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352.銀香の撮影会4

本日はさくらさん視点からスタート。そしてルイさんになります。

 太陽がちょうど沈んでいく、世界が黄金に輝く時間帯。

 私、こと遠峰さくらは、昔ルイが撮ったという銀杏の写真を真似て、昼と夜との境目の撮影にチャレンジをしていた。


「正直、ちょっと上がってるときの斜めからのオレンジの光を背景にして撮るほうがあたしは好きかもしれない」

 実際、あの写真を見せられた時は、おぉと思ったものの、自分で撮りたいものはなにかと考えたらこっちなのかななんて思ってしまった。

 被写体の好みはそれぞれ分かれるところだし、良いと思ったものを撮るべきだと私は思う。


 ちなみに、ルイは今この場所にいない。

 あいつはある程度この時間帯の撮影に満足してしまっているところもあるし、町内会長さんに声をかけられて話をしているところだ。

 来週にある夏祭りのホームページに、銀香の写真をちょっとわけて貰えないか、なんていう話なのだろうと思う。まったく、こちらに話を振ってくれてもいいんじゃないかと思うのだけど。まあ銀香での知名度でいえば、致命的にあちらの方が上なのは認めざるを得ない。愛され系である。


 認めざるを得ないというと、あいつのナンパスキルもそうとうだ。

 隣では、懸命にカメラを構えている女性がいる。まだまだ慣れたとは言えないちょっとたどたどしいところがある子で、大学に入ってから撮影を始めたらしい。

 しかも、こういった自然の写真を撮るのはほとんど初めてという話で、暗がりの撮影もさっきルイがちょこっと説明しただけ。


 それでも、すでに臆さずばしばしとシャッターを切っているのは、きっとルイの影響なんだろうなぁと思う。

 私は、それをあいな先輩から教わった。笑顔でじゃんじゃんいこーよ! って言う姿は、ちょっと今日のルイと被っていて、あぁほんと、石倉さんがあいな先輩を見る視線が自分ともろかぶりだなぁなんて苦笑してしまった。


「ふぅ。こんなもんかな。どう写ってるのか不安ですけど」

 とりあえずある程度の数を撮った彼女は暗がりの中で、再生ボタンを押しているようだった。

「夜だとぶれやすいけど、そこがどうなってるかってところかな」

 ほれほれ、見せてちょーだいな、とせっつくと、自信はあまりないですが、と彼女はカメラをこちらに差し出してきた。


 ふむ。背面パネルで見る限りだと上手いこと撮れていると思う。

 大きな画面で見るとまた、粗が見えたりすることもあるのが悩ましいのだけど。


「綺麗に撮れてると思う。あとは自分が気に入るかどうかってところかな」

 楽しく撮ろうってのが、こういうときの目標なので、と言ってあげると彼女はこくりと頷きながら、参考になりますと切りかえしてきた。

 コスROMの場合はレイヤーさんのほうも納得させられないといけないけれど、自然の写真は自分の好みに左右されるところが大きい。

 展示なんかをする場合は、さらに気をつかう事になるのだろうけど、今はまだ楽しく撮ろうが目標だ。


「やっぱり、さくらさんも、ルイさんと同じような考えなんですね」

「まーね。同じ師匠を持っているから、ある程度は同じ考えに行き着くかな」

 あくまでもある程度で、まったく同じじゃないけど、と付け加えたものの、彼女にその違いがわかるかどうかはわからない。

 ここのところこちらは、石倉さんとの付き合いの方が長いので、若干考え方も違うのだが。


「あの。さくらさんはルイさんとは、その……昔から仲良しなんですよね?」

「え? ああ、まあそろそろ四年くらいの付き合いになるけど」

 あいつと知り合ったのは、高校一年の秋だ。学外実習で目をつけて、そして今にいたる。

 でも、なんなのだろう。ちょっと花ちゃんは深刻そうな表情をしてこちらを見つめていた。


「だったら、さくらさんは、その……ルイさんが隠し子だったって、噂はご存じですか?」

「……えっと、それ、どこできいたの?」

 深刻そうな表情からはもちろんどぎついネタが提供された訳で。

 私は、あちゃーと頭に手を置きながら、ああどうしたもんかな、と思考を巡らせる。

 いちおうあんなやつでもルイは友達だ。ある程度は守ってあげたいし、あの秘密をおいそれと他人が話していいことではないだろう。


「実は……今朝本当は、木戸くん……同じ特撮研のメンバーのご自宅に行ったんです。写真が得意な男の子で、いろいろ教えてくれる人で。だからちょっと気になって、その……」

「あらあらあらー。花ちゃんったら、その、木戸くんとやらにホの字なのかなぁ」

 ふふん、と言ってあげると、そ、そんなんじゃないです! とざっくりと否定が来た。


 せっかく、木戸馨大好きな女子三号なのかと思ったのに、どうやら違かったらしい。

 え、一号二号は、絶賛不遇中ですよ? 二号さんなんてもう、初恋の甘酸っぱい思い出くらいになってしまってるんじゃないだろうか。ほんともう、めぐったらもうちょっと押して行けよー! って思ってしまうんだけどな。

 押しても引いても、どうしようもないってのは、わかっちゃいるんだけど。


「ただ、その時ご近所の方に伺ったんです。ルイさんは木戸家の隠し子だって。でもそうなると木戸くんと年は同じですよね? 誕生日も確か十二月?」

 っていうか、木戸くんの事は、さくらさんはご存じですか? と聞かれて、うーんとつい腕組みをしてしまった。

 言って良いのか? でもごまかしても後々でばれるような気もする。


「知ってる。っていうか、あたしと同じ高校出身でね。写真部に誘って振られた経験がございます」

 あんにゃろう。ほんと、あんだけ撮れるんだからうちにこいっての、と悪態をつくと、花ちゃんは深刻そうな表情を崩そうともせずに、なら、やっぱりご家族の事情をご存じなのですか!? と詰め寄ってきた。

 う。失敗したか、これ。


「そういうのは本人から聞いた方がいいと思うのよ。プライバシーっていうものが有るし、本人があえて言ってないことをほじくり返しても、良いことなんて一つもないと思う」

 うん。あのときはルイが自分から言ってくれたから、その形でよかったのだろうけど、暴き出すというような問題ではないように思える。

 それは、ルイと木戸馨の本当の関係ではなく、隠し子うんぬんだとしてもだ。

 他人が踏みいっていい領域を越えている。


「……そうですけど……でも、ルイさんが木戸くんの双子の姉妹とかなら、友達くらいには話をしてくれても、いいかなぁなんて」

「……そうなるよね。普通はね」

 真剣に推理を働かせている花涌さんには申し訳ないのだけれど。

 その反応に白目をむきそうになるこちらの感情というのは、きっとどこかの誰かはわかってくれると思う。


「あんなにみんなルイさんを好きなんだから、木戸くんはルイさんを紹介してくれても良かったんじゃないかって思うんです」

 特撮研の顧問の部屋にルイさんの撮ったエレナさんのコスの巨大ポスターが貼ってあるんです、と彼女は前のめりになりながら力説してくれた。


 ああ。もっと早くルイさんに会いたかったっていう感じなのですか。

 ほんとあいつ、ルイ>馨な力量で、少しだけ哀れに思えてくる。

 

「でも木戸くんの写真スキルだって相当なものでしょ? 失敗した写真は撮らないし、いろいろ教えてくれるんじゃないの?」

「そりゃそうなんですけど、技術的な話が中心でその……今日ルイさんに教わったこととは全然違うというか」

「……あんにゃろう……使い分け激しすぎだろ……」

 ぼそっと呟いただけなので、花ちゃんには聞こえてないとは思う。

 でも、思わず出てしまったのだ。

 

 確かに本人もルイと馨は別物だと言っていた。周りも撮影された写真を見てなんか違うといった。

 そして私は、あの二人を割と別人扱いしているところもある。

 それに加えて、撮影時のテンションも未だ、男子状態だとそんなにあがらないらしい。少しブレーキがかかっていると言う状態といえばいいだろうか。やりすぎるとルイ状態になる恐れがあるので、と言われた時にはお前はホントにアホい、と言ってしまった。本性はルイのほうなのだろう、あいつは。


「それに女子同士のほうがなにかと話をしやすいじゃないですか。あんまり相談しにくい内容とかもあるし……」

「……」

 身に覚えがあるので、ちょっと沈黙する以外になかった。

 確かにルイと一緒に撮影をしていると、ついうっかりあいつを女子だと思い込んでいて、うっかり変な相談したりしたこともある。一番の失敗は生理用品持ってないか聞いてしまった事だろう。あれは今でもちょっとしたトラウマだ。後悔というか……現実にもどってひたすら恥ずかしかった。

 今では、別に木戸くんはともかく、ルイに裸体を見られてもどうとも思わないわけだけど。

 

「な、なら、今日でお知り合いになれたのだから、藪はつっつかないで、ルイと仲良くなればいいんじゃないかな?」

「それは……たしかにそうなんですが。でももやもやするというか……はっきりさせたいというか」

 花ちゃんは、ああ、気になるーと言いながら体をぎゅっと自分で抱きしめていた。

 うずうずしてしまっているらしい。


「二人とも、なにやら楽しそうに話をしているね」

 そんなとき、ルイは話し合いを終えて帰ってきたのだった。





「お、おつかれさま。話はまとまったの?」

「ん。町内会長さんからお祭りの準備風景の写真ちょうだいって言われたからちょっとわけてきたところ」

 ちらりとさくらに視線を向けると、思い切り目をそらされてしまった。

 どことなく、バツが悪そうなそんな感じである。いったい二人でいたときにどんな話をしていたのだろうか。


「なんかあった?」

「な、なにもないよ? ほんとこれっぽっちもなにも」

 ね? 花ちゃん、とさくらが問いかけ、花ちゃんもそれにこくこくと頷いているところだった。

 あからさまに怪しいなぁ二人とも。


 ふむ。そもそもからして、花ちゃんはどうして銀香にいたのか。

 そこらへんから考えなければならないのかも知れない。

 実を言えば、銀香でばったりあったわけではないのは知ってる。木戸家の最寄り駅から彼女がこっそりついてきているのは気付いていたのだ。電車の中でも視線は感じていたしね。


 となると……なるほどね。

 どういう理由か、彼女は木戸家からルイが出てきたのを目撃しているのかもしれない。


「さくらには昔いったことあるけど、私これで、答え合わせはするほうだよ?」

「あー。まあ、そうね。あんたはそういうやつだった」

 でも、ホントに良いの? と言われて、うんと頷いた。

 変に暴走されても困るし、うさんくさいと思った人がいたら基本懐柔するようにしているのだ。


 花ちゃんはというと、答え合わせという単語がいまいち理解できないようでぽかんとしている。

 さすがにそのままだと話が進まないので、少し苦笑気味に花ちゃんに問いかけた。

「で。花ちゃん的には、私の何がどう気になっちゃってるのかな?」

 まさか、あまりの美貌に恋の予感、とか? と茶化すようにいうと、そんなんじゃ無いです! と言われてしまった。どうやらレズっけはないらしい。


「……今日、木戸くんの家からルイさんが出てくるのを目撃して、それで近所のおばちゃんが、隠し子がどうのって話をしてくれて」

 実際、どうなんでしょうか? と少しやけくそ気味に聞いてくる花ちゃんに、にんまりと笑顔を向けておく。

 ご近所でそこそこ噂になっている、あれだ。


「その話なら答えはNOだね。私は隠し子じゃないし、特別両親にやましい所は無いよ?」

 いちおう、名誉のために言っておくけど、と両親も庇っておく。そもそもルイの両親はルイを隠しているわけではないし、放任しているだけのことだ。


「じゃあ、木戸くんの彼女だって話なんですか? 付き合ってるのを秘密にしたいから今まで言ってこなかったとか」

 あ、その発想はちょっと斬新かもしれない。

 説明を丸投げしたさくらさんは、どうやら鑑賞にまわるようで、こそこそ苦笑を浮かべていた。


「実は従姉弟とか、居候してるとかって線より、彼女になってしまうのか……」

「だ、だって……そっちならわざわざ隠す必要もないじゃないですか」

 確かにそうだと思います。お付き合いしてるのを内緒にする人っていうのは確かに世の中にはいるからね。


「でも、隠すもなにも、これがうちの従姉妹です! とかって言わないと思うけどなぁ」

 はーい、ここからは先ほど撮った私の姿の消去権が発生しまーす、というと彼女はうぐっと言いよどんだ。

 答え合わせはするとはいったけど、正解がでるまで答えて良いだなんて言うつもりはない。


「えげつないわね……写真を取引材料にするだなんて」

「だってしかたないじゃーん。そんなん数うちゃ当たるってば」

「……あんまり当たると思えないような事だけどね」

 さくらがじとめでこちらを見ているけど知らない。

 それにこれはそもそも、花ちゃんにとっては破格の交渉である。

 もともと、写真チェックをさせてもらって、まずいのは消す約束をしていたからね。


「わ、わかりましたっ。なら、ルイさんの秘密はとりあえずもういいです」

 おうちの事は他の人にも他言しないです、と花ちゃんはすっぱり言い切った。

「おぉ、この子写真の方をとったよ……」

「花ちゃん……なんていい子」

 ちょっと感動しつつ、でも、写真チェックだけはさせてもらうからね、と釘はさしておく。

 ダメ写真はどうしたって消さねばならない運命なのである。


「でも、特撮研には是非遊びに来て欲しいです!」

「あそこ、ひさぎさんとなるるさんがいるから、正直やかましくてね……」

 遠い目をしつつ、こちらでの知り合いの名前を挙げておく。


「黒木くんや、野江さんは?」

「クロキシとノエルさんはお友達だけど、クロはともかくノエルさんが地味に撮って撮ってオーラがすごくて」

 無言の圧力というか、ね? というと、そうなんですか? と逆に首をかしげられてしまった。

 たしかにノエルさんは大人しいキャラだもんね。


「なら、仕方ないです。でも大撮影会の発表の時くらいは是非来てください」

 頑張って撮影しますからっ、なんてきらきらした目をされてしまうと、少しだけ悩んでしまう。

 クロやん達もいるし、行くことのための口実は全然OKなんだけど、二重登校的な感じになりそうだ。

 よく女装ネタとかで、ダブルブッキングの話があるけれど、ばたばたと大変そうで、自分であれをやろうとは思えない。


「ま、まぁ、検討しておくよ」

「はいっ、じゃー話もまとまったことで、夜の撮影会とまいりましょうか!」

 三脚の使い方も花ちゃんに覚えてもらおー、とフォローのつもりなのかさくらが元気よく言い放った。

 

「三脚ですか!? 私持ってないです」

「ふっふっふ。それはルイさんから借りると良いのです」

 さぁ先生、君の三脚をおだしなさい、と迫られて、はいはいとバッグからがさごそと三脚を取り出す。

 夜の撮影もする予定だったので持ってきていたのだ。


「でも、祭りの準備で結構あかるいから、実は三脚なしでもそんなにぶれないと思うけどね」

「初心者に優しくないコーチだなぁ。あれがあったほうが絶対に安定するじゃん。ぶれる可能性ががくっとさがるんだってば」

「それは否定できないかな、ほい、三脚ね」

 渡しつつ、三脚のセットの仕方なんかを教えていく。

 昼間の特撮研だとなかなか三脚がでてくることってそんなにないので、この機会に教えてしまうのはいいことなのだろう。


「いちおう、他にもアイテムはあるけど、そのカメラだと付かないだろうから、レリーズはなしで」

 それでもしっかり安定するから、一通り使い方は教えます、というと、花ちゃんからは、よろしくお願いしますという声が聞こえたのだった。

 うんうん。カメラ中心な気構えになってくれて、ルイさんはとても満足でございます。

 双子でも、居候でも彼女でもない、同じ家に住む子。

 となるともう、同一人物という線しかないわけですが、ついぞ花ちゃんはそこに行き着けませんでした。

 でも日頃、木戸くんを見てれば気付いてしまうような気がしないでもない。

 ないけれど、本人がその事実を拒絶する率が高いようにも思います。「おまっ、へふぁ?」みたいな変な反応する子が多いので。

 まあ、いい銀香撮影タイムを過ごせたのかなと思います。


 さて。次話ですが……ついに、母様が動きます。「ルイさん除霊作戦(笑)1」をお送りいたします。

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