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377.体育2

体育の話はどうしたって苦戦です……スポーツ自体得意じゃないのが悩ましい。

 校庭にでると、広いグラウンドの端っこに、ジャージ姿の人達が並んでいた。

 季節は十月。ジャージの上着を着ている子も割と多くて、七割くらいがそんな感じだろうか。

 上着を着てないのは、なんかやったるぜーって感じはするんだけど。


 ちなみに木戸さんは、そこまで寒くもないのでTシャツ姿である。

 もちっと気温が下がれば考えるけど、動いていると温かくなるからね。

 たぶん、他の子もちょっと動けば、すぐに上着を脱ぐようになるんじゃないだろうか。


 え。ブカジャーとかは装備してないので。

 暖かいので!

 

「すでに上着を脱いでるとは、さすがに楽しそうですね」

「ん。沙紀ちゃんはろー! まさか一緒に体育とは。マジでお手柔らかにお願いシマス」

 耳元でこそっと、お・ね・い・さ・ま といってあげると、やめてーと沙紀ちゃんが身震いした。可愛いけどカメラはロッカーです。


「そうはいっても木戸さんもそこそこできるんでしょ?」

「どうだろうねぇ。俺、一応男子の中の中くらいじゃないかな。そりゃできない子よりはいいけど」

 君のスペックとは同じじゃ無かろうよというと、えぇーって反応をされた。

 仲間だから、同じでしょとかいう誤解があるのかもしれない。

 でも、明らかに沙紀ちゃんの方が身体能力は上だと思うわけです。

 いちおう、ゼフィ女だとそこそこやらかしたけど、沙紀ちゃんの方が別格だったのは記憶に新しい。


「大学でも体育があるとは思ってなかったんですが、例年ソフトボールなんですか?」

「んー、去年はサッカーだったかな。まあ体を適度に動かすくらいな感じだと思ってればいいってさ」

 特撮研のみなさまに聞いたところによると、例年スポーツの種類はいろいろ変わるらしい。

 それもあって、いつとるのかを学生に選ばせているところもあるのだそうだ。

 正直、木戸としてはあまり意識はしておらず去年取れなかったから今年やろうって感じでしかないけれど。

 サッカーにくらべるとまだソフトの方が好きかな、という所もあるし、良かったと思っている。


「そうはいっても、木戸さんは頑張っちゃうんでしょ?」

 そんな話を沙紀ちゃんとしてたら、まりえさん達が合流してきた。

 彼女も今年さっさと片付けてしまおうと思ったらしく、ご一緒な感じである。

 お嬢様のジャージ姿は相変わらず綺麗なもので、周りの目を十分にひいているようだった。

 胸の膨らみもバランスが良くて、とてもいい被写体である。


「ほどほどに、かな。男女混合だし怪我しない程度で体動かせばいいと思ってるよ」

 それにそこまでボールの扱いは上手くはないので、と苦笑を浮かべておく。

 なんというか、ボール投げが正直あまり得意ではないのである。

 肩の力がないというか、筋力の問題というか。

 スポーツテストの結果は散々だったのはいうまでもない。

 好きとはいったけど、得意といった覚えはないのである。


「あの。木戸さんって、高校の時は体育の着替えはどうなさっていたんです?」

「どうなさっていたもなにも普通なんだけど」

 その質問の意図はなんですか、まりえさん、と問いかけると、いや、その……ねぇと、頬をかきながら彼女は沙紀さんに視線を向けた。


「今日もずいぶんと目立ってましたし」

「それ、沙紀ちゃんにだけは言われたくないんだけど?」

 更衣室で目立っていたということであれば、沙紀ちゃんのほうがよっぽどだと思う。

 流れるような黒髪を後ろで結わえている姿は、やはり色っぽいのである。


「さて、無駄話してないでそろそろ行こうぜ。遅刻とかしたらドヤされるしな」

 準備とかもあるだろうし、さっさと行こうと赤城に言われてそれに従うことにする。

 ついつい話し込んでしまったけれど、授業までそんなに時間があるわけでもない。

 確かにきちんとプレイをするのであれば早く集まって置いた方がいいしね。

「んじゃ、行きましょうかね」

 んー、と腕を頭の上で組んで伸びをすると、周りからなぜかごくりという声が聞こえたのだった。




「おぉ。すげー! あれぜってぇ間に合わないって思ったのに」

「激しいねぇ。まさかあそこまでとは」

 現在三回表。こちらが攻めなので、打順を待っている状態なわけだけれど。

 先ほどの打者である、沙紀ちゃんはピッチャーゴロにもかかわらず、一塁へ走り抜けてセーフになっていた。


 うん。長い黒髪が風にゆれて、どうしていま手元にカメラがないのか恨めしく思ったくらいだった。

 正直、すごいだろうなとは思っていたけど、ここまでとは思ってなかった。

 普通に男子に混じってプレイをしてもしっかりと結果を出せるのだから、すごいものである。


 でも、あれだね。

 おっぱいがないとこんなに走りやすいとは、とか言いそうかなと苦笑が漏れてしまった。

 あのときのお姉様ったら、おっぱい大きくてたゆんたゆんしていましたからね。

 え、奏さんはもうぺったんこの状態でやらせていただきましたけれども。


「よっしゃ。二塁できっちり止めてやるぜ」

 守備側の赤城は二塁を守っているのだけど、なぜだかとてもやる気満々の様子だった。

 三塁の方では、海斗が、うちまで来るなよ、うちまで来るなよ、となぜか祈りをささげているようだった。

 うーん。なまじ良いお家だから、沙紀矢くんと接触プレイでもしようものなら家がっ、とか思っているのだろうか。


「では、次は私ですね」

 打順はくじ引きで決めたのだけど、次はまりえさんの番。

 あまり彼女が運動をしているところは見たことはないんだけど、実際どんなものなんだろうか。


「きっとすぐに木戸さんの番がきますから、安心して待っててくださいね」

 にこりと、絶対他の男子には向けないであろう笑顔を浮かべつつ、バッターボックスへと入った。

 じぃっと、軽く睨まれるような視線を受けて、ピッチャーの子は少しだけやりづらそうな顔だ。


 そして。

 女子相手には手加減して投げろ、という指示もあるおかげか、ちょっと甘めの球が投げられた。

 うん、適度に手加減しろっていうのは実は難しいと思う。

 それは思い切り、まりえさんがぶったたく。

 そう。

 

 あれは打って飛ばすというよりも、ぶったたいていた。

 お嬢様とバット。なかなかに珍しい取り合わせである。


「おぉー、サードゴロっすか」

 もちろん、そんな打ち方でそう飛ぶわけもなく、ころころボールは転がっていった。

 海斗が前進してそれを拾って、一瞬どっちに投げるかで躊躇する。


「二塁っ、早くっ!」

 赤城の声に海斗が反射的にボールを投げた。

 うん。思いっきり大暴投ですね。あんまり連携が取れてないところで変に声をかけるとこうなってしまうのです。

「ちょっ、なにをやっ、どわっ」

 なんとか頑張って、ボールにおいついて二塁をふもうとした瞬間。

 

「なっ、ええぇっ」

 赤城の肩が思い切り、沙紀ちゃんにぶつかっていた。

 いきなりなラフプレーだ、と思いつつ、ちょっと腰を浮かせてしまった。

 大丈夫かな。


「ちょ、咲宮くん!? 悪い。大丈夫か?」

「ふふ。ボールを落としてるからセーフですよね?」

 痛いとこないか? とあわあわしている赤城の前で、沙紀矢くんは地面にころころ転がっているボールをみつつ、にやりと男の子っぽい笑顔を浮かべていた。まったくのノーダメージらしい。

 あれ、木戸さんなら普通にふげって吹っ飛んでただろうなぁ。


「いや。それはそうなんだが……その。ホントに怪我とかないのか?」

「大丈夫ですよ。これくらいの接触プレイは問題なしです。男同士なわけですし」

 気にしちゃいかん、と沙紀矢くんはいうものの、赤城はまだ困惑した顔をして、あわあわしていた。

 そりゃまー、沙紀ちゃんってば細くて一見するともろそうなのだから、そうなっちゃうのも仕方ないのかもしれない。


「さて。じゃー次はサード狙っちゃおうかな」

 ふふっと不敵に笑みを浮かべる沙紀ちゃんの前で、赤城は困ったような、ちょっとおかしい反応をしているようだった。まああいつは友達は大切にするやつだけれど、あの挙動不審っぷりは珍しいな。

 そういえば、ラーメン屋にいったときも甲斐甲斐しく世話を焼いていたし、あれかな。


 これは、赤城さんに春でも訪れたのでしょうか。いや、でもなぁ。彼女欲しいって散々いってて、沙紀ちゃんになびくのもなんか変な話なような気がする。

 半年前ならまだしも、今の彼は、ちゃんと男子大学生をやれている。

 ……ええ、どこかの誰かさんと違って。


「あああぁ、次のバッターさん。三振するかホームラン打つかどっちかにしてくれー」

 サードから海斗のそんな願い事が聞こえてきたけれど、さすがにそれを満たしてくれる人がバッターボックスにたつかというと悩ましいところなわけで。

 次の打者は何度かファールを打ちながらも、見事にファーストめがけてボールを転がした。

 うん。ソフトボールというよりは、ボール転がしくらいな感じで、球が全然飛ばない。

 でも、きちんとバットに当ててるあたり、みんなすごいよなぁなんて思ってしまう。


 そしてその後、順調に沙紀ちゃんはホームに戻ってきて、3対1でこちらの勝利になった。



「久しぶりにやったけど、なんていうか……やっぱボロボロだなぁ」

「そうですか? 木戸さんもずいぶん打ってたと思うんですけど」

 試合も終わり、次の講義まである程度時間があるので、軽く体を伸ばしたりしながら沙紀ちゃんたちと話をしていた。

 これからもこんな感じでやってく予定なんで、まー楽しんでくれやー、と担当した講師さんはゆっるい声をかけてくれた。

 前半は軽くキャッチボールをしたりしつつ、後半は試合形式でいくという宣言である。


「なんていうか、ちゃんとバットの中心に当てて飛ばしたいじゃん? 投げる方はとくに変な球を投げるわけでもないんだしさ」

 正直、今回の授業は最初からチームわけで、経験者組と未経験者組にわかれて、別のコートでそれぞれプレイをしていたんだよね。まあ実力差がありすぎてもっていうのあるし、伯仲していたほうがよい試合になるからって配慮なのだろうけれど。

 

 そんなのもあって、ピッチャーさんも未経験の中で出来る人がやるって感じだったので、そこまで投球技術があるわけでも無かったのだ。

 実際、隣のコートの方のプレイは待ち時間に遠目に見てた感じでもすごかった。そっちはほんと、よく飛ぶしそもそも投球の音が、スパァン! とか普通にいい音がなってたりして、同じスポーツやっててこんなに違うんかいって思ってしまったくらいだった。


 え。どうして沙紀ちゃんがそっちにいかなかったのかって? それは経験者じゃないから、だ。

 あの子は運動神経はいいけど、けしてソフト部とか野球部で練習を積んでいるわけではないから、こっちのチームでよいのである。


「確かに、そこまでできるって感じの方ではなかったですが、ちゃんと加減もできてたようですし、そこらへんはほら、さすがって言って置いた方が」

「えぇー、女子には加減をするっていうあれ? それ、俺もやられたような気がしてならないんだけど、どうなのそこらへん」

「それは純粋に木戸さんが悪いだけだと思います」

 ま、手加減されて、あんまり打てなかったので、それもあってショックがあるというところもあるのはあるのだけど。


「あーもぅ、バッティングセンターとか行って見ちゃおうかな。どっか近くになかったっけ?」

「あ、それ面白そうですね。僕、行ったことないんですよ」

 是非ご一緒させてくださいと、沙紀ちゃんはいい笑顔を浮かべてくれていた。

 んー、カメラ持ってたら撮りたかったなぁ。 

 

「実は俺もあんま行ったことないんだ。それこそ、小さい頃に何回かってくらい」

 高校入ってからはあっちのほうで大忙しだったし、と肩をすくめると、じゃあ今も行けませんね、と苦笑されてしまった。うぅ。反論はできないけれども。


「でも、実際負けると後片付けのペナルティだしさ。それはちょっと厳しいなって」

「負けたチームから二人指名でしたっけ。たしかにちょっと大変ですね」

「そこそこ道具はあるからねぇ。グラブだけでもけっこーな数になるし」

 倉庫に運ぶの大変だよきっと、なんて話をしていたら、視界の端のほうに、ずりずりと大きな箱を引きずっている女の子の姿が映った。


「んー。確かペアで片付け担当って話だったような気がしたけど」

「他の片付けてるんですかねって、木戸さん!?」

 しゃーないなぁと、とことこその子に近寄ると、声をかける。

 沙紀ちゃんが不思議そうな声をあげてるけど、まーあまり気にしないことにする。


「運ぶの手伝うよ。一人じゃ大変でしょ」

「ふえっ!? 手伝いって……」

 これ、ペナルティみたいなものだし……とその子は不思議そうな顔を向けてきた。


「そうですよ、木戸さん。それ手伝っちゃうのも、どうなんです?」

「んー、別に良いんじゃない? 試合自体も勝利を求めろーとかじゃなくて、体動かせーってくらいなんだしさ。それなら勝敗関係無しに、ぱっぱとみんなで片付けやっちゃえばいいじゃん」

 そもそも、なんで一人で片付けてるのかがわからないというと、そういえばそうですね、と沙紀ちゃんもいぶかしんでいた。どこをみても指名されてたもう一人が見当たらないのだ。一年なのか二年なのか、いままで聞いたことの無い相手だった。


「おっ、片付け手伝ってんのか?」

「ん。赤城も手を貸すと良いよ」

 沙紀ちゃんも手伝ってくれるからさ、というと、いやっ、別に咲宮くんのことは、別になんでもないし、とかあわあわしはじめながら、バットの入ったかごをがしっと持ち上げた。さすがに力はあるようでふらついたりとかは全然無い。

 赤城は負けチームだし、きりきり働いていただきたい。


「あわわ。なんか急に人が増えましたね」

「まー、木戸が手を出すってんなら人は集まるだろ」

 こいつ、こんなんで人望だけはあるし、と言われると少しだけ照れてしまう。


「あれ、沙紀矢くんも片付け? なら俺も手伝うしか……」

 まーどっちかというと沙紀ちゃんの人望の方がでっかいような気もするけど。

 海斗が加わって、その後まりえさんたちも回収しながら、道具を倉庫に収めるまであまり時間はかからなかった。


 うんうん。やっぱ人手があるっていうのはいいことだよね。

「あ、あの。ありがとうございました」

「いいってば。ま、次回以降で俺のチームが負けた時はお手伝いしてくれたら、嬉しいかな」

「します。っていうか、もう次回からみんなでぱぱっと片付けましょうよ」

 勝敗とか関係なしで、という彼女の表情はぱっと明るいものになっていて。

 あーあ、やっぱり、カメラ持ってないのはもったいないな、とその時は思ったものだった。

 

 さて。今後の体育にコンデジを持ち込めないかな、なんて思いつつ。

 遠目でこちらの様子をうかがっている講師さんに手を振ると、あちらも軽く手を振ってくれた。

 どうやら、片付けのお手伝いはやって良いことだったらしい。


 あとから聞いた話だけれど、最初に指名した二人の一人は、実在しない人だったそうだ。どうりで聞いたことがない名前だと思ったよ。

 一人で片付けをやってるところで誰かが手伝うかどうか、というのも含めて様子をみていたそうで、なかなかに面白いイベントを考えつくものだなぁと少し感心してしまった。

 もし誰も手伝わないのであれば、次の体育の時に、お小言を言われるところだったらしい。

 ま、結果的には体育のメンバーともそれなりに仲良くなって、楽しい時間が過ごせるようにもなったのでよかったと思う。

仕上がりが夜になってしまいました。

ソフトボール。ボールをしっかりみて、バットに当てる。という作業ができない人にはとことん難しいものでございます。バッティングセンターとか作者もここ十年以上行ってないので、たまには……などといいつつ、筋肉痛になりそうだ! と思ったりもします。


さて。次話ですが。赤城くんのカミングアウト話、いっちゃいましょう。今回様子がおかしかったですしね。そろそろ良い頃合いかと。

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