343.プールにいきました1
今回のプールは木戸くんとしてのご参加です。
久しぶりに男姿でプールにきた気がする。
さて。みなさまお待たせの、水着ターイム! といっても、別に今回はメンズ用からご用意しました。
なんていうかね……普段ほら、女性用ばっかりきてるものだから、その布の多さに、戸惑ってしまっています。
女性用は確かに上も隠すようにつくられてるけど、パレオとかをのぞけば、ビキニならそんなに布面積はないわけで。
太ももが思い切り露出されたりするのだけど、本日の装いはそのようなことはありません。
……はい。ビキニを着慣れてる男子とか普通いないからって磯辺さんあたりからは言われそうです。
本日の木戸さんは、学生時代の海パンから少し進化をしまして、いわゆる男性用の、サーフパンツといわれるものを着てみています。丈はひざ上くらい。学校の海パンがそれこそ、短パンと同じくらいなのを考えるとずいぶんと裾が伸びたなという感じ。
更衣室は、まぁ、普通にいったさ。男子ですからね!
……ええ。ロッカーの前で着替えてると、ちっちゃい男の子が指さしてきて、ねぇーなんでおねーちゃんがこっちにいるのーって言っているのを父親が、世の中にはいろんな人がいるんだよ……ほら、テレビでやってた蠢だってそうだっただろう? なんていう会話が展開されていた。
またFTM疑惑かい、と木戸はげんなりしつつ、さっさと着替えることにしたのだった。
眼鏡は今回は外している。プールは眼鏡禁止なのだ。コンタクトも外しているけれど、まぁそれでも輪郭がぼやける程度で問題はない。
そもそも、カメラも持ち込み禁止なので、この状態での撮影というのがありえないのである。
正直なところ、カメラ禁止はわかっていても、もったいないなぁという気持ちが大きい。
だって、目の前のこの光景。
以前行った市営プールよりも二回り以上は大きいここは、施設の全体をぐるっと囲むように流れるプールが回っていて、その中に50mプールやスライダーなんていうのもある。子供用の浅いプールや、波のでるプールなんてものまで完備だ。
「いやぁーおまえをだしに美少女二人とプールにこれる。モテ男の友人ポジというのもあながち悪くはないもんだな」
集合場所でたたずんでいると、背後から声がかかった。
もて男という単語に首をひねる。別に田辺さんたちから木戸馨は別段もてているわけではないし、たんなる友人だ。磯辺さんにしたら、仲良くしておいた方がなんか楽しいし、ルイに撮影されるチャンスも増えるだろうから、というようなところもあったりする。
それに、本日は別に眼鏡は外しているけれど、色男というわけではない。基本もっさりスタイルのまま、眼鏡だけ外して、さらにはちょっと目を細めている感じなのだった。
後ろ姿こそFTMに見えるのかもしれないけれど、正面を見れば、胸と顔の印象で男子だと思われる……はず。
イケメンモードにしてしまうのは目立つから却下させていただいた。
「友達をだしに、女の子とプールに来れてよかったですね。俺そろそろカメラないシンドロームでやばいんですが」
「ん? カメラ握ってないとやばい的なのか? そういうときは、フレームを指で作って心のフィルムに焼き付けるんだよ」
そして、思い出は胸の奥だ! とドヤ顔をする前でげんなりしてしまった。
カメラやるやつの前で、心のフィルムがどうのとぜひともやめていただきたい。
心のフィルムを人様に説明するためには、話をしないといけないので大変なのだ。
「んで? おまえそんなに目、細かったっけ?」
「目をカッて開くと美少女っぽくみえるから、対策。瞳の大きさは男女の明確な違いなのだよ」
ふっふっふ、と、ちょっと得意げにいうと、そういうもんか? と彼はそっけない態度だった。
ちょ、まって。この目を細める偽装は、高校の頃も大活躍したノーマル装備だというのに。
「ならもう、美少女で通しちまえばいいだろうが。俺別に、お前が女子の水着着てもおどろかんよ?」
むしろ男物のほうが浮くから、といわれて、えぇーと不満げな声を上げた。
いちおう、今日は更衣室でいろいろあったけど、普通に男子である。視線さえ向けられなければ別に、問題は起きないはずなのだ。
そして、男子というものは基本的に、イケメンを除いて誰の目にも入らないものなのである。
一部品定めしてるひとがいれば話は別かもしれないけど。
「おまたーせ?」
「おぉっ。お二人とも……これはこれはお美しい」
そんな不毛な会話をしていたら女子二人が着替えを済ませて集合場所のここにご到着。
女子のほうが着替えに時間がかかるものだから、必然とこうなるわけだ。胸を作ったりいろいろ大変だしな。
木戸さんは今日は胸はつくってないですよ? そりゃガムテープとかも持参してません。
「あれ? 木戸くん眼鏡じゃないの?」
「そういう磯辺さんこそ。ってプールは眼鏡禁止なのは同じ眼鏡ラーとして知ってるだろうに」
磯辺さんの素顔を木戸として見る機会がくるとはさすがに思っていなかった。この人の素顔はコスプレイベントの時には見たことは散々あるのだけれど、普段はずーっと眼鏡なのである。
どっちが可愛いか、といわれたらまあ、こちらと同じく、素顔のほうが抜群にかわいかったりする。
ちょっときつい感じのお嬢様風味なコスが似合うのだし、美人さんではあるのだ。
「ほほー。相変わらず可愛い……くねぇよ? なによその細目っ。いつもみたいな自信まんまんのらんらんとした目つきはどうしたの?」
は? え? 何? とルイを知ってる磯辺さんは思い切りこちらの細目もっさりモードにかみついてきた。
やめていただきたい。 ここにいるのは木戸馨なのだ。
そもそも、いつもみたいとかそういうことは言わないでよ。それではまるで他のどこかで磯辺さんと個別で会ってるみたいに聞こえるじゃないか。
「いつも通り大きい目をしてると、女子っぽさがあがって、この水着とあわぬのだよ……今日は俺、男子としてこの場にいるので。無事に過ごさせてください」
まじ頼むからっ! と磯辺さんにだけ上目遣いでお願いをしたら、お、おぅ、とオタク女子っぽい返事をしてくださった。それで男子としてとか……とぽそっと聞こえたけど、いちおうは静かにしてくれるらしい。
「にしても、アッキーはどうして私の影に隠れてるの?」
こそりと磯辺さんの背後に半身を隠しているのは田辺さんだ。
白のビキニという割と攻めた感じの水着で、胸のラインもきれいだ。けして姉のように大きくはないのだけど、張りがあってちょっと上にツンとはっているのが被写体としていい。きっとそこに視線を集中させる男子は多いのだろう。
うん。我ながら、おっぱいなくてよかったよ、と思ってしまうのはちょっと、ずれてしまっているだろうか。
「だ、だって、いざ着替えたら……ちょっと大胆すぎたかなぁって」
「いいんじゃない? 肌白いし似合ってると思うよ」
とりあえず失礼にならない程度にちらりと全身をみて寸評を言う。じろじろ見過ぎると嫌がられるし、かといってちらっとみて適当に言うのもいけない。
「ちょ、あたしにはコメントないのー?」
そういう磯辺さんの水着はライトイエローのビキニタイプなのだけれど、パレオを巻いているから露出は少なめだ。
「はいはい。脱ぐとすごいですよー。きれいですよー。ねぇ、お嬢様?」
げんなりと言ってみせつつさっきの意趣返しもしておく。うぐっと彼女も嫌そうな顔をするのだが、そんな表情すら赤城にはツボらしく、彼はもうこの世の天国と思ってどこかに飛んでしまっている。
田辺さんもスタイルはいいけれど、レイヤーだけあって磯辺さんのボディづくりは半端ない。ウエストラインもばっちりだし、なんといってもポージング。普段から染みついてる見せる角度がその輝きをさらに昇華させている。
「アッキーと比べるとそりゃ少し見劣りはするだろうけど、そのテキトーな感じは……って。まぁ……自分の裸見慣れてればそんなもんか」
「むしろしのさんが着ればいいのにー」
ぷぅーと田辺さんまで便乗してこちらの体をじろじろ遠慮なく見回していった。
薄い肩とつややかな肌。二の腕まで白くてほっそりしていて、皮膚の状態も張りがあってみずみずしい。
男の水着に包まれているから、意識されないで済んでいるが、女子水着になれば視線を集める自信はある。
「いや、まー着れるけど、今日はこっちでって話だし」
「さっきもいったけど俺は別に、おまえがしのさんやってもいいんだぜ? その方がハーレムっぽくていいしな」
それに、男としての魅力も、その細っこいもやし体型だとないしな、と割と真顔で赤城は言ってきた。
ううん? もやしは安くて栄養価の高い食材ですが、なにか。
「男女2:2のほうが絶対いいぞ。女子比率が高いとナンパ頻度があがる」
やめておいた方がいいと真顔で忠告すると、赤城が、お、おうとあやふやな返事をしてきた。
「ちょっと、木戸くん……経験あるみたいな言い方ね」
「うちの姉と一緒にプールいったときにちょっとなぁ……あの人胸でかいから声かけられまくっててね。それでその仲裁に入るとこっちのこと見てきて、姉妹で一緒にどう? みたいな流れになって……」
男だと言うと、それでも胸元のぞき込んできたというと、うはぁと三人が微妙に不憫そうな表情を浮かべた。
「あんたのことだから、どうせ胸でも隠す仕草でもしたんでしょ?」
「それは、見られてから! って、赤城もまじまじみんな」
拗ねたように体を斜めにして、胸元を両手で隠すと、ぶふぅと赤城が一人でもだえ苦しんだ。
うぐっ。均整はとれてるんだが……くっ、となぜか悔しそうな声が漏れてる。意味不明である。
「……でも、木戸くん……あたし今まで木戸くんのことなんか全然眼中になかったのだけど……」
君にはショタ少年の素質がある! とわしりと磯辺さんに両肩をつかまれた。
「あのですね、磯辺さん。俺もうちょっとで二十歳なんですよ。それを捕まえてショタはどうなんですか」
「なによ、男として一ミリも育ってないって、ある筋から聞いたんですからね。ならショタじゃない。ほらほら、いうといいよ、おねーさんっ、僕、へんじゃないかなぁ」
はいっ、といわれても答えるわけもない。
「志保ったらいつもとちょっとテンション違うよ?」
「はっ。えええと、そのですね。それは、そう! プールの魔力がいけないの!」
思わず本性がでてしまった磯辺さんは、あわあわと的確な指摘に適当な答えを返した。
彼女は、オタク方面のことを友人の田辺さんにまで隠しているのである。ショタ趣味くらい一般でもいるとは思うのだけど、それすら言う気はないらしい。うむん。たしかに一般の人に幼女趣味をアピールすると危ないやつっておもわれるだろうけど、女性がショタ好きなのを言ってもそこまで危険視はされないとは思うんだけど、どうなんだろう?
変な趣味だねとは言われそうだけど、実際、赤ちゃんってかわいいよねーっていう延長で、少年も可愛い! になったりしないもんなのかな。今度こっそり磯辺さんに聞いておこう。
「それに、木戸くんのぜいたくボディに悩殺されてしまったの! あれでおっぱいがあったらって思うと、やばくない?」
「……うん。それは思った。肩とか普通にキラキラしてて、どうすればあの肌質を保てるのか……」
ごくりと田辺さんまでこちらの体をじろじろと見てきた。
ええと。こういう場合って、普通は女子の方で盛り上がって終了なんじゃないでしょうか。
「半端ない破壊力。木戸くん。君がモテないのは……きっとあれね。かわいすぎるのがいけないんだわ」
「モテなくていいんです。それよりも泳ごうではないですか」
さあさあ早く早くと、みんなを促すと赤城が待ったをかける。
「いや! まて木戸。あのイベントを忘れてるぞ! 水辺といったらあれだろうあれ」
「あれってなんだ?」
「日焼け止めだ! 女子の柔肌に日焼け止めを塗るあのイベントだよ! 横になってもらって背中にぬるアレだ」
鼻息荒く、そういう様はさすがにちょっとドンびく。
どこぞのギャルゲーのそれこそ友人ポジションだ。久しぶりに青木の残念ぶりを思い出した。あいつも前のプールの時はルイさんに日焼け止め塗りたがったものな。
「俺はもう塗ってある。田辺さんたちは?」
すでに、プールに入るのが確定していたので今日は全身に日焼け止めを塗ってきている。昼過ぎあたりでまた塗りなおす予定だ。顔はもちろん、肩や腕やお尻なんかにもきちんと塗り込んでいる。
「あーあたし達ももう更衣室でぬりっこしてきちゃったから」
「んじゃ、俺が赤城の肌に塗る……なんてしたら、磯辺さんが大喜びしそうだから、とりあえずプール入ろうか」
男子同士で日焼け止めを塗り合う。その光景は多少でも腐要素を持っている人間ならば、垂涎である。
ただ腐ったフィルターを通さないとさすがにちょっとシュールな光景かもしれない。
「わーったよ。どうせ俺は焼けてもいい人間だよ」
ちぇっと拗ねたような声を上げて、赤城は流れるプールにちゃぽんと入った。
久しぶりにぷかぷか浮かんで流れますかね、と木戸もそのあとを追ったのだった。
まずはプールいきましたー! といったところでストップです。
いや、事件現場までいってもよかったけど、きゃっきゃしてたらこうなりました。
男子の水着はだぼっとしていて、確かに布面積は多いのだけど……おぱーい隠さないで大丈夫なのかい、馨くんや、ときっと読者の皆様は思っていることかと思います。
さて。プール話はまだまだ続きます。次話では、男子のプール姿をお届けしつつ事件の匂いが、というわけで。




