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341.二回目の撮影会議

撮影会議です。久しぶりに木戸くんが男子なのもあって、すんごい地味な話に……ま、まぁ日常なんで、こんな感じで。はい。

「みなさま、定期試験が終わって悲喜こもごもとしているなかお集まりいただきありがとうございます」

「ちょっと間が空きすぎだと思いまーす」

 七月下旬。

 特撮研の部屋……では入りきらないので、会議室を一つ借りて二つの大学のサークルさんと一緒に会議を始めた。


 前にやったのがGW開けだから実際もうなにもやらずに二ヶ月が経っていることになる。

 そりゃ、間が空きすぎっていわれても誰もなんにも反論はできないと思う。

 前回の時には時宗先輩ったら、夏までのスケジュールはどうかーなんて聞いてきたわけだけど、結局はなかなか集まれなかったというわけなのだ。大所帯ならではのままならなさである。


「……五月下旬は、連絡したらまだ、どうするか決めあぐねてるって話がきて、六月は旅行に行くのですまないって返事がきて、七月はテストだろ……もともと夏イベントに向けてがんばるぞーな流れじゃないんで、夏休みかけて交流しつつ、ぐだぐだやってけばいいと思っています」

「反論の余地もない」

 そのせつは申し訳ないと、川面の会の会長さんがいった。

 六月は旅行に行ってのか……なら、いろんな写真とか撮ってきてるだろうか。


「馨は、夏イベントはどうする、つもり?」

「特撮研で出ないなら一人でぷらっと、ですかね」

 隣にちょこんと座ったノエルさんにぽそっと尋ねられて、こそっと答えておく。


 今年の夏は、エレナのコスROMを出す予定もないし、出店者としての参加はしない。

 やってみたい男の娘のストックがいまいちたまってないというのもあるのだそうだ。

 おまけに、六月の誕生日から始まったエレナとパパさんとの騒動にも、もろに影響を受けている。

 なので冬には、なんとかしたいよねーなんて話をしているところなのだった。


「えっと、ノエルさん?」

 きゅっと、期待のこもった目をむけつつ手を握ってくるノエルさん。

 これ、是非とも夏は撮ってくれと言わんばかりのアピールだ。


「まあ、馨にぃ。今年こそは待ち合わせしてちゃんと撮ってくれよな」

 うん。うんうんと頷いているノエルさんに苦笑まじりに、はいはいと答えておく。

 そんなに力が入っているなら、ルイさんとしては是非とも撮らせていただきたいところだ。


「はい、そこっ、私語はつつしむように! つーか、木戸、ノエルさんと親密になるの早すぎ。俺ですら会話まともにできねーってのに」

 こそこそ会話をしていたわけなのだけれど、時宗先輩から注意されてしまった。

 くそぅ、と拳をにぎりしめている朝日先輩には、こう言ってあげる以外にない。


「朝日たん爆誕すれば、ノエルさんとは仲良しになれますよ?」

「それはーいうなー、俺はそっちにはいかねぇ」

 絶対無理、と頭を抱えながら、あぁうちの女装娘たちはー、と遠い目をしていた。


「っていうか、そっちって被写体側でってことでいいんだよね?」

 女装のほうじゃなくてさ、と志鶴先輩が苦笑混じりにからかうと、会議室のみなさんから笑いがあがった。

 えっと、いまいち今のはわからなかったな。朝日先輩のそっち(、、、)はどう考えても女装のほうだったと思うのだけど、そう感じちゃった朝日先輩の汚染具合をからかったのだろうか。

 ああ、今日も特撮研は平常運転である。


「さて。冗談はこれくらいにして、夏の撮影スケジュールを決めちまおう。話し合うことはまだまだあるからな」

「うちのガッコーはお盆時期と九月の頭はパスでーす。ちょいと会で旅行でもいこっかーって話が」

 ぴしっと川面の会の会長さんが駄目な日のリストを提出していた。

 って、六月も旅行いってたのに、また行くのですかいとちょっと羨ましくなった。

 

「夏合宿! いいなぁ。うちもどっかいかないのー? 時宗新会長ー」

「うちは行けないっすよ。夏祭りくらいで我慢してください」

 えぇーと、志鶴先輩から残念そうな声が上がるものの、今の所特撮研でどこかに行こうという話はでていない。

 いちおう鍋島さんたちは、柊さんを連れて近場の海とかに遊びにいくって話だったけど、木戸には声がかからなかった。まあ、さゆみちゃんは、男装している先輩は連れて行かなくていいんです? とか言ってくれちゃってたのだけど、うん。そっとしておいてください。


「ノエさんとこは?」

「うちもお盆がダメ。夏祭りは絶対でるし。できれば七月に打ち合わせを終えて、祭りの前の一週間はあっちに集中したい」

「今年やるコスが新作なんすよ。それでちょいと時間が欲しい感じで」

 なんか三つでやるとすりあわせ大変ですねーと、黒やんが少し申し訳なさそうにしていた。


「ま、すぱっと決めて、ばんばん行きましょう」

 時間がないなら、それなりに、と言う時宗先輩にみなさん頷いた。

 一応の完成予定は冬なわけだけど、大撮影会はどちらかというと出来たものの販売だけではなく、作るまでの過程も一緒に楽しもうという部分が大きいらしい。


「せっかくだから、四季でキャラを変えて見たりとかはどうでしょう?」

 では、と川面の会の方から提案がでた。

 それぞれの大学のサークル事で一つずつの季節を担当するような感じで、冬だけみんなで合わせるとか、という意見はちょっと面白そうだ。

 でも、一つだけ問題がある。


「背景とかが無理じゃない? さすがに丸一年は撮れないというか」

 そう。ルイの四季シリーズなんかは一年間田んぼを撮り続けるなんてのもあったわけだけど、それは一年間しっかり時間をかけて撮ったものだ。大撮影会だとちょっと厳しいような気がする。そこまで悠長に作業をしていたら冬のイベントまでに間に合わない。


「室内にすれば多少はいいんじゃない?」

「あとは……ほら、合成っていう手段が……」

 うち、出来る人いますよーという声が川面の会から上がった。

 合成……か。未先との交流があるから木戸も多少そっち方面の知識はあるものの。

 コスプレ写真で使った経験というのはまだない。今度作るエレナのコスROMでは何枚かそういうのも入れたいよねって話はしてるけどね。

 特撮研も何人かは合成はできるから、時間をかければやれるかもしれない。少なくとも一年待つよりは早くできる。


「でも、元素材、ないよ?」

 ノエルさんの一言に、うぅ、とみなさんの表情が暗くなる。

 いちおう、写真の編集ということで、色彩や明るさなんてのも変えられるけど、それは季節を作るわけではない。

 合成するにしても、大本がないとどうしようも無いと言うわけだ。 


「なら、夏と秋だけ、とか」

「それでも悪くないけど……うーん。あ」

 奈留先輩がなぜかこちらを見て、名案を思いついたというような顔をした。


「背景素材になりそうなのをいつでもどこでもばしばし撮ってそうな知り合い、みんないないかにゃー?」

 ふふふんと、奈留先輩は、黒やんとノエさんを見て言った。

 そりゃ、まあ。ルイさんなら持ってると思いますけどね……


「ルイねぇに頼むにしても、名前は出さないでって言われますよきっと」

「……放出してくれるか、疑問」

 じぃと、二人の視線がなぜか木戸に集まっているけれど、こちらはそしらぬ顔である。

 

「それは聞いてみる方向でいいとして、加工をする気力が、出来る人達にあるのかききたいところです」

 とはいえ、こちらに視線がむかっているという事実を気にする人もいるだろうから、少しだけ意見を出して方向転換しておく。

 未先なら、嬉々としてやりそうではあるものの、どの程度がこのメンバーでできるのか。そしてそれをオッケーとするのかというところもある。

 木戸は……というかルイはそこまでコラージュにこだわりはないけれど、生の写真がいいんじゃい! という人もいるかもしれないしね。


「俺はまー、やれる。時間に余裕もあるしな。川面のほうは……」

「あー、やれる子いるから、時間さえ貰えれば。というかコラージュやりたい子がちょろちょろ入ったりもあったから、それでコレを機に頑張ってみよー! みたいなノリでした」

「うちは、年中部屋にこもりっぱのぶちょうを引っ張り出せばいける。でも、もしかしたらルイの生写真がいじり放題とか、そういう餌がいるかも」

 ルイねぇの生写真っていっても、写す方で、撮られた方はくれそうにないのが悩ましいですが、と黒やんが肩をすくめている。


 ほほう。誰の生写真を餌にすると? なかなか強気な発言をしてくださるものだ。

 もちろん黒やんが言うように、こちらが被写体になったのはそんなに多くないわけで。

 しかも大々的に撮っていいよ! みたいになったのは着物のモデルの時くらいなものだと思う。

 

「んじゃ、ルイさん宛の交渉は、仲良しなノエルさんたちにお任せとして、作品と衣装決め、やっちゃおうか」

「なんていうか、これだけ人が集まると、なんかすごくやりづらい……」

 いちおうやりたいものは、リストにしましたが、と川面の会の会長さんが少しだけ顔を歪めた。

 季節で割り振りはルイさんが背景画像を放出すればOKとして、それ以外のキャラも当然決めなければならない。

 コスプレ会場の合わせの場合は、「コレやりたい人この指とーまれ」とか、あと現地で集まってわいわいやって気がつくと全キャラがそろうなんていうこともあるのだけど、今回は趣味や嗜好が違う人達がそろっているのだ。

 それで一つのモノをつくろうとするのは、求心力というものが求められるものである。


「ええっと、以前の大撮影会のときはどうやったんですか? キャラ決めとか」

「いやーあんときは、確か……当時爆発的に流行っていたのに乗っかった感じ、だったかな」

 でも、今年はそこまでのがないし……モデル組はだいたい女子ばっか、でしたっけ? と周囲に確認の視線を時宗先輩は向ける。


 特撮研のモデル組は、志鶴先輩と、奈留先輩、そして鍋島さんと、今年入ってくれた柊さんと、思いっきり女子である。志鶴先輩は女子カウントで間違いではないと思う。だって、男装コスはよっぽどじゃないとやらないからね。


「お困りのようですなぁ、みなさん」

 いまいち、どうやって議事進行をしようかと悩んでいる時宗先輩に、かかる声があった。

 パタンと会議室の扉が開かれ、そこにはずばんと、衣装同好会のメンバーがそろっていた。

 

「ひさぎさんだ……」

「おぉ、ひさちゃんだ」

「四回生のはずなのに、まだメインでやってるんですね……」

 衣装研究会のみなさんの姿を、というか、ドヤ顔ぎみのひさぎさんの顔を見て、思わずつっこんでしまった。


 千紗さんとひさぎさんは、ルイの二歳上だ。となると今年は就職活動まっさかりなのではないだろうか。

「うちもう、アパレルメーカーの内定もろうとるんよ。これなら夏祭りも思い切り参加できそうやし、学生最後の思い出作りをしたくてなぁ」

 後輩にはちょっとうざがられそうやけど、そこはぁ、作品のクオリティでお返しやわ、とふわふわした声が漏れた。

 

 みなさんとりあえずぞろぞろと会議室に着席する。去年よりも二人くらい増えてるから新入会員が無事に入ったのだろう。

 ちなみに、ひさぎさんのこの時間の乱入はもともと予定通りのことだったらしい。

 時宗先輩は特に驚いた様子はなかった。


「じゃ、衣装を作る側から、意見あげてもらいましょうか。ひさぎ先輩、とりあえず壇上へどうぞ」

「うちからの提案は、一冊つくる上で、まとめるのか、散らすのかってところやね。和系とか、異世界系とか、ジャンルで絞ってしまったほうが売りやすいし作りやすいけど……みんなばらばらに好きなの撮って、それで順番で魅せるってのもありだと思うし」

 なんの衣装でも作る時間と気力はあるんやえ、とひさぎさんはにこやかに言い切った。

 後ろのメンバーはちょっと豪華なのは勘弁して、とちょっとどきどきしてるような不安顔である。


「じゃー、統一感を持たせるかどうかってのは、今いるメンバーで決を採っちゃおうか。では、統一感を持たせた方がいいと思う人は挙手を」

 ぱたぱたと手が上がっていく。

 もちろん木戸も軽く手を上げておいた。

 確かにばらばらでっていうのは、それぞれやりやすいとは思うけど、それでは一緒にやる意味というのが薄れてしまうような気がしたのだ。


「それでは、統一する方向にしても……どういう統一にするか、だよなぁ」

「作品を何個か絞ってしまうか、それとも……」

「モデル組並べてみて、どういう服を着せたいかってのをみんなで見てみるといいのでは?」

 会議が空転しそうだったので、そこで木戸は一つ提案を入れておく。


 なんていうか、漠然としすぎているからいまいち形にならないのだろう。

 もちろん、キャラありきで行くことのほうがエレナとの場合は多いけど、これだけ人が多いと入り口がそっちでもいいのかもしれない。


「んだな。お手数だけどモデル組のみなさんは前に」

「えっと、うちはモデルの子あと二人ほどいるんだけど……」

「その二人の写真があれば、テレビに映しておきましょうか」

 川面の会は撮影組の方を中心に話し合いに参加しているらしい。SDカードを差し出してきたので、時宗先輩はそれをテレビに差し込んで表示した。

 イメージの話になるのをわかっていて撮ってきたのだろう。私服でポーズを撮っている二人の姿が映っている。


「あの、木戸先輩って、地味に……特撮研の隠れた実力者さんなんですか?」

「ん? 柊さん急にどうしたの?」

 ノエルさん達が前に行ったあとで、さゆみちゃんがこそっと声をかけてきた。

 近くにいると、どうにも声をかけづらかったようだ。

 この子もモデル組なんだから前にいかなきゃいけないのに、このタイミングで声をかけてくるというのもどうなのだろう。


「だって、ノエルさんとも仲良しだし、クロキシさんとも仲良しだし……それにさっきの議事も割と先輩の一言で回ってることが多かったから」

「それは偶然だと思うけどね。それと時宗先輩はちょっと交流が薄い女子相手だとびびりになるので」

 たぶん、言いたいことを言えるくらい馴染めば、議事は上手く進むようになると思うよ、というと、そういうもんですかねぇ、とさゆみちゃんは少し考え込んでいるようだった。


「でも、交流ですか……結束をするという意味でも、一度呑みにケーション的なものをやってみるのもいいんでしょうか」

「ま、スケジュール次第だと思うよ。うちは開催校ってことで全員これてるけど、二つの他のメンバーがどうなのかわからないしね」

 提案してみるだけしてみるといいんじゃない? と言ってあげると、そうしますっ、と柊さんはにこやかに壇上の方に向かっていった。


「正直……俺もこの規模の企画は経験ないから、手探りなんだけど……まあ、良い写真を撮るための下ごしらえだし、喜んでやらせていただきますとも」

 三校合同の写真撮影。それだけ束ねる人数が増えるとやはりお互い遠慮したりとか大変なところはあるけれど。

 楽しくやれればいいな、とモデル組が並んだところを一枚カシャリと撮りながら、そんなことを思ったのだった。

滅茶苦茶書くの大変でした! なにって一部屋に二十人くらいいるような状態で、誰に何をはなさせるかーって悩ましいところで。作者的に五人以上登場人物がその場にいるとテンパります。

結局、いても喋らない子がでてしまうのだけど……鍋島さんたちもちゃんといますからね!

今回は、新入会員が「最初の印象からおかしい木戸くん」を見直すところが一番のところだと思います。

ゆっくり撮影を楽しめればいいとはいえ、こういうところをまとめられる人ってすごいよねーと正直思います。


さて。次話ですが。そろそろ八月も終わっちゃうので! プール回です。水着回です。

大学の友達と、久しぶりに男子として水着を着ます! トップスなしとか犯罪臭しかしないわけだが。

(夜追記:予定変更で、一話はさみます。フラグ立てとかないとプールいけなかったorz)

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