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君のそばにいさせて、製作発表・後編

「あ、そだ。いちおう聞いておきたいんだけど」

 いくらの軍艦をいただきながら、あぁ、と確認しておきたいことを思いついた。

 いっそう声を潜めて、彼らに問いかける。


「みんなってさ、ホモなの?」

 そこ大事。なんかルイのことをちやほやしているけど、こいつら、馨のことまで知っててそれを言っているのだ。 それは世の中ではホモォというというのは、ぐーぐる先生に教えていただいた。


「別に、男が好きってわけじゃねぇよ。ルイちゃんだから好きなだけだ」

 たまたま好きな相手に、たまたまがついていただけだ、となんかうまいこと言った風で翅は胸を張った。やましいことは全くない、という感じだろうか。

「俺はむしろ、男の娘のほうがいい! 三枝に続いてあんなクオリティの子が居るだなんて、現実もまんざら捨てたもんじゃないな」

「はぁ? エレナのことまで知ってんの? 虹さん」

 面識はあるとはさっき知ったけれど、レイヤーとして知ってるだけかと思っていたのに。ずばりと切り込んだ一言に目を丸くしてしまった。最重要機密だからね? と可愛らしくウインクをしてくれたエレナの情報がダダ漏れである。


「同じ高校出身だからな。先輩と後輩って関係で、一年間の蜜月を……」

「……え? 師匠って女じゃねーの? 虹って確か男子校出身だろ?」

「さんざん男の娘って言ってるだろうが。あぁ、高校一年の頃のエレナたんちょーかわいかった」

 あの、ちょっとびくびくした感じさえもいとおしい、と虹さんが恍惚の笑みを浮かべている。

 うあぁ。この人、そういう人なのか。

 いつもさわやかな笑顔を浮かべている人気アイドルが男の娘好きだとは。


 ということは……馨も危ないのではないだろうか。


「つまり、虹さんは同性愛者ということで?」

「それいうなら、珠理ちゃんはどうなんだい? どうみたって同性愛者じゃね?」

「ちっちがうわよ。なんであたしにそんな嫌疑がかけられるのよ」

 いきなりの同性愛扱いに、ついわたわたと反応してしまった。


「やましいことがある人ほどそうやって慌ててしまうって言うけどな」

「違いますっ。あたしが好きなのは馨だもん。ルイは友達ってだけ」

 ルイのことはスキクナイですと答えると、またまたぁとみなさまが生暖かい視線になった。


「ただ、その肝心な馨と直接会える機会が滅多にないという……」

「あぁ、放課後はルイさんだもんな。ほとんど」

「うぐっ。で、でも馨はメールすれば返してくれるもの。はげましの言葉とかくれるもの」


「なっ、珠理ちゃん、そんなに親密に……俺からのメールなんて半分無視なのに。LINEも教えてくれないし」

「ああ、あの子、LINEやってないのよ。ガラケーだからって」

 今はタブレット持ってるからやろうと思えばやれるんだろうけど、本人としてはどうやらその気は無いらしい。まあ写真撮ってるときに頻繁に連絡がきてもって思いがあるのかもしれないけどね。


「そうみたいだね。俺も前にやらないの? ってメールで聞いたら、ちょっと悩ましい返事がきたよ」

 一人でチーズタルトをいただいてにこにこ表情を緩ませていた蠢が話にまざってくる。

 なにげに馨ったら、HAOTOの連中に連絡先教えすぎなんじゃないだろうか。

 蚕くんもアドレス知ってるっていうし。


 ま。馨のことだから、知り合った人とは繋がろうってことなんだろうけどさ。

 ちょっと、特別にして欲しいって思いはある。こっちはもうずっと、馨は特別なのに、あっちは友達扱いだなんてひどいと思う。

 ま、HAOTOの連中よりは頻繁に連絡は取れてるとは思うのだけど……


 あいつの最優先は撮影なのだから、そこらへんはどうするべきなのか考えておかなければならない。


「そういえば、一時期あなた方のマネージャーさんが、ルイを芸能界デビューさせよっていってたあれはどうなったの?」

「あ? ああそんなのあったな。いちおうマネージャー変わってそれはおわって、魔の半年になったわけだけど。これからどうするんだろ、あの人」

「あの人?」

「ああ、新マネっていうか、前の人が返り咲きって感じなんだ。まったく、貴方たちと来たら……いえ、今回のは我らの落ち度ですねスミマセンっていってたけど。まあ、元のマネに戻るって話」

「じゃあ、またルイは芸能界こねがーって言われるってこと?」

 あのインテリ系男子なマネージャーさんは確かに有能だけれど、ことある毎にルイにちょっかいをかけてくるかわいそうな人だ。

 気持ちはわかるけれど、本人のやる気が皆無な状況であるならば、もう諦めてしまった方がいいようにも思う。

 自力でつかみ取れないようなら、やってなどいけないし、馨の性格でこの業界は無理だろう。


「あの人的には未成年のうちにって思ってたみたいでな。二十歳過ぎたらさすがに諦めるんじゃね?」

「俺達からも散々、あれは無理だろって言ってあるし」

 そんなにしつこくはされないと思うよ、と虹さんからもフォローが入った。

 それなら少しは安心なのかな。ルイが表舞台になんて立つようになったら、ほんともうライバルが一杯わいて大変なことになってしまう。


「珠理ちゃんちょっとホッとしたでしょ?」

「ん? まあ、そうね。ライバルは少ないに越したことはないし」

 蠢にじぃと目を覗き込まれながら言われると、素直にはいと答えてしまった。

 

「俺達にとってもライバルが少ない方がありがたいしねー。っていうか、ルイちゃん魅力的過ぎてみんなを悩殺しすぎっしょ。それこそ逆ハー展開キターって感じかな」

「男も、女もいっぱいあつまってのハーレムなんて、どこの世界にも無いんじゃないの?」

 ってか、好きな相手をどうして、男と取り合ってるんだろう自分……ちょっとへこんだ。

 さくら情報によると、馨に近づく女子で恋愛感情を持ってる子は数人いるらしい。あのもさ眼鏡で人気があるとは

そうとうに解せないものの、攻めあぐねているという話も聞いた。

 

「でも、本人はその自覚ないのよね。人気はあるとか、見た目で人が集まるとかそういうのは自覚してても、恋愛対象になってるっていう自覚がほんとない」

「だよなぁ。俺、壁ドンとかしてかなり真面目に口説いたんだぜ? なのに、結果はお察し」

 うぅ、としょんぼりしながらアップルパイを食べる翅がライバルながら可哀相に見えた。

 確かにあんだけのシチュエーションで、声をかけられたら普通の女子は落ちるだろう。

 少なくともドキドキはする。でも、まるでノーリアクションで写真を撮り始めるだなんて、さすがは馨だ。

 男相手はちょっと、と思ってる証でもある。

 ふふ。ならば、女の武器というやつをここら辺で抜いてやろうじゃないの。


「なら、より実践的にやっていくしかないわね。たとえば一緒に寝るような環境を作って、数ヶ月後に出来ちゃった宣言をする、とか」

 自分で言っておいて、ちょっと頬が熱くなった。

 いわゆる、既成事実というやつである。義理堅い馨なら、え? とかいいつつ、それなら付き合っちゃうしかないよね、でも女装はやめないよ? とか言うに違いない。

 この際、そこのところは目をつむろうかと思っている。


「くっ。なんて恐ろしい子……」

 男子陣から、驚愕の視線を向けられてしまった。まあ言った自分でもちょっとこの案はなぁと思わなくもないのだけど、それくらいやらないと、馨ったら本気になってくれそうにないのだもの。


「お、俺だって、ルイちゃんと既成事実つくって、その……俺の赤ちゃん産んでもらうんだ」

 ぜってぇ、可愛い子が生まれるに違いないっ、と翅がなんか頭わいたことを言い始めた。

「えっと、男同士じゃ子供はできないよ?」

「……そんなのわかんねぇって。きっと謎穴とかがあって、ハラポテエンドなんだよ!」

 くそぅ、といいながら翅は手近なローストチキンを豪快にがぶりといっていた。

 ふふ。さすがに女子であるアドバンテージはこちらにあるということだ。


「そもそも、翅。既成事実ってさらっていったけど、馨のこと襲ったら許さないから」

 ふっふんと悦に浸っていると、思いもしないところから注意が入った。

 隣でもそもそと春巻きを食べていた蠢からである。

 たしかに。こちらがやる既成事実は、言いがかりをつければいいだけのことだ。寝ぼけていろいろあったとかいいはればいい。でも、翅にとっての既成事実というのは、その……アレなのである。


「お、おう……ごめんなさい」

 あまりにも迫力があったからか、翅はしゅんとなりながら、ゼリーをぱくついていた。

 しおしおでちょっと可愛い。


「馨はあのまんまで居て欲しいな。もちろん、その気になるなら俺だってあいつの赤ちゃん産んであげてもいいかなって思うけど」

「「ぶふっ」」

 ドリンクを飲み中の三人が思い切り吹き出した。

 あまりの一言にげほげほむせてしまっている。

 正直、こちらもかなり驚いた。え、どうして蠢がそんなこといいだすの?

 女子としてやってくのが絶対ヤダっていってたじゃん。男子は妊娠なんてするもんじゃないじゃん。


「ちょ、蠢、いきなりどーしちゃったんだよ!」

「そうか……男の娘の魅力にお前もついに折れたか……」

「正気を取り戻せ……お前は今、ちょっと悪いものでも食べたんだ。保健所を呼ぼうか?」

 あの冷静な蜂さんですらその発言には驚いたようで、心配そうな視線を向けてる。

 ひとりのほほんと、エビフライを食べてる蚕くんだけは元からなにか話を聞いていたのかも知れない。


「夏のプールの一件。あれはすっごい格好良かったみたいでな。元マネのねーちゃんに啖呵をきったあげくに、自分で美少女役までやってくれて、男としてやっていくべきって擁護されちゃったら、いくら男でもときめくだろ」

 んー、かりさくで、うまーと感想をいいつつも、蚕くんが解説してくれる。

 うう。たしかに夏の一件は馨からも話を聞いてるけど、え、別に友達助けただけだよくらいな軽い感じだったのに、受け止める方からすればこうなってしまうのか……

 くぅ。馨の天然ジゴロめ。


「蠢が参戦ってなったら……うわ。なんか一気にピンチじゃね? 幼なじみでしかも女装もオッケーで、子供まで産めるとか……」

「でも、そうなると、世間の目はまた、お前を女子としてみるようになるけど、いいのか?」

 蜂さんから冷静な分析が飛び出てきた。

 せっかく終息したあの話も、ハラポテになんてなったら、ああ、やっぱり女じゃんとなるだろう。

 おまけに、胸の手術はできても、ホルモンは……どうなのだろう? なんか昔アメリカで、不妊の彼女のために代わりにFTMの人が出産をした、というようなニュースもやっていたから、やめれば子供もできるのだろうか。

 ちなみにMTFの女性ホルモンの投与は三ヶ月くらいで、子種が死滅するという話だ。誰から聞いたって、当然エレナからである。


「まあ、そうなったら、って話。でも、馨のことだからさ。どうにもならないと思うんだよね」

 まずは親密度を上げていくしかないんじゃないか、という蠢の意見にはおおむね賛成だった。


「そ、そうよ。別に子供はできなくたっていいわ。子は(かすがい)っていうけど、そんながっちりつなぎ止める拘束具なんてなくたって、一緒に居られればそれでいいし」

「うわぁ、最初に既成事実とか言い出した人が、いきなりこれだよ……」

 さすがは人気女優様だ、と翅が苦笑を漏らしていた。

 い、いいじゃないの。本心としてはこちらだもの。

 正直、今の仕事を続ける上で、子供ができるというのは、悩ましいことだ。

 順調に進んでいるなかで、半年くらいは休まないといけない。

 お腹が目立ってくるのは五ヶ月くらいからなのだろうけど、さすがに妊婦役をそのとき取れる保証はないし。

 

 そりゃ、将来的には欲しいけど、今ではないと思うのだ。


「しっかし、親密度でいえば、ルイちゃんと一番仲良しなのって、師匠なんだよな……あの二人、実は出来てたりとかしないのかな」

「それはないんじゃない? エレナには彼氏がいるし、同性の友達っていうポストで仲が良いだけだと思うけど」

「でも、師匠、未だに男子なのか女子なのかわからないし」

 俺には教えてくれても良さそうなものなのに、内緒、ね? とか人差し指を口に当てていうんだぜ、と翅はがっくり肩を落とした。


「何をいってんだよ翅。あんなに可愛い子が女の子のわけないだろ。それに男子校だってさっきも言ったよな」 

「いやぁ、ほら男子校に密かに潜入してた女の子とかさ? ドラマとかじゃありがちじゃね?」

「リアルではほぼないな……俺だっていけるなら男子校で馬鹿やってみたかった」

 夢を見ている二人の男の隣で、蠢は一人現実を前にして、はぁを肩をすくめていた。

 まあ、たしかに。

 あんなに可愛い子が男子校で、しかも学ラン姿だなんて、なかなか想像つかないし、男子校に潜入で、ドキッ、みたいな少女漫画もあるのは知ってるけど。

 残念ながら、エレンくんの誕生日に行ったことがある身としては、だが、男だと答えるしかない。


「そんなわけで、エレナのことはほっといてもいいんじゃない? どう考えてもあの二人が付き合うとかないから」

 まあ、嫉妬するくらいに仲はいいのだけど、それはそれである。

 うん。セカンドキッチンでの食事風景とか、とても気になるけど、きっと大丈夫。


「っていうか、お前ら、親睦会なのにルイさんの話題ばっかりしてていいのかよ。ドラマの話とか、もっとこう親密になるためのなにかとかないのか」

「ええ、別にいいんじゃないですか? お互い好きな物が一緒っていうのは、相性がいいってことでもありますし」

「そーだぜ、()っさん。話す内容にも困らないし、険悪っていう関係からは少しは良くなったと思うし」

「……そ、そういうのなら別に俺からはなにもないが」

 別に、同じって訳じゃなくね? というつぶやきが聞こえたけど、意味がよくわからない。馨はルイなのだし、同一人物だ。


 それにこうやって話をしてみると、なるほど。彼らの暴走とかはルイの魔性にやられた部分が大きいのもわかるし、春先の事件に関しては元のマネージャーの指図だという話でもあった。

 正直、話をしてみるまでは、嫌な奴らという感じだったけれど、今ではなんとなく同志という感じすら芽生えているように思う。


「ま、同じ相手を好きになった同士、今回のドラマはとりあえず成功させましょう」

 演技くらいはできるでしょ? というと、会場からはりょーかい、というふてぶてしい声が響いてきたのだった。


番外編はさらっと終わらせようと思ったのに、崎ちゃんとHAOTOの面々が絡みすぎました。

いいたいことを言い合うことで、お互いに友情は芽生えるもの、ということで、同じ相手を好きな同士で親睦は深まったようです。これで撮影はばっちりだね!(いや……という声が聞こえる)

蠢に関しては、すごい大決断ですよね。アメリカのFTMさんの話は以前ちょっと有名になったお話です。


さて。次はルイさんちゃんと帰ってきますよ。何の話にするかは……そろそろ、振り袖のあれをやってしまおうかと。書き切れるのかな……


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