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355.ルイさん除霊作戦(笑)3

「では-、川遊びーはじめましょー!」

「……」

「返事がないけど?」

 目の前にある小川を前に、姉だけが元気な声を漏らしていた。

 はい。小川があります。ちょろちょろ流れています。

 その風景をかしゃりと一枚。のどかだなぁなんて思いつつ撮影。

 

「い、いま、彼が水量多いところ探してくれてるからっ!」

「ね、姉さん? それでどぼんとか嫌ですし、ここで楽しんでもいいのですよ?」

 そしてもう一枚カシャリと流れる水を撮影しながらいうといやー、まー、そのねぇと姉は言いにくそうに真矢ちゃんのほうを見た。


「貴方はそれくらいでも景色として面白いんでしょうけど、これだとちょっと遊ぶには足りないかなって」

「確かにこれだと、見るだけで終わっちゃいますね」

 嫌いではないですが、と真矢ちゃんも苦笑気味だった。

 川といえば、もうちょっとしっかりしたものを想像していたのだろう。


「そもそも川遊びってやったことないけど、どういうことするんで?」

「つりとか、生き物観察したりとか、ああ、あとは石投げたりとか」

「ふむ。石を投げられるような悪いことはしてないつもりですが」

 いまいち、川遊びのイメージがつかめない。

 川辺でバーベキューとかならよくニュースとかでも聞くし、そういう楽しみ方はわかるのだけど、他の遊び方がわからないんだよね。今回は水着を持ってきてるわけでもないから、泳ぐということはできないだろうし。


「川に足をつっこむだけでも気持ちいいんじゃない? それと馨。石はこーやって回転をかけて水面を跳躍させたりして遊びます」

 姉が投げた石はひゅんと音を鳴らして、数回水面をバウンドするとそのままぽちゃんと沈んでいった。

 さすがに水が少なすぎて変な風に接触をして飛んでいってしまったようだ。もうちょっとちゃんとした川ならあと何回かは跳ねたかもしれない。


 けして人様に向けて投げちゃダメだからね! と言われて、へいへいと答えておいた。

 石を投げられる、のくだりはいづもさんあたりから聞いた話があったから言ってみたのだけど、姉としては、んなことやっちゃだめ、という意識らしい。


「おまたせ。もうちょっと下流に行けばひざにいかないくらいの深さの所あった」

 そんなやりとりをしていたら、新宮さんが戻ってきた。

 深すぎず、それでいてちゃんと川といえるような場所が見つかったらしい。


「おにぃ。それで結局川遊びってつりとかするの?」

「つりが出来るほどか、といわれると悩ましいかな。もうちょい深くて水量がないと魚はいないだろうし」

 それに水が綺麗すぎてあれじゃ、魚食いつかないよ、と彼は肩をすくめた。

 ほほう。そこまで透明度のある小川ですか。それはちょっと気になる。


 そんなわけで、新宮さんを先頭に移動を始めた。

 そこは少し先ほどちょろちょろしてたところよりも下流のところで、別の流れと合流して少し水量が多くなっているところのようだった。


「もっと下流にいけば深い所もあるだろうけど、とりあえずこんなもんでいいかなってな」

 どうよ、というドヤ声に、きれい、と真矢ちゃんは素直に反応し、木戸は言うまでもなくカシャリとシャッターを切った。

 うん、木々と川のコントラストがとてもいいし、水も透明でほとんど濁っていない。

 川っていうと、だいたい土も混ざっているものだから、この色はなかなかでないのである。


「それじゃ、川に入りましょうか。カニとかはいるかもよー」

「沢ガニといふものでしょうか」

 あれって青森とかだっけ、と思いつつ、いたらとことこしているところは写真に撮りたいなと思う。


「馨さん。カメラはさすがに置いといたほうがいいかも」

「ああ、濡れちゃうと危ないしね」

 ムービー設定にして、手頃な石の上に配置。ちょうど引きの絵としてみんなが写るようにしてみた。

 いちおうSDカードは何枚か持ってきているので、そこそこの時間を撮影で使ってしまっても大丈夫だ。


 こそっと靴をぬいで裾をまくったあとに川にちょんと足をつけてみる。

「おぉ……」

 まだまだ暑いこの時期に川の水は良い感じに冷たかった。

「おぉ……」

 なぜか新宮さんが声を上げていたのだが、きっと同じ理由だろう。けしてこちらを見ていて声を上げた訳じゃ無いと思う。もしくは妹さんの反応を見て声を上げたのだろう。うん。別に今日はそんなに女子っぽくしていないわけだし。


「うわ、馨さん足首細いなぁ。いいなー」

「適度な運動と、あとはマッサージとかもやってるからね。むくみとかはあんまり縁がない感じかな」

 お風呂上がりにいろいろやってるので、というと、へ? というきょとんとした顔をされてしまった。

「かーおーるー、あんまり変なこと言い出さないの。男子がスキンケアとマッサージちゃんとやってるとか、普通ないから」

「最近は美容系男子だっているし、いいじゃんよ別に」

「ちょっと意外ですね」

 よく言われます。真矢ちゃんの言葉にうんうんと深く頷いておいた。

 どうしてもイケメンモードならまだしも、こっちのモブモードだと美容に気を遣ってるのにそれかいという話になるのである。

 もっと変えるところはあるだろうといわんばかりだ。


「ま、そんなことより、せっかくなので川の生物の観察ということで」

 今のままだと足湯状態でおわってしまうので、というと、その例えはどうなの? と姉に苦笑されてしまった。

 でも、どぼんとくるぶしよりも上くらいの川に浸かっているだけとなると、そういう発想にならないだろうか。おまけに冷たくて気持ちいいし。


「いちおー急に深くなってるところもあるから、あんまり奥まで入らないようにな」

 全身ずぶ濡れになっていいってんなら、かまわないけど、と新宮さんからも注意が飛ぶ。

 川で怖いのはそういうところだ。一見浅く見えてもずもっと深くなってるところもあるというのである。


 その注意に従いながら、岩陰なんかをこそっと探すと小さい魚がきらきらしてた。

 カメラは置いてきてしまったけど、こういうのは撮っておきたいなぁ。光の入りもよくてすっごく綺麗。

「綺麗ですねぇ」

「うん。すごい」

 あんまり川には来たことはないけど、海のそれと雰囲気が違ってまた良いものだと思う。

 海は広大さとか力強さを感じるけれど、こちらのほうが繊細な感じがする。

 そういえば、前に銀香に行けなくなったときに、別の町でわき水の写真とか撮ったっけなぁなんてことを思い出した。 


「足の裏の石の感触もなかなかだよね」

 景色もさることながら、つるつるの石の感触がまたいい。

 こういうのは石組みの温泉とかでも感じることはできるけれど、天然でできているものというところもいいなぁと思うのだ。


「です……ねっ。きゃっ」

 そんな感触を味わっていると、いきなり真矢ちゃんが体勢を崩した。

 何かに引っかかったのか、こちらに倒れこむような姿勢になってしまったのだ。

「やばっ……」

 とっさに彼女の体を押さえる。

 あまり触る場所とかは考えられなくて、脇と腰のあたりを抑えて彼女が倒れ込むのを抑える。


「あっ」

 とはいえ、人ひとりを支える筋力が木戸にあるか、と言われたらそんなことはないわけで。

 尻餅をつくように、思い切り川にお尻がどぼんと入ってしまった。

 足場だってしっかりしてないから、しょうがない。


「ご、ごめんなさい」

「大丈夫?」

「は、はい……でも、馨さんこそそんな……」

「まあ、池ポチャは良くあることで」

 別にジーパンが濡れようと特別気にすることもない。今の季節なら自然乾燥でもいいし、明日用の着替えにしてきてきてもいい。


 もちろんこれが女子の装いでやられたら大パニックだっただろうが。

 こちらも水を吸うけどね、女子下着が水っぽいのはなんか気持ち悪いのです。まあ今まで一回しか経験してないし、その時は換えの下着が役立ったわけだけれど。


「さて。姉さん。こんな感じなので、コテージの風呂とかつかってもいいよね?」

「だな。いったん戻って仕切り直しにしようか」

「しっかりキャッチとか、おねーちゃん、馨の男子力を初めて目の当たりにしちゃったよ!」

 ちゃんとした反応をしてくれる新宮さんと違って、姉はなぜか目をきらきらさせながら、ひどいことを言い放った。

 そりゃ、男子っぽいこととはあまり縁がない木戸ではあるけれど、今回のこれが男子っぽいかというとなんか違うような気がする。そりゃ女同士でも助けるとは思うのだけど。


「んじゃ、いったんコテージに撤収ということで」

 さぁお手をどうぞ、とまだ川に座り込んでいる木戸に、新宮さんが手を伸ばした。

 ぐいと引き上げられた腕の力は、さすがだなぁとその時は思ったものだった。




「近くに滝があるところがあって。そこに向かおうかと思っています」

 今度は見るだけだから、安心していいよという姉の言葉を、実はちょっと適当に聞き流した。

 うーん。

 なんといいましょうか。お尻のあたりの感触がやっぱりちょっと違和感がある。

 ……はい。ごめんなさい。

 女物の替えの下着なんていれてねーよ! といいましたが、普通にその。

 入ってました。


 ちょ、そこっ。やっぱりかって顔するのはやめていただきたい。

 ただちょっと、荷造りをしているときに、ほとんど反射的にそっちを入れていただけの話なのだ。

 そもそもいままで旅行といったらルイとしてばかり行っていたので、荷造りをしていた時についうっかりそうなってしまったのだった。唐突な話だったし準備したときはバイト帰りで眠かったというのもある。

 あとはなんだっけ、下着かー、あーそうだねーこれかーくらいな感じでぽいと放り込んでしまったのだ。


「結構歩くんでしたっけ?」

「いちおー、軽いハイキングって感じかな。でもひんやりして気持ちいいよ」

 森林浴なんかも出来ちゃうし、という姉はスニーカーを履いていて歩く気まんまんといった様子だった。

「夜までには帰ってこれるの?」

「それはだいじょぶ。片道三十分くらいだから」

 あんたなら、それくらいの山歩きは問題ないでしょ、といわれて、まあそうですがと曖昧に答える。


 うぅ。下着の件が気になって仕方が無いのだけど。

 よっし。気持ちを切り替えよう。きっと撮りたい景色が広がっているだろうし、さっきまでのことは無かったことにしようではないか。


「なんか馨さんちょっと具合悪いですか?」

「ううん。そんなことは、ないよ?」

 さっきの出来事を気にしているのか、真矢ちゃんは心配そうにこちらの顔をのぞき込んで来た。

 なので、だいじょうぶといいながら、カシャリと一枚。

 実際、先ほど川ポチャしたことはあんまり気にしてない。


「それよりなんかゴメンね。変なところ触っちゃったかもで」

「それは全然っ、ていうか変な場所じゃなかったですし」

 抑えたのは脇と腰だ。下手をすれば胸とお尻になっていた可能性もあるわけで、とっさとはいえ良くそこにしたと自分でも感心してしまうほどだ。

 でも、脇のところはちょっと柔らかかったかと思います。

 もちろんそれが胸だろうと、こっちとしてはどうということはないのだけど、相手はやっぱり気になるだろう。

 そこのフォローはちゃんとしておかないといけない。


「それに、馨さんに触られてもあまり、嫌な感じしないんですよね」

 ほれ、握手してみましょうと手を差し出してきたので握り返しておく。

「なんというか、同性の友達と握手してる感じがするというか」

 手とかべたついたりしてないし、それに感触もすべすべでそんなに大きくないし、と言われて、姉様に少しだけ視線を向けた。あぁ、やっぱりそういう評価になるよねぇとでも言いたげな顔でこちらを見ていたのは言うまでもない。


「い、いちおーこれでも男子なのでっ。あんまり気を許すと危ないかもしれないよ?」

「そこらへんは大丈夫です。これでも男の人に囲まれるの慣れてるし。危険センサーはきちんと働くから」

「なっ、真矢! 今、男に囲まれてるとか言ったか!? おにーちゃん初耳だよそんなの!」

 きっと、真矢ちゃんとしてはレイヤーとして男性カメコに囲まれまくってるから、危ないことにならないように気をつけてるということを言いたかったのだろうけど、男に囲まれているという言葉に新宮さんが反応した。

 

「だって言ってなかったし。それにもう私だって19です。異性とのお付き合いだってあります」

「なっ。なんだってー」

 思い切りショックを受けている新宮さんの顔を一枚カシャリ。あとで嫌がったら消して差し上げましょうとも。

「というか、新宮さんとねーさんがつきあい始めたのだってその頃じゃないですか?」

 あの合コンの時にすでにつきあっていたというのなら、今の真矢ちゃんとほぼ同じくらいには出会っていたのだろうと思う。


「それを言われるとそうだけど。妹に悪い虫が付くのはな……ああ、馨くんの事は全然悪い虫とか思わないけどさ」

「どちらかというと、悪い虫を引き寄せるほうなので」

 自分で言っていてちょっとがっくりきてしまうのだけど、確かに木戸馨は、というかルイは悪い虫ほいほいだよね、としみじみ思う。


「あれ、馨さん男の人からモテモテとかそういう感じなんですか?」

「うっ……そういうころもありました」

 真矢ちゃんが目をキラキラさせながらこちらの手にさらにもう片方の手を重ねて、ぶんぶか振ってくる。

 ええと、君もその。

「腐っておいでですか……」

「ふふふ……」


 真矢ちゃんはいい顔で笑っていたけれど、新宮さん達には今の会話がよくわかっていなかったらしい。

 まあ、腐る腐らないなんていうのは、オタク同士の用語なので一般人にはわからなくて当然なのである。

 けれども、今の一幕でずいぶんと真矢ちゃんはこちらに心を開いてくれたらしい。

 仲間ーって思われてるのかもしれない。そりゃオタクに取って、そうじゃない人と一緒にいるより仲間といる方が楽しいってのはわかるけど、あいにく木戸さんそこまでがっつりオタクではないのですよ。

 

「さて。良い感じにご歓談中なところを申し訳ないのですが……」

 木々の間を進みながら、わいわい話をしていたところで、それを抑えるように姉から発言がきた。

 少しだけ緊張感があるのはなぜなのだろうか。


「滝に向かう難所が実はこの先に一カ所ございます。いちおう安全ではあるって話なので、がんばろう」

 はい、難所に到着、と言った姉の言葉はたしかにそうだった。


「これ、わたるのか……」

 カシャリとその景色を一枚撮影。

 とてもいい風景だった。そう。人一人が通れるように作られた、その吊り橋は、撮るにはとても面白い景色。

 けれども、実際渡るとなると、いささか難所(、、)であることに間違いは無かったのである。

書き下ろし間に合った! 推敲あわせて三時間くらい。

今回は川ポチャ話です。馨氏が真矢ちゃんを押し倒すのもありかと思いましたが、彼女が濡れちゃうのはよくないなってことで。木戸くんだけ水もしたたる状態です。シャツが体にはりついて大変なことにっ。


そして今回、おそらく初、下着女装です。ついうっかり持って来ちゃってました☆ やっぱりちょっと履き心地に違和感があるようです。これなら女子衣装じゃないととか思ってるようですよ。


さて。次話は滝に行きます。でも吊り橋を渡らなければなりません。っていうか今回の(笑)のお話はいろいろエピソードありそうですね。全部書き下ろしなんすけどね……

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