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039.返事をするために

 今日も来ました銀香町。

 というわけで、あれからついぞ一週間が経ってしまった。

 すぐにでも返事をしてあげたかったところだし、正直一週間青木の姿を見ているのに思うところがないではなかったのだけれど、そうはいっても平日はルイはお休みだから、覚悟が決まったとしてもここまで待たないといけなかったのである。数日は悩んだので呼び出しの連絡をしたのは実際二日前とかなのだけれど。


 もちろん青木のスマホのアドレスや番号は知っていたけれど、直接はかけずに前に聞いていたあいなさんの家の電話のほうにかける。家電ならば青木が直接でるかもしれないし、両親やらあいなさんが出たところでつないでもらえばいいだけのことだ。

 下の名前を実はルイとしては知らない設定なのだけれど、そこらへんはあいなさんだったら、弟さんといえばいいし、ご両親なら名前をだしてしまっても別段怪しまれることはないだろう。

 そんな風に思ってかけてみたら、あいなさんがでてくれて、それで青木に代わってもらった。

 うちの愚弟がなにかやらかしちゃった? なんて不安そうな声をしていたけれど、まったくもって大丈夫です、と答えておいた。

 そして、返事は実際に会って話しましょうということで、いつもよく使っている銀香町まで来てもらうことになったのだ。


「まずは、来てくれてありがとうございます」

「いや、だって電話でそっけなく断られるかもって思ってたから」

「ああ、逆にその方がよかったのかな。期待もたせちゃったりとかだったら、悪いか」

 ははと乾いた笑いをおりまぜる。

 そして、少し真顔になって。

「お付き合いの件なんですが、しばらく考えましたけどやっぱり無理ってことで」

 ぺこりと頭をさげる。ごめんなさい、と。  

 青木はやっぱりという様子で、はぁとため息をついた。


「ごめんね」

「あーーーやっぱりかぁーーー」

 しょぼんとしながらも、青木はそこまで残念がってるようにも見えなかった。

「ルイさんはねーちゃんとちょっと似てるだろ。だから、もー写真が恋人みたいな感じなんじゃないかなぁって思ってはいたんだ」

 それで告白するまでにすごく悩んだのだと彼は独白した。それなら大変申し訳ないことをしたと思う。告白させてしまったのはルイの隙なのだろうから。痴漢なんぞにあったあとに知り合いにあったものだから、少し無防備な姿をさらしすぎてしまったのだろう。


「こっちだってすごく悩んだんですよ?」

 さて、ここからどうしようかと思いながら、ベンチに座って隣をぽふぽふと叩いて彼を座らせる。

 彼と自分は、一目ぼれの関係というわけではない。きちんと話をして友達にはなっておかないといけない。

「実はね、あたし人から好きって言われるの初めてだったんですよ」

 足をぷらーんとしながら、腕を伸ばして軽い伸びをする。

 返事をして少しだけ気が抜けてしまったといったところだろう。

「ああ別に家族の愛みたいなのはありますけどネ。でもそうじゃない人から、あんな風に思いを告げられたことはなくって」

 うん。だからちょっとテンパっちゃいましたけど、と続ける。

 それがゆえの、先週のショック状態なわけだ。さすがにあれだけ呆然としてしまった点についてはきちんと言い訳をしておきたい。

 中学生の頃の大量の告白劇は半ばゲーム感覚だったみたいだからあれはノーカウントだ。そもそもルイさん宛ではないしね。


「でも改めて考えると撮影が第一だから、そもそも恋人いたら邪魔だなぁって思ってしまって。今は誰ともお付き合いなんてできないやって」

「すっげー納得」

 あーー、と青木はやっぱそうかーとどこかさっぱりした顔をした。

 もとからそうなるかもと思っていた、というのは嘘ではないらしい。

「俺の姉はあの相沢あいなだしなぁ。中学の頃ねーちゃんへのラブレターはいっぱい。俺経由で家に持ち込まれたもんも多かったけど、今の今まで男性経験はなし」

 本当にこまった姉だと、青木が肩をすくめる。

「だからルイちゃんもそうかもなって思ってた。さすがに姉と同じにはならないで欲しいと思うし、人の生き方の方に少しでもいて欲しいって思うけど、俺じゃ役者不足ってことだよな」

 自分では価値観を塗り替えるほどの、好きを得られなかった。それに反論しようとして口ごもる。

 それも確かに一面だろうと思う。澪や斉藤さんと話してそれを理由にばっさりフることを決定した。

 ただ、もちろんそこには、ルイが実は男子高校生だということもふくまれる。もともと断る前提で、それの理由づけとしてカメラの話がでてきたというような状態なのだ。


 でも、例えばルイが生粋の女子だったとして、その告白にどう対応するのか。

 発情とか遺伝子の呼ぶ声だとか、女子特有の感覚はわかんない。ただ本当に女の子であったとして、カメラと彼氏と同時にやるだろうか。 写真の楽しさを知っている上で、面倒くさい恋人を作るのか。

 青木はどうやら、そういう楽しみも知ってほしいみたいな口ぶりだったけれど、カメラでつながる縁だって十分にある。いうまでもなく彼女らは大切な友人だし、一緒にいて十分に楽しい。

 たとえば相手が同じくカメラを使う人ならどうなんだろう。

 遠峰さんやあいなさんに感じるのは、一緒に撮影を楽しめる仲間としての感情以上のものはない。

 というか、それ以外の感情というのがいまいちよくわからない。一緒にわいわい撮影をやる以上に楽しいことなんてあるんだろうか。


「青木さんは、写真はやらないんですか」

「俺はあんまり見る目も技術もないし。ねーちゃんにも言われてるけど才能ないんだよ」

 一緒に青木と撮影できたら、彼氏たりうるのか、とちらっと頭に浮かんだのできいてみたけれど、彼は困ったような顔をしながら答えた。

「でもそれをいったら、才能なんて私だってないですよ?」

「そんなことない。君はとって置きの才能を一つもってる」

 面と向かってそんなことを言われたことがないので、少しだけ顔が赤くなる。

 確かにルイの写真を好きといってくれる人は多いけれど、自分ではまだまだだと思うし、もっと面白い絵を撮りたいといつだって思っている。

「そ。写真を撮り続けるっていう、その強い意志。俺にはない才能だよ」

 ある意味、とりつかれてる、といった方が適切かな、と笑われて、ぷぅと頬を膨らませる。

 けれど、それが確かに始まりの才能なのかもしれない。

 好きであり続けられるということは、楽しくて幸せだ。結果的に世間に受け入れられるものが作れるかどうか、それはまあ、おいおいの才能ということになるのだろうが、今はまだそこに到達しなくてもいい。

 そんな納得をしたところで、青木が立ち上がった。

 すっかり消沈した気配は薄れて、いつもルイを見るときのどこか優しい視線が見える。


「今まで通り、友達ではいてくれるかな?」

「はいっ。出会ったときは仲良くお話をっ! あ。でも、あんまりきわどいのは……ダメ、なんでしたっけ?」

「はは。お手柔らかに」

 キオツケマスというと、青木が手をさしだしてきた。握手でお別れというところなのだろう。

 青木にはごめんとしか言いようがない。彼が好きになったルイ。それは現実のものだ。

 でも、その中身はどうしようもない架空のものでしかない。

 ルイは幻でしかない。

 願わくば彼に、良い出会いがあらんことを。

 そう思いつつ、その日はその場でわかれたのだった。




「ちょ、なにそれーー!」

「学校内の話じゃないから、知らないのも無理ないけど」

 その次の週の日曜日。

 撮影の約束をしていた遠峰さんが全力で驚いていた。

 ちょうど撮影ポイントを変えようかーと移動している最中のことだ。

 そういや告白の話に関しても遠峰さんにも何も言わないできてしまった。

 撮影の日が重ならなかったのもあるし、クラスが隣というのがやはり大きい。

 そもそも彼女は「木戸との接触」は最低限なので、そんな話を友達のように話せるような時間はなかったのだ。


「それで正直一悶着も二悶着もあったんだけど」

 持つべきものはクラスメイトですなぁと、言ってやると遠峰さんがすねた。

「いいもん。どうせあたしは置いてきぼりだもん……メールで相談とかしてくれればよかったのにぃ」

 どうしてこの子は木戸には冷たいのにルイにはこんなに過保護なのだろうか。

「それは悪かったけど。自分でもわりとぎりぎりだったんだって」

「それって、青木君に恋心があったってことなの?」

 ルイの趣味ってどうなのかと、全力でダメ出しがきた。でも素直に答える。

「まったくなかった、ってことではないんだけどね。でも恋人つくるのはどのみち無理かなって思ってさ」

 さくらもわりとそうでしょ? と問いかける。

 彼女は確かに化粧っ気もないし、写真馬鹿ではあるけれど、女優をやってる斉藤さんに切迫する勢いで可愛らしいのである。見た目だけは。


「あー、わかるー。彼氏にするなら写真やる人じゃないと無理かもって最近思うもの」

 そんな彼女の所には昔はおおめなラブレターが来ていたのだと聞いたことがある。それが今やゼロ。

 その理由は簡単だ。誰にもなびかないカメラバカに声をかける暇人がいなくなったのだ。

「じゃー、後輩さんをたぶらかすしか」

「あの二人はなー。いい子だけど彼氏って感じじゃないな。あ、もちろん木戸くんもパスだから。自分よりかわいい彼氏とか勘弁だから」

 わかっています。もともとこちらも貴女と「恋愛感情」を持てるとも思っていない。

 あるのは仲間としての共感と、友達としての楽しみだけだ。


「ちなみにルイの趣味はどうなの? カメラをやる男なら誰でもいい感じ?」

「どうなんだろ? 撮影デートって形だとしても興味がむくものって違うんだろうし」

 んー、とあごに指をあてて少し真剣に考えてみる。彼女がいうので、あえて「おいらは男だし、相手が男だという点」も、材料に入れて、考えてみる。

 カメラをやる知り合いの男性となると、佐伯さんくらいになってしまうけれど、さすがにあの人とは年齢差もありすぎるしそもそも恋愛対象という感じにはならない。むしろ師匠の師匠という感じで恐れ多いくらいだ。

 って、そもそも相手が男限定である必要はないのだが。


「そもそも、さくらは同年代の男のカメラマンってどんな人だと思ってるの?」

 コスプレ撮影会には男子のカメラマンだって当然いる。ルイが交流をすることは今のところまったくない。こちらから男性レイヤーさんに声をかけることはあっても、男性カメ子さんにあえて声をかけたりはないのだ。

「はぁはぁ言いながら女体に向けてシャッター切る感じ? あそこに居る人はけっこー欲望に忠実だからなぁ」

「それ以外で町中ですれ違ったりとかはないの?」

「趣味で撮影してる男の人とかって、たとえば鳥の撮影とかならあるけど、年齢いってる人が多いよね。ルイはあんだけ外歩きしてるなら合ったことあるんじゃない?」

「それがまた、あたしがいくのって銀香とか山とかだけど、鳥を撮りに来る人とスポットが合わないっぽいんだよ。ほら、あたし動物より景色派だし」

「あー、動物ならちょっと離れて望遠で狙うとかだもんね。逃げるし」

 そしておそらく、多くの大人の撮影者はもっとこう狙い目のスポットを探しているのだろう。

 ルイが行く場所は自然は多いし景色もいいのだけれど、有名なスポットという部分ではない。


「まあそういったところの撮影してる人は、落ち着いた人が多い印象かな。っていっても私もそう何回も会ったこともないんだけど」

 逆に落ち着き過ぎちゃってて、たわいもない挨拶して終わりだったかなーとさくらは苦笑する。

 年齢差と落ち着き。確かに大人の男性が女子高生に手を出したら世間的にどうなるのか、自然の写真を撮る人には理解できることだろう。レイヤーを撮るカメ子さんもわかってはいるのだろうけど、欲望にあらがえないのかもしれないが。

「そういや、ルイのあこがれの写真家さんみたいなのはいるんだっけ?」

「あー。うん。小学生の頃に図書館で見た写真集の人。今たしか五十過ぎだったかな」

 今も一線で働いているのかどうか。一度あいなさんに聞いてみたこともあるのだけど、そのときはわかんないなーと言われてしまった。

「ほー。図書館で写真集かー。でもさすがにぐぐればでるんじゃないの? 名前わかってるんでしょ?」

「安田興明って人なんだけど……」

「あー検索で出てきたの、四季の草花? これだけか」

「うん。その写真集が図書館にあったってやつ。で、それ以外は特別名前も引っかからないし、今働いてるのか生きてるのかすらわからないってわけで」

 出版社に問い合わせるってほどでもないし、と付け加える。


「で、さくらは好きな写真家とかいるの?」

 とりあえず、聞いておく。返ってくる答えはなんとなくわかっているけれど。

「そりゃ、あいな先輩に決まってるじゃん。まー他につてもないし、カリスマフォトグラファーなんて人、ろくにいないしね」

 注目浴びるような家業じゃないじゃない? と言われて確かにとうなずきを返す。

 カメラマンは基本的に世の中に出すものは自分の姿ではなく写真のほうだ。

 個性は出るにしても、かっこいい写真だなとか、きれいな写真だなとか、笑える写真だなとか、そういう写真に対する印象しかでない。

 ルイの姿だって、確かに人目は引くけれどそれを目的としているわけではなく、あくまでも自由に自然に撮影するための適切な姿なだけだ。

「そういやあいなさんには、あんたが男だって話はしてないんだっけ?」

「してないー。だってあいなさんとは普通に写真撮ってわいわいしてるだけだし……おうちに泊めてもらったこともあるけど、特別なこともなくって普通に女子会って感じだったよ?」

 悪意も害意もまったくございませんと、言い切るとなぜかさくらが凍り付く。

「ぬなっ。あんたっていう人はいったいなんてことを……」

「だ、か、ら。ホントふつーに女子同士って感じだっていったじゃない。それに一回は断ったけど補導されるといけないからって割と無理矢理連行された感じでですね」

「それでもっ。一つ屋根の下で男と女が一緒っていうのは……」

「たとえば、俺が青木んちにゲームやりに泊まりに行って、あいなさんがいるっていう状況も起こりえるんだけど?」

 あえて男声に戻していうと、あーうーん、とさくらが難しそうな顔をする。

 ややこしいと思っているのだろう。


「そりゃ、あんたの見た目が違うってだけでその……親密度ってかわるじゃない? 知ってると知らないとだとやっぱりこう」

 同性なら隙ができるというか、下手すると下着姿さらしたりとかと、彼女はいろいろと想像を重ねていく。

 確かに、彼女の言い分はわかる。実際、同性という状態のほうがガードは下がるし、より親密になれる。けれども、誓っていうけれどそれを利用して女の子と仲良くなりたいという下心はないし、相手のガードが下がりすぎてしまった場合でも、極力目は背けるようにしている。もちろん見たところで綺麗なラインだなぁ程度しか感じないのだけれど。

「っていっても、さくら、あたしと一緒の時、ふつーに他の子と一緒に居るときと変わらないように見えるんだけども」

「そ、そりゃー貴女のためを思って、普通に……」

「ホントに?」

 じぃと瞳を覗き込んで聞いてみる。ここのところしばらく思ってることだけれど、どうにもさくらのルイを見る目が女友達で固定されてるような気がするのである。

「べ、別にあんたと居るとすこーんと、男なの忘れるだけよっ」

 もう、何を言わせるのかとさくらが視線をそらせて言った。

 まーこちらにしても百パーセントの答えをいただいたのでよしとしよう。知っていてもこうなるというのは、文字や記号としての性別よりも見た目や行動のほうが相手の意識に働きかけるということだろう。


「そんなわけで、性別の件はいうにしても必要に迫られたら、でいいと思うの。黙ってるわけじゃなくて、言ってないだけだもん」

 まー青木にばれたらいろいろ面倒くさいけどね、と言葉を付け加える。

 さくらはそりゃなーと想像して同情してくれた。

 青木に、木戸とルイが同一人物だという話が伝わったら、毎日毎日毎日きっととことんこれでもなく視線を向けられるのだろう。

 おまけに男同士という利点を使ってべたべたふれてきたりとか、想像するだけで拷問のような毎日だろう。

 あいつは、たとえルイが男だってわかっても、どうにも避けるというような想像ができない。

「あー、あいつにだけは内緒にしなきゃだめね。ただでさえあんた男友達少ないんだから、これ以上減ったらさすがにかわいそう」

 とてもかわいそうと言いながら、とりあえずあいなさんへの秘密は許容してくれたらしい。

「ま、なんにせよ。恋人できたら紹介しなさいよね」

 できやしないとは思うけどーと笑われて、こんにゃろーと言い返す。

 正直、彼女に言われるまでもなく、恋人はまだいいやと思うルイだった。

 まだまだ撮りたい風景はたくさんあるのである。

 学生時代の頃は50才って割とお年寄りって感じだったけど、だんだん年をとると五十才って気力だけは充実してるのなーと思います。体力と知力は落ち始める頃だけれど。

 あと、地味にルイには女友達増えてきましたが、鈍感主人公ハーレム路線になるかどうかはまだまだ内緒でございます。主人公が鈍感なのは確定ですが!

 ちょっとだけ、潜入系女装エロゲの影響を受けてはいるのですが。。基本まったりゆったりなのです。


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