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358.ルイさん除霊作戦(笑)6

気がついたら夜中でした! 遅くなって申し訳ない!

「んぅ。まだ夜か」

 真矢はベッドの中で目をこすりながら窓から差し込む月明かりを確認して今がどんな状態かを把握する。


 バーベキューが終わったあとももちろん寝るまでの間に時間はあるわけで。おにぃたちの馴れそめのはなしを、きゃーきゃー言いながらききつつ、あとは、今日の馨さんの写真の品評会みたいになってしまった。

 おまけに、今までのおにぃの写真なんかまで持ってきていたみたいで、ちょ、やめっ。それはだめだろみたいなおたおたしたおにぃの姿に、珍しいものを見た気分だった。


 真矢にとっておにぃは、自慢の兄だ。もう一人の兄は自慢じゃないのか、と言われると、なんだろう。長男である真守あんちゃんはとてもオタクでいらっしゃるので親近感がある仲間という感じで、おにぃはリア充でかっこいい憧れの相手という感じなのだ。両方とも大好きな兄ではあるものの、向ける感情というものは決定的に違うのである。


 それはそうと。その時に一緒にでてたお茶が美味しかったなぁなんて思いつつ、意外に簡単そうだったので今後は家でお茶を煎れるときは真似をしようと思った。

 メイド喫茶につとめている知人から教わったというティーパックでも風味マシマシな方法でいれてくれたそれは、たしかに色が付けばいいやーというくらいなものとは味が違った。牡丹さんは、あんた……メイド喫茶の友達ってどういうことよーと馨さんにつめよっていたけど、仕事で知り合ったお友達なんだってば、と写真を見せていた。


 うん。こちらでもそれは見せてもらったけれど、なんていうか……すさまじく愛らしくて守ってあげたくなるようなふわっとした子だった。あんな笑顔とかどうすれば浮かべられるものなんだろうか。

 馨さんには、真矢ちゃんだって十分可愛い笑顔浮かべてるじゃない? なんて言われてしまったけど、それはただ、お茶会におまけでついてきたスコーンとジャムが美味しかっただけのことだと思う。

 常時その笑顔というのは難しいと思うし、なにより、あのメイドさんは、特別な感じがして。やっぱり羨ましいなと思ってしまった。


 スコーンについては、着替えてたときに仕込んどいたとかいってたけど。なんだかちょっと執事喫茶に行ったような気分だった。あ、いちおう二回しか行ったことないけど。


 牡丹さんは、もーどうして趣旨と違うことをーなんて言いながら、おいしくスコーンをいただいていたので、男性化がどうのって話はもうどうでもいいのではないかと思う。そもそも料理が女のものだというのは化石のようなものだ。

 男の人が料理ができてもそれはすごく良いことで、なにも恥じることはないだろう。

 正直、真矢も共働きで旦那がおいしいご飯作ってくれてたら嬉しいな、とは思う。もちろん自分が先の日はがんばって、その、君まで食べてしまいたいとかいわれたいのは、オタクだからだろうか。


 まあ、そんな妄想の中でも、バーベキューのラストの焼き芋のおいしさを思い出して、あぁあそこまで女子力ないとだめかーなんていう気分にもなった。

 すごく甘くてホクホクして、次に大学でバーベキューイベントがあったらぜひ真似してドヤ顔しようと思ったくらいだ。馨さんは女子っぽいって牡丹さんたちはいうけど、それはとても良い意味(、、、、)だと思う。

 

 そんなことをベッドの上で思い出しながら、起きたのが尿意が由来なのを思い出す。

 コテージの二階。ロフトのように区切られていない二階には六個のベッドが置かれている。

 最大六名様まで宿泊可能! がここの売りなのでそれに合わせた数というわけだ。


 さて。ベッド位置を決めるのにも実はひともめあった。

 ロフト部には四つ並んだベッドとその向かいに二つのベッドが並んでいた。それも頭は向かい合わせになる感じでだ。

 それぞれ真ん中に密集するようにすれば、寝付くまでに会話もできるよ、というような配置で、実際四人組ならそうする人は多いのではないだろうか。

 今回も、じゃーうちらはこっちで並ぶから、真矢ちゃんは馨の隣でお願いねーなんて言われてはいたものの、それをまったく聞く気はなく、馨さんは一人、じゃ、俺、階段付近で寝るんで、とぴしっと言い張って布団にくるまった。牡丹さんのお隣なので、真ん中に集まるという気は微塵もないようだった。


 ちょ、おねーちゃんの意見ガン無視とかどういうことよー、という言葉にむくりと起き上がって言った台詞が。

「年頃の娘さんの隣に初対面の男が寝て良いはずないだろ」

 こんなことだった。正論である。


 もちろん真矢としては昼間一緒に過ごした感じでいうと、隣で寝ても特別どうということはないかな、という思いでいっぱいだ。

 寝間着姿の彼は、相変わらずほっそりしてて男らしさというものの欠片も見当たらない。


 本日の寝間着は、Tシャツにスエットという感じなのだけど、わりとネグリジェも似合うのではと思いつつ、ああ妄想はいかーんと思い直した。

 友達には、「三次元には青い鳥はいない、二次元で描くものだ」なんて言われたけれど。


 それでも馨さんの寝間着姿はなんというか華奢で男子っぽく無かった。腐った人的な、ソウウケ対象か……と言われるとそれもまた悩ましいところなのだけど。


 おっと、少し回想が長くなってしまった。そろそろトイレに行かなければ。

 ロフトのほうにはさすがにベッドしかないし、一階に下りなければトイレに行けない。


 まだ眠い目をこすりながらゆらゆらと階段を下りていった。もちろん膨らんでいるはずの四つ目のベッドがどうなっているかなんて見る余裕もない。


 そして下りきったところで。

 かちゃりと。なぜか施錠してあるはずの玄関に音がしたのだった。


「ど、ろぼう?」

 コテージ荒しなんてのもあると聞く。気の緩んだ旅行者を狙っての泥棒というやつだ。

 ちょっと怖くもあったのだけれど、その音が気になって、扉に向かう。

 ノブをひねったけれど扉は開かず、鍵はかかっているようだった。

 確かに牡丹さんが、鍵かけるねー! っていっていたし、施錠はしていたと思う。

 

「気のせい……なのかな」

 ちょっとドキドキしながら内側から鍵をあけて、扉を開く。このときは怖いとは全然思わなかった。

 そして。視線の先には、一人の女の子がたたずんでいたのだった。

 薄暗くて顔はよくわからないけれど、性別くらいは判別が付く。

 なぜってちゃんとおっぱいがあったからだ。ちょっと親近感が湧くような控えめなものである。


「ど、ろぼうさん?」

「ん? ああ、真矢ちゃんか。どろぼうさんではないよ? ちょっと夜景を撮りたくなってね」

 それもあって一番はしのベッドを取ったんだよ、と彼女(、、)は言い放った。

 なめらかな女声は、少し悪戯っこのような声音である。


 ええと。まって。目の前に居る女の子はいったい誰なのだろう。

 ショートボブのさらさらな髪に、男ものの服を着込んで、胸元にはカメラと手には三脚を持っている。

 ベッドがどうだと言っていたけれど。いまいち頭がまわらない。


「そんなわけで、真矢ちゃんも目が覚めたならどう? 夜景でも見にいかないかな?」

 混乱している中でも、景色は移り変わって行くもので。

 月を隠していた雲が途切れたところで、彼女の顔が月明かりに幻想的に浮かびあがった。


「……ルイさん? え? は?」

 その見知っている綺麗な顔を見て、困惑はさらに深まるばかりだった。

 どうして彼女がこんなところにいるのか。ああ、こりゃ夢だな、と真矢はこのとき思ったのだった。

 そのままその夢を放置するなら、二十歳間際でおねしょをするかもしれないなどと、彼女は全く想像すらしなかったのである。




「寝静まった……かな?」

 そんな真矢の一件からさかのぼること三十分前。

 木戸はこっそりと周りのベッドの様子をうかがっていた。

 良い感じにすーすー寝息を立てているようで、起きる気配は全くないようだった。

 

 それを確認するとむくりと起き上がりつつ、静かに一階に下りていく。

 一階部分はリビングとキッチン、そしてお風呂とトイレがあるのだけど、リビングの所にみなさんの荷物は置いてあるのだ。

 べ、別に、泥棒をしようってわけじゃないよ? もちろん目的は自分の荷物。


「せっかくの遠出だもんね」

 今回の旅行は、母さんから女装は絶対ダメ、と言われてしまっている。

 そのため、着替えも男ものオンリーだ。

 けれども、昼間の一件で一つ、発覚してしまったことがある。

 ウィッグや化粧道具はもろもろないけれど、下着はあるのよね、と。

 ほとんど反射的にいれてしまったこいつを使えば、ルイさんとして撮影に臨めるのではないかと思ったわけだった。


「リップクリームのみってのがちょっと心もとないけど、まあいっか」

 パットもちゃんと持ってきているのですでに装着済み。BカップのちょこっとTシャツを押す慎ましい膨らみが見える。

 いちおう男ものではあるものの、サイズはさほど大きくはないので、体のラインはそこそこでるのである。

 眼鏡は外して、コンタクトをはめる。そして髪は、まぁ軽く手ぐしで整えた。

 ショートボブな髪はボーイッシュな女子という印象を周りに与えるだろう。

 鏡の前に立ってみると、確かにいつものルイさんの印象とは違うのだけど、十分に女子っぽく見えてしまった。


 そう。お化粧しなくても女子に見えてしまっているのである。

「男子として一ミリも成長してない、か」

 エレナなんかを見ててもそう思うわけだけど、自分もそうだよなぁとちょっと苦笑。

 でも、日常生活に問題がなくて、こっちで気楽にカメラを握れるならそれはそれでいいかとも思う。


「さて。じゃー、撮影撮影」

 よし。気分もルイの方にだいぶ傾いているようだし、これならいろいろと夜景を撮って来れそうだ。

 確かに明日は眠いだろうけれど、最悪車の中で寝ていてもいいわけだし、新宮どのに感謝なのであります。

 運転手様に最敬礼です。


「いちおう鍵も閉めていったほうがいいよね」

 寝る前にコテージの玄関を施錠したわけだけど、やっぱり貴重品もあるわけだし外にでるなら鍵は必須だ。

 物音を立てないようにしながら玄関をあけつつ、鍵を閉める。

 さすがにカチャリという音が鳴ってしまったけれど、熟睡してるみなさんには小さすぎる音だろう。


「良い感じに暗い。ちょい曇ってるけど所々星空も見えるし、いいなぁ」

 やっぱ山はサイコーと思いながら、夜闇に落ち込んでいる森を撮影する。

 狭間の撮影も好きだけれど、夜の森というのもドキドキして大好きだ。

 カシャリと一枚撮影しつつ、さすがにぶれるかなぁ、どうかなぁなんて思ってにんまりした。


 ああ。やっぱりルイとしてカメラを握ってるほうが、より(、、)楽しいなぁと思ってしまう。

 わくわくするというか。ほっこりするというか。意識の持ちようなのだろうけど、馨で撮るのとはやはりちょっと違うのである。

 

 あ。月に雲がかかったり切れたりで、光の入り方がだいぶ変わる。

 こういうのも面白いと思う。

 月明かりに照らし出された光景。

 姉様には月が綺麗ですね、って言うといいとか言われたけど、月光に照らされた景色が綺麗だと思う。


 そんな風ににまにま景色を何枚か撮っていたのだけれど、不意に背後で物音がした。

 閉めたはずのコテージの玄関があいたのである。

 なるべく物音を立てないようにしたのだけど、どうやら誰か起きてきてしまったようだった。


「ど、ろぼうさん?」

「ん? ああ、真矢ちゃんか。どろぼうさんではないよ? ちょっと夜景を撮りたくなってね」

 彼女はきょとんとしながらこちらの姿を見つめていた。

 姉様や新宮さんなら、ちょっとお小言を言われて終わるだけだったろうけど、真矢ちゃんとなると果たしてどう対応するのがベストなのか、頭の回転を速めて考えた。


 結果的に、相手がどうこちらを見るかで決めようということになった。

 確かに胸は作っているけれど、そんなに大きくもないし、服装も男装である。

 不審者ではないことを伝えつつ、彼女がこちらを木戸馨と認識するのであれば、それはそれでいいだろうと思ったのだ。

 どうして胸あるんですかとか言われたら、趣味です♪ と開き直ればそれでいい。

 撮影のくだりもいれつつ、写真を比較してもらったりすれば、こうしてる理由は理解はしてくれるだろう。納得するかはわからないけれど。


 そんなとき、雲に隠れていた月が再び姿をあらわして周囲をほんのり照らし始めた。

「……ルイさん? え? は?」

 おうふ。真矢ちゃんったら、この見た目でそっちの名前を言ってしまいますか。

 そりゃレイヤーさんだっていうし、ルイさんのことは知ってるかなぁとは思っていたけど、まさかこれでそう思ってしまうとは。


「はい、ルイさんですが。まあとりあえず深呼吸でもしてみたら?」

 軽くパニックを起こしている真矢ちゃんに苦笑気味にそんな提案をしてみせる。

 すーはーと素直にしているすがたをカシャリと一枚。

 うんうん。いいですね!

 落ち着いていくその姿。


「ど、どうしてこんなところに、いきなりいるんです? それにその……髪も短いし」

「あー普段はウィッグ使ってるからね。地毛はこの長さなのさ」

 普段から伸ばすわけにもいかないしね、と言うと、ん? と彼女はなにかに気付いたようだった。


「その服って、確か馨さんが着てたような……」

「ん。そだね。着てたねぇ」

「……馨さんの身ぐるみをはいだ?」

 寝ぼけまなこなのか、きょとんとしながら小首をかしげる彼女に、ちょ、おまいさん何をいってるのーと言いたくなった。


「って、どうして人を追いはぎみたいに言うかなぁこの子はもう」

 ルイさんそこまで極悪人じゃないよーというと、そ、そうですよねぇと真矢ちゃんは恐縮したようだった。

 いくらなんでもその想像はどうなのだろうか。ルイさん的には、深い嘆きの森である。


「となると……ルイさんが、馨さんだった、って……んな馬鹿な話じゃないですよね」

 あははー、ないないーという真矢ちゃんのちょっとした現実逃避をそろそろぶった切ってあげよう。

「はい、だいせいかーい」

「そうですかー、正解ですかー……って、はいぃ!?」

 何がなんやら、と言い始める彼女にとりあえず落ち着くように、頭を軽くぽふぽふ撫でてあげた。

 ちょっとくすぐったそうにしているけれど、いくらか落ち着いたらしい。馨眼鏡は残念ながらコテージの中である。


「えっと、その……あのルイさん、ですよね? カメラ大好きでコスプレ会場とかで撮影しまくってて、狂乱とかいわれちゃってる」

 落ち着いたら、改めてこちらの素性のチェック。たくましい女子だ。

「はい。いちおう銀香のルイで通してるつもりだけど、さくらのせいでそんなことにもなりました」

「で。それが馨さんなんですか? 平日は男装して過ごしてるとか? え。家のしきたりとか、美人すぎてやばいから男の子の格好させられてるとか?」

 そして始まる疑問大会。

 前にもこういうのあったけど、何でなんだろう。

 木戸馨として、男として十全に会っていたはずだよね。それもこの子の場合は直近だ。


「そのくだりは崎ちゃんにもやられたけど……どうして、みなさんこっちが主体だーって思っちゃうのかなぁ」

「むしろ男装して隠してるってのが、なんか意味不明です」

 ルイさんほどの有名人なら、日頃から大変なんでしょうけど、わざわざ男装までするってのはよくわからないです、と小首をかしげる彼女に、果たしてどう説明したもんかとがっくり肩を落とした。


 崎ちゃんのときは必死に説明したものだけれど、今日はちょっと時間がそうないのである。

 近場に撮影しなければならないスポットがあるのだ。


「いろいろと語ると長くなるんだけど。まあとりあえず施錠して森でもあるかないかな?」

 撮りたい景色があるんだよ、というと、ルイさんの撮影に同行できるんですか!? と彼女のテンションはちょっとあがったようだった。


 うぅ。

 あまりルイへの意識がそこまで高くなかった崎ちゃんでさえ、ああなのだ。

 すっかり舞い上がってる真矢ちゃんにどう話したものかと思いつつ。

 まあ、でも撮影優先で、と思ってしまうのは、なにも写真馬鹿だからというわけでもないだろう。

 

 少し歩きながら話そうか、というと、彼女は、もちろんですっ、と良い笑顔を浮かべてくれたのだった。

さぁ、ブラとパットがあればどうなるか。

そんなの、みなさんご存じですよね!? あ、はい。ぜんぜん除霊できてませんでした(苦笑)


男装した女子って、ぱっとみで私はわかります。作り込んでいてもああ、男装さんだ、美しい……とか思います。

ルイさんも、眼鏡とるとそんな印象になります。髪はれいのお店で無難にきられているので、冒険はしないものの女子よりに切られてますし。


さぁ、そして夜中の撮影会の始まりです。正直男子状態だと誘わないけど、ルイさんだと一緒に森にいきませんかなんて言ってしまうのは、この子ならではなのかなぁとしみじみ思います。

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