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383.母校の文化祭2

遅くなってすみません。ルートは確定していたのですが、筆が進まず……

 うちの弟は、まあイケメンの部類にはいるだろうか。

 身長こそ170そこそこなので、かっこいいよりは可愛いという感じの評価が多いようだけれど。

 中学の卒業式には第二ボタン争奪戦なんてものも繰り広げていたくらい、中学では人気がある男子であった。


 そんな弟も、いまや高校二年生。はぁ。正直時の流れを感じてしまう。

 ルイとわいわいやっていた高校時代は、いまではもう二年も前の話なのだ。

 それからも、まあ、予定が合えばルイと写真を撮りにいってはいるけれど、なんだろうな。

 男子の彼を見ていないからというのもあるのだけど、最近、自分の中でルイがどんどん普通に女子な感覚に陥っていてまずいと思う。もうずいぶん前からだろってのは……ええ。だってあれを男子とか思えるの?

 珠理奈さんからの、へたれメールのこともあるし、そもそも。なぁ、あれだよ?

 生理用品ないのって、自然にいっちゃうのも仕方ないっって思うの。まじで。

 

 さて。それで弟から先日こんなお願いをされたのだ。

 曰く、ルイさんの親友なんだろ、だったら絶対文化祭につれてくるべき、それで会わせてください、まじお願いします。と全力でまじ土下座を目の前でされてしまって、ちょっとそれにほだされてしまった。


 ルイは、まあ、天音ちゃんからも声をかけられていたから学校には行くってことだったけど。

 ううむ。弟と一緒にしていいのか。そればっかりは疑問である。

 なにより、うちの弟が。ルイの魔性にあてられないのか、いろいろな方向性で危惧をしたいところなのだった。

 普通に、ルイに惚れるのも問題だし、下手をすると、弟くんも女装してみようか? とかあいつなら言いかねない。翅さんを女装させるという前科もあるのだ。エレナたんもグルだったようだけど、あれがああなるなら、うちの弟だってもしかしたらモデルっぽい感じに仕上げてくるかもしれない。


「当日まで悩むしかないのかこれは……」

 カレンダーにちらりと視線を向けながら、さくらは、はぁとため息をもらした。




 写真部での一件が終わったあと、もちろん展示の方を見にいって、結構よかったねーなんて話をしつつ。

「さって、次はどこいく? 食べ物系はまだちょっと早いよね」

 時間はまだ十一時過ぎといったところだった。

 お祭りの空気感を撮影していてもいいのだけど、せっかくだから他の展示も見てみたい。


 とはいえ、知り合いがそれほどいるわけでもないのも事実なわけで。

「ミステリー研究会でも見に行ってみる? 佐々木さんとかいるかもだし」

「あー、さっちんにばれたんだっけ?」

「まーいろいろありましてねぇ」

 この前おこなわれたルイさんをカタる会の話はすでにさくらには伝え済みだ。

 なので、思い切りその時は笑われた。まあ本人が登場してたらどうしようもないじゃないというのはわかるけれど。


「いちおう、さっちんとは三時過ぎの同窓生の集いで会う約束はしてるんだ」

「なんか図書室でやってるってやつだっけ? 去年は結局いかなかったし……」

 今年も、外部生としては参加はどうなのかなぁと、少し悩ましげな表情になってしまう。

 いちおう、木戸馨としては卒業生にはなるけど、ルイとしてはあくまでも違うのである。


「そういや、弟くんの所は顔ださなくていいの?」

「うぐ……それがですね」

 卒業生、という単語から弟くんのことを連想して話をふったのだけど、なぜかさくらは思い切り目をそらしてしまった。

 えぇ-、どうしてその反応?


「実は、あんたに会わせろって弟が土下座とかしてきたのよ。マジひかない?」

「え? それって、あのイケメンくんだよね。土下座って……あたしそんなに会いたい相手になった覚えは……」

「なんか、報道の相手に会いたいとかもあるんだろうけど、写真見て、姉貴の知り合いならぜひっ、みたいな」

「写真見て、って、撮ったのじゃなくて、週刊誌のだよね……それ、恋に落ちてますとかめんどうなのじゃないよね?」

「あー、たぶん、ミーハーなあれだと思うけどね。で、会うのはオッケー?」

 じぃっとした視線を向けられつつそう言われて、うーんと少しだけ悩んだ。

 思い出すのはあの中学の卒業式の時の姿である。

 

「ここまできて、会わないってのはなしかな。それとほら、中学の卒業式の時の感じだとすっごいかわいかったし!」

 ぱすんと手をうちならして笑顔を浮かべると、さくらはとたんに嫌そうな顔をした。


「たしかにあいつ、顔は良いけど、女装はさせないからね? 良い? 大切なことだから二度以上いうわ。あのこは女装させない」

「ちょ、なにそれ、会うたびに人を女装させてまわってるわけじゃないよ! ってまあ、あの子はちょっとありかなぁと思わないでも無いけど」

 イケメンは美女に通じる。だなんて、いったら、みんな変な顔をするのだろうけど。

 さくらの弟さんは前にあったときの感じだと、良い感じにはなりそうなんだよね。


「あんた、翅さんを女装の道にぞっぷり踏み込ませたりほかにも一杯あるんだから。女装の伝道……いえ、感染源なんじゃないの?」

「ふぁ? それはだめでしょ。感染源って、いじめられっ子の言われようだし」

「事実だったらいいんでしょ? あんたのは間違いないと思うけど」

 むぅ。さくらがちょっとドヤ顔をしているのだけど。さすがにルイさん女装の感染源になったことはないよ。

 たまたま周りにそういうのが集まるだけで。率先して女装させたのって、八瀬くらいなもんじゃないかな。


「もぅ。そんなのあるわけないじゃん。どこの世界に趣味とかが感染するのさ。翅さんの件はちょーっちエレナがはっちゃけただけだし、やってみたら本人が教えてっ! ていっただけだし」

「虜にするのがダメじゃん。そもそも、どうしてあんたが……まあ、男にもてそうだなとは思うけど」

「……そんなに? そりゃかわいい子をめざそうってのはあったけど、モテようとは思ったことはないよ」

 そもそもそんなにモテてもどうしようもないし、といいきると、これだから自覚無しは困るとさくらはため息を漏らした。


「で? どうすんの? 弟くんのところに行ってみる?」

「しゃーないわね。約束は約束だし」

 でも、ホントうちの弟に手を出したら怒るからね、とさくらは心底嫌そうに言ったのだった。




「お、おお、おおお。生ルイさんっ。本物だっ。うわ、すげぇ」

「ええと、いつもお姉さんにはお世話になっています。豆木ルイです」

 どうも、ととりあえず初対面の自己紹介をしておく。

 いちおう弟くんとは一度だけ会ったことはあるのだけど、それは馨としてなので、こんな紹介の仕方になる。


 ひさしぶりに見る彼は、確かに二年の歳月を経ていて、男の子っぽさが上がっているように思えた。

 まあ中学生だとまだまだ子供っぽい印象って残っちゃうもんね。

 え、おまえは男として育ってるかって? それは、まぁ、うん。

 まあ、こっちのことは別にほっといていただけるとありがたいです。


遠峰哲史(とおみねあつし)といいます。こちらこそいつも姉ちゃんがお世話になってます」

 うちの姉とちゃんとつきあえるなんて、すげーっす、と弟くんは相変わらず、姉の写真馬鹿っぷりにはついていけてないようだ。


「まあ、一緒に撮影にいくと楽しいし、こっちもいい写真仲間がいて助かってるくらいかな」

「そうよねぇ。あんたみたいな変態と一緒に撮影できるのなんて、あんまりいないわよ」

 他のカメコさんとか割とどん引きしてるときもあるし、とさくらはしれっと言い切った。あの、さくらさんや? 錯乱とか呼ばれてる貴女も同じようなもんですからね。


「そうだ、撮影といえば今日も撮ってるんですよね? どうですか、文化祭でなんか良いところありました?」

「んー、実は写真部の展示くらいしかまだ見てないんだよね。他にあまり知り合いがいるわけでもないし」

「お! じゃあ、俺がおすすめな店に案内しますよ!」

 やった、とばかり弟くんが笑顔を浮かべたので一枚撮っておいた。

 なんというか、かなり無邪気な表情で、ちょっと幼く見える一枚に仕上がったと言って良いだろう。


「あんたも写真部の連中と同じかい……」

「えぇ、いいだろ姉ちゃん。多少の思い出作りってヤツだよ」

 お願いシマス、と思い切り手を合わせられてしまったけれど、これはどうすればいいのだろうか?

 ちらりとさくらの方をみると、ううーむ、と難しい顔をして腕を胸元で組んでいた。


「なら、おすすめの出し物、一個だけ付き合ってもらおうかな。ちなみに化学部での香水は受け取りませんから」

「ぶっ。ちょ、ルイさん、さすがに俺、そこまで勇者じゃないですって」

 もー、さすがにそこまで勇気はない、というと、彼のクラスメイトである他の方々はうんうんと頷いていた。

 ここには哲史くん以外にももちろん生徒はいるわけで。そんな彼らは興味津々でこちらのやりとりに聞き耳をたてているようだった。

 後から聞いた話だけど、最初から弟くんはルイさんが来るかもっていうのはみんなに伝えていたんだって。殺到しないように、っていう注意もしたんだとか。いや、さすがに殺到するほど人気者な自覚はないんだけれどね。


「なら、ルイさんにおすすめのカフェに案内しようかと思います」

 きっと、ばっちりなところですから、と弟くんは自信ありげに歩き出したのだった。

 


「へぇ~ふぅ~ん。女装は感染しないとかってどこかの誰かがいってたっけね~」

「やめてっ。さくらっ。それ以上言わないで……」

 さて。弟くんに案内されてルイさん達はとあるカフェをやっているクラスに到着したのですが。


「かおたんカフェ……ねぇ。うぷぷ。ウェイトレスさん全部男の娘だってよ? ほらっ」

「ルイさんといったら、なんといってもエレナさんの撮影をはじめ、男の娘をしっかり撮る人って感じなので、ここがいいかなって思ったんです」

 意外と評判いいんですよ? と彼がいう通り、廊下に列ができるくらいの盛況ぶりだった。

 いちばん端の教室を使ってのカフェのようだけれど、入り口には看板がつくられていて、そこにはかおたんカフェという名前がばばーんとのせられていた。

 一番端ということもあって、廊下の行き止まりには、カフェの名前の由来とか、伝説は終わらない、とかなんかいろいろ書かれていた。


「伝説は終わらない……ぶふっ。もう、かおたん伝説になってるし」

「かおたんいうなぁ~」 

 あの、そもそもどうしてこんなことになってんですかね。そりゃ高校時代は、学校で女装もしましたよ。

 でも、伝説を残したって……どうしてこうなってるんですか?

 伝説なら、澪の方が残してるじゃん! 女優だよ、男の子の女優さんなんだから、あっちのほうがインパクトあるじゃん!

 

「ええっと……ねーちゃんは、かおたん先輩のこと、知ってんの?」

「知ってるもなにも、あんたも会ったことあるわよ。中学の卒業式の時のあいつ」

「あああ、あのちょっとひょろい感じの人か。そういや女装がどうのって話してたっけ」

 あの見た目だと、いまいち女装姿が可愛いってのが想像できないんだが、と弟くんは少しだけ納得できないようで首をかしげていた。


「かおたん先輩は、それはもうとても綺麗で、足とかすごかったんですよ」

 そんな会話をしていたからなのか、カフェの従業員さんが声をかけてきた。

 声はちょっと低めで、残念ながら綺麗な女声とはいかないものの、それでもずいぶんと頑張っている方だといえるだろう。


 そちらに視線を向けると、弟くんと同じくらい身長があるエプロンドレス姿の子が姿を現した。

 メイド服ではないので、頭にホワイトブリムはつけていない。メイドさんっていうと黒というイメージだけど、この子が来ているのは、明るい紺色のものだった。足下は黒いタイツをしっかり装備している。

 うん。厚めのタイツでひざのごつさをカバーしようという魂胆なのだろう。


「ええっと……かおたんさんとどこかで会ったことがあるの?」

 さて。声をかけてきた相手。その子に実はルイさん見覚えがあります。

 もちろん、ルイとして会うのは初めてなのだけど、これがまあ二年前に文化祭にきていた子だったわけです。

 そう。高校三年の文化祭の時に、瑞季ちゃんと一緒にコスプレ写真撮影の出し物に来てくれた孝史くんだったのだ。

 ……うん。確かにあのときは、木戸さんが女装させましたよ? ええ。

 これ見せられちゃうと、感染源って言葉もあながち間違いとはいいきれませんよ、とほほ。


「はい。友人と二年前に文化祭に見学も兼ねてきたときに。それがもとで面白そうな高校だねーなんて話になって、二人で受験したんです」

「ああ。あのときのお客さんか。かおたん(、、、、)が超絶、お気に入りっていってたというか」

 あのときは、二人の撮影にどれだけはまってんのよって叱ったっけ、とさくらが遠い目をし始めた。

 そうだったね。


「そういえば、先輩はあのときカメラ握ってた人ですよね? かおたん先輩とは仲良しなんですか?」

「まー腐れ縁ではあるけど、それ以上ではないかなぁ。連絡は時々とってるけどね」

「おおぉ。やっぱり、今も女装したりなんですか?」

「ええ、()もきっと女装してるわね」

 じぃとなぜか視線がこちらに向けられたんだけど、やめてよっ、孝史くん達にはなんの話もしてないんだから。


「孝史-! サボってないで働けー」

「はーい。っと、すみません。バタバタしてるので、私はこれで」

 教室の中からの声に、孝史くんは教室の中に戻っていった。

 どうやら、お手洗いに行っていた帰りだったようだ。


「割と違和感無かったな……身長は結構あったけど」

「うまく引き算をしてごつい部分をカバーしてるって感じだったかな」

「さすがかおたんが仕込んだだけはあるわね……ぷぷぷ」

 あの、さくらさん。さっきから笑いすぎだと思いますけれども。


「でも、あの水準となると、他の子も期待大なんじゃないかな」

 特に瑞季ちゃんとかどうなってるかとっても楽しみです。

 撮ってもいいかな? ダメかな。


 そうこうしていると、徐々に順番待ちの列は進んで行った。

 学校のカフェということもあって、時間制限が30分なのだそうだ。いろいろな人に体験してもらいたいというのもあるそうで、列は作っていても割とスムーズに消化できていってるようだった。


「さて。それじゃ、さっそく入りましょうか」

 次の方どうぞ、と案内されて教室の中にはいると、そこは綺麗にかざられたカフェ仕様になっていた。

 そして、その風景をみつつ、ウェイトレスさんがくるのを待つ。

 さあ、誰が担当してくれるのかな。


「いらっしゃいませ、お客様方」

「うぉっ……こいつは……」

 弟くんが普通に目を丸くして、言葉を失っていた。

 まあ、無理もないよねぇ。

 

 そこで出迎えてくれた子は、ふわっとした声ととろけそうな笑顔を浮かべていたのだから。

 しかも、エプロンドレスがすさまじく似合っていて、もう、これでもかと言うくらい愛らしい乙女っぷり。

 孝史くんは黒タイツだったけど、瑞季ちゃんは膝上までのシマニーだった。

 まあ、華奢だものなぁ。ほっそりした太ももはちょっと変な意味はなくてもつい見てしまう。

 そして、ワンポイントとして服には、木村のあのクマさんがちょこんとつけられていた。

 うん。アクセントになっていて、とても可愛らしいかと思います。


「やっぱり、伝染性よね、これ……」

「ち、ちがうもん。あの子は元からだもん……」

 弟くんに聞こえないように、こそこそそんなことをいいつつ、あぁ、でも、ほんと遭遇率は高いなぁと思うルイさんなのだった。

さぁルイさんの女装は感染するのか、という話が持ち上がってしまいました。

まーでも、あんなに可愛い子がいたら、自分もーって思う子がいるのはしょうがないと思います。


さて。次話は瑞季ちゃんをしっかりと描写しようかと思います。

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