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382.母校の文化祭1

さー昨日がルイさんの誕生日でした。おめでとー!

「いい天気で、なによりでありました」

 しゅたり、と軽く敬礼をしてあげると、隣を歩いているさくらが、うむ。くるしゅうない、とかいいつつカシャリとこちらの姿を撮っていた。


 十月から十一月にかけて、この秋のシーズンは秋祭りから、学園祭から、いろいろなイベントが詰まっている季節である。まーいつの季節でもイベントだらけだろ、お前はという意見は、まあちょこっと聞いておこうと思う。


 さて。母校。なのではあるけれど、今日はルイの装いをしているのはさくらとの掛け合いでなんとなくわかって貰えていると思う。

 うん。母校に行くなら木戸さんでは? ととても思うのだけど、写真部の後輩である天音ちゃんから、せんぱーい、是非きてくださいよーなんて言われたら断れるわけもなく。

 

「あ、ルイに言っとくけど。うちの弟を誘惑したら怒るから」

「へ? あの弟くん、同じ学校なんだ?」

 利発そうな顔してたからもっと進学校に行くもんだと思ってたんだけど、というとさくらの顔が少しだうーんと落ち込んだ。

 さくらの弟さんはさくらの三つ下。中学の卒業式の写真を撮りにいったときにばったり出くわして挨拶をしたりもした。

 したけど、あれは木戸としてのお仕事で、弟さんとルイが会うのは初めてである。


 ちなみに、おばさまはあっさりこっちの正体を見破ったので、遠峰家は危険という認識がちょこっとだけある。

 まあ、おおむね、さくらがいろいろとべらべら喋った集大成でばれるみたいだけどね。


「滑り止めよ。滑り止め。ったく、あいつ勉強だけはできるからなー。しかも女子にもてもてで、かなり声をかけられるんだと」

「うわぁ、あたしたちの高校生活とはなんか、モノが違うね、モノが」

「あんただってモテモテじゃないの。きゃー撮ってくださーい、ルイせんぱーいって」

「……否定はしないけど、なんかちがくない? それ」

「でも、モテても、あんたどーせ、わひょーとか奇声上げながらシャッター切るでしょ?」

「……わひょーはちょっとないけど、まぁ。恋愛にはあんまり興味ないっていうか」

 恋愛してる姿を撮影したいっていうか、というと、まああんたはそうよね、と生暖かい視線を向けられてしまった。


「そ、そういうさくらはどーなのさっ。まだ石倉さんとちゅーもしてないんでしょ、どーせ」

「ばっ、ちょ、なんてこといってくれんのよ。……そりゃ、まだ、だけどさ」

 そのカウンターはさくらに思い切りヒットしたようで、彼女はあぅーと情けない声を上げながらしょぼくれてしまった。頭では割切っていても心ではというやつかもしれない。


「キスくらい、あたしはもう……ああ、もう済ましてるんでした」

 こっちもこっちでがくっと肩を落とした。青木とのアレである。まあノーカウントでいいと思うんだけど、事実は事実だ。

「なんか、ゴメン。トラウマえぐっちゃったみたいで」

「ベツニー、キニシテナイシー」

 ふへー、と言いながら、学校周辺の景色をカシャリ。

 去年もきてるのでそこまでの目新しさはないけれど、逆によく撮っている場所でもあるので、懐かしさのようなものはあった。


「ま、今日はちょいと高校のころを思い出しつつ、お祭りを楽しむとしましょうか」

 あんまりへこんでもられないし、と写真のできを確認してにやついていると、あんたはもぅ、とさくらからの呆れ声が聞こえたのだった。




「ルイ先輩だ」

「うお、本物だ……めちゃ綺麗……」

「そりゃ、芸能人でも虜にするわ……週刊誌の写真よりめっちゃかわいい」

 受付を済ませて、じゃあとりあえず天音ちゃんのところにいこっか、ということで写真部に来たのだけど。


 なんか、写真部がひどいことになっていた。

 さて。この部屋の中で知っている人といえば、天音ちゃんだけ。

 確か、他に同学年で男子が三人居たはずなのだけど、彼らの姿が見当たらない。

 あとで聞いた話だと、彼らはきちんと文化祭の撮影と展示のほうにでているということだった。

 うんうん。さすがに直接あって夜間撮影とかやってた子たちは、しっかり仕事をしてくれているようだ。


 それ以外に、なぜか八人くらいの部員がそこにはいた。

 全部一、二年生である。おまけに男子ばかり。一人だけ女の子もいるけど、超肩身が狭そうだ。

 これ、天音ちゃん一人で指揮してるんだったらかなりなものだなぁと思ってしまった。

 つーか、うまくさばけてないのかな。天音ちゃんなら、「イベントの時はちゃんと散って撮影してこい」、とでもいうだろうし、そういう写真部なはずなのだけど。


「俺、ルイ先輩に憧れて写真はじめました」

「美人で写真もできるとか、ちょーすげーっす」

 ルイが写真部の部室にきたとたん、後輩達はこちらに群がるように近寄って来た。


「ちょ、これ、どういう……こと?」

「あー、すみません、ルイ先輩。ちょっと憧れの相手に会えたから舞い上がっちゃってるんですよ」

 普段はここまで暑苦しくはないんですけどねぇと天音ちゃんが苦笑を浮かべている。肩をすくめてるところをみると、はぁとため息でもつきたいところなのだろう。


「あのっ、先輩よかったら文化祭一緒にまわりませんか!?」

「ちょ、それは俺の台詞だっ。なんでおまえなんぞにっ」

「そんなの、僕とまわるに決まってるだろう? 文化祭の出し物は頭にはいってますから、いろいろご案内できますよ」

 ふぅ。なんだこれ。今の三年の男子は滅茶苦茶つつましかったのに、今年の一、二年はミーハーなようだ。積極性は写真をやるうえで悪くはないけど、ナンパが得意っていうのはさすがにどうなのかと思う。


「はいはーい。なんか収拾つかなさそーなので、ここは卒業生であるあたしから一つ提案です。君たちが持ってる写真を、ルイに見てもらってそれでナンバーワンなのを出した子、その子のお願いをルイさん聞いちゃいます」

「ちょ、まってよさくら。お願いって……」

 収拾がつかなくなりそうなところに、さくらから一声。

 さすがは以前ここをとりまとめていただけはあって、貫禄は十分だ。


「もちろん文化祭をまわる、程度のお願いまでです。一日中とかはルイが疲れるから、せいぜい一つの出し物までっていう限定ね。あとはそれと等価くらいのお願いなら、聞かせるので」

 たとえば、笑顔で、大好きって言わせるとかも、可! とさくらがいうと、おおぅと男性陣は一気にもりあがっていた。

 その奥に一人ちょこんとしている子だけが、きょろきょろ周りと見ながら、えぇっという顔をしていた。

 もちろん、その光景は一枚撮った。写真部、部員一杯おめでとう、というようなタイトルでいいだろうか。投げやりだけど。


「んじゃー、ほい。ルイ先生。画面の準備よろ」

 そんなことを言われて、今日はタブレットではなく、写真部のパソコンを使わせてもらう。

 これは学校のサーバーとも繋がっているので、例のイベント写真にもアクセス可能だ。

 あとで、それもさらっと見せてもらおう。


「んじゃ、お一人目どうぞー」

「お、おねがいします」

 先ほどまで元気だった彼らは、写真を見せるというだんになるととたんにびくびくし始めた。

 まじかよまじかよ、誰がいくよっていう話になって、やっと一人目が決まったという感じだ。

 えっと、ルイさんそんなに怖くないよ? ただ写真を見せて欲しいだけなんだからね。


「へぇ。これはイベント写真? こういうのも行くんだ?」

「だって、俺、ルイさんに憧れてるってさっきいいましたし。だったらイベントでしょう」

 はぁ。なにこの勘違い。ルイさんといえば自然写真だよ。写真部にはそれなりの数の写真を残しているし、それをまったく見ていないのだろうか。


「ほほぅ……どこかのオンリーイベントかな。まあ。悪くはないんじゃない?」

「ええ、まあ。それなりに撮り慣れてるので」

「……うん。ローアングルも撮り慣れてるようで」

「うぶ……そ、それはその、ですね……」

 なんというか、綺麗に撮れてるとは思う。思うけど、その先の一歩がでない物足りなさを全体的に感じた。

 そして、極めつけはローアングル写真だ。それがでた瞬間、彼は、やべっという表情をした。


 そりゃまあ男子高校生だし? そういうのに興味のある年頃だってのはわかるけど、やっていいことといけないことがあると思います。


「はい、想像してみようか。自分がミニスカートを穿いてて、ローアングルから、はあはあ言われながらいいよいいよぉ、もっと足をひらこうかぁとかいわれて撮影されたら嫌じゃない?」

「ちょっと、ルイ……いくら男の娘の撮影大好きだから、ってそれの想像できる子なんて滅多にいないわよ」

「……えー。想像力大事だよー。それで、もんまりしてるんだよー」

 いちおう無茶な話なのはこちらも承知している。それでもそんな話をしているのは、今の部員さんたちに、ルイさんは残念な先輩である、ということをよくよく知っていただきたいからだ。

 木村とかは、残念美人とこちらを称してくるし、初恋の相手ではあっても一線を引いていてくれる。

 そこらへんをこの子達も見習うべきなのである。


「あかん……ルイ先輩、あかん人や……」

 誰かが言った。

「あぁ、お次は誰がいいかな? いろいろとみんなの煩悩を見せてもらおうか」

 にこりと周りに笑顔を振りまくと、さっきまであれだけテンションマシマシだった男子部員達は色をなくすようだった。


 それからも、みなさんの写真をばっと見ていったわけだけれど。

 悪くはないけどさ……なんだろ。写真ってこうでしょ? みたいな押しつけがましさがちらちら見られる気がする。もっと自然に、ふぁーって撮ればいいのになぁ。

 それに全体的に被写体の表情が硬い。リラックスさせたりとかを高校生に求めるのは無茶だろうけど。

 天音ちゃんはコーディネートする段階でいろいろとリラックスさせるから、そういうのを基準に考えると、物足りない感は隠せない。


「んと、あとは……見てないこはいる?」

 ちらりと視線を向けると、さっきは男の肉壁で見えなかった女の子の姿があった。

 見るからにおどおどしていて、とてもこの場所で可哀相な感じの子だった。


「コン。お前の写真をルイさんに見せるとかおこがましいっての」

「コンデジしかないって、写真部としてどうなの?」

 唯一の女子部員の扱いを前に、ちらりと今の部長の天音ちゃんをみると、肩をすくめていた。

 彼女としては、「ガチ実力主義」なわけで、それくらい払いのけろって感じなのだろうけど、ルイさんはさすがにそこまでストイックにはできませんって。


 そもそも一眼使ってないといかんと思っちゃうのは、若気の至りなのかなぁ。 

「ふぅーん。そういう感じになっちゃったか」

 うちも、ブルジョワジーなのかねーなんていう思いは別として一眼の値段の低下もあるのだろうと思う。

 本気になってバイトすれば買えるからね、入門機。

 でも、アルバイトできないご家庭の事情とかっていうのもあるだろうし。

 そこらへんで、どうのこうのいうルイさんではないのです。


「ま、みなさんには悪いのだけど、そこに写真があるなら、見ないって選択肢はないんだよね」

 だから、みなさん邪魔しないでね? とにこりと笑顔を浮かべると、る、ルイ先輩がそういうのならーと、みなさんは引いてくれた。

 よしよし。大先輩の威光というのはどうやら効果があるらしい。


「さくらも一緒にみよっか?」

「あいよー。ま、さっきまででいろいろ面白い写真は撮れたし」

 むふふ、とさくらが満足そうな笑みを浮かべていた。

 うん。さっきの品評会の間、さくらはその様子をひたすら写真に収めていたのである。

 だいたいは、慌てたり赤面したり、がっくりしたりする男子生徒の表情をである。


「えと……まずは名前を教えてくれるかな?」

「は、はい。今年から入部しました、狐川藍(こがわあい)といいます」

「へぇ。だからコンって呼ばれてるんだね。可愛い」

 うんうん、良いことだ、と頷きつつ、カメラからカードを取り出す。

 もちろんどこに入っているかは、コンデジだって使ってるルイさんによどみはない。


 にしても、コンデジつかってる上に、名字に狐が入ってて、名前も紺色に近い色だなんて、本当にコンである。

 他の部員さんは蔑称として使ってたみたいだけど、その名の萌えキャラだっているし、可愛いあだ名だとは思う。


「必要十分って感じかな。枚数も一杯撮れるし。かわいいこの子達いっぱい撮れるのは幸せだにゃ~」

「だにゃ~。あたしも動物だいぶ上手く撮れるようにはなったけど、楽しく撮ってる感じが伝わってきて幸せ」

 はわーと二人でうっとりしていると、天音ちゃんも、ですよねーとうんうん頷いていた。

 今までも、天音ちゃんは、藍ちゃんの肩をもったりはしてきたのだろう。

 でも、それが男子達からすれば、贔屓だなんだという話になってしまったのかもしれない。


「さて、ここでアドバイスだね! あたしはこれでもコンデジも使うこともあるんだけど、コンデジと一眼の違いってところをしっかり把握して、使いこなすべきなのです。みんな良い道具があれば無条件で良いものができるって思ってないかな?」

 あながち、間違いでもないのだろうが、実際の所ルイの経験では、それは違うと思っている。


「あたしも今は高めの一眼使ってるから、あんまりあーだこーだいえなさげだけど、高いと出来ることが増えるってだけで、コンデジがダメってことじゃないのよ、これが」

 学校のサーバーに繋がっているパソコンをぽふぽふと叩く。

 この中には、多くの、コンデジで撮られた写真が眠っている。

 もちろん、その中にはぼけちゃってるのとか、いまいちなのもあるのは間違いない。

 でも、すごくいいものもあるのも事実なのだ。


「道具の性能をちゃんと知ること。そいで、できないことを、やりたいっ、て思ったらやれる道具を入手するようにすること。一眼なら何でも出来る! とか、ないから。レンズ買ったり、いろいろ先がいっぱいあって、ほんともう、撮りたいの目指しちゃうと、お金が……ね」

 だうーんとすると、まあまあとさくらが頭をなでなでしてくれた。

 さくらもお金関係で言えば、それなりに厳しい方なので、気持ちはわかってくれるのだろう。


「ほらー、あたしの贔屓じゃないってこれでわかった? わかったら藍にこれから変なちょっかいかけないこと」

 まあ、色恋関係があるなら、無理にとはいいませんがね、と天音ちゃんはにこっと笑った。

 あれ? そういうのもあってからかってたの? それって小学生っぽくない?


「さて。それで、写真コンペは、藍ちゃんの優勝ってことでいいの?」

「いいんじゃないかな? これだけ楽しいの見せられて幸せだったし」

 さて、じゃあ、ささやかな商品はなににする? と問いかけると、藍ちゃんはぽかーんとした顔をした。

 もちろんその顔を一枚カシャリ。

 

「ふぁっ、私が優勝ですか!? えっと、それ間違いとかじゃなくて?」

「間違えるような我らではないねぇ。なので、なにがいいか言ってくれれば、出来る範囲で対応するよ?」

 もちろんヌード写真撮らせてとかはダメだけどね、と言ってあげると、周りから、ちょ、なにその破格なご褒美と、羨ましそうな声が上がった。

 こらこら。やらないから。


「だったら、その……先輩。あそこにある一眼の使い方、教えてくれませんか?」

「ああ、部のあれか」

 写真部には、一台、けっこうなお値段のカメラがある。 

 体育祭の時にバトン代わりにしていたそれは、現在ではあまり生徒が使える機会というのはないそうだ。


「あそこにあるっていうか、一眼の使い方を覚えたいってことだよね。部長さん的にはあれを自由にするのはオッケー?」

「まあ、持ち出さないならって条件はつきますけど、部内でいじるなら大丈夫ですよ」

「んじゃ、ちょっと短時間だけど講習会しよっか。時間は30分ね。たぶん区切らないと明日になってるから」

 足らない部分は天音ちゃんから教わって、というと、ちらりと部長さんの方に彼女は視線を向けた。


「そんなの良いに決まってるってば。っていうか、前から練習だけはしない? って誘ってたのに遠慮して声かけてこないんだもの」

「ちなみに、さくらも裏技的なのあったら、随時言うように」

「あのっ、俺達もそれ見てていいっすか?」

 女子組みのほうでだけ話をしていたら、遠慮がちに一、二年の男子が口をはさんできた。

 えー、ご褒美って話なんだから、他の子に教える義理はないのだけど。


「あの、私からもお願いします。その後は文化祭の撮影とか展示とかに集中させますので」

 せめて、男子高校生に夢をっ、という天音ちゃんは、あのとき髪の毛をいじらせたときと同じような、楽しそうな顔をしていた。

 別に、ここからロマンスとかはできませんけど?


「展示って、ああ、三年の男の子がいないのって、展示の当番やってるからなのか」

「ですです。彼らに、うらやましーぜ、こんちくしょーって言わせるのが、今の私の野望です」

 ふっふっふ、と天音ちゃんは悪い笑みを浮かべていた。ほんともう、写真部仲良しで楽しそうだなぁ。


「じゃ、あれの使い方の説明をするので、メモを撮るなり写真を撮るなりご自由にどうぞ」

 ああ、藍ちゃんは実際さわらせてあげるからねー、という言葉を皮切りに、超短時間の一眼の使い方講座がはじまったのだった。


文化祭シーズンスタートです。まずは写真部ネタから。

いやー、また新キャラがでてしまったorz コンさんは将来的にきちんと登場できるといいなぁ。

まあ男子のラッシュにちょっとたじたじなルイさんでした。


さて。次話ですが。まだ文化祭は続きます。さくらの弟くんが学校にいるので、そこら辺の話になります。

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