036.教室で話題になるルイさん
振替休日の翌日。青木が大変、でれていた。
「なぁなぁ。おまえが相手をしてたあの、黒髪の子、知り合い?」
そういった話が、教室で鳴り響いていたわけだ。
もちろん、一過性だと思う。特別にルイちゃんフィーバーが起きるとも思ってない。
ルイは確かに自分でいうのもあれだが、そうとうにかわいいもののアイドルに比肩するレベルはもちろんないし、いうなれば学校にいるちょっとかわいい子、くらいな存在だ。
噂にはなるだろうけれど、それでおしまい。
もちろん青木には。その記憶は残るだろうし、あのときの笑顔は残るに違いないだろうけれど。
それを記憶の中で増長させるのはいいことでもない。
おまけにである。
青木に問いかける傍らおまえは写真撮ってないのか、という話もイヤと言うくらいにきかされた。
「そんな子、俺は撮ってないし、イベント委員も撮ってないっていうけど? 想像も楽しいだろうけど、現実の女の子に目を向けるのも、君らの仕事、なのでは?」
後半女子っぽいという忠告は知ったことではない。あやうく女子声で言いそうになったとか、そんなこともどうでもいいことだ。
それくらい、男子のルイ過熱がひどかったというか気持ち悪かったのだ。
ちなみに、イベント委員がルイを撮っていた写真は、実は十数枚あったのだけれど、そこは写真部の事前チェックではじかせていただいた。職権乱用なのだけど、さくらたちも共犯者というか、無理いってすみませんと協力してくれたのである。
「そりゃそうだけど、あの子に何も感じないとかおまえの目は節穴か?」
クラスメイトの誰かがおまえはーと脱力した声と視線をこちらに向けてくる。
あきれ声に脱力する。自分の姿にはぁはぁしろというのはずいぶんとお高い設定をしてくださる。
「その娘、銀香町が誇る、美少女フォトグラファー、ルイでしょ? うちの地域じゃあれだけど、銀香町までいけば知らない人はいないわよ」
ぱちりとこちらにウインクを送ってくれるのは斉藤さんだった。彼女はこちらの事情もいろいろとわかってくれている人だ。それにルイに関しても立ち位置をよくわかっている。けれど。
「それと、青木君のこと、ちょっと気になるって。あの子が」
あーもー。
どうして滅多に見せないウインクとか決めながらそんなことを言ってしまうのか。
「んなっ。斉藤さん! あのコとコンタクトをとる手段は!?」
「ないわ」
しれっと女優然に嘘をつく。
ルイの連絡先なら斉藤さんは知っているのに、そこまで言い切るのは珍しい。
多少なりとも守ってくれているのか。
「青木。夢を見るだけ寂しくなるぞ」
ぽんとそのタイミングで肩を置く。
青木とルイは顔なじみである。その姉を介してそれなりに知り合いと言っていい。
そこのところを全力で斉藤さんは見誤った。本当に。
「はぁ。姉貴にお願いしても、すけべな弟を紹介はできませんって断られたしなぁ……」
かわいい弟の頼みくらい聞いてくれてもいいのにと青木はしょぼんと肩を落とす。
「ありゃ、青木君、割と本気だったのかな?」
「いや……まぁ」
青木が少し照れたように頬をかく。なんだなんだこの態度は。
その姿を見て斉藤さんはうーむと考えつつ、木戸をちらっとだけ見た。
「そっとしておこう」
下手に触れるとやぶから蛇がでてきそうだ。
自分の机にこっそりもどって、遠目に青木達のやりとりを眺めることにする。
物珍しい別の学校の女子という立ち位置のルイは大変魅力的なのだろう。
青木の反応はさすがにちょっとどうかと思うのだけれど。
「逆に銀香町に行けばいいのか」
なんていう声が漏れ聞こえてはいたのだけれど、すこし現実につかれてしまって。
もう、そのセリフなんて聞こえないふりをするしかなかった。
木戸にもルイにも平穏な生活が必要なのである。
今回は日曜日なので短めです。