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370.ルイさんをカタる会2

「さて、乾杯も終わったところで、さくさく自己紹介を希望にござるよ。ルイさんを知った時とかも含めて、愛とかも含めるといいでござる」

 別に、知ったのが後先でどうこういわないでござるよーと長谷川先生が余裕の笑みを浮かべた。


 まあ、彼はルイさんを早めに見つけてた人だものな。こっちはカメコ1としか思ってなかったけど。

 エレナをルイさんより先に狙ってた人となると、HAOTOの事件よりも前にこちらをしってた数少ない人である。


「んじゃ、料理な俺からかな。今回このイベントを仕切ってます、料理な人です。スレでもいったけど料理人で、いつかルイちゃんに手料理たべさせて、おいしいねーって言ってもらうのが夢です」

「それで、ルイちゃんとの出会いは-!?」

 気にしないといったくせに、周りのみなさまははやし立てる。


「まったく、みんなったら。俺がルイちゃんを知ったのは、一年前くらいかな。ネット上でさ、写真館をみて、おぉーってなって。そっから調べたらいろいろな話題がでててさ」

「おぉ…・・」

 思わず、その意外な出会いに、木戸は一人声を上げていた。

 周りからは生暖かい視線が向けられてる。いちおう料理な人が新規な人なのをみんな知ってるから何も言わないでいるのだろう。


 でも、珍しく、ちゃんとあの写真館のサイトからの人だ。それにはちょっと、じんとしてしまった。

 正直ここにきてる人達は、レイヤーさんたちはまだしも、例のニュースから興味を持ったとかそういう人も多いのではないかと思っていたので、偶然ネットの写真を見てくれて、それでっていうのは、ちょっと胸のあたりがほっこりする。

 うん。ぞくぞくする。

 

「ケイたん。なんかふるふるしてるけど、大丈夫?」

「ん。大丈夫デスよ-。問題ないですよー」

 よーこさんが心配そうな視線を向けてきたので、おけ、と答えておく。

 さすがに、本人なのでー! とか、ちょーー嬉しかったのでーとかは言えない。


「んじゃ、次、僕いくお。見ての通りオタクまっしぐらな、ひっしすです。ルイちゃんと会ったのは-、まあ、見かけただけだけど三年半前くらいかなぁ。最初にエレナたんと一緒にご飯食べてて、は? え、お友達なん? ってなって、その後は組んで写真撮ったりしてたんで、良い友達を見つけたんだぜ、とか思って、今にいたります」

 けっこーエレナたんから知った人はこの会にも多いとみた! と長谷川先生は言い切った。


 うん。そっか。あのときエレナを囲んでた中に長谷川先生もいたんだね。

 その後のイベントではもちろんあったことはあるんだけど、あのときは初めてのイベント参加でわたわたしてしまっていたからね。みんな似てる雰囲気だったし覚えてもなかった。


「ひっしすさんは、男の娘大好きなんですか!?」

 きらきらした声で、男の娘さんが質問をはさんだ。

 そりゃ、昔からエレナ好きってなれば、そういう質問も……いや。どっちなのかは聞いても、男の娘を好きですよね、同志ですよねっていう暑苦しいのはあんまり聞いたこと無いけどな。


「ちょ、エレナたんは好きだお。でも、男の娘だから好きとか、そういう決めつけはしてないんだお。どっちでも僕としては愛らしいし、コスのなりきりレベルも高いし、応援したい所存」

 といっても、最近はあんまり撮影に行ってないでござるが、と頭に手をあてた。


「ええぇ、そんなに大好きなのに、撮影いかないとか」

 ビーナさんから、不満そうな声が漏れた。

「それはほら、ルイたんに任せれば、エレナたんの最大限を引き出してくれるし。僕が撮るよりエレナたんのポテンシャルを十二分に発揮してくれるっていうか」

 わたわたと長谷川先生が手振りを交えて、説明をはじめた。

 まー、そりゃエレナを一番綺麗に写せるのは自分だっていう思いはあるけど、みんなは熱意とか、願望とかもあって、ちゃんと撮影にいそしんでいると思う。もちろんローアングルはダメっ、だけどね。


「後進の育成とかもあるし、それにその、エレナたんにはまったあと、ぽっかりなんか穴があいちゃったというか。それをうめる相手を探しちゅー」

 あ、やっぱり先生ったら、自分でも撮りたいんじゃん。

「ええと、センセ。別にエレナ撮りたいなら、撮りゃいいじゃん」

 撮りたい時が撮りどきですよ、というと、会場のみなさんから、おぉ~と声が漏れた。


「それ、ちょっとルイさんを騙る感じですね! とても言いそうな台詞」

「だよなぁ。さすがカメラで通じてるというか、羨ましい」

 ええと。そりゃ、まあルイさんなら言いそうだとは思うのだけどね。

 少し困ったような苦笑を浮かべていると、お隣のよーこさんも苦笑混じりだった。


「ううぅ。ほらっ、自己紹介ぱっぱとすすめましょう」

 ほれほれ、と話をふると、こほんと新妻さんが話し始めた。


「スレ立てを主にしてる、新妻です。って、これだと俺が新妻みたいだけど、みんなも知っての通り、ルイさんが新妻で、家で撮影してたらほんわか幸せだなーって思ったところからの名前です」

「ええぇ、新妻願望ないんすか? ほらっ、実は裸エプロンしたいとか」

「ねーよ! ってなんかまじ男の娘さんはスレまんまだね。それはともかく。俺がルイちゃんを知ったのは、HAOTO事件の……ああ、最初の翅と珠理ちゃんと三人で写ってる写真が出回った時でした。なにこの炎上商法はって思って興味を持ったんだけど……」

「全然商法じゃなくて、ただの炎上だった、と」

 どこかから相の手が入った。

 

「そうなんだよ! よくあるアイドルの売り込みの一環なのかなって思ったけど、その後はルイちゃんったら徹底的に裏役じゃん? そりゃエレナたんの写真集とか馬鹿売れだったけど、ああ、まじでこの子、普通に珠理ちゃんとかの友達ってだけなんだって思って」

 それでアイドルばりに可愛いとかなにこの天使とか思って追っかけることになったんだ、とどこか誇らしげに新妻さんは言い切った。

 彼としては、芸能人は遠い存在だけど、そうじゃないのがいい、ということらしい。


「それはわかるなぁ。ちょっと控えめな所がいいよね。ああ、次、僕の番だね。スレでは男の娘大好きを通してました。実際エレナたんにはついていると確信しております! それでルイちゃんとの出会いは……友達の紹介で一緒にお茶したときからです」

 あれは確か二年半前くらいかなぁ、という台詞に、ケイは一人反応してしまっていた。


「ぶふっ」

「ちょ。ケイくんなに噴いてんのさ」

 あわわと、よーこさんがお手ふきで周りを拭いて、背中をさすってくれた。

 けふけふとむせてしまったので、その処置はありがたい。


「ケイ氏が噴くのももっともにござるよ。拙者だって一緒にお茶なんてしたことないのにっ」

「男の娘氏、まさかのルイさんと会話したことある人か……一緒にお茶とか羨ましい」

 ああ。長谷川先生がなにを勘違いしたのか、思い切り噴いた理由をねじ曲げてくれた。

 それはそれでかなりありがたい。


 でも。男の娘さんにじぃと視線を向ける。涼しい顔をしてはいるものの。

 お前は誰だ? 正直、ルイが友達のツテでお茶をする「男」なんて数えるほどしかいない。

 蚕や蠢とはお茶はしたけど、背格好が全然違うし、学校関連の連中とルイとしてお茶を飲んだことはない。男子としてもあんまり無かったけど。

 そして、あとはほっとんど女子だ。黒やんは……友達の紹介、ではないから除外。

 と、思考をしなくても、その名前だけで、ぴんとくる相手が一人だけいる。

 うん。HAOTOの虹さんである。

 彼ならば、友達の紹介でお茶をしたことが一回だけある。さんざんな目にあったあの日の話だけれど。


「会話するだけなら、私も経験ありでっす。美男美女もはあはあ撮影中です。長いのでビーナって呼んでくれればいいんでっ」

 よろしくっ、と言い切る彼女は、声も背格好もどうみても女性だった。

 ネットではちょっと男っぽい口調になる人というのはあそこだと良くあることだ。


「それでビーナさんのルイたん出会いエピソードは?」

「私、レイヤーをやってるんで、それで二年前くらいだったかな。ゼルブライト戦記の、サラ王女をやってたら声をかけてくれて」

 滅茶苦茶褒めてくれたし、語らせていただきましたー、と彼女は頬に手をあててうっとりしたような笑みを漏らした。

 うん。サラ王女。覚えていますとも。衣装のできが滅茶苦茶良かったので、声をかけて、粘着撮影をした相手だ。

 作品そのものはやってなかったから、いろいろ話しながら掘り下げていった。


「おうふ。粘着撮影きたこれ。ルイたん、知らないキャラだと本人にいろいろ話して撮影するんだよね」

「そこで答えられるビーナさんの掘り下げ具合もすごいと思いますけどね」

 実は有名なレイヤーさんですか? と元気さんが声をかけた。


「そのキャラは特に大好きだったので。たまたまですって。でもあののせかたすっごくよかったなぁ」

「好きなことを話す時って、表情がきらきらしますからね。きっとビーナさんならって衣装を見て思ったんじゃないですか?」

 ルイの第一被写体さん発掘は、たいてい衣装のクオリティから入ることが多い。

 知らないキャラであっても、おぉって思えば声をかけて撮影を始めるのだ。そういう子は情熱がすごいのでいろいろ話してくれる。まあ時々、友達から押しつけられちゃってーみたいな人もいるけど、そういう場合はどうですか? その衣装はっ、とか感想を聞く感じでシフトすればいいだけの話である。


「そうだと嬉しいなぁ。でもその後はあんまり撮影してもらえてなくって」

 大人気すぎて、こっちに声がかからないのです、としょぼんとしてしまった。


「まー、あれだけの人気だし、よっぽどうまいこと声をかけないと撮って貰えないんじゃないかな?」

「うぅ、気兼ねなく、おまけに安全度も高い女子カメコさん。次はいつ撮って貰えるのかー」

 元気さんの素直な感想に、ビーナさんはくいっとおちょこの日本酒を飲み干して、だうーんとへたりこんだ。

 うぅむ。別にそんなに撮って欲しいなら、時間を設けてもいいんですけどね。

  

「じゃー、次は俺の番。元気いっぱい撮影中って名前で話をしてました。元気とか呼んでくれればいいです。俺のルイちゃんとの初めては……その。エレナちゃんの二冊目のコスROMの時、行列整理と誘導をさせてもらいました」

「ふぁ……」

 会場のメンバーから変な声が上がった。

 こっちも正直驚きである。あのとき隣のサークルだった人だ。


「それ、個人ばれしちゃいません? 大丈夫なんですか?」

 わざわざアイマスクまでつけてるイベントでそこまで言ってしまっていいものだろうか?

 

「だいじょーぶ。だーれも隣のサークルの方には注目しちゃいないし、覚えてる人もいないだろうから。それを言うならビーナさんだって特定されちゃうし」

「いちおう私は公開おけな人だから、ルイちゃんの写真館にも載っていたりします」

 別にそれで個人が特定されるわけじゃないし、大丈夫ですと頼もしいお言葉がきた。レイヤーとしてはばんばん露出して構わないという感じなのだろう。


「でも、ルイちゃんの手助けをしてるとか、うらやまだなぁ。俺なんてほんとただ見てるだけなんだけど」

「動物さんは、どういう関わりなんですか?」

 自己紹介ならぬ他者紹介になってしまったけれど、お次は動物さんが話を始めた。


「妹がエレナちゃんのコスROM持ってて、それで最後の撮影者のところを見たとき、おおぅ。こんな可愛い子が撮ってるんだってなって、おっかけつつ、HAOTO事件とかがあって、やっべーってなおさら興味もった感じかな」

 だから、直接的に会ったことはないんですよと、動物さんは肩をすくめた。

 なるほど。遠くから見てますって感じの人だったのか。

 それで、動物の写真をーとか言ってるあたり、ちょっと好感が持てる。


「それで、妹ちゃんの方はコスROM持ってるってことは、割とそっち系な人なのかな?」

 女子人気もあるエレナたんだけど、二冊とも持ってるってけっこうだよね、と声がかかった。

「今日は無理矢理参加させてもらってすみません。兄がルイちゃんのスレのオフ会なんだっていうからくっついてきちゃいました。エレナさんのROMは、友達からもらったもので……」

 よーこさんは、ちらりと周りの様子をうかがってから、話を続けた。


「実は、さくらと同じ学校なので、ルイさんとは二年の卒業パーティーのときに、お話しました。もー平凡な私とは全然ちがってミステリーって感じで」

「まじかっ。錯乱と同じ学校とか、きたこれ……」

 ROMもさくらからもらったんです、というよーこさんに、うらやま、と声が上がった。

 そっちの件もだけど、普通に卒業パーティにルイが参加してたことにみなさん驚きを隠せないようだった。


「うぅ。うちの学校の卒業式でもやってほしかった」

「拙者らの大学でも今年は呼ぶしかないでござるな……」

 あああ。引き受けてくれるでござろうか、と長谷川先生まで、オタオタしはじめている。

 やっちゃっていいんだぁとか思ってるのかもしれない。


 ふむ。さくらの友達でよーこさんで、ミステリーですか。佐々木さんって下の名前、よーこだったっけ? いっつも佐々木さんとか、さっちゃんとか呼ばれてたから、下の名前の印象がないのですが。

 

「んで、可愛いなーと思いつつも、ここ最近のニュースのこともあったし、兄がこの会に参加するというので、みなさんの意見とかいろいろ聞きたいなーっておもっておまけでついてきちゃいました」

 今日はよろしくお願いしますとぺこりと頭を下げると、みなさんは、なんでも答えちゃうよーと好意的な反応をしめした。


「さて。最後はケイ氏だけど。自己紹介するん?」

「ああ、大丈夫ですよ。ひっしすさん。ええと、ひっしすさんにくっついてきたケイです。最初に紹介されたとおり、本来ならひっしすさんのカメラ仲間が一緒にくる予定だったみたいですが、急遽代理でこちらにきました」

「ひっしすさんと結構年齢離れてると思うけど、急に誘えるとかどういう関係なんだろう」

 興味あるなー、犯罪の臭いがするなーとかはやし立てられて、長谷川先生は、まーそうだよねー、と肩をすくめた。


「僕、大学で助教授やってるから、生徒らちってきただけだお。別にいかがわしいとかただれた関係ではないお」

 まあ、ケイ氏、ソウウケっぽいから、ちょっと妄想したことがないではないですがっ、と長谷川先生がきりっと犯罪予告をしてくださった。いや、冗談だよね?


「おぉ、先生でしたかっ。これはこれは……」

 周りのみんなの反応が少しだけ硬くなったような気がする。

 でも、長谷川先生は、うーんと、腕組みしながら呟いた。

「別に、大学の教授は偉くはないお。病院で教授だと偉いだろうけど。好きなこと突き詰めて考えるのが好きな人達が集まってるってだけだし。研究とか調べ物とか大好きっていう、大人になりきれないのが集まってるだけ。特に僕なんかはそういうの地で行っちゃってるから、かしこまる必要はなっし」

 まー、今学生な人がいるなら、僕みたいなはっちゃけたのは例外って思っておいた方がいいけど、と先生は付け加えた。

 確かに、気むずかしい教授とかもいるにはいるし、権力争いとかそういうのが好きな人もいるだろう。

 長谷川先生みたいなフランクな人って、そんなに多くないような気がする。


「はいっ。で、まあ俺もついてきたものの、ルイについてはちょっとは知ってるので、お話には入れると思います。初めて彼女を見たのは……そうですね、四年前の今頃でしょうかね。銀香町でガラス越しに見たのが初めてです」

「ちょっ……なにその最古参みたいな日付」

「騒ぎになる前からの人とか……ダークホース出現の予感」


 会場がざわっとしてしまったのだけど、そればっかりは嘘をつくわけにもいかないし、事実をありのままに述べただけだ。

 まあ、初めて会ったのは、家の鏡の前で、なのでちょっと嘘は入ってしまってるけどね。

 

「たまたま、偶然、銀香で銀杏でも撮るかなって思ってカメラ持って出掛けて、町並みに視線を向けてたらガラス越しに目が合ったっていうか」

「なにその、運命的な出会いになるだなんて、知らなかった、みたいな展開」

「それで!? その後、ナンパしたりとかしなかったの!? どうなの!?」

 ビーナさんが身を乗り出して続きを所望してくる。あ、ちょっと頬が赤いけど、お酒結構まわってるんじゃないかな。


「目があって、視線が外れておしまいです。別に一緒に撮影しましょうとかそんなことにはならなかったし、こっちも別にガラス越しって距離を超えてどうこうと思いませんでした」

 そりゃ、ガラスに写っただけ(、、)の自分と同行などもちろんできるわけもないわけで。

 素直にそのまま、見かけただけで終了ですというと、なんだーとみんなのテンションがダダ下がった。


 そんな時、廊下から声がかかった。

「揚げ物おもちしましたー! 熱々のうちにどうぞー」

 本日はコース料理なので、注文するのはドリンクだけだ。

 最初はお通しがでて、その後サラダがでた。

 そして揚げ物である。鳥の唐揚げと、もう一つはレンコンのはさみ揚げ。

 割とお安いコースだと一種類だけだというのに、二種もでるだなんて豪華である。


「さて、自己紹介も終わったことだし、ここから歓談タイムーというわけで、もりもり食べながらお話をしましょうぞ」

 ドリンク足りない人は言ってねー、と料理の人が仕切ってくれた。

 ああ。揚げ物から立ち上る湯気はあつあつそうで。きゅうとお腹がなったのだった。

二話目は自己紹介だけで終わってしまいました。

なんか八人かなって思ってたら、九人だった! 一人多かった!

というわけで、ビール一個追加です。


ルイさんの知名度はそこそこですが、ここまでいくとなると、けっこうな知り合い率ですね。はい。

それぞれ知った場所が違う感じの設定でございました。


さて。次話は……この子たちどう動くのか……ルイさんについて熱く語る中に放り込まれている本人というこれは、果たしてどうなってしまうのだろうか。まー宴会料理なんかも考えつつ、いってみようかと思います。レンコンのはさみ揚げうまうまなのです。

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