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君のそばにいさせて、製作発表・前編

珠理奈さんとHAOTOメンバーの番外編です。今回と次話はルイさんお休み。短めです。

「まさか、実際に乙女ゲームのヒロインみたいな役をやるとは思っても見ませんでした。頑張って演じますのでよろしくお願いします」

 にこりとカメラ目線で笑顔を浮かべつつ、そんな台詞を言っている自分に少しばかりゲンナリした。

 本日は、今度製作をするドラマの番宣を含めた製作発表の会場だ。その主演として、崎山珠理奈が抜擢されているのだった。

 君のそばにいさせて、という、まーいわゆる逆ハーものである。イケメン男子達に囲まれた主人公の佐奈が、いろいろバタバタするという、壁ドンあり、口づけありという、ピンク色なドラマなのである。

 もちろん、ふりだけで、実際にはしないシナリオだというのは確認済みだ。カメラワークでなんとかしてくれるらしい。

 

 まだ、本命としていないのに、どうして別の男としなければならないのか。

 激しく、運命を呪うところだけれど、こればっかりは仕方ない。

 別に、あたしがへたれってわけじゃない。相手が鈍感すぎるのがいけないのだ。

 ちょっとオシャレなスポットにいって、良い雰囲気になるぞと思っても、きれいだねー、ほんわかーみたいな感じでまったくもってこっちのことを見ようともしない。

 君の方が綺麗だよ、とかいって抱き寄せなさいよと、なんど思ったことか。


「まさか相手役が珠理ちゃんになるだなんて、聞いた時は楽しみでしかたありませんでした」

 しれっと隣にいるHAOTOの翅がそんな台詞を、インタビュアーに答えていた。

 はぁ。内心、ほんっとにため息しかでない。大型アイドルと共演みたいな話をマネージャーさんが持ってきたときは誰だろうとか思ってたのに、よりによってこいつらとか。

 ちなみに、五人とも全員が相手役として登場で、それぞれとほのかな恋愛をしていく、らしい。

 まあ、HAOTOの面々は、それぞれいろいろな特徴を持っているから、こういう逆ハーレムものをやるにはちょうどいいのかもしれない。


「そういえば、君たち、春先はスキャンダルでひどかったけど、今はどうなの?」

「あー、そのせつはお騒がせしました。見ての通り、蠢もこーして今まで通りですし、これからも応援よろしくお願いします」

 ぐいと、蚕が蠢の肩に腕を回して引き寄せて、蠢と今まで通りの関係なことをアピールしていた。女子疑惑をかけられ、さらに変な会見までさせられた彼のためのデモンストレーションである。

 ま、夏の騒動からまだ二月くらいしか経っていないわけだし、こういうのは大切なんだろうけど。


 ああいうの、さくらの友達はちょっと特殊な視線で見るっていってたなぁと、内心で思ってしまった。

 もちろんそれを表情に出すなんて真似はしないけれど。


「ちょいとバタバタさせてしまいましたけど、半年前の我々と同じ体制になりましたから、今回のドラマ、絶対成功させますよ」

 だから、是非楽しみに待っていてくださいね、という虹さんの一言で一応会見は無事に終わったのだった。

  


「あぁ、もう……嫌な仕事はいままでもしてきたけど、今回のはマジだるいわ……よりによって、逆ハー……はいいとして」

 シナリオが書かれた台本をちらりとみながら、私こと、崎山珠理奈は、あーあと投げやりな声を上げていた。

 そりゃ、あたしも女優だ。抜擢されたならがんばるのは当然なところなのだけど。


 相手役がHAOTOの面々だとわかれば、げんなりもするものだ。

 あいつらがいままで、何をしてきたのかは、コレでもいろいろと知っている。

 春先のあのことは、今でも、ぷんぷん丸である。

 馨がこっちに頼ってきて、結果的になんとかなったから、少しは憂さも晴れたものだけど、あのままあいつに迷惑をかけるのなら、本当に抗議にいったところだ。

 そりゃ営業事務所は違うけれど、歌を出すときは同じレーベルである。

 知らない仲ではないのだし、これはしっかりと文句をいって良い案件だろう。


 でも、この仕事をうけないという選択はない。

 原作がミリオンという少女漫画原作となれば、下手を打たなければ。一話目さえなんとか乗り切れば、見てくれる人はそのまま残ってくれる。

 実際、原作も何度も読んでいるけれど、お話自体もとてもいいのだ。

 相手役の男共が、HAOTOじゃなきゃ、こんな気分にもならなかっただろう。

 

 でも、マネージャーさんは、今回のキャストは最高よ、これなら実写化に反対だったファンのみんなも納得なんだからと力強く言っていた。

 うん。まあ、私だってその言い分はわかる。

 わかるけど、演じるこちらがHAOTOと因縁がありすぎて。

 ううん。ここの春からあった事件の数々をあたしはまだ許せてはいないのだった。


「失礼しまーっす。朝も挨拶にきましたが、少しお話とかいいーっすかー?」

 失礼な軽い声音にいらっとしながらも、入り口の扉を叩いた相手に許可を下ろす。

 扉が開くと、ぞろぞろと彼らは楽屋の中に入ってきた。


「いやー、まさか珠理ちゃんと一緒になるだなんていつ以来だろう? 年末のライブは別としてさ」

「共演って形だとみなさん全員とは初めてじゃないですか?」

 男五人は楽屋に入るととりあえずは好意的な話から始めたようだった。

 いちおう一人用の楽屋なので五人が入ると少し狭いかなという感じはしないではないけれど、圧迫感を受けるほどでもない。なんとか入りきれるくらいの広さはある部屋なのだ。


「で? 珠理ちゃんは実際今回のキャスティング、どう思ってる?」

 真面目な話、と虹さんに切り出されて、さぁどうしようかと少しだけ考える。

 普通の相手ならば、共演できて嬉しいですっ、と満面の演技で返してあげればいいだけのことだ。

 けれども、こいつらと自分の間にはとても深くてどうしようもない溝が横たわっているのである。


「最悪。キャラ自体は結構好きだったのに、あんた達と共演って正直、むかっと来たわね」

「……なかなか辛辣だねぇ。でも、俺達だって相手が珠理ちゃんだって聞いて、ちょっとしょんぼりはした」

「むかっと来てるのはこっちよ。なんなの春先からのスキャンダル。ルイにいっぱい迷惑かけて」

 こちらにはHAOTOの面々を糾弾する権利が十分にある。

 馨のことだから、なあなあに許したりはしたんだろうけど、それで許していい話でもない。

 なんせ、素人を引っ張り出して、あんなスキャンダルを起こしたのだ。


「うぐっ……やっぱりあのときのこと、把握済みか……」

「ええ、だってルイは友……うん。友達だもの」

 公的に、ルイのほうなら友達という扱いでいいだろうか。本当なら恋人とでも言ってしまいたいのだけど、同性扱いならなかなかそうはいかないだろうか。


 さて。春の事件の顛末はルイの口からきちんと聞いている。

 あんにゃろう電話口でまで、ルイとして話をしてきやがって、本当にあのときはがっくりきたものだったのだけど、それはそれだ。さんざん壁にぶつぶつ文句を言ったので、今ではちょっとしか気にしていない。

 その話によると、HAOTOの事件は、スキャンダルを起こして炎上商法を狙った新マネージャーの暗躍が原因ということと、今回の件で、ルイ=馨という秘密をHAOTOが知ったということだった。

 まったく。イケメンモードに仕上げてあげたのに、それで出向く先がこいつらだったとは。

 なかなかに、腑に落ちない感じがする。


「それに、春先の男装コーデはあたしプロデュースだし。ショタイケメンって感じでよかったでしょ?」

「ふぁ? あれ、珠理さんがやったの?」

「確かに、格好良かったよな。普段とのギャップが激しくてアレもよかった」

 翅さんが変な声を上げて、蚕くんはうんうんと頷いている。

 

「なるほどな。春先のドラマの男装テクを上手く取り入れたってところか」

 一人、分析的な感想を漏らしているのは蜂さんだった。いろいろとトラブルがあったメンバーの中でこの人だけは少し距離を置いていて好感がもてる。頼れる兄貴ポジションというやつだ。


「それで? わざわざお忙しいみなさんが挨拶のあとも残って喋ってるこの状況は一体なんなの?」

 春の件で謝罪なりをするなら、ルイ本人にしなさいよね、というと、それはもうと彼らは情けなさそうな表情になった。いちおうは反省しているらしい。

 

「親睦も兼ねて、話をしておこうと思っただけだ。飯でも一緒に……と言いたいところだけど、あんまり外で出来ない話題もあるだろうしな。うちの楽屋でプチパーティーでもやらない?」

 ケータリングでちょっとしたご飯を用意してあるんだ、と言う彼らは、少しでもこちらと仲良くせねばと必死なようだった。そんなことしなくても本番はちゃんとやるつもりだけどね。


「そういって男五人で、か弱い女子に変な事したりはしないでしょうね?」

 いちおう、どういう反応をするかなと思って一言いっておいたのだけど、その一言で彼らはびくりと体を震わせたのだった。

「な、な、なにを言うかなぁ珠理ちゃんったら。別に俺達そ、そんなことするわけ……」

「ああ、婦女子には優しく。俺達の新しい目標だから」

 翅さんがきょどり、虹さんは視線をそらしながらそんなことを言っている。

 は? 一体なにがどうしたのだろうか。


「大丈夫! ただちょっと一緒にご飯を食べようってだけだから」

 だめかい? と蠢に手を取られてしまったのだけど、なんだろう。この中性的な感じで迫られると少しドキドキしてしまうのは、属性的に馨と似ているからなのかもしれない。

 にしても、これが女子か……と改めて思う。バロン先輩はまだ男装しているっていう感じがあったけど、こいつの場合は中性的な男子に見える。

 見せ方の問題なのだろうけど、なかなか上手く作っているものである。 


「ちょっとだけなら、いいわ。飲み物に変なもの混ぜたり、その後変な写真撮ったりしようとしなければね」

「信用ねぇな……俺達もうそんなことはしないって」

 わたわたという翅の言葉に少しだけひっかかりを覚えたのだが。

 さすがにこのお誘いを無碍にすることもできるわけはなくて、私は彼らの楽屋にお招きされることになったのだった。

とりあえず前編ということで。後編まで書ききる余力がなかったのでとりあえず切りがいいところまでにしました。

男女ともに狙われてる木戸さんぱねぇです、ハーレムですって感じですが、本人は、ああなので……

そして、崎ちゃんは偶然にも、あのトラウマをついてしまうという感じです。最近いい子たちに育ってきましたが、もともとは……ねぇ、って感じですね。


さて、次話は楽屋でお食事会です。ルイさんを巡る戦いが勃発な予感です。


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