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359.ルイさん除霊作戦(笑)7

「さて。いまさらながら聞くわけだけど、真矢ちゃん。見知らぬ男子と夜、森で二人っきりって女子的にセーフなの?」

「え? 見知ってる女性と一緒だから、問題ないですよね?」

 とりあえず、目的の場所に行ってくれることを了承してきた彼女につい、聞いたことだったのだけれど。

 ものの見事に気を許してくれている彼女を前に、少しだけ複雑な気分である。


 現在は、森の中を移動中。

 熊注意ーとかって看板はないけれど、十分薄暗くて歩くのはなかなかに大変そうだ。

 足元注意してねーと言いながら、目的地までの道を先導していく。


「さっきも説明したけど、あたし撮影のためにこういう……女装してるだけで、普段はあっちなの」

「それにしては堂に入りすぎてるし、レイヤー仲間とは美人さんで羨ましいよねーなんて話してるくらいですし」

「そこはほら、女装スキルの高さってやつを認めてやってくださいな」

 苦笑気味にそういうと、やっぱりそっちのほうが自然ですよねーと言われてしまった。

 それはルイさんを見慣れているからじゃなかろうか。

 真矢ちゃんのことは会場で見かけたことはないのだけど、あちらはこちらを見てきているのだろうから。


「それに、今日だっておにぃといい仲だったじゃないですか。やりとりが男同士って感じ全然しませんでしたし」

「それは新宮さんが悪いよ……年末のライブとか女装でくるようにって話は彼からあったのだし」

「……まじか。おにぃったらこっそりそんなことを……」

 ルイさんと一緒に出掛けようだなんて、なんて羨ましいと真矢ちゃんはなかなかに悔しそうな顔をしてくださった。

 いや、そこはおにぃ不潔ですっていう所だと思うのだけど。


「なんなら、あたしで良ければ一緒にショッピングとかは付き合ってもいいけど」

 どうせ休日は外にでてるから、というと、真矢ちゃんはぱーっと顔を明るくした。

「本当ですか?!」

「うん。マジです。っていっても真矢ちゃんの趣味がどういうもんかわからないから、どこにってのは相談して決める感じにすることと、あまりお金かからないところ希望だけど」

 いちおう、親戚づきあいをする可能性がある相手である。お休みの日にカフェに行くとかそれくらいならば別にしてもいいと思う。

 ちらっとクロやんが、俺とは遊んでくれねーのかよって言う姿が頭に浮かんだけど、クロやんとはイベントとかで会うから別にいいと思うのです。楓香とはもうちょっと絡んであげたい気もするけれど。

 

「で、正直、新宮さんと一緒に馨状態でいるケースってそんなに無かったのね。なもんで、掛け合いで男同士でっていう感じにあんまりならなくなっちゃって」

 義妹どのって呼ばれたこともあったし、と苦笑を浮かべると、うぉ、おにぃったら結婚の意思強いのかなぁと少し困惑したような顔をされてしまった。


「大好きなおにぃがとられちゃって、ちょっと寂しい感じ?」

「んー、まだそこまでの感じじゃないんですよね。でもなんていうか、早いなぁって」

 それはルイも思うところではある。

 今年で姉達は二十三歳。そろそろ準備をしていい年ではあるとは思うけど、自分に恋愛感情とかがそんなにないのもあって、いまいちまだそういう年じゃないんじゃないか、と思ってしまうところはあるのだ。

 とくにルイの場合は、牡丹姉様が学生というのもある。学生結婚を否定はしないけれど、一般的ではないのではなんて思ってしまうのも仕方ないと思う。

 卒業を待ってとなるとずいぶん先になるのだろうけど……でも、新婦さんってエステしたり日焼け予防したり綺麗に式当日を迎えるためにがんばるものだってのは、前に撮影にいったときに聞かされた内容である。

 準備にはそれなりの期間が必要なのかもしれない。


「ま、本人達がその気でやっていけそうなら、応援はしたいし……んー。あたしとしては、赤ちゃんの撮影とか、やってみたいかなってのもある」

 早いという意識があっても、二十歳を過ぎてれば十分という見方もあるわけで。

 そうなればいい被写体欲しいな、と思ってしまうのは撮影者として当然の発想だと思う。 


「自分の子供じゃなくてもいいんですか?」

「んー、そこは複雑なところだよねぇ。真矢ちゃん。今から君を押し倒すけど、いいかい? ってイケメンボイスで言って、どう思う?」

「違和感ましまし」

 うへ、その格好でその声はやめてくださいよ、と彼女は複雑そうな顔をしてみせた。

 

「でしょー。っていうか、あたしその、男女がどうのっての、知識としてわかってるけど、実感としてはわかんないし。たとえばほら、真矢ちゃんのおっぱい触っても、あ、つつましい、仲間って思うくらいしか」

「それはひどいです! 私いちおー男子よりは胸あります! そりゃ標準よりはちょっとちっちゃいかもだけど、いちおー、ありますし!」

「大丈夫さ! 我らはオタ男子の爆乳幻想に躍らされてるだけなのさ!」

「ですよね! 大きくなくたって……って、語り合う相手が男子という現実……」

 orz と、なぜか真矢ちゃんがへたりこんだ。いや。ルイさん相手なら、仲間じゃーないのかい?

 ほれ、おっぱいない談議を続けようじゃないの。


「あたしとしては、あんまし、自分の嫁さんが子供と一緒に笑顔を浮かべてるって絵は、そんなに重要じゃなくてね。撮るなら、病室訪ねていっぱい撮りたい感じなの。生誕は祝福で、その姿は撮ってまわりたいから」

 自分の子供、という風に範囲を狭めてしまうと、いろいろと考えることが多くなってしまう。

 だから、純粋に、他に視線がいくのは当然だろう。

 ルイは、別に「撮りたい絵柄をとるため」に、なにかを犠牲にするような真似はしない。

 

 もちろん、労力とか時間とかそういうのならいいのだけど、「それだけのために結婚して子供を作るのは間違っている」と思う。

 ルイにも、木戸にも優先順位の一番は、撮影だ。

 そんな自分に、恋愛と結婚と。そういったものを考える余地があるだろうか。

 嫁さんを利用するようなことにはならないだろうか。

 え、旦那? まあ、ルイとしてということなら、ありだろうけど。子供ができないので。

 子供の撮影をするという思考でいまは話しているので、嫁さん限定なのだ。


 え、なに。ルイさんだって妊娠できんじゃね? って。おうふ。

 それはBLゲーのやりすぎだと思う。ハラポテエンドとか謎穴は、あちらの世界のみのことです。

 もちろんネットの掲示板の書き込みでは、俺の嫁ーとか良く書かれるけどね。ほんとね。どうしようね。


「病室まわってたらそれはそれで、変な人って感じになっちゃいそうですね」

「そう。だから姉様が入院とかなら、ありだなーってね。産科の病棟とかで激写とか、お見舞いついでに周りの方をばんばん撮るってありだと思うの」

「……どんな状況も、撮影に結びつけるルイさんに、ちょっと引いてる自分がいる」

 木の根をひょいとよけながら真矢ちゃんは、あまり見せないルイとしての一面にわずかに引いているようだった。

 そりゃ、カメコとしてもちょっとおかしい熱の入り方と言われるけれど、それは良い面でだと思う。

 でも、さすがに偏執的なまでの撮影スタイルというのは、普通の人にはよくわからないのかもしれない。


「ま、それは出来た写真を見てから言って欲しいかなっと、さぁご到着です」

 んし、と森の中の少し開けたスポットに到着して、三脚の設置を始めた。

 少しだけちょろちょろと水が流れる音がしている。

 昨日の昼に水遊びをしようとしていたところともしかしたら繋がっているのかもしれない。

 

「すごくなにもない感じな所なんですが」

「もうちょい早い季節なら、蛍が群生してて、ぽわぽわしてるって話だね。だから、撮りに来たのさ」

 蛍の季節は夏より少し前。今の時期になってしまえばもう、一匹たりとも残ってはいない。

 けれども、この風景を欲しがる人もいるのである。


「後輩に写真加工大好きな子がいてね。ここに蛍のエフェクトかけてみて、本物と比べてぐぬぬって言ってもらおうかなって思った」

 しょっちゅうあの子には加工用の写真は提供してるんだよね、というと、真矢ちゃんは目を丸くして言った。


「そんなことまでしてたんですか?」

「んー、どんなことでもしてたい、だよ」


 ちょっと誤解があるだろうから、それを正しておこうと思う。

「前からずっと、あたしは自然写真中心って言ってきたけど、だーれも信じなくてさ。レイヤー界の写天使とかいわれたりとかしてるけど、対人より対物の方が撮ってる数も圧倒的に多いのよ。そりゃ、イベントに出てる時間も多いからそんな風に言われるんだろうけど」

 実際は、町歩きとか、森とか山とか海とか。コスプレ会場ばかり歩いているわけではなく、圧倒的に市井や自然の中での撮影の方が多いのである。


「あ、そういえば、だからこそ背景が上手いって言われてたこともあったような」

「うん。さくらもだけど、ちゃんと風景撮れるってことは背景もきちんと出来るってことだからね。エレナの写真集だって、引きの写真とか普通あんまり使わないって言われたし」

 でも、キャラだけではなくその背景までもを含めて撮りたいから、あのときはよく話し合ったんだよ、と少し懐かしそうに高校生だったころのことを思い出す。


「なので、真矢ちゃんも良かったら、その風景の中の人になってみようか?」

 ほれ、そこらへんに立ってご覧というと、え、私服姿でですか!? となぜかちょっと照れたような顔をされてしまった。

 そしてそのぷち撮影会は、森の中で始まったのだった。



 目を開けると、わずかに明るくなった天井が見えた。

 木製の天井。丸太で組まれたそれは、普段はなかなかにお目見えできないものだ。

 寝起きのまどろみというのは、どうしてこう気持ちがいいものなのだろう。

 しかも、隣を見れば……あ。牡丹がすやぁとちょっと体勢を崩して寝ている。

 布団から腕がでているのは、まあご愛嬌というところだろうか。


 こうして彼女と寝たのはもちろん一度や二度ではない。

 でも、普段は旅行に行くにしても旅館などが多いので、ちょっと新鮮な気分だなと真飛(まなと)は思った。

 あまりじっと見てると、真矢に、何してるんですか、おにぃなんて言われてしまいそうだなと思いつつ、反対側のベッドに視線を向けた。

 そちらは、妹の真矢が寝ているのが見えた。

 

 妹はその、まあ牡丹に比べると慎ましい感じではあるのだけど、そこそこ可愛いやつだ。

 友達なんかに聞くと、妹は好き勝手するし嫌ってくるしとさんざんなものなのだが、うちの場合は、おにぃと慕ってくれている。

 そんな妹と彼女の初顔合わせがまさかこんな形になるだなんて思っても見なかったのだけど。


 ま、結果的には森歩きも出来たし、そこそこ親睦も深められたし、良かったのだろうと思う。

 

「味噌汁の、匂い?」

 もうちょっとまどろんでいようと思った矢先、ふわっと味噌と鰹節の香りが漂ってきて、思わず起きあがった。

 さて。両隣の女子は寝ているとなると……まぁ、誰が何をやっているのか、というのはお察しなわけで。


「あ、新宮さん。おはようございます」

 階段を下りてキッチンに向かうと、エプロン姿の彼女はサラダ用のレタスを千切りながらこちらに振り向いた。

 その姿に真飛は思い切り目を丸くしてしまった。予想はしていたけれど、まさかその姿とは思わなかった。


「ちょ、ルイさん!? なにやって……」

「何って朝ご飯ですよ。姉様達起きてこないし、朝ご飯用に食材用意してあったみたいだから、ちゃっちゃと作っちゃおうかと思って」

「って、そーじゃなくて、その格好のほう」

 そりゃ、見慣れた姿だし違和感もないけどさ、といいつつ、じぃとその顔に視線を向けてしまう。


 髪の長さは前と違って、ショートだ。ふんわりした髪は撫でると気持ちよさそうで、そして顔はもちろん眼鏡を外している。黒縁眼鏡があるかないかで相当印象が変わるなぁとしみじみ感じてしまう。

 エプロンの下はさすがにスカート姿ではなかった。あれだけ女装はダメだと言われていたので今日は持ってきていないらしい。

 正直、エプロンの裾から柔肌が覗いていたらなぁと思ってしまうのだけど、さすがに口には出せない。

 彼女が居ようが、いいもんはいいのだ。これが男の本能というものである。

 馨くんにはわからないかもしれないが。


「ああ、昨日、真矢ちゃんに素顔見られちゃいましてね。それなら今回の旅行の目的を木っ端微塵にするためにもこうして朝ご飯でも作ってあげればいいかなぁって思って」

 まーどっちでやろうと、ご飯に関してはあまり変わらないんですけどね、なんて言いつつテキパキ作業していく姿は、本当に手慣れていて、危なっかしい牡丹とは雲泥の差である。


「いちおう、ご両親としては心配なんだって。俺としては、今の姿のほうがしっくり来ちゃってるけどさ」

「まーわからないではないですけどね。でも、いまさらでしょう」

 そろそろ諦めて欲しいものです、といいつつ、味噌汁の味見をする姿は、どこからどうみても新妻さんのそれだった。牡丹よりもへたすると新妻っぽい。もちろんちょっと失敗しながらも頑張る姿も可愛いとは思うけれど。

 

「それと、新宮さんも結婚したら朝ご飯は自分で作れた方がいいですよ? うちの姉、朝そんなに強くないし。交代で作った方が絶対に仲良くなれます」

 朝ご飯は大切ですからね、とおたまを持ちながら力説する姿も、やっぱり可愛い。

 コレをどうにか男子にしようだなんて、はっきりいって無理すぎだと思う。


「あ、おにぃ……おはよう。なに、味噌汁?」

「真矢ちゃん、おはよー。もうちょっとで朝ご飯できるからね」

 もうちょっとまっててちょーだいというルイさんの言葉に真矢は特別違和感も持たず、はーいとだけ答えて洗面所に向かっていった。

 昨晩なにがあったかわからないけれど、うちの妹も、この状況にどうやら馴染んでしまったらしい。


「さて。新宮さんも顔を洗うか姉にいたずらするか、どちらかしてきてくださいな。ドレッシング作ったりとかもうちょっとかかるので」

「いたずらって……まあ、君がいいって言うなら、牡丹の所にいってくるかな」

 どうぞどうぞと言われて、階段を再び昇ろうとしたその時だ。


「かーおーるー。どうして、最後の最後でルイさんやっちゃってるのよー」

 ばったり、牡丹が下りてくるのとかち合った。

 彼女は、うんざりしたような顔をして、自分の弟の姿を見つめていた。

 まあ、家族からするとそうなのだろうなぁ。男性化計画をしていたのに、しっかり朝ご飯作って待ってるとか、いろいろ手遅れ過ぎるように思う。


「エプロン借りて眼鏡を外してるだけですよ、姉様。ほら、そろそろご飯も炊けますから、二人で顔を洗ってきてください」

 真矢ちゃんはもう済ませてるんですから、という注意に、牡丹はあぅ……こんなん無理ゲーだーと呟きながら洗面所に向かったのだった。


 朝食のメニューは、ご飯と焼き海苔と、味噌汁。サラダそして鮭という、かなりちゃんとしたもので、真矢なんかはうわっ、朝から豪華だ! なんてはしゃいでいた。

 これで家だと、昨日の残りの副菜なんかも付くというのだから、木戸家の朝ご飯は本当に豪華である。

 味の方も申し分なくて、うぐっ、馨のやつまた料理の腕が上がってると、牡丹はしょんぼりしながら味噌汁をすすっていた。

よーやっと(笑)も終了しました。割と長丁場になりましたね、これ。

まー料理とかいろいろあったし、おいしくご飯を食べることは大切であります。


そして真矢ちゃんと仲良しになれたのはよいことかなぁと。今後ともお付き合いいただければと思います。

にしてもコテージの朝っていいですよね。ちょっと涼しくて、木の匂いと森の匂いがしたりするわけです。


さて。次話は都会に戻ってきますよ。父様から撮影依頼が迷い込んでまいります。十月までの間にイベント盛りだくさんだし、十月もゼフィ女に行ったりするので、ほんと三連休で頑張って書かねばなりますまい。


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