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371.ルイさんをカタる会3

 もそもそ。はふはふ。もくもく。

 レンコンのはさみ揚げは、こりさくで、とてもおいしかった。

 ああ。中に入ってるブタの挽肉から出てる味も、ジューシーで美味しい。


「んで? どうしてここにさっちゃんがいるのか、教えてはいただけまいか?」

 とりあえずレンコンのはさみ揚げを美味しくいただいてから、隣でカルーアミルクをちびちび舐めている佐々木さんに声をかけた。


「ほほー、そっちの名前をだしてきますか、ケイくん」

「だって、前みたいな呼び方だったら、本名ばれするし。さすがにそれくらいの配慮はしますよ」

 よーこって名前が下の名前だったかどうかはあまり覚えていないのだけど、こういう所で本名を出すのは基本NGである。


「しかし、スレの本人がいるとは誰も思いますまいな」

「ふぁっ!?」

 こそっと耳元でささやかれた声に、変な声がでた。

 ちょ。佐々木さんったら、どうしてそんなことをこの場で言い始めるかな。

 思わず、周りをちらちらと見てしまった。周りにまでは聞こえていなかったみたいだけど。

 てっきりケイくん=木戸馨というのを知ってにまにましてるのかと思ったら、彼女はさらにその先に行っていたらしい。いったいいつから知っていたというのだろう。

 気にはなるけど、今はさすがに問いただすことができない。

 いきなりトイレに誘うのもなんかおかしいし。うぅ。女子同士ならお化粧直しとかいって強引に連れ出すのにっ。


「えへへ。最近冷たいケイくんにお仕置きなのです。ちづも言ってたけど、卒業したらあんまり構ってくれないし、ミステリー成分がたりないっていうかぁ」

「っていうか、どうしてさっちゃんがそれを知ってるのかが悩ましい」

 裏切り者は誰だろうか……と、ぽそぽそ呟いていると、あー、とその隣から遠慮がちな声が聞こえた。


「あの、ケイくん。うちの妹とやたら仲良さげだけど、どういうこと?」

 そんな風に、仲良くよーこさんと話をしていたわけだけど、お兄さんである動物さんから変な目で見られてしまった。

 そりゃ、妹に変な虫がつくのはよくないよね。

 ビール一杯のんでちょっと顔を赤くしてるのを見ると、すでにもうお酒は回ってるらしい。


「ああ、お兄。ケイくんとはその、ね。さっき判明したんだけど、高校の時の同級生なんだ」

「……はい?」

 動物さんがきょとんとした顔をしていた。

 まさかこんなところでばったり再会だなんて、と驚いているのだろう。

 こっちだって、佐々木さんがこんなところにいるのはびっくりですよ。


 うん。ルイとして関わった人がメンバーにいるだろうな、というのは予想は付いていたけれど、木戸馨として会っている相手がここに来ている現実に驚いた。

 虹さんの件は、まあ。こっちの想像力が欠如していただけだったかも。あれだけ男の娘ラブ! エレナたんもルイたんもはえてるのだぜ! といい顔をしてくるやつなんて、そうそういるもんでもない。


「ってことは、なにかい、ケイくん。さくらちゃんとかとも知り合いだったりする?」

 ビーナさんがおちょこを指でゆらゆら弄びながら、どうなの? と問いかけてきた。

 こちらもちょっとお酒が周り始めているだろうか。


「遠峰さんとは……まあ知らない仲ではないですが。結局、俺は写真部はいりませんでしたし、それくらいの仲ですよ」

 はいらねがー、写真部、はいらねがー、って二週間くらいつけ回されましたけどね、というと、あぁさすがはさくらちゃんだーとビーナさんは苦笑を浮かべた。


「そういうビーナさんも、あの子の知り合いなんですか?」

「そりゃもう。貴重な女子カメコさんよ? しかもテクニックだってけっしてルイちゃんに劣るものでもないし。下手にお金払ってプロに撮ってもらうより、あの子に撮ってもらった方が良いのが撮れるし」

「そこは、女性同士の気安さだと思いますけどね。実際、レイヤーさん的には、ローアングル攻めとか嫌でしょ?」

「むー。ケイくんもそこらへんわかってくれてる紳士でいいなぁ。実際はほら、エロいの撮りたいっていう人も中にはいて。そうなるとちょっと体がぴくってなっちゃうんだ」

 やっぱ、一回でも怖い目にあっちゃうとね、というビーナさんは、かつてちょっと露出が多いコスをしたときにローアングルで狙われたそうだ。


「しっかし、実際、どうしてローアングルがいいのかわけわかんないです。好きなら世の中にはそういう人向けのがいっぱい転がってるっていうのに」

 パンチラとかわけわからんというと、なぜか参加者のみなさんは生暖かい視線をこちらに向けてきた。

「はい、ケイくん。そういう男子がいる中で振られると困るネタは、ここではなしにしましょうねぇ」

 佐々木さんがぽんぽんと、肩を叩きながら、はぁ、ミステリーと呟いた。

 な、なんだと。みなさん紳士なのだから、ローアングル、だめ、っていう意識はあると思うんだけど。


「ケイ氏が不能ぎみなのは僕も知ってたけど、ここまでとは……正直、驚いて今後の付き合いをちょいと見直さねばならないかもしれないでござる」

「ええぇ、ひっしすさんまで!? ちょ。俺普通だよね?」

 周りに助けを求めるように視線を泳がせてみたら、男性陣のみなさまはふいと視線を背けた。

 なに。みなさん「嫌がるから撮らないだけ」で、ローアングル大好きってことですか。


「ふっふふ。僕はローアングルはダメだと思うよ。だって男の娘はそのアングル嫌がるからね! ほら、僕はすべての男の娘の味方さ!」

 なんか一人だけいい顔で擁護してくれてるけど、それなんかちがくない?


「そうは言っても、男の娘さんだって、エレナたんのローアングルはあはあとかいうんじゃないですか?」

 じぃと不審そうにビーナさんが視線を向ける。

()、いや。エレたんのローアングル写真は堪能したけど、基本NGだよ。だってのど仏が顕著に見えちゃうし。二次元的男の娘だとまず目立たないから、リアルでも……っていってもコスのためにのど仏削るなんて手間をかけるわけないし」

 骨ごりごり削るとか、恐ろしいと、男の娘さんが体をだきかかえて震えた。

 

「のど仏削ると声って高くなるの?」

 元気さんが素朴な疑問をあげる。

 ああ。声の性質とか仕組みをわかってないとそういう感想にもなるのか。


「あー、声帯の方をなんとかしないとなので、表面だけ削っても意味はないですね。リコーダーの外側を削ったって音かわんないみたいな理屈で」

「いまいちたとえがわからんけど、声を作るための場所はのど仏そのもんじゃないってことか」

 なら、削る利点ってなんなの? ときょとんとした声が漏れる。


「見た目の問題、ってやつですね。女装をするときにローアングルだとちょい目立つんですよ。あごを軽く引いたり、角度で隠したり、そういうのが女装撮影するときのテクニックと言うヤツです」

「おぉ。ケイ氏が良い感じにルイさんっぽい」

 さすがはカメラな人だ、と変な声を上げられてしまった。


「そりゃ……」

 おっと、これ以上はいえねぇ、といいつつよーこさんはお通しの卵焼きに手をつけていた。

 もそもそ食べてる姿が可愛い。


「さて。そんなわけで、せっかくなのだし、そろそろルイさんを騙ろうではないですか」

 ふっふっふ、と長谷川先生は、ぐびりとビールジョッキを空にしながら、そんな宣言をした。

 まあ、確かにカタる会なので、そろそろ語りから騙りにシフトしないととなるのだろうけど。


「騙るっていっても、どうすんです? ネットと違ってリアルで男性なみなさんが集まってますけど」

 よーこさんと、ビーナさんだけで騙るの? というと、んー、そこ、企画したときは楽しそうって思ったけど、確かにそうなんだよねぇと長谷川先生は、肩をすくめた。

 ちょ。何も考え無しで騙ろうとか思ってたの!? ルイさんのマネするのって、はっきりいってかなり大変だと思うんだけどな。


「じゃー、私から騙っちゃおうかなぁ。お写真撮らせていただいてもよろしいですか?」

 ビーナさんがまずはエアカメラを持ちながら、声をかけ始めた。

 まあ、似て無くはないけど、騙るにしてはちょっと色っぽすぎる気がしないでもない。


「えええぇ。ルイさんっていったら、見境無く写真とる印象だけど」

「いちおう、レイヤーさんには撮影許可撮るからっ。あの台詞はちゃんと言うからっ」

 佐々木さんにとって、どうやらルイはにこにことひたすら写真を撮ってる印象らしい。

 ううん。そりゃまあ、引きの写真とかは割とぱしゃぱしゃやってしまうこともあるけれどね。


「またケイ氏ったら、ルイさんのことわかってますって感じだお。みんなも負けずに、自分達のルイさん像をここでひけらかすしかっ」

 といっても、僕はなりきるっていっても、きもがられるからやめておくお、と長谷川先生は一人深く頷いた。

 まあ、確かに。みなさんもうんうんと頷いていた。


「じゃあ、私がやるしか……と思ったけど、実はルイさんとそこまで話したことがないから、マネもできないというミステリー」

 あうあう、と数少ない女子のよーこさんは手を体の前でぱたぱたさせていた。

 まー、そうだよなぁ。木戸馨としてはそれなりに一緒に生活はしたけど、ルイとして佐々木さんと会ったのなんて、卒パのときのちょぴっとだ。そもそも佐々木さんって、ルイ=木戸馨って話をいつ知ったのだろう。

 少なくとも、卒業までの間で、知ってますってそぶりは見たことなかったんだけど。

 さくら達が話すとも思えないし、本当にそこらへんがミステリーである。


「ま、まぁ、その。ルイさんを騙るなんて、俺達にはおこがましかったってことで、語るほうに戻しましょう」

 うん。ハードル高かったってことで、と妹を庇うように動物さんはそんな提案をしてきた。

 そ、そうですね。それが良いと思います。

 ネットでのなりきりはできても、リアルでのなりきりとかはそうとう極めないとできないからね。


「みなさんに聞いておきたいんだけど。みんなにとっては、ルイちゃんって、撮影者として好き? それとも本人が好き?」

「また、そういう割れるようなネタを……」

 元気さんの一言に、ざわっと参加者がゆれた。

 でも、木戸としてもこの話はちょっと気になる所だ。


「何対何くらいで、っていうのでやってみるといいお。どうせどっちかに集中じゃなくて両方だろうし」

 ちなみに、4:6で撮影側の勝利だお。と長谷川先生は言ってくれた。

 まあエレナたんを美しく撮ってくれる人としての評価があるから、こうなるんだろうけど。


「私はレイヤーやってるのもあるから9:1で撮影かな。あんなに綺麗に撮ってくれる子滅多にいないし」

「俺もそんな比率っていいたいけど、7:3で撮影ってとこ。入り口は写真だったけど、本人もめっちゃ可愛いし」

 ああ、両方兼ね備えてるとか、ほんとマジ天使と、料理さんがうっとりつぶやいた。

 写真を気に入ってくれるのは嬉しいけど、あまり本人に対して変な感情は向けないでいただきたいものです。


「やっぱ写真から入るとそうなるか。俺は断然本人のあの無邪気な感じが好きだな。もちろんカメラ握ってるってのも知ってるし、エレナたんの写真集とかすばらしかったけど、カメラを握ってる君が好き、みたいな感じ」

 三人の意見を聞きつつ、動物さんがお前らもっとスレのときの欲望をだせよっ、と言い放った。

 まあ、俺の嫁とか、子供がどうだーとか言ってたしね、みんな。


「生えてるエレナたんの写真を神がかった感じで撮影するルイさんも、生えてるルイさんもどっちも甲乙つけがたい」

「またかよっ」

 男の娘さんのうっとりした発言に周りから突っ込みが入った。

 ビーナさんはエレナ男の娘派だから、ちょっと複雑そうな表情はしていたけれど。


「ええぇもっと欲望をっていうから出したんじゃん。俺これで今までいちおう自重してたのに」

「……まあ。男の娘さんの欲望っていったら、清々しいまでにそれ(、、)だから、もう、俺、二周まわってきちゃって、感動すらしそう」

 周りから生暖かい視線が、男の娘さんに向かっていた。

 うん。木戸ももちろんその視線は向けておいた。アイドルグループの一員がこれでいいのかという意味合いも込めて。


「じゃー、欲望をここでさらっと出しておこうかな。スレだとどうしても俺が制御してた所もあったけど、実際、ルイちゃんが新妻で台所に立ってくれてると思うと、胸のあたりがぽかぽかしてくるんだ」

 新妻さんがすっごく幸せそうにそんな台詞を言った。

 ええとぅ? あの。ルイさんお嫁にはいかない予定なのですけれども。


「お嫁さん……ねぇ?」

 にま、と佐々木さんこちらにいい笑顔を向けてくれた。もう、そりゃバレンタインとかやらかしてるけど、その想像はやめていただきたいのだけど。


「やっぱ、関わり方で結構割れちゃうんだなぁ。かくいう俺も写真を撮ってるルイさんそのものが好きって感じ。すっごく楽しそうで、写真の話題とかで盛り上がってるところがいいなって思って」

 肝心の写真スキルがあんまりないから、話しかけてどうこうって感じになれないんだけどさ、と彼はしょぼんと肩を落とした。うーん。別にフィーリングでいいと思うんだけどなぁ。専門知識がなくてもルイさんは別に撮って食べたりはしないですよ?


「んで、よーこは? ルイさんの写真持ってたし、割とそっちのほう?」

「んー。ケイくん。どう答えると嬉しい?」

「そこで俺にふるか……素直に答えればいいんじゃないの?」

 お兄さんから問いかけられた佐々木さんは、なぜかこちらに話を振ってきた。

 いちおう軽く打ち返しておくに止める。彼女的には、ルイさん本人がいるんだからって思いもあるのだろうけど、この場ではその曝露はしないで欲しい。


「んー。可愛い子だなーとは思うし、写真もきれいだなーとは思うけど。私としては放課後徘徊少女の印象の方が強いしなぁ」

「……あの校内新聞ですか……」

 ツインテールの美少女が校内を歩いていた、見知らぬ人だし、きっと女装した男子だ! なんて書いていた新聞記事のことで、佐々木さんとは盛り上がったものだった。


「えっと、イマイチ状況がつかめないんだけど?」

 恐る恐る、元気さんが声をかけてきた。聞いてしまっていいのだろうかという感じだ。

「ルイさんはうちの学校の写真部の学外部員だったんです。それで合宿やったときに新聞部が見慣れない子がっ! スクープの予感とかっていって撮った写真を校内新聞にのっけたことがあって」

「それで放課後徘徊少女かぁ……ちなみにその新聞は手持ちがあったりは?」

 ごくりと何人かが期待まじりの視線をよーこさんに向けた。


「残念ながらないです。でも、ルイさんが来た卒パの写真なら、さくらから預かってるのが」

「ちょっ、さっちゃん。それ出しちゃうのはどうなの?」

「えー、ケイくんだって……って。そか。ケイくんは卒パ来てないのか」

 なら、なおさらルイさんの勇姿をちゃんと見て置いた方がいいんじゃないの? とにまにま言われてしまっては強く反対などできようはずもなかった。


 そんなとき、がらりと個室の扉が開く。

「海鮮カルパッチョお持ちしやしたー」

 あとは、お鍋の準備も始めさせてもらいますねー、と店員さんはガスコンロをテーブルにセットしはじめた。

 本日のコースのメインは地鶏の水炊きだというので、今から楽しみである。

 でも、そんな説明をみなさんはあまり聞いていないようで、ほれ、早くっ。ルイたんの女子高生姿っ、とわくてかが抑えきれないようだった。


 はぁ。確かにルイさん好きが集まってる会には違いないけれど。

 もっとこう……ルイさんが撮った写真について盛り上がっていただきたいところでございます。

まだまだ続くよカタる会! 佐々木さんはルイさんの正体までご存じのご様子。さて、どこで判明したかはあとのお話でございます。

にしても、ネットだと口調とかで騙れるけど、リアルだといろいろ無理がございます。


そんなわけで、団らんとなりました。

次話では水炊きを食べながら、みなさんの会話が続きます。席替えもするんで!

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