ、という感じだ。まったくもって考えの外にあったものらしい。
「いやいやいや。無理でしょう。男が女性服のショップにいくなんて」
「ショップも売り上げが上がればいいわけだから、人が少ない時間帯とかなら嫌がらないところが多いと思うけどな。昔は友達へのプレゼントを探しててとか言い訳しながら、買ったっていってたけど」
まあさすがに下着売り場は無理だろうけどね、と苦笑を浮かべると、うんうんと周りの皆さんは頷いてくれた。
それに、ダメなら別のショップに行けばいいだけのことなのだ。少なくとも聖さんのところなら、可愛くなるお手伝いをしちゃいますっ、とかいいながら嬉々として服選びを手伝ってくれるだろう。
「でも、噂になったら……」
「いや、女装潜入してる時点で噂がどうのいう権利はないわけだが」
「ですわね」
蓮花さんも思い切り彼の言葉を切って捨てる。
切羽詰まっていたとはいえここまでのことをやらかしたのだ。
正直、前の合コンの比ではない大事件である。
「それと、ショップがダメなら今はネット通販があるからね。お安いところもあるし、服を作れるってことはカタログでの数値を見たりとかも苦にはならないと思うんだよね」
そもそも、どうしてGカップのパッドを買えるのに、服をネットで買おうという発想にならないのかが謎です、とため息交じりにいうと、でも……と、彼は視線をそらした。
「彼の母親、有名な服飾系のアドバイザーなんです。それを気にしてるのかも」
「家に服を置くだなんて無理です。絶対理解なんて得られないし」
「ふむん」
八割の衣装が女物で埋まっててもオッケーな木戸家がさも異常かのようなものいいはどうかと思いますが。
「とりあえずバイトしましょうか。自分のお金で買った服という位置づけなら、親御さんもあまり無茶なことはいいません」
えーと、ゼフィ女の子はその発想自体出しそうになさそうですが、とみんなの表情を見ておく。
働くんですの? とでも言いたげなまだよくわからないという感じだった。
「親御さんのお金は、あくまでも子供の成長のために使われるもので、それゆえ親の意向が強くでるんです。でも、自分で稼いだのであればその分は、ある程度自由に使えるってわけです」
うん。これは間違いではないと思う。
たとえば、ルイを作る上での道具一式を、親にねだったら、あんた正気に戻れといわれたことだろう。
今の、親放任の状態になっているのは、ひとえに自分の収入でやってることだからだ。
「あたしもカメラとかいろいろ買うために高校に入ったときからアルバイトしてるんだよ、これで。これからは写真の依頼料も入るからちょっと楽になるだろうけどね」
いやぁ、ほんと夜までずーっと働いたもんですねーというと、あきらかにこの学院の異分子だなぁ自分と思ってしまったりもした。
でも、やっぱり自分のお金ならどんなことにでもつかえるのである。その強みもあるし、それ以外の生活に必要な部分に関しては親が出してくれてる身なので、その分は純粋に趣味につかえるというわけなのだった。
「ルイさんったら、苦学生でいらしたのね……」
「いやいやいや、苦学生ってわけじゃないよ。学費は親が持ってくれてるからまだ全然。ただ写真にまつわることはこっち持ちなんだ」
反対とまではいわないけど、両親ともにあたしの今の状態は好ましく思ってないので、というと、人気がありすぎて心配なのかしら、と蓮花さんは素直な反応をしてくれた。
まあ、女装してるのをあまり快く思ってないわけですけど。
「そんなわけで、とりあえず自分の家でこっそりやれる可能性を提示してみたわけだけど……祥妃さんとしてはどうだろう? これで友好を続けられる? それとも女装男とはやっぱり縁をきる?」
さぁどうよ、ともう一人の主人公の方に視線を向ける。
彼女の言い分としては、自分の服を着られるというところにこそ、嫌な点がこもっていたように思う。
女子中学生あたりから、パパの靴下と一緒に服を洗わないでっ、とかいっちゃう子もいるというし、異性に自分の服が着られるというのはそうとうのダメージなのだろう。
「ええと……ルイさまはその、クロドレ? それに関しては抵抗はないのですか?」
祥妃さんは恐る恐るこちらに質問を向けてきた。
ふむ。部屋の中であれ女装はちょっとという感じなのだろうか。
性転換するならいいけど、異性装はちょっとということかもしれない。
「男性用のスカートなんてものが発売されるようなご時世なのだし、異性装自体が別にかわいきゃいいじゃんって思う感じかな。クロドレならなおさら、似合わずともよいくらいだよ」
部屋でどんな格好をしようが人様に迷惑かけなきゃいいじゃない? というと、ま、まぁそれはとみんな煮え切らない返事をしてきた。
少しネガティブなイメージでもあるのだろうか。
「大人の男性の場合は、最前線で神経を張り詰めて戦ったあと、リラックスしたり日頃のストレス発散で家で女装するってパターンもあるっていうしね。お酒でウサを晴らすより体へのダメージも少ないし、むしろいいんじゃないかな」
数少ない男性のストレス発散法の一つなのですよ? と言ってあげると、でもやっぱりお父様がそうだったらイヤですわ、と役員の子たちから声が上がった。
まールイさんも、あの父が女装を始めたらちょっと、くるものがあるかもしれないから、気持ちはわからないではないんだけど。
「もちろん犯罪行為が絡んだらダメだよ? 下着を買いに行けないから、下着泥ボーしました、なんてしゃれにもならないし、興奮しちゃって下半身裸で路上にでるとかはもうクロドレじゃなくて別物だからね?」
そういうのとごっちゃにしないでよ、というと、な、なななななんですのーと、蓮花さんが想像して顔を覆った。
可愛い反応だなぁ。是非撮りたいのに許可が下りないという。今が辛い。
「さて、それを踏まえて、祥妃さんはこの子をどうするのか、そこの所を聞かせて貰えると嬉しいかな」
「ええと、その……ですね。正直なところ。やっぱりこれだけのクオリティの制服を自作しちゃうとか、はっきりいってきもいです」
うわ、あれだけ条件をそろえてもやっぱりダメか。なかなかに女子高生のハードルは高い。
それを思うと、かおたんブームが起きてるあっちが異常事態なのだろうね。
「でも、いつかは受け入れられればとは思います」
「さ、祥妃……」
ふぅと、ため息交じりの視線を祥妃さんは彼に向けていた。
今はダメだけど、もうちょっと考えて見るという答えがでたなら、まあよしとしよう。
その時、十二時を知らせる鐘が校内に響いた。
さて、こちらもそろそろ仕事に戻らなければ。
「という感じにまとまりましたが、蓮花さん。それとこれとは話は違うので、あとは生徒会長さんたちの裁量におまかせしたいところですが」
女装潜入はダメなことだとは思うので、といいつつ、あとは現役の生徒会長さんたちに処罰は任せることにする。
部外者としては、情状酌量される可能性が少しでもあがるように、いろいろ手を焼いてあげてただけのことである。
「ええ、かまいませんわ。ルイさんも余計な手間をとらせて申し訳ありません。撮影、結構厳しいのではなくて?」
「まあ、なんとでもしますよ」
まだまだ祭は長いのですから、というと、それじゃよろしくお願いしますね、と蓮花さんはにこりとこちらに笑顔を浮かべつつ、侵入者との対峙を始めるようだった。
それを見ていたい気分にもなるものだけれど。さすがにこちらも時間がまずいのでそこで辞去させていただいた。
その後どうなったのかは、あとで蓮花さんに確認しておこうかと思う。
はい。事件にしゃしゃり出るのはルイさんの根幹ということで。
ちょっと斜めってる感じでの話になりました。
まさか、潜入目的がこれとはっ、私も思いついたときは「うわぁ」と思ったものです。
さて、女装グッズとクロドレというと、エ○ザ○○会館が頭に浮かぶよ! とかいうとお前何歳だよ! とかいわれそうなのですが。知ってるんだもんしょうがないじゃん! クロドレの聖地だもの。
でも、聖地なのでこっそりひっそりが大切なので、あえて伏せ文字にさせていただきました。
秘密クラブっぽい雰囲気でちょっと、ドキドキしてしまうのですけれどね。
あとはわぁいにも乗ってたあそこですが、料金がぱねぇです。それだけ技術とかもすごいんでしょうけどもね。オーナーさんが美大卒なのです。
本文中で周りがちょっとクロドレにネガティブですが、寛容さをもっていただけると、と思います。
自分の旦那がってなると、滅茶苦茶葛藤しそうですけどね。
まあ、みんながみんなごく自然に女装できるわけじゃないんだぜっ、ということで。
次話は学園祭がおわりつつ、ゼフィ女の女子寮である鹿起館にお邪魔いたします。
ついに若様登場だっ。




