379.夜の告白2
本日、長めでございます。若干シリアスです。
「ええと……沙紀矢と知り合いなのかな? 俺のこともそこから聞いたり?」
っていうか、赤城くん沙紀矢と同じ大学なの? といまさらながらな情報に咲宮さんは、少し慌てたようだった。
従兄弟の知り合いにこんなところで会うとは思ってもみなかったのだろう。
「あのさ、木戸? 俺、それ知らないんだけど?」
「え。知らなかったの? 名字同じでしょうが。二人とも咲宮一族なんだってば。知ってて沙紀ちゃんにいろいろお世話してたんだと思ってたんだけどな」
正直、赤城が、男相手にそこまで甲斐甲斐しいところなんて見たことも無かったので、てっきり知ってた上でのことだと思ってたんだけど。
「……あれは、その、ちょっときらびやかな後輩をだな……」
「あっれー、もしかして赤城くんも沙紀矢と友達? 嬉しいな。え、どっか出掛けたりとか?」
「ふあっ、いや、その、ラーメン屋にご、ご案内しただけで……」
おい。いくら何でも噛みすぎだろう。赤城はわたわたしながら、ラーメン屋の話をしはじめた。
「沙紀矢がラーメン……初めてっていってなかった?」
「そりゃもう」
「料理できるのに、ラーメン初めてって不思議ですよね。ああ、できるから、かな」
まー我ら庶民はインスタントに走ってしまうものですが、と苦笑気味にミルクをちょっと舐める。
んー、実際、赤城がこうなのをはぶいても、どういう話をするのか、少しだけ悩ましいなと思ってしまう。
正直、沙紀ちゃんから従兄弟の悪い話は聞いてないのだけど、跡継ぎレースについてどうしようとかって話も全然きいてないんだよね。そうなるともちろんゼフィ女の話はできないし、エレンさんつながりの知り合いという設定はしっかり覚えておかないといけないのかもしれない。
「あいつ、小さい頃から料理といわずいろいろ習ってるからね、それを言えば俺もそんな感じだけど」
さて、身についているのはどれだろうね、と大人の余裕を漂わせているところで、赤城が、あかんわーとなんか身もだえしてた。
うーむ。貴方の身についてるのは女装なんじゃあないですか? とはさすがに聞けない。
え。お金持ちも嗜む女装ってことで、一般化されれば、自分も変な風に思われないかなとかは考えないですよ。
もともとルイさんは変な風に思われてないですからね!
「それより、俺としては木戸くんがどこで沙紀矢と仲良くなったのか興味があるかな」
実は、良家のご子息だったりするのかな? と言われて、ふるふると首を横に振っておく。
まがりなりにも、うちの家は一般家庭というやつです。
「三枝って名前に聞き覚えはあります? あそこの子と知り合いで、それつながりです」
「ああ、エレンくんか。けっこーちっちゃいときは遊びにいってたみたいだよね。兄様、えれくんちすっごい楽しかったですって笑顔な沙紀矢は可愛かった」
んー、それは。沙紀ちゃんもかわいかっただろうし、一緒に遊んだエレナも可愛かったに違いあるまい。
「でも、昔の話って思ってたんだけど、今もお友達なんだ?」
もう、大人になると対等な友達とかろくすっぽできないし、ちょー羨ましいと彼は気さくな表情を見せてくれた。
あるいは本心なのかもしれないけれど。なので、その問いには思い切りイエスと答えておいた。
「咲宮さんは幼なじみいない系ですか?」
「幼なじみはいても、友達はあんまり。みんな利益絡みで近づいてきたりとかそんな感じ、かな」
まー寂しいもんですわーと、おっさん系のですわをきめてくれた咲宮さんは、ちょっとだけ寂しそうな顔をしながら、入り口の方に視線を向けた。誰かがきてくれないかな、とでも思ってるのだろうか。
「んー、それを言うと俺も利益絡みですね。なんせ、沙紀矢くんの手料理は美味しいし!」
これを利益といってなにを利益といいますかっ、と力説してあげると、彼は、ぷふっと笑い声をあげてくれた。
うんうん。金の匂いで近づいてくるって思うから、とたんに嫌な気分になるものだけど。
人って、基本、何かを得られるから人と繋がると思うんだよね。だから人気があるってことは、求められてるってことなんだと思う。
いつか、写真を中心にそうなれたらな、と木戸はちょっと胸の中で思った。
「ほんと、みんながみんな君みたいなら、もっと楽なのだろうけどね。あーあ、ほんと沙紀矢のやつ、良い友達もって羨ましいな」
これからもよろしく頼むよ、といわれて視線をそらされてしまったわけだけれど。
こちらとしては、赤城にちらちらと意味ありげな視線を送った。
さぁ、ここだよ。君。ここで良い感じな台詞を言うべきだ。
別に、咲宮さんは一人じゃないし、俺だって家柄気にしないで、その、お付き合いをーとかいっちゃえよー!
とか思ってたけど、へたれな彼にそんなことを言えるはずも無く。
もう、まったくいくじなしさんだなぁ。
ここはもうちょっと、咲宮さんがおろおろしてピンチな感じにならないと、赤城は動かないだろうか。
なら、無理の無い範囲でせめていこうではないか。
「えー、俺みたいなの一杯ならきっと、いろいろ大変ですよ? 内心では沙紀矢くんのことをいろいろ変な目でみちゃってますし」
ふふっと、苦笑混じり、冗談交じりで言ってあげると、彼は、へぇ、どんな? と軽い感じの返事をしてくれた。
さて。従兄弟どの。貴方はこの揺さぶりに耐えられるだろうか。
「俺、実は、男の人を女装させるの、好きなんですよね。それで写真撮ってって感じで。沙紀ちゃん、ほっそりしてるし、黒髪ロングだし、いろいろニヤニヤ想像しちゃいます」
きっと、美人さんになるだろうなー、おっぱい何カップにしようかなーと、言ってあげると、ぶふっ、と咲宮さんは飲み物をはき出してけふけふ咳き込んでいた。
「そりゃなぁ。俺もちらっとは思ったけどさ。来年とか新歓で無理矢理やらされそうだよな」
「さきほどの衝撃的告白を受けた身としては、女装とかお前の中ではどうなんだ?」
実際好きな人が女装とかし始めたら、ゲイな君はどうなわけ? と、牽制の意味を込めて言ってみたのだけど、咲宮さんの表情はまったくかわるそぶりはなかった。赤城よ……君はまったく思いを伝えられていないのだな……
「んあ? なかなか難しい質問してくるなぁ。できれば好きな人には女装はして欲しくない、ってとこだな。ああ、いまさらだけど、俺はお前の女装はぜんぜんオッケーだと思うし、それで友達辞めるとかないから」
安心してくれよ、といわれたけれど、元からその心配はしてない。
実際、大学でばんばん女装してるけど、否定してきた人っていないしね。
磯辺さんあたりには、綺麗すぎてきもいとか言われたことはあるけど。
「もう、二人とも、ここは男性同性愛者のお店なのよ。あんまり女装の話で盛り上がらないでもらえないかしら」
「えぇー、いまさら、ですか? 昔はいろいろ諍いあったみたいですけど、もうLGBTで共闘なのでは?」
バーテンダーをしてくれているセキさんにそんな苦情をいれる。
たしかにトランスの女性に対して、一時期ちょっとしたすれ違いがあった時代もあったそうだ。
男を好きだ、という点で同じなのに、なんでわざわざ性別変える必要があるのか。そのままで付き合えばいいじゃないか、的な思いでもあったのだろうか。わからんけど。
「でも、やっぱりここは、男性として男性を好きな人が集まるところなの。多少ならおおめにみるけど、あんまりそっちの話題は大きな声でしない方が良いわよ」
「はーい、了解です。ではこそこそそのネタで小さな声で盛り上がるということで」
「……小さければいいわ。お客の会話を制限するのなんて、本来客商売じゃやっちゃいけないことだし」
でも、やっぱり他の方もいるし勘弁して、とセキさんは懇願してきた。
んー。まあ郷に入れば郷に従えかな。
でも、従兄弟殿にあったら是非聞いてみたい様なネタもぽつぽつあったんだよなぁ。
「ちなみに、咲宮さんは、沙紀矢くんの女装姿とか想像してみてどうですか?」
「……それは、たぶんとても綺麗なんじゃないかな。髪の手入れとか半端ないし。男のロン毛ってどうよって思うけど、あいつのはちょっと違うというか」
「やっぱり高級トリートメントとか使ってるんですかねぇ。長いと洗うのも大変でしょうに」
「そうだよねぇ。長いと髪乾かすだけで一苦労。夏は暑いし、ロングなんかにするもんじゃない……って友達が言ってた」
おっと、と彼は少し言いよどみながら、友達からきいたていを装った。
夏暑いってのは、女装してたときの実感混じりの言葉だと思うのだけどね。
「ですよねー。夏はめっちゃ暑いから、ウィッグつけるにしてもショートとかのほうが」
「そうそう。って! 別にウィッグとかつけないからっ」
「そっかなー。咲宮さんだって、似合いそうなのにな」
ぽりぽりと、先ほど注文しておいた、パスタをカリカリにあげた乾物をいただく。ちょっと塩味が入っていて、お酒には合いそうだ。
「もう、三十路間近の男に、女装似合いそうとか……」
「友人の女装レイヤーは三十路間近ですが、周りからおねーさまって呼ばれて大人気です」
まだまだいけますっ、とにこやかに言ってあげると、うぐぅっ、こんな子だったのかーと咲宮さんはうめき声を漏らした。ちょっとせめ過ぎてるだろうか。
「ちょ、木戸。あんまりハナさんを困らせないでくれよ」
「あ、ハナさんって呼んだ方が良い感じなんですか?」
赤城からこそっと入る言葉に、あれ? その名前ってと少し昔にあった出来事を思い出した。
たしか、劇団の視察に来た時に、あの社長からそんな風に呼ばれてたと思うけど。
二人だけの秘密の名前ってわけじゃなくて、割とオープンな呼び方なのか。
「ああ。それでいいよ。っていうかオフの所だと咲宮の名前はあまり出したくないしね」
「っていうか、オフで思い出しましたけど、ハナさんはどうしてこの店に? 赤城の話だとけっこう通ってるみたいじゃないですか」
どうして来ちゃってるんですか? と小首をかしげると、彼、ハナさんはいや、それがねぇ、とまるで準備でもしてあったかのようになめらかに話し始めた。
「ダイバーシティって単語、知ってるかな?」
「お台場にある商業施設ですか?」
その単語で発想するのはどうしてもまずは、あちらのほうである。
「そっちじゃなくて。多様性とかって話の方でね。いろんな人を雇った方が新たな発想がでてくるっていう考え方があるんだ」
女性の社会進出なんかも、それに入るんじゃないかな? と言われてうーん、と首をひねってしまった。
正直、身近で働いている女性がいっぱいいるので、いまさら何を言っているんですの? という感じである。
ダイバーなんちゃらではなく、そっちは男女雇用機会均等法とか差別の撤廃を意識しての推進のような気がしてならない。
「ま、そんなわけでね。LGBTも市場といわれていて、新たな発想でてこないかなーっていわれていて、こういう所にくれば、面白い話が聞けないか、っていうところなんだ」
「そんなの幻想だとあたしは思ってるけどねぇ」
セキさんがカウンター越しに、ちょっとうんざりしたような声を漏らした。
「そりゃ、重用してくれるってんならいいけど、あたし達だって普通の人間とそんなにかわんないわよ。それが、なんかもう、まったく別次元に生きてる生物みたいな扱いをされるだなんて、むしろ不愉快だわ」
「それは俺も思いますね。子供作らない人と基本同じライフサイクルだと思うし」
そして時々友人と飲み交わす代わりに、恋人といちゃいちゃする、だけだ。
そこに異常性など欠片もないし、どこにでもある風景のように思う。
「おぉーさっすが木戸くんねぇ。初めてうちにきたのに全然驚かない猛者な感じ。素敵だわー」
お付き合いしませんか、と言われて、お断りしますと伝えた。
まあ、軽い感じだったので、気に入った相手にはいつも言っているのだろう。
「そうかなぁ。男と女の世界観が違うように、恋愛という要素が一つ方向が変わればいろいろと変化するところはあると思うけどね。それこそ、今のセキさんみたいに、捕まえられる時に捕まえないと恋人できないから頑張っちゃおうみたいなところとか」
「それ言われちゃうと、へこむわ……確かに、出会うのって大変だけど。でも、それがビジネスと通じるのかいまいちね」
「不屈の根性とか、獲物を逃がさない執念深さとか、かな。最近の若い男性社員とか見てると思うけど、失敗しないスタイルを貫こうとして、一回やらかすとそのまま折れちゃうんだよね。攻略本世代というか。失敗を積み重ねてなにかを成し遂げるみたいなのがあんまり見えない」
「ちなみに、女性社員は?」
「できる子はすごいよね。割となんでも利用してなんとかしようっていうところとか。でも、将来的に結婚して家庭に入るっていう選択肢がちらっと脳裏をかすめるのか、覚悟が足りない人は多い」
だから、同性愛の人のほうが、メリットでっかいんじゃないかな? と割と真剣にいうハナさんに、ちょっとそんなもんかなぁなんて思わせられてしまった。言葉の力が強いのである。
「それと、トランスの人に関しては、本来の性別ってやつを突き詰めるから、玄人になりやすいってのもあると思ってるんだ。女性よりも女性らしい、メイキャップアーティストとか、ダンサーとか、いろいろいるし」
そういう点でも、彼女達は不撓不屈のはてに、いろいろ積み上げてるんだと思うよ、とハナさんはにこやかに言い切った。
うーむ。ルイさん的な発想だと、不撓不屈というよりは、楽しいからやってたらそこそこ美容技術が付いたってだけのことなんだけどなぁ。そこを過大評価されてもなんか違う気がする。
ただ、必死に生きてるだけなのに、どうして「すごくないといけないのか」ちょっと疑問だった。
もちろんルイさん的には、写真ではすごい人っ、て評価は欲しいけど。そんなのどんな写真家だって思ってることじゃないかな?
ちょいとした反発心とともに、ハナさんにちょっとした反逆をしておくことにした。
「それをいうと、ハナさんもしっかりスキンケアとかしてる感じですよね? 時々モデルみたいなこともしてるし。それに髭の処理が恐ろしい……それ、レーザーあててるんですか?」
「あー、あててるあててる。知り合いのすすめでね。いや、でも男の子にその指摘されたのははじめてかも」
そりゃ、形そろえるためにやってるやつはいても、つるつるって場合は、自前でってのが多いしねとわりと余裕に切りかえされた。
ふむ。咲宮の試練を終えたのがもう八年も前に済ましている社会人さんはさすがに、切り返しも上手い。
「そりゃ俺も高校の頃にざっくり口周りはやってますしね。毎日ひげそりするのは面倒くさいしなにより肌が傷みますしね」
「わかるー。昔は一本一本抜いてたけど痛いし赤くなるし。ばれ、いや、将来的にもいらないだろうなって思って、パンパンしてもらいました」
ほほぅ。脱毛したのは大学に入る前かな。女装潜入を彼は大学生の頃にやっているという話しだったけど、サークルで泊まりにいって、翌朝ひげもっさーとかなったら、目も当てられないものな。
「二人でなんか、わかり合ってます、みたいなのが何か……なぁ」
二人でやたらとハイテンションで話していたら、赤城にぶすっと言われてしまった。
すまないね。君の最愛の人は女装を嗜むのだよ。
「い、いや。別に普通だろ。脱毛体験で語り合うのは、この業界じゃーべつに、ね? セキさん」
「どーかしらね。そりゃ女装の人が脱毛をするのはわかるけど、毛は男らしさの象徴でもあるわよっ。胸毛がいっぱいな人とか、ちょっとそそられるというか……」
だから、脱毛なんて、女装する人達の話だけだわ、と、セキさんは答えた。
うーん。女性の容姿の獲得をするつもりがないのに、おねえ言葉だけつかうのはなんかよくわからない。
「ちなみに赤城は胸毛とかもさもさだっけ? プールの時とかあんま生えてなさげって思ったけど」
「……おまえはもうちょっとデリカシーというものを持った方がいいと思う」
慎みを覚えなさいっといいつつ、赤城はぷぃっと顔を背けながらバーボンを舐めてけふけふむせた。
えー。男同士だからこそ、胸毛話をふったというのに、デリカシーってどういうことさ。
え。好きな相手の前で体の話は恥ずかしいとかそういうこと? 乙女なの!?
「ははっ。確かに赤城くんにとっては、この店に連れてきちゃえるくらいな友達、なわけだね」
「えぇ-。思いっきりそっぽ向かれましたけど?」
「それだけ、忌憚なく言い合いできるなら、良い関係ってことじゃないかい?」
「そりゃまー、あんまり遠慮とかはしてないですけどね。あ。そだ。ハナさんにも聞いておきたいんですが、同性愛であることって、そんなに断腸の思いで告白するような内容ですか?」
先ほどの赤城の様子を思い出しながら、ちょっと困ったような声で問いかけた。
ここ二年近く、なんだかんだで木戸は、学校でしのさんをやりまくっている。そんな中では、しのさんかわえーなんて声ももらうくらいである。つきあってーって冗談交じりの声もくることさえある。
おまけに、今まで、男が好きだ! と言い張ってる大人に何度も会っているのもあるので。
そこまでカミングアウトでぴりぴりするのがよくわからない。もちろんアウティングはダメ、だけどね。
「どうなんだろ。俺としては、気にしなくていいんじゃないかとは思うんだけど、ま、開き直るまでには時間はかかるものだと思うよ」
だって、考えてもみろよ、と彼はまえふりをいれた。
「中学とか高校とかで、旅行中に好きな相手がどうだーとか、おっぱいがーとか盛り上がるだろ。そこで自分がどういったら相手はどうなるかって思うわけだよ。で、クラスメイトと違う自分を自覚する。まるで能面のような顔をしながら、クラスで人気の女の子の名前をあげるわけだ」
「はぁ……」
ハナさんの力説に、きょとんとしてしまった。
えっと。すみません。それ木戸さんも、盛り上がりに参加しませんでしたけれども。
むしろ八瀬あたりには、好きな女子ってことで、かおたんって言われてそうなんですけど?
「木戸くんだって、夜のそういうイベントは経験してきたんじゃないのかい?」
「中学の頃は、とある事情で友達は恋愛系のネタは振ってきませんでしたし、高校の時は翌朝の撮影のためにさっさか寝たので。好きな女子の曝露タイムとか、経験がないです」
今思えば、男子からがんがん告白されてた木戸は、その後のことも含めて、周りからちょっと心配されていたらしい。もさっとするようにしたけど、知ってるヤツは知ってるわけで。恋愛系のネタは禁止だなとなったようなのだ。
「あーハナさん。こいつ滅茶苦茶写真馬鹿なんで、生暖かい目で見てやってください」
女友達はくそ多いくせに、写真優先とかいいきるんで、と赤城が生暖かい視線を向けてきた。
えっと、なにその、かわいそかわいそです、みたいなのは。
「これは矛先を赤城くんにするしかないかな。赤城くん的にはどうだったの?」
「俺は……まあ。だいたいハナさんがいう通りです。それと、中学の頃にちょっとあって。親友に話したら、翌日からオカマって言われるようになりました。今なら、ゲイって呼べよおまえらっ、とか言えるんでしょうが……」
軽くトラウマってるわけですよ、というと、そりゃそうだよなーとハナさんはようやく満足して頷いてくれた。
「しかも、木戸さんよ。それから淫獣扱いなんだぜ? 体に触られたら妊娠してまうーとか、冗談言われたりなー」
「って、それいじめじゃないの?」
「実質二ヶ月とかだったからさ。俺も危ない橋はなるべく渡りたくなかったから、受験が終わって話をしたって感じ。んで、公立受験するやつもいるんだから、変な波風立てるなって俺のほうが教育指導室行きっておまけつき」
「なっ。なにそれっ。いじめやったほうを処罰するのがさきでしょーが」
赤城の衝撃告白に、これならそんなに慎重になるのもしかたないかと思ってしまった。
「おまえならそう言ってくれると思ってたけど。なんか、実際そうやって言ってもらえるとなんかあったかくなるな」
ありがとな、と赤城に言われてなぜか頭をぽふぽふなでられた。
あう。別に、女子っぽく抗議したわけじゃないから、頭なでなでとかはちょっと控えていただきたいのですが。
「まっ、赤城くんったら、カミングアウトついでに彼氏もゲットな流れなのかしら」
んふっ、とセキさんがねっとりした口調で言った。
「「ねーよ!」」
そんなセキさんの台詞に木戸たち二人は、そろって否定の声を上げたのだった。
一日遅くなってしまいました! いやぁ長くなって制御不能になってしまったってのが一つあるのですが、なんとかまとめました。
ダイバーシティの話は友達からの受け売りだったりします。ダイバージェンスではございません。
さて。次話はバーで話をしつつ、合流者があらわれる予定です。
でも、作者さんはちょっと、乙女シリーズの最新作が本日届いてしまうので、アップは日曜日ってことで! 人気投票の一位二位が「ヒロインじゃない」作品なんて私初めて見たよ……




