333.エレナさんの二十歳の誕生日5
パパさんとの会話まで行くつもりだったのですが、膨大になってしまったのでそれは次話で。
「よくがんばりました、坊ちゃま」
「いえ。中田さん。ボクのことよりも父のことです。どうしてますか?」
パーティーをなんとか終えてお客様をお送りしたあと、寝所で休んでいるおじさまのところにみんなで向かった。
エレンの声が固い。
会場に残っている他の面々も心配そうな顔を浮かべている。
さすがにあんな出来事のあとだ。エレナとしては、他のお客様とのやりとりでもそうとう疲労していることだろう。
残っているメンツは、ルイはもちろんのこと、さくらと、今日は沙紀とまりえも残っている。よーじくんはもうちょっとしたら来る、というくらいだろうか。
そのメンツを見ながら、いっぱいいっぱいなエレナには悪いけれど、少しだけホッとしてしまっているなぁと、ルイは内心で苦笑してしまっていた。
うん。マズイ状況ってのはわかってる。おまけにおじさまったら、奥さま関連のトラウマもどばっとでてしまったりしている状態なわけで。普通なら最悪な状況なのだろうけど。
来るべくしてくる日がきた。エレナも自分もその日を想像しなかったことはなかったし、実際いままで話し合いもしてきた。その場に、咲宮の人間が同席しているのだ。
これ。いろいろ想定している中で、かなりありがたい展開の一つなのだった。
だって、沙紀ちゃんちだよ? 政財界の重鎮で、「孫を女装させて通わせちゃうような」ところだ。
それが味方にならないはずはないものね。
正直、エレナが一人の時におじさまから迫られるっていう状況じゃなかっただけ、ありがたいことだと思ってる。
マリーおばさまの件だって、こっちでフォローできるなら、みんなでの助力は惜しまない。
もちろん、なるべくエレナ一人で頑張ってもらうつもりだけどね。当事者じゃない身としてはそんな分析だ。
「まだお休みになられています。相当、そのショックだったようで……」
「中田さん。マリーさんというのはエレンのお母様ということでよろしいのですか?」
言いたくて言い出せない、そんなエレンの代わりにルイがまず事実の確認をとる。まりえさんたちから聞いてはいるものの、この状況はひとつひとつ確認作業をした方が、冷静になれるものだろう。
「はい。奥様のことです。十年以上前に……そのお亡くなりになられているのですが」
「父様から直接母様のあの日の話を聞いたことはありません。中田さん。あのときのことはボクもうっすらとしか覚えていなくて……遠い青と立ち上る煙と。そのとき父様の手を……あれ?」
違う。頭に手を添えてエレナが困惑した顔を浮かべる。
「奥様を見送ったあと、旦那様はその場でお倒れになったのです。ちょうど今日のように」
あのとき貴方の脇にいたのは、わたくしめでございますと、中田さんは告白した。
エレナも幼さとショックで記憶に齟齬があったらしい。
「旦那様は奥様を大切にされていました。だからこそその死を受け入れられずに、大きなストレスを抱えてしまった」
「でも、そのあとは立ち直ったのでしょう?」
今まできちんと当主として仕事をこなした。何度もあっていないけれど、おじさまは錯乱しているという感じは見受けられない。
「立ち直ったというよりは……記憶の奥底にあの日の記憶を封じ込めて思い出さないようにしているのでしょう。奥様の部屋を整理しないのもそれが理由です。ですからルイさまやさくらさまにお召しいただいているものも、奥様があまりお使いにならなかったものにさせていただいています。下手に刺激するようなことは避けたいので」
なるほど。綺麗に整えられてあっても、そのまま部屋自体が放置されていたのはそういうことか。
もう十年も経っていれば、いくら愛妻の部屋とはいえ、そのままというのはどうなんだろうとちょっと思ってはいた。
「そんなに、エレナさんとお母様は似ているのですか? 一度ご挨拶させていただいたことはありますが……我らも小さかったもので」
沙紀さんが遠慮がちに問いかける。
彼らは幼なじみで小さい頃に家で遊んだという話もしていた。
そのときに会ったことがあるのだろうが、エレンより一つ年下の二人にはっきりとした記憶を求めるのは難しいだろう。
「はい。女性の出で立ちをされていますとそうとう。髪の色と瞳の色が違うくらいです。ブロンドと青い瞳をしていましたから」
「それって……あの写真とかぶりますね」
「はい。まさしくバートラム様がお持ちになっていた写真集のキャラは奥様の生き写しといっても過言ではありません」
もちろん、あのコスROMにはいろいろなキャラが入っているわけで。
そこには「コスプレとして当然」に、色つきウィッグと、カラーコンタクトなんてのも使ってるものはある。
日本人だとちょっと違和感もでかねないそれだけれど、エレナがやればその違和感は消し飛ぶのだ。
髪こそ少し弱めの黒茶というエレナなのだけれど、顔立ちはハーフという感じ。
ざ・日本人っていう感じとはちょっと異なっているのだ。もちろんまんま外国人って感じもしないので、言うほどお母様と似てるのかは悩ましいところだけど。雰囲気はそっくりだと思う。
「その姿を見て、過去のことを思い出してしまった、と?」
おそらくは、と彼は目を伏せた。
その様子に、みんなが沈黙する。
女装うんぬんというよりも重たい話が来てしまった。
ルイには死別という経験がない。
両親はもとより、その実家も健在だ。その重たさはさっぱりと理解ができない。だから正直その点に関しての戸惑いはある。
でも。なんとかそれは越えなければならない問題なのだというのもわかる。
「おそらくそうでしょう。旦那様は心から奥様のことを愛しておられましたから」
場に沈黙が落ちた。誰もなにもいえない。
けれど、そこでエレンが立ち上がった。
ちょっと、着替えてくるといって出ていった彼女はなにか決意したような感じだった。
「どうしちゃったんだろ」
すぐにでも父親のところにいくのかと思いきや出ていった方向は彼女の私室のほうだ。
そしてそれから間もなく。
扉がかちゃりとあいて。
「なっ、ちょーっと。それは」
みんなが目を丸くしている中で彼女は確かに言ったのだった。
「もう、荒療治するしかないじゃない?」
そうして。彼女はいつもよりも大人っぽいドレスに身を包みながら、隣で寝てるであろうおじさまの部屋にこっそりと忍び込むのだった。
「しかし、本当に良かったのかな? 一人にさせておいて」
「やー、だってさすがに家族のことだし。まずは任せてみたいなぁって」
用意された客間のベッドに腰をかけながらぱたぱたと足を振りつつ、ルイは難しい顔をしてみせる。
さきほどよーじ君から、もうちょっとで到着しますという連絡は受けた。
そして目の前には沙紀ちゃんとまりえちゃんがいる。
彼女達はまだパーティーの時の装いだけれど、ルイとさくらは先に着替えさせてもらった。
寝具に着替えるにはまだまだ早いので、ここに来た時の格好に戻ったと言えばいいだろうか。
そして、いつエレナが助けを求めてきてもいいように、一つの部屋につめている状態だった。
もちろん「お客様にそんなことをしていただくわけには」と、中田さんからはそれぞれの客間で休んでいて欲しい、ご夕食の時にはお呼びしますから、と言われたわけだけれど。
この状態でパジャマパーティーをするほどの気にはなれなくて、とりあえず客間を使って待機という感じだ。
「もし何かあったら、中田さんが連絡してくれますし」
内線の電話をちらりと見て答える。
それまでは待機していましょうと、みんなに紅茶を勧めておく。
もともと、エレナと昔話し合っていた手順だった。
もし屋敷で事が起こったときは、まずは一人で頑張る。それでダメなら助けてね♪ ってのがエレナの言い分だった。
その言い分は正しいと思うし、ここのみんなにも納得してもらっている。
親との話し合いは本人がやるべき事。変に庇ってもこじれたり後腐れが残るだろうからね。
もしどうしようもならなくなったら、みんなで手助けをしてあげればいいだけのことだ。
「よっし。じゃあ、ただ待ってるのもなんなので、あらためて、ルイ。この二人との関係を秘密無しでヨロ」
とりあえず落ち着いたところで、居心地の悪さをなんとか払拭するためにさくらが表情を変えて問いかけた。
これはもちろんルイのことをどれだけ知ってるの? というすりあわせの事をいっているのだろう。
でも、あからさまに沙紀ちゃんはびくりと体を震わせていた。秘密無しって言葉に反応したのだろう。
うん。ここはきちんと秘密ありで答えておこう。
「いくらさくらでも言えない事は伏せるよ。死活問題だからね。んで、それ以外だと大学の先輩と後輩って間柄、も今はあるけど、基本は友達かなぁ」
とりあえずな間柄を答えておく。秘密を共有している相手ということもあるけれど、さすがにさくらであっても咲宮家のお家事情までは教えられない。
「あー、さっきも話題にでてたっけね。木戸くんっていう変な先輩がいるーって」
「さすがにあの場でああいう話になるとは思わなかったから、びっくりしたよ」
まあ、てっとりばやい確認法だなとは思ったけどね、と肩をすくめておく。
「そして二人はまんまと、こいつの交友関係から、ござるになったわけか」
「ほら、長谷川先生がね……さくらも知ってるでしょ? 昔、エレナの写真撮ってた人」
「何回か話したことはあるくらいかな。イベント会場だと、これぞ典型的なオタクっていう感じの口調で喋るのよね」
それなら二人が影響受けてしまうのもしかたないかぁ、とさくらは正装をしている二人を見ながら苦笑を浮かべていた。
「さくらさんは……そのルイさんの彼女なのですか?」
きょとんと首をかしげながら、沙紀が遠慮ない台詞を口にする。
気が置けない間柄というやつを目の前で見せられて、思うところはあったのだろう。
「ばっ。いや。そんなんじゃないわ。こいつとは写真仲間。そう。自分よりかわいい相手と付き合うとかないし」
さくらはあからさまにきょどりながらも、こいつはないわー、と全力で否定をしてくださった。
「それにあたし今、彼氏いるし」
そしてさらに衝撃的なことを言ってのけた。
うん。そういえば石倉さんとの話をしていたのは、ドレスに着替える頃で、沙紀ちゃん達は知らない情報だったね。
「ああ、もう、あの写真バカのさくらに彼氏ができるだなんて。おねいさんはもう、感動なのですよ……」
よよよ、と嘘泣きをしてあげると、あんたはもう、とさくらにため息をつかれてしまった。
「いっとくけど、会わせないからね」
「えー。なんでなんでー」
会わせてよーとうるんだ目でお願いすると、このーとさくらに怒られた。
最近、彼とは疎遠なので、せっかくだから紹介してもらおうと思っていたのに。
「あんたね。男ホイホイな自覚を持ちなさいよ。おちおちあの人をあんたになんてやらないんだからねっ。あたしが気に入るんだもの。あんただって好きになるかもしれないし」
「残念。あの人の写真は尊敬するけど、アーッて関係にはちょっと……」
「くっ。こいつったら、とんでもないアドバンテージを隠し持ってからに……」
むぅとすねた顔をするさくらはやたらとかわいかった。手元にカメラがあればすぐにでも撮っておきたいくらいである。
「まったく、お二人ともいいパートナーなのですね。まるで幼馴染みたいです」
そんなやり取りに素直な感想がまりえさんからきた。自分たちのこともあってそう思うのだろう。
「そうはいってもまだ深い付き合いをして三年半なんですけどね。幼馴染くらいになじんでる自信はありますけど」
もー、それこそ幼馴染レベルで振り回されましたよーとさくらがげっそりといった。
げっそりはしてるけど、少しだけ楽しそうに笑ってるところが特徴だ。
「それよりもー、お二人の関係のほうが気になりますねぇ」
こっちばっかり探られるのはなーといいつつ、さくらがスクープをものにしようとする下心たっぷりな記者のような視線を二人に向ける。できてるんじゃーないですかいと言いたいのだろう。
「ま、まりえは別に、ただの幼馴染だし……同級生みたいな感じ?」
「そ、そーです。沙紀はどっちかというと昔からだらしのない同性の友達ーみたいな感じですし」
二人ともなんでそこでしどろもどろになるのだろうか。
まりえさんの言いぐさも文字だけ追えばなるほどと思うけれど、それだけ照れってれで言われると説得力がない。
「幼馴染……かぁ」
その単語でちらっと嫌なことを思い出した。
幼馴染の縁で先日ひどい目にあったばかりだった。
「なにそんなに深刻ぶってるの? あんたの幼馴染ってそういえば聞いたことないけど」
「最近、そーんなに小中学の友達と遊んでないけど、一部にはばれちゃってるからねぇ。さすがに春先の事件の時はメールで心配してくれた。っていうかもってもてねってうらやましがられたけど」
「確かにそりゃ、同級生がテレビでてたらメールはするかもなぁ。最近あたしも慣れてきちゃったけど、ミーハーな人も多いわけだし」
けれどもだ、とさくらに手首をつかまれてしまった。あんたはどこに行こうとしているのだ、と。男性アイドルにモテモテとかどういうことやん、と。
「小学生の頃は眼鏡してなかったからね。ふつーに女の子みたいな美少年で通ってたし、おんなじクラスの卒業生でもう一人いて、これがガチで女性モデルとかやってるもんだから、こっちもそのケがあるんでないのーって思われてるみたい。否定しておいたけどね?」
「へぇ。有名な人?」
「んと、写真あるから見せようか」
よっと、タブレットから鍵付きのフォルダを開いて写真を展開する。
それを見せると、うわぁとさくらがしこたま嫌そうな顔をした。
「あ、その方見たことあります。たしかファッション誌とかに出てましたよね」
「僕も見たことあります。去年になりますが母が買ってきて押し付けてきた雑誌に載ってました」
沙紀さんまでもが、見たことあるというのにさくらは少しだけぴくりと反応しながらもスルーしてくれた。
やはり男が女性ファッション誌を見るというのは少しだけ普通ではないのかもしれない。撮影の参考になるから木戸としても好きなのだけれど。
「って。ええぇ!!? これ、男の方なのですか?」
あれ、と先ほどの話を思い出しつつ、沙紀さんが驚きの声を上げる。
自分も女装してきた身としてこの完成度の高さに驚きを隠せないのだろう。
「あー、これ撮影者のほうも相当なんで、なかなか写真じゃわかんないってば。瞬間よりも動いている映像を見たほうがあら捜ししやすいのは沙紀さんだってよーく知ってるでしょ」
「そりゃーまぁそうなんですけれど。モデルの方のポーズの取り方もありますけど、どこを撮れば目立たないかもわかってるというか」
写真家の腕というやつですかと、その写真の完成度に見とれながら吐息をはいている。
「そして、その写真を撮った人ってのが、あたしの彼氏だったりします」
はーい、とげんなりしながら挙手をするさくらの姿がちょっと弱々しくて可愛かった。
一枚カシャリとそんな姿を撮っておく。
「近くに影響し合える人がいるというのはいいことですね。でも、そんなすばらしい人なのに、どこか苦笑ぎみというか残念そうな感じが出てるのはなんでなんです?」
まりえさんはこちらの少し沈んだ感情を読み取ってそんなことを言ってきた。
「だって自宅にボードがあって、そこに写真がわんさと貼ってあって、どれもすんごいんだもん。被写体が生き生きしててホント好きなもんとってますーみたいなオーラがあって、正直あれはすごいと思った、けど」
かたよってんのよねー、と言わざるを得ない。
得ないけれど、勝手に彼女に家の中身を教えるのもルール違反だと思って、そこで言葉を止めておく。
「けど?」
それでもさくらは先が知りたいようで、さぁほれと促してくる。こいつめ。知ってて言ってるな。
「自然の写真撮ってる時のあいなさんみたいな感じ、なのかな。被写体のコト好きすぎてこまるみたいな感じ」
写真の内容はおしえなーいというと、もったいぶるなーと怒られてしまった。
けれどさすがに、その業の深い状態を沙紀ちゃん達に教える必要はないように思う。
「でも、それならルイさんだって十分そういう写真撮れてるとおもいますけど」
「学園祭の写真は本当によかったですし。みなさま来年もルイさんに撮っていただきたいなんて言ってましたもの」
「学園祭? 撮影? え? まりえさんゼフィ女って言ってたっけ?」
沙紀さんとまりえさんから入ったほめ言葉にさくらが反応した。
ああ、あのときのことかぁーと、少しだけ羨ましそうな顔をする。どうしてあたしじゃないんだーってしょんぼりしてたもんね、この子ったら。
「なるほど。それで女子高生撮りまくりーなのね。男子生徒からおねーさまぁなんていわれちゃったわけね」
「あー、さくらさん。うち女子高なので男子からどうこうっていうのはありませんでしたよ」
「え、でも、さっき沙紀さんもいい写真みたいなこと言ってたから、てっきり」
ゼフィ女は共学にでもなっていたのだとばかり思ってたよーと、探るような視線が向けられる。
おっと。さくらが珍しく感のいいところを見せた。けれどもそれでおたおたするような沙紀でもない。
「あー、うちの家、まりえの学校の理事長やっててね。学園祭の写真もそのつてで見せてもらったんだ。本当なら全部見れるのって学園の中だけで持ち出しも申請しないと無理なんだけど、特別というわけで」
「ず、ずいぶん厳重なんですね」
「そりゃ、ゼフィロスだもの。要塞っていわれるくらいに厳しいのです」
「ほほぅ。ルイさんったらお嬢様学校に潜入ですか。ぷぷー」
さくらが思い切り愉快そうに口を手に当てる。そりゃそうだ。彼女はルイのというか普段の木戸を散々見てきているわけで、それで女子高のお嬢様学校とかありえないと思っているのだろう。
「いえ、割と評判なのですよ? お嬢様っぽいかといわれれば、すこーし砕けすぎなところはありますけれど、そういうちょっとワイルドなところも素敵って」
「うわぁ。お嬢様ってギャップに飢えてるのかしら……確かにルイはかわいいし清純派ではあるけれどー」
これが女子高で、人気、ねぇと苦笑されたところで、ぱたりと扉が開いた。
一同ぴくりとその音に反応してしまう。
エレナが話を終えて帰ってきたのかと思ったのだ。
けれども、そこに立っていたのはラフな格好に身を包んだよーじくんだった。
夜から合流ということもあって、パーティー用の服装はしていない。
「遅れて、すまん。あの。エレナは?」
「ああ、よーじくん。今はおじさまのところに行ってるよ」
「一人きりにさせて大丈夫かな……俺もそばにいた方が……」
メールをすでに読んでいる彼は、事情はすべて把握済みだ。でも対処に関してはわたわたしてしまっているようで、気ばかりが焦るというような状態だった。
「とりあえず、ほれっ。お水でも飲んで落ち着きなよ」
ご飯は食べたの? と聞くとぐいっとコップを一気に空にしてから首を横に振った。
前の用事というのでは食事はとっていないらしい。
「なら、ちょっとお腹になにか入れておこう。なんならパーティーの残りのご飯温めるけど」
みんなも、どうする? と問いかけておく。今は客間にいるけれど、なんならセカンドキッチンに大移動をしてしまってもいいんじゃないのという気にもなっている。パーティーの時からそれなりに時間も経っているし、そろそろ夕食時といってもいい時間である。
「さんせー。ちょっとお腹も空いてきたし、さっき見繕ってきたモノを夕飯にということで」
ちょっと早い気もするけど、といいつつお腹をさすっているさくらは、またおいしいご飯が頂けると少し気を緩めたようだった。
でも、とうぜんよーじ君はそんなわけにはいかない。
「それでいいのかな……すっげぇ心配なんだけど」
「いいのいいの。っていうかよーじ君が行ったら余計こじれるでしょうに」
それなら、まだあたしのほうがマシだっての、というと、うぐっとよーじ君は口をつぐんだ。
彼は、エレナの恋人なのだ。ただでさえショックを受けてるおじさまに、実は彼氏もいますだなんて余計な情報を与えたら、きっとパニックを起こして煮え立ってしまうよ。
「お腹空いてるとサポートもできないからね。沙紀さん達もいいかな?」
「オーケー。っていうか、そうなると着替えたいなぁ……先に行ってもらってていい?」
「着替えは持ってきてるんだっけ?」
「いちおう平服と、寝具は用意してきてます。エレナさんからはこっちで用意するよ? って言われたんですが……ほら。絶対仕込んでくるなぁって思ってたので」
「ネグリジェパーティーでもいいと思うのだけど」
ふふっ、と笑いながら言ってあげると、沙紀ちゃんはそれは勘弁ですとわたわたしはじめた。
うん。心配なのはわかるけれど、これくらいの緩さで我々はいいのだ。
ご飯でもつまみながら、エレナの成功を祈るばかりである。
まずは舞台裏というか、ルイさんたちの待ち風景から。
ここはまとまった元データがあったところなんですが、いかんせん「パーティーって昼間に開催してんだよね」というのを失念していて、じゃあ余り物は夕飯じゃね? なんていう感じになりました。前の話も修正予定です。
まー、いつかはくるのはわかっていても、カムって作業は大変ですよね。エレナたんは仲間がいるのだから、きっと大丈夫! ってことで。
次話は、エレナパパとのお話です。




