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373.ルイさんをカタる会5

「この季節の鍋ってやっぱりおいしー」

 はふー、と隣でとろんとした表情をしている佐々木さんをとりあえず一枚。

 思えばこの会が始まってからまともに撮った写真だなぁとしみじみ思ってしまう。

 なぜって? 撮っちゃいけない人もいるし、なんせみんなアイマスクだし。

 おまけにルイさんのように、ばちばち撮りまくってると、変に突っ込まれる可能性があるからだ。


 正直、むずむずしてしかたなかったんだけど、みんなそこそこお酒も回ってきているし、もーいいかな、とも思っての行為だった。


「それにお酒もおいしー」

 さて。そんな佐々木さんなのだけれど。水炊きをいただきながら、くぴくぴといちごリキュールのお酒を飲みまくっているわけで。

 うん。ご飯食べてると飲み物のペースもあがるのはわかるんだけど、大丈夫ですかね。


「でさー、ケイ君。今度私も撮影に連れてってくれないかなー?」

 じぃと、彼女は少し前屈みの上目使いになってそんなことを言い始めた。

「あれ? さっちゃんもカメラ始めたって感じなの?」

「そーじゃなくて。ミステリーツアー。けー君が行くところって、きらきらしててヒキョーって感じだから」

 ああ。なるほど。

 いきなり、連れてってとか言われて、一瞬新しいカメラ仲間か! とか期待したけど違うようだった。


「まー一日くらいなら構わないけど、めちゃ歩きますよ? っていうかさくらに連れてってもらってもいいんじゃないの?」

「いやー。けー君がいいの。連絡先はまだスマホに入ってるよね?」

「うん。まぁ修学旅行の時のメンバーのは全部入ってるけど」

 じゃー、都合の良い日を後で連絡よろしくー、といいつつ、佐々木さんは鍋をつつき始めた。

 豆腐うまー、なんてことを言っている。


「俺としては妹の番号をなぜ知っているのか聞いておきたいわけだが」

 お兄さんである、動物さんからちょっと剣呑な声が届いた。

 いや。特に深い意味はないんだけどな。


「よーこさんとは修学旅行の班が一緒になったので、その時に連絡用のアドレス交換をしていただけですよ。頻繁に連絡を取ったりとか全然してないし」

「そーだよー。全然ケイ君から連絡来なくて寂しかったんだからー」

 ちづも言ってたけど-、とぷすぅーと頬を膨らませる姿を一枚カシャリ。

 ちなみにあのときの最後の一人の山田さんとは、時々コスプレのイベントで会ったりしている。

 何枚か撮ろっか? って声をかけると、気合い入れまくったときに是非っ、とかかわされてる日々である。


「っていうか、さっきからうちのよーこを撮りすぎだと思うわけで」

「だって、これルイさんを騙る会なんだから、これくらい撮りまくるのって騙りですってば」

 それに、写真はあとで動物さんにも進呈しますから、というと、それならよしっ、と彼は笑顔でダシの染みた長ネギをもくもくしはじめた。

 ほどよくシスコンのようである。


「それよりも、よーこさん、お酒のペース速すぎません? ちょっととろんとしてるような気がしますが」

「だなぁ。ほれ、よーこ。水ものんどけ。うちの家系あんま強くないんだし」

「えー、まだだいじょーぶだってば。このリキュールそんなに強くないし」

 飲んだ感じお酒っぽさがないしー、とか言いながらちょっと体に力が入らなくなってる佐々木さんは、だいぶ酔っ払っているように思う。


 うーん。カルーアとかいちごミルクとか、一対一で割ってもかなり弱くなるように思うけど、それでこの状態とは。

 まー、ウイスキーボンボンでよっぱらう人もいるから、それに比べると飲める方になるのかな。


「ふぉぉ。自然に女性をケアするその手腕……さすが天然じごろのケイ氏でござる。僕なんて、子供云々って前に彼女すら……」

「ちょ。全然普通ですけど!? 怖がらないだけというかなんというか」

 それに、先生だってそれなりに女性との交流はあるほうだと思う。

 現代オタク語講座では、女子生徒だってそれなりにきていたのだし。


「そこのところが難しいんじゃない? ひっしすさんとかちょっとびびりっぽいし」

「うぅ。確かに教壇とかだと問題ないけど、二人っきりとかだとちょっと女性は苦手」

 しょぼんと大きな体を小さくして、長谷川先生はしゅーんとなった。

 うーん。言うほど苦手って感じはしないんだけどな。


「志鶴先輩とかならオッケーですか?」

「オタク仲間に性別はないでござるよ。なので、あの子のこともケイ氏たちのサークルの子達は全然平気でござる」

 ……なるほど。オタクは異性というより仲間、か。

 それ以外になると、ちょっと苦手、と。


「じゃー、ルイさんと直接あったら、どうなっちゃうんです?」

 まー、俺もきっと、わたわたするだろうけど、と動物さんがはやし立てた。

 ああぁ、一緒にお話するとか、もぅ俺無理だーとかなんとか言ってる。

 いや、そこまでルイさん怖くないってのに。


 そんな話をしながら、水炊きはどんどん無くなっていく。

 豆腐も長ネギも鳥肉もきちんと無くなっていくのは、なかなかに清々しいものである。

 エレナの誕生日会みたいに、話ばかりに夢中になるわけではなく、きちんとご飯もいただきましょうという空気になっていた。


「あー、最後、雑炊になるわけだけど。その前にみんなに聞いておきたいことがあって」

 そろそろ具材がなくなるぞというところで、料理さんから声がかかった。

「俺、遠方から来てるってのはみんな知ってると思うけど、明後日は銀香にいくとして、明日お時間あるかた」

 ちらりと視線を周りに向ける。


「一緒にナムーさんカレー、いきませんか?」

「おおお。すげぇ提案きたーーー」

「けど、僕明日仕事……」

 土曜日なのに学校につめてないといかんのでござるーと、長谷川先生が阿鼻叫喚なげっそり顔を見せてくれた。

 このメンバーで聖地(?)巡礼ができたら楽しいだろうなとでも思っていたのだろう。

 

「俺はおっけー。っていうか結局ここのメンバーは凸してないんだよな」

「とにかくさんが行ったっていってたよね。あの人今日は用事あって無理って話だったから」

 詳しい話とか聞きたかったんだよなぁといろいろなところから声が上がった。


「ナムーさんカレーって、写真が……あーこれだー」

 佐々木さんがへろんへろんになりながらスマホにホームページを表示させる。

 店の中の風景が写っているものだ。もちろん撮影したのは木戸さんなのでよくその構図は覚えている。


「そうそう。そこのお店の看板娘さんが、ちょっとルイさんに似てるじゃないって言われてるんだけどね」

 綺麗な人だよな、と動物さんは妹のスマホを覗き込んだ。

「ねー、けーくん。これって、おばさまだよね?」

「え? なんのことかなぁ」

 しらーっとしていると、えっ、と佐々木さんに言われた。


「うちの母さんとか。あぁ、あれが木戸くんのおかーさんか。さっすが美人さんねーなんていってたよー」

「やめてっ。そういうのいらないからっ」

 ざわり。

 周りの空気が一変してしまった。

 くつくつ鍋が煮えてる音と、隣の部屋の馬鹿騒ぎの声だけが聞こえている。

 うう。周りの視線がこちらに集まってほんのりつらいのですが。


「ちょ、ケイ氏? それどういうことなん?」

「どうもこうも……」

 んー。ナムーさんちで働いているかあさまがルイに似ている(、、、、、、、)のはみなさんすでにご存じの通りだ。年齢も三十代中盤とかって話をしてたっけね。実際は四十過ぎてますが。


「あああ、もう。そうですよ! この写真は加工されてるかーさんです。うちの近所のカレー屋が毎度毎度つぶれるんで、今度こそは流行らせようっていうんで、いろいろやった結果、看板娘が必要だって流れになって……」

 そりゃ、画像加工に関してはやりすぎた感はありますが……と少し視線をそらす。うん。わざとだ。

 ルイさん似の母様の件はすっとぼけないといけないしね。


「って、そのくだりじゃなくて! どうして君のご母堂がルイちゃんに似てるのかってところだよ!」

 誰かが言ったその台詞にみなさまうんうんと頷いていた。ああ。やっぱごまかしきれないよねぇ。


「他人のそら似です」

 しれっと言い切った。うん。

 思い切り目が泳いだままですけれどね。

 でも、ほら、世界には三人似た人がいるっていうし。

 

「あれなんじゃないの? 実はケイ氏ってばルイちゃんの弟とか……」

「いや、同い年だお。ってことは双子説……ごくり」

 長谷川先生が思いきりこちらの年齢を曝露してくれた。たしかにルイさんとは一緒に生まれてはいますが。誕生日とかも同じですが。


「そしてルイさんにもついているという、俺の夢も……」

「「それはないっ」」

 男の娘さんの一言を、みなさんばっさり切り捨てた。

 まあ双子なら、男同士ってなるのかもしれないけど、それは無理な話である。

 それに、男女の双子だって世の中にはいるのである。


「なら、ケイくんのアイマスク外してもらえばいいんじゃないかな? ほら。見た目で別人ってわかればみんなもその疑念ってはれるよ」

 どーせ騙れなかったから、アイマスク意味なかったし、とあの男の娘さんが……いや、一番アイマスクを外してはいけない虹さんが言い始めた。

 えっと、どういうことだろうか。


「素顔見せてもらえれば、確かに納得か」

「ふむ……確かにケイ氏はルイさんとは似ても似つかぬでござるな」

 長谷川先生は、おぅとようやく一人正気に戻ったようだった。

 さぁみなさんはどうだろうか。


「ほい。外しましたけど? どうですか?」

 もそもそとアイマスクを外して、周りに顔を見せる。

 アイマスクの集団に見つめられるのはなかなかに変な光景である。


「……なんか、へんな疑いかけて悪かった」

「他人のそら似ってあるんだな……まじナムーさんの人、無関係なのか」

「……ふぅん」

 ざわざわと男性陣がぐぴりとビールに走る中、一人だけ、日本酒なビーナさんがこちらをじぃーっと見つめてきていた。


「ふふっ。ま、無関係ってことでいっか」

 なぜか思わせぶりな台詞をいいつつ、彼女はお酒おかわりーと、空になった小さめなとっくりを振りながら料理さんにアピールした。

 まだまだ呑むぞーという感じである。


「にゅふふ。ケイくん相変わらず肌すべすべー、あーもー、二十歳になる男子に見えなーい」

 ふふふーと、隣に座っている佐々木さんがほっぺたをさわさわしてくる。

 うぅ。酔っ払ってるのにそういうところばっかりに目が行くのは本当にミステリーだと思う。

 てか、ビーナさんも実は肌のことでちょっといぶかしんでいるんだろうか。


 男性を相手にすれば、黒縁眼鏡の印象でもさーっとした感じという印象になるけど、女性相手はなかなかに侮れない。

 くぅ。黒縁眼鏡の加護をやすやすと通り抜けるとはっ。


「あー、じゃー、あたしもマスクとっちゃいまーす。っていうか、もともと写真館の方にアップされてるから、いまさらどーってこともないけど」

「おおぉ、リアル女子きたーー」

 いくつかの声があがり、いくつかの苦笑が上がった。

 そこまで女子に飢えてるのかーみたいな感じなのだろう。


「よーこはそのままな。はずすなよ。はずすときっとこの連中には目に毒だ……」

「そんなことーないよー、けーくんが眼鏡外した方がきっとぉー」

「はーい、よーこさーん。四年前の約束、覚えてるかなー」

 はい、ジャスミン茶のもうかー、と不穏な動きをしている佐々木さんの口をふさいでおく。

 うん。お兄さんには変な顔をされたけど、もー酔っ払いさんの失言はこりごりなのです。


「んー。すっきりー」

 くぴくぴとジャスミン茶を飲む姿が可愛い。とりあえず心の中でシャッターを切っておいた。


「あとはまー、期待もなにもないだろうし、一斉にいこうか」

「おっけ-。まー男は見た目じゃないっていうし」

 年齢はある程度わかっちゃうだろうけどー、と残りのメンバーが一斉にアイマスクをとった。


 そして。木戸さんは一人その光景を少し引いて撮った。

 うん。何枚か連続してね。


「……見た目じゃないっと思っていた頃が僕にもありました……」

「ちょっ、はぁ!? (こう)さんじゃんっ。へっ、え、どっきりかなにか!?」

 ビーナさんがかなりきょどった反応をしている。

 周りの男性陣もその姿に驚いたようで、なんでこんなところにいるんだよと騒然となってしまった。

 さきほどのナムーさんで働く母様の件が消し飛ぶ勢いだ。

 こちらにぱちりとウインクなんかしてきたわけだけど、これ、貸しだからねとでもいいたいのだろうか。


 ええ、いいですよ。精算するならこっちの貸しの方が多いのだし。


「あのー、とりあえず、そろそろ雑炊始めたいんですが……いかがでしょうか?」

「あ、ああ、そうだな。うん。そうしようか」

 なんとか日常を取り戻したい料理さんは、一人ブザーを鳴らして従業員を呼ぼうとしていた。

 あ、是非ともドリンクのオーダーも一緒にお願いしたい。佐々木さんにジャスミン茶とられちゃったし。


「どっきりじゃないから安心してね。ほら、僕らとルイちゃんって実は付き合いあるから、それもあってスレはチェックしててさ。そしたら愉快なことを言い始めるもんだから、ついついそのまま住人になってしまったという」

「って、あの男の娘ラブな感じは全部演技だったと?」

 びくびくしながら、きらっきらした虹さんの前で、動物さんがきいた。


「それは素かな。エレちゃんのことも好きだしね。あ、でも世間的にはあんまりその趣味は言わない方がいいってマネージャーに言われてるから、内緒ね」

 しーと細くて長い人差し指を唇にあてるしぐさをすると、イケメンオーラ全開でビーナさんははわはわしているし、周りの男性陣はノックダウンしていた。

 佐々木さんは、けーくんけーくんって、こちらに甘えてくるばかりである。

 酔っ払いにはイケメンオーラもあまり効かないらしい。


「そして、実は俺ケイ君とも知り合いなんだよね」

「あああ。確か去年の学園祭の時に、うちの大学に来てたね」

 僕はイケメン苦手だからこそこそしてたでござるが、と長谷川先生は一日目のあのイベントを回避していたことを曝露した。確かにいなかったよね。


「じみにケイ君って、すごい人脈……」

「あんなに見た目地味だってのに……」

 あらすごいと、周りの視線が急に柔らかくなった。

 さっきまでルイさんの親戚では!? なんて話が上がっていたというのに。

 ああ、イケメンの威力というのはとてもすごいものである。


「さて。他のお客の目もあるし、俺も眼鏡かけておこっかな」

 うし、と虹さんは普段の眼鏡をつけて、髪を少しだけ手ぐしで整えていった。ぴしっとしたほうが目立たないと言うのも不思議なものだ。

「……眼鏡かけると印象かわりますね! なんか普通に町中に溶け込める感じっていうか」

「だな。オーラを緩和してくれる感じがすごい」

 これなら騒ぎにならなさそう、と感心したところで、店員さんが雑炊用の一式を持ってきてくれた。

 さすがは虹さんの変装はばっちりで、店員さんも特になにかを思うこともなく……あぁ、みなさんアイマスクはずしたんっすねーくらいな反応で済んでしまった。


「ええっと、男の娘さんって呼んだ方がいいですよね? 質問攻めとかしちゃっても大丈夫デスか?」

「んー、そうだねぇ。せっかくだからルイちゃんの件をからめての質問なら受けちゃおうかな」

「じゃあ、この前の珠理ちゃんとのハーレムものの話とかは!?」

 けれど、準備が済んで店員さんがいなくなると、みなさんの興味は思い切り虹さんに向かった。

 それをてきぱきとかわしていくのは、さすが、芸能人っぽい感じである。


「あぁ、みんななんだかんだで、ミーハーだなぁ」

 あーあ、と最後にとっておいた水炊きの鳥さんをあぐりと食べると、こりっと軟骨が歯に当たった。

 こんなようにして、無事にルイさんをカタる会は終了となった。

 二回目があるかどうかは、さだかではない。

おっそくなりました! 最後のほう収拾つけるのにちょっと手間取りまして。

くてんくてんの佐々木さんが可愛かったかと思います。

しかし、お酒はほどほどにしましょうね! 特に作者ね! 毎日のむアルコール総量を減らそうと画策中にございます。一日55gくらいに抑えたいものです。ちなみに適正量は20gです。ワイン四分の一本でたりるかって話で……


まあ。あれです。次話は佐々木さん呼び出しというか、帰路にて、です。

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