357.ルイさん除霊作戦(笑)5
バーベキュー長くなってしまった。
滝を撮影して終わってから、無事にコテージに戻ってきたわけだけれど。
一つ心配事が終わってもつぎつぎと襲ってくるのは、姉と一緒にいるからなのだろうか。
いや、今回の旅行が仕組まれたことであることと、姉の生活感のなさ両方かもしれない。
じゃあ、男性陣はコンロの準備をお願いね、という姉の一言に大丈夫かなぁという疑念が晴れなかった。
別段こちらが男性陣の方に入っていることに対しては異論はないよ。ないけど姉に料理の準備を任せて大丈夫なのかなとは思ってしまう。
「あの、新宮さんに聞いておきたいんですけど」
なので、一緒にコテージの外でコンロの準備をしていた新宮さんに問いかけておく。
彼はてきぱきとコンロ用の機材を出してきていて、そこそここういうのには慣れているようだった。さすがリア充である。
ちなみに木戸もコンロの設営はちゃんとできる。前にエレナのプライベートビーチで中田さんが万全な状態にしてくれたあと、覚えておかなきゃと思って調べたのだ。どうだろう。男子っぽいだろうか?
「どうした? 女子組が気になるとか?」
「気にはなるけど、それは料理の方です。姉さん家にいるときはあんまりやってなかったですけど、新宮さんに手料理とかはあったりするんですか?」
いちおうまだ、一緒に住んでるわけではないのですよね? と問いかけると、あ、うん。同棲はしてないやとちょっと恥ずかしそうに顔を伏せられてしまった。ちょっと可愛い。
「基本外食なんだよな、それが。一応、飲み会のあとに家でラーメンとかそういうのはあるけど」
「さすがに実家にいるときもインスタントくらいは作れましたが、それ以上がどうなんだか」
ラーメンアレンジで野菜を入れるくらいまではできるけれど、それ以上ができるか、と言われたら悩ましい姉である。その情報はあまり参考にならない。
「馨くんは全面的に料理いけるんだっけ?」
「写真やってるとお金かかりますからね。出かけるときはお弁当かな」
お花見のときもそうでしたし、というと、ああとあの時のことを彼は思い出しているらしい。
「っていうか、我が家の教育方針がおかしいと思うんですよ。そりゃ女装するなら、家庭のこともやれっていうのは、今にすれば嫌がらせとかストッパーだったんでしょうけど、すっかり女子力アップのもとになっちゃってます」
ま、自分で好きな味付けに持っていけるから性別関係なくご飯はできたほうがいいと思いますけど、というと新宮さんはうんうんとしみじみ頷いていた。彼も少し料理については思うところがあるらしい。
そんなやりとりをしていると、バタンとコテージの扉が開いた。
「おぉー弟よー。無事にコンロの方はいい感じじゃないの」
「あの、うちの姉、なにか変なこととかしなかった?」
じぃと、野菜や肉や魚介類の入っているバットを見つめながら、真矢ちゃんに声をかける。
彼女は、えっ、そのとわたわたしながら特に何もないですけど、と自分も持ってきたバットをテーブルに置いた。家の中と違って、スペースはかなりあるので、荷物を置く場所はたくさんある。
「そりゃ、凝ったことはできないけど野菜切るくらいはできますー」
ぷぅーと姉が膨れているのでかしゃりと一枚。コンロの点火も撮ったので胸元にカメラはちゃんとある。首に吊ったまま作業をするのは特に苦にならない。
「タレは馨が心配するから、市販のバーベキューソースね。あとは塩コショウで」
すっぱいの欲しければレモン汁もご用意っ、とドヤ顔をしてきたので、それくらいで大きな顔をするなと内心で思った。
とはいえあまりイレギュラーなことをしなかったのはかなりほっとした。これならちゃんと食べられそうだ。素材の味がきっとそのままに味わえるだろう。焼き加減はこっちで調整できるし。
「んじゃー焼き始めましょう。さぁなにからいこー」
「まずは野菜から。はい、火が通りにくいのと、早めに食べたい野菜をどうぞ」
「えー肉行こうよ。がっつりと」
ほらほら、けっこー良い肉買ってきたんだぜ、という新宮さんに、だーめとトングで静止をかける。
「見たところ、今日のお肉はわりとよいお肉でしょ。先に食べるとお腹のお肉になってしまいます」
それはいけませんというと、なんだか女の子みたいな気の使い方ですねと真矢ちゃんに苦笑されてしまった。
でも、ウェストラインは運動とご飯の食べ方に影響されるのです。
「あ、私しいたけとエリンギと玉ねぎで」
「ほい。あとはピーマンと人参も行っとこうか」
「って、馨。どーしてあんたがいきなり仕切ってるのよ」
ここはおねーちゃんの見せ場でしょうに、と言いながら姉はトングをひったくって焼くかかりを始めた。
ひょいひょいと野菜から入れていっている。あんまり一気にやると焦げますぜ、姉様。
「では、いただきます」
焼き上がったタマネギをいだきつつ、ちょっと甘い味が口に広がって満足した。
うん。焦げ焦げの味じゃなくてありがたい。
え。飯より、飯を食べてる人の撮影だろって? それはお肉が入ったらにしようかと思ってます。
いい顔撮りたいしね。今はとりあえず、お野菜です。
「どうして外で食べると美味しく感じるんでしょう」
「それは、その、雰囲気、とか?」
真矢ちゃんが幸せそうにエリンギをはむついているのを横目にみつつ、姉様が箸をわしわしさせながら笑顔を浮かべていた。
野菜だけでテンションアップ中らしい。
「んじゃ、そろそろ肉いこー。さぁお肉!」
「そろそろいいかな。それとも魚介いく?」
順番的にはそれもありでは、と提案をしてみる。
いちおう、あっさりしたものから行った方が味わいやすいっていうし。
「いいや、肉。俺に肉を食べさせてください」
「はいはい、仕方ないですねぇ新宮さんは」
もう一本あるトングで、こそこそお肉を数枚入れてあげる。
「いちおーそこそこ火は通してくださいね」
食中毒とか怖いので、と忠告をいれると、じぃーと真矢ちゃんの視線がこちらに向いた。
「なんか、馨さんの方がおにぃと付き合ってるみたいな感じ?」
「うぐぐ。真飛さんは私のですっ」
ほれ、ししとうでもお食べ、と姉さんが、あ~んと緑色のししとうを新宮さんに向けていた。
いや、肉食べたいっていってる人に、それはどうなのさ。
あ、でもあぐっとしてる。その姿をカシャリと一枚。うんうん。
ついつい、こっちで世話をやいちゃうけど、姉様達はちゃんとしたカップルさんである。それなりに見せつけていただかなければ困る。
「そうそう。あくまでも新宮さんは姉様のですとも。さぁ今度はお肉で、ほれっ、熱々なシチュってやつをどうぞ」
へいへい、とあおってやると、なぜか姉様は口ごもってちょっと視線をそらして思い切り照れ始めた。
ちょ、そういうの照れちゃうとかどうなのさ。新宮さんもなんか、いや、あの、みたいなこと言ってるし。
自発的にはやれるけど、あおられると恥ずかしくなるとかいうことだろうか。
「あつあつですねぇ、お二人とも。こういうの見ちゃうと確かに、おにぃの相手は牡丹さんなんだなぁって感じ」
「その、さ。馨くんの相の手はなんていうか、みんなに対してそうなんだよ。俺に向けて特別気遣いしてるわけじゃなくて、誰に対してもそんな感じだから」
「いちおー、大丈夫な相手にしかあんまりそこまでしてるつもりはないですけどね」
俺だって、嫌な相手くらいはいるのですよ、と言うと、へぇ、となぜか不思議そうな声を上げられてしまった。
たとえば、あのマネージャーさんとかには絶対、んなことしないよ。
翅にもね。危なすぎるからね。
「そして、気を許した相手からは、お肉もいただきます」
えいやっと、彼が育てていたお肉を横からかっさらう。バーベキューや鉄板焼きの醍醐味の一つはこういった横取り行為だと思う。
タレにつけて食べると、じゅわりと脂が口の中に広がった。
良いお肉、といっていたけれど、その話は本当だったらしい。けっこう柔らかかった。
「おわっ、ちょ。それ俺のっ」
「おにぃにはこれあげるから、我慢して」
えぇと、声を上げる新宮さんに真矢ちゃんが自分の前にあったものを渡している。
うんうん。よい兄妹愛かと思います。もちろんそんなやりとりも撮影しました。お皿を置くテーブルも設置してあるので、片手撮りにならないのがありがたい。
「でも、馨さんのイメージが初対面と違くてびっくりしました。そんなこともしちゃう面があるんだなぁって」
「あー、こいつ、けっこー地味でもっさい見た目してるけど、中身はイケイケよ。アクティブだし休日は予定がびっしり埋まってるタイプ」
「一人で外歩きしている方が多いけどね」
かちゃりとカメラを見せびらかせつつ、たいていどこかに行って撮影しておりますと伝えておいた。
もちろん友達と一緒ということもあるけれど、そこまで毎週人と会ってるというわけでもない。
まあ、知らない人に声をかけて撮影をしまくる、というのも人と会ってるに入るのかもしれないけれど。
「ほんと見た目に似合わずだよね、馨くんは。いい加減眼鏡外してちょっとオシャレして見ればいいのに」
言外に、男子としてという単語が新宮さんから感じられたけれど、残念ながらこちらは撮影者なのである。
「それやるとマジで人が集まるので、撮影どころではないっていうか」
これくらいがちょうど良いのです、と答えつつ、あむりともう一枚お肉をいただく。
今度の部位は歯ごたえがあって、これはこれでおいしい。
「珍しい人もいるんですね。周りの男子とかって、たいていモテるために外見とかかなり気合いいれてる子多いのに」
もしくは、まったく気にしない場合は、大好きなものにベクトルが向かってる人達……って考えると、同じっちゃ同じなのか……と真矢ちゃんは一人ぼそぼそ呟いていた。
オタクさんの男性達との接触が多ければ、そういう結論にもなるだろうか。
「モテ願望がなくてホント、家族としては困ったものでね。真矢ちゃんどう? うちの馨を誘惑とかしてくれない?」
「姉様? それ以上言うと怒りますよ?」
にこにこと笑顔を浮かべて、姉様呼びで牽制しておく。さきほど野望は潰えたはずなのに、やけくそ気味で直球勝負に出たらしい。
「は、はーい。あ、じゃあそろそろ海鮮行くね」
姉は、目をそらしながら、それではイカとかエビとか行っちゃいますよーと、そのままトングで海鮮を置き始める。
うーん。本来ならお肉とトングは別にしていただきたいのだけど、火を通せば大丈夫かな。
「って、ちょっ、ちょまっ。そのサイズのエビをそのままはマズイからっ!」
イカ、までは良かった。お肉くらいの大きさに切ってあるのでちょっと丸まっても火は通るだろうし美味しくいただけるだろう。開いたのをそのままのっけて焼いてはさみで仕上げるとかもいいけど、こっちの方がバーベキュー的には合格な下ごしらえである。
でも、エビはダメだ。
バーベキューのエビは、下ごしらえが必要なものなのである。高三の時に行った海ではすでに中田さんが下処理を全部こなしてくれていたので、焼くだけで良かったのだけど、残念ながらただ焼けばいい食材ではない。
「姉さん。これ、下処理とかやった? 洗ったり、背わた取ったりとか」
「……へ? エビなんて生でも食べられるんだから、とくに何もしてないけど」
「そんなことだろうと思いました。それと、通常サイズはともかく大きいのはさすがに半分に割りたいところ」
ちょいとやってきちゃうからちょっとまってて、と言い残しておいてあるエビをガッとかっさらう。
他にも下処理が不足しているものはピックアップ。
せっかくなのだから美味しくいただきたいものなのだ。
「相変わらず馨くんは、そういうの得意だよな……」
「そうなのよね。家庭料理全般できるし。お雑煮とかも美味しいし」
木戸が一人コテージの中に入っている間も、そんな会話が交わされていた。
「ええと……なぜお二人はそんなにどんよりしてらっしゃるのです?」
「もともと、あの子をもーちょっと男らしくしようって思って、今回の旅行は計画されてるところがあって。どっしり構えていてもらおうって思ったんだけど、力及ばずでした」
うぅ。料理ちゃんと教わろう、今度、と牡丹は一人肩を落とした。
「さて。みなさま、お腹の具合はどーでしょーか」
無事に海鮮も食べられるようになり、野菜、魚介、肉、と堪能した我々は、そろそろ箸がとまり始めている頃合いだった。
ホタテおいしかったですー、とうっとりしている真矢ちゃんの写真を一枚カシャリ。
うん。ホタテバターはおいしかったね。バーベキューで貝を焼くのは幸せだと思う。
さて。そんなご満足な様子の皆さまにコンロの脇にアルミホイルに包んで置いておいたものを取り出した。
中身を開けると、ぶわっと湯気があがって、甘い香りが広がっていく。
「まだ入る方はデザート感覚でどうぞ」
無理だったら夜食にしようといいながらそれをみなさんに差し出した。ほくほくとした黄金色に輝くそれを見て、女性陣から声があがった。
「うわぁ、これ焼き芋ですか?」
「いつのまにそんなのやってたのよ……」
「姉さんに内緒で、二本くすねて仕込んどいたんだ。甘くなるし美味しいよ」
中田さん直伝です、というと誰よそれとみんなに言われた。執事だなんていうと色々言われそうだから、とりあえず芋をすすめる。
「俺は夜にいただこうかな。ちょっと無理」
「んじゃ、残しておきましょう」
アルミホイルから取り出したそれを、新宮さん以外に配っていく。
あれだけお腹いっぱいと言っていた真矢ちゃんは、その臭いをひくひくかいでうっとりしていた。
これぞ女子の別腹というやつである。
中田さん直伝の焼き芋は甘くてとても美味しかった。やっぱり焼きたてが一番ほくほくしていて美味しい。
家でも楽にできないもんかな、なんて思いつつ、美味しそうにお芋をほおばる二人の写真をカシャリと撮影。
最初はどうなることかと思った夕食だったけれど、美味しくいただけて大満足だった。
夜まで行こうとも思いましたが、今回はBBQだけです。
いやぁ、いいっすよね。コンロでじゅーっとやるのはリア充っぽいです。
やっておわったらきちんとゴミも持ち帰りましょうね!
そして新宮さんの下の名前がついに発覚(っていうか作者がつけてなかっただけ)。
新宮さんちは、上から、真守、真飛、真矢です。真の字が入ります。
ああ、キャラ設定集つくらねば、私ですら把握が困難な状態に最近なりつつあります。
さて。次話ですが。夜のお話にまいります。コテージの夜はなにかとドキドキするものですよね!




