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331.エレナさんの二十歳の誕生日3

遅くなりましたー。ご飯回ですよー!

「相変わらず美味しいよねぇ。お肉のとろっとろな感じがたまらぬ」

「そうよねぇ。しかも、なにげにお寿司とかまで用意って。これあたし達分でしょ、絶対」

 談笑をしている周りの人々を尻目に、こちらはそれこそ清々しいまでに立食パーティーのご飯を楽しんでいた。

 会場はエレナの家の大広間であることには変わらないけれど、かなりの大きさがあるのでテーブルの上のご飯もかなりの量だ。

 この会場の広さがあれば、きっとお掃除ロボットがうぃーんと思う存分働いてくれそうだよねぇなんて最初に来た時は思ったものだった。


「例年、生ものは放置されちゃうと良くないから控えてるって言ってたもんね。んぅ。生ウニが甘いねぇ」

 ノリもぱりぱりで、軍艦の生ウニは口の中でとろけていった。苦みよりも甘みが強いのはレアものである。

 シャリの堅さもちょうど良くて、本気だしましたっていう感じの仕上がりだ。


「サーモンもとろっとろ。ビュッフェでいったらいくらくらいしてしまうのだろうか……」

「ここまでなのは、あまり立食で出るところはないんじゃない?」

 食べ放題とかでお寿司がでるところはもちろんあるのだけれど、そういうところのはネタがちっちゃかったりすることが多いように思う。

 そもそも生ものの良いものは「出した瞬間が食べ時」なものが多いので、一番ビュッフェスタイルに似合わない食べ物なのだと思う。


 そんなわけで、二人でもくもくご飯をいただいていたのだけど、じぃと小学校高学年くらいの女の子がこちらを見ていた。いくら美味しいモノを食べていたとしても、そこまでじぃと熱烈な視線を向けられては気付かない方が難しいというものだ。


「えっと、おねーちゃん達、ここシャコウの場だけど、おしゃべりしないでご飯ばっかりなの、変じゃない?」

「せっかくご飯があるのに、食べないで喋ってばかりのほうが変だと思うけどな」

 食べたいなら、手をだすといいよ? といってあげると、うむむと彼女は悩み始めた。

 親に連れてこられたものの、知り合いなんてものは当然いないし、ご飯に手を出すのもダメっていわれてるのかもしれない。こちとら一般の人で、食べられるときにたらふく美味いモノを食べなさいが鉄則なのだけど、生まれ持ってのお嬢様というのは、いろいろ教育もあるのかもしれない。


「社交は大切だけど、遠慮したり暗い顔を小さい子供がするのはよくないよ」

 そんなやりとりをしていたら、隣にひょいと顔をだした青年が、お皿にかに味噌軍艦を取って食べ始めていた。

「……いいのかなぁ」

「パーティーなんじゃから、楽しくやらにゃーいかんのじゃー、って私の知り合いのご老人は仰ってましたよ」

 そしてもう一人。ドレス姿の女の子がグラスを片手に話に混ざってきた。

 いつもはちょっときりっとした感じだというのに、今日は割とゆるゆるの彼女である。


「うわぁ……めっちゃイケメンだ。なにあのさらさらな髪は……」

 さくらが隣でちょっとテンションを上げていた。まるで絵本からでてきたような王子様っぷりに、すぐにでもシャッターを切りたくてたまらないという様子だったのだ。

 その相手は、沙紀矢くんなわけだけれど。あの細い体つきに合わせるように作られたスーツ姿が、へたをすると男装しているようにも見えてしまうのは、お姉様としての姿をこちらが見すぎてしまっているからかもしれない。


「咲宮のご当主様がそんな事をいってたの?」

「はい。あの方は昔からそんな感じです。っていうか、社交の場は交流の場ですからね。ホストはゲストに楽しんでもらいたい、それが基本です。主催が会話中心でお酒だけがあればいいと判断すればご飯はそれなりになります」

 んー、でもここのご飯おいしー、とまりえさんは、いかそうめんを食べて大喜びだ。


「ってことは、エレっちがおねだりしたということかな。まあ、シェフさんとは仲良しみたいだし、きっと、仕方ないですね、と苦笑まじりにあのシェフさんはいろいろやらかしてくれそう」

「あー、料理を密かに習ってるとかでしたよね。いいなぁ。このクラスの人が教えてくれるとか」

「そうはいってもまりえさん達は、食べる方でしょ?」

 それは違いありませんが、と、まりえさんは優雅にホタテのお刺身をはむついていた。

 いちおう、四人でやる交流会では、料理の腕はエレナ>沙紀>まりえの順番だ。ルイさんは、庶民ご飯すぎて比較にならないので番外。美味しいとは言ってくれるし、おかわりもしてくれるのだけど、ランキングにはのれない感じなのだった。

 それはまあ。日頃にやるかどうかの違いにも直結するのかな、とちょっと思ったりもしたのは内緒である。

 

「だからねお嬢さん。ここの場合は別にいっぱい食べても問題にならないから、好きなの手にとりなよ」

 沙紀ちゃんの言いそうな台詞を横取りながら、ちょっと男前にそんな台詞を彼女に向ける。

 ほんと。これだけご飯があって、食べちゃダメとか、なんて拷問って感じである。


「うぅ。はしたないとか言われないかしら……」

 ぷるぷると手を震わせながら、恐る恐る彼女は軍艦のいくらをお皿に取った。

 そして、あむりと咀嚼していく。

 あ。すごく満足そうな顔をしている。一枚カシャリと抑えさせてもらった。


「大人は社交メインになっちゃうけど、君くらいの子なら遠慮しないで料理に目をキラキラさせてもいいと思うよ。僕もそれくらいの頃は、社交パーティー=ご飯会だったから」

「どこかの誰かさんは合コンをお食事会にまでランクダウンさせるくらいですからね。社交パーティーだっておいしいご飯が食べられる日、くらいの認識だと思います」

 まりえさんがにやにやとこちらに視線を向けてくる。あまり気にしないでこちらもいくらをいただくことにした。

 うん。ほどよい塩加減とぷちぷち感が美味しい。


「じゃー、私は、その。さっきから気になってたの、勇気を出して食べてくるので」

 お皿をきゅっと握りしめたまま、最初の堅い表情が消し飛んだ彼女の横顔をもう一枚抑えておく。

 うんうん。年相応という感じの顔になったと思う。

 彼女はとてとてと別のテーブルに向かっていった。


「微笑ましい一幕でしたね。少し昔のことを思い出しました」

「そうだね。昔エレンさんに、えぇーパーティーなんだから美味しく食べようよって言われたのを思い出しました」

「八歳とかそれくらい?」

「ええ。マリーおばさまの件の前ですから」

 そう答えるまりえさんは少しだけ視線を伏せていた。

 正直ルイとしては、過去よりも今の方が大切と思っているので、エレナの過去についてはあまり深く詮索していたりはしていない。

 けれど、おばさまが早めに亡くなっているというのは聞いている。


「八歳のエレたん。可愛かったろうなぁ」

「それはもう。沙紀と並ぶとまるで絵本から飛び出してきたみたいな感じでした」

「そっか……沙紀ちゃんにもそんな可愛かった頃があったか……」

 ああ、是非とも撮りたかったなぁ。写真残ってないかなぁとキラキラ視線を向けておく。


「い、今だってそれなりだっていう自信が……はっ。まずい。ルイさんに引っ張られかけた」

 いけないいけない。この年の男性が可愛いって言われないのにショックを受けるのはよくない、と沙紀ちゃんはかぶりを振った。ずいぶんと女子高生活が尾を引いているようである。


「それで、ルイ。そろそろ紹介してくれる気にはならないのかしら?」

「ああ、ごめんごめん。えっと……」

 一人で卵焼きを食べてるさくらがちょっと取り残されて拗ねたような顔をしていた。

 あまりにこっちだけでのやりとりをしすぎたらしい。


「こちら、エレさんの幼なじみの二人で、ゼフィ女にいったときに仲良くなった副会長さんのまりえさんと、そのお友達の沙紀矢くんです。ほら、去年花火を撮りに行ったときのあの二人のお孫さんだね」

「初めまして、昨年からルイさんには時々お世話になっています。たしか、さくらさんですよね。お祖母様から花火の時の話は伺っています」

「初めまして! それはそうと一枚いいですか?」

 さくらはカメラを構えながら、にへっと緩んだ表情をした。

 まあ、沙紀ちゃんは美人さんであるからして、そうなるのもわかるのだけれどね。


「あはは。さすがはルイさんの友達ですね。ドレスにカメラってどうなの? って最初は思ったけど、お二人ともわりと違和感ないですし」

 なにかのドラマの撮影とかそんな感じがしてしまいますといいつつ、さぁどうぞと軽くポーズを決めてみたりしていた。

 カシャカシャとシャッター音が心地よく響いていく。

 うん。三十枚くらいかな。ガンガン行っているようだ。


「一枚、といいつつ複数とるのはお約束みたいなもの、ということで」

 あとで私も撮らせてもらいますからね? というと、お、お手柔らかにと一歩引いた沙紀ちゃんの姿があった。


「そうそう。ルイちゃんが一枚って言ったら一万枚ってことだもんね」

 そんなところで、こちらを見つけたらしい男装姿のエレナが話に入ってきた。

 今日の主役ということもあって、いろいろなところで話をしているらしい彼女……彼というのもなんかしっくりこないから、彼女で行ってしまうけれど、昔あった気弱な感じはなりを潜めてこっちのかっこうでも割と堂々と受け答えをしているようだった。

 男装状態だと、あまり話すのが得意じゃなかった昔が懐かしいものである。


「一万枚は言い過ぎじゃない? せいぜい千枚ってくらいで」

「それでも十分な量だと思うけどなぁ」

 にこにこあまり声変わりのしていない幼げな声で、彼女は手近にあったアップルサイダーをこくりと飲み込む。

 ちょっと挨拶回りにつかれてきたところなのかもしれない。


「それと沙紀ちゃんとまりえちゃんも。乾杯の時にいなかったから、あれって思ったんだけど、来てくれてありがとね」

「ゴメンゴメン。渋滞で遅くなってね。それと誕生日おめでとう。エレンさん」

「ありがとー! それにまだまだ始まったばかりだし、ゆっくりしてって」

 去年、あらためて距離が縮まった幼なじみの前で、エレンはとてもにこやかな顔をしている。

 うーん。あんまり撮っちゃヤダよ? って言われてたけど、この顔は撮りたいなぁ……うーん。えい。

 カシャリと一枚だけシャッターを切った。どうせ男装してるようにしか見えないのだから、もう許して欲しい。

 可愛くないからヤダって言われそうだけど。


「これは……いやはや五年ぶりですかな。立派におなりで」

 そんな葛藤をしていたら、エレパパも声をかけてきた。

 まあ、咲宮の跡取り候補だものね。見つけたら率先して声をかけておくのは必要なことなのだと思う。


「三枝のおじさま。ご無沙汰しております。咲宮沙紀矢です。本日はお招きありがとうございます。そしてついに二十歳ですね。僕も来年なので少し羨ましいなと思っています」

 プレゼントは運ばせておりますので後で楽しみにしててくださいと沙紀ちゃんはあまり見たことがない大人びた表情をしていた。これが社交界慣れした人の余裕というやつだろうか。こちとら慣れはしたけれど、ご飯会に慣れてるだけである。


 そして、まりえさんも挨拶を終えた。

「まさか咲宮の方にお越しいただけるとは……」

「幼なじみですから。こちらの事情で社交界からしばらく遠のいていましたけれど、ようやく準備が整いまして。今年からは各方面の方のところに出向いていこうと考えています」

「その始まりが我が家というのは、ありがたいことです。噂によると体を壊していただとかいろいろありますが……」

 ああ、エレパパも、心配しているのか。とはいえ、しばらく社交界から離れていた理由を素直に言うわけにもいかないわけで。


「僕自身は健全でした。ただ、社交よりも基礎的なことを育てよって、お祖父様の方針だったのです」

 おはずかしながら、という姿は、まるで本当の事を言っているように思えた。

 でも、女子高に強制的にいれられていたなんて言えるはずもないので、まあその答えで良いのだろう。


「なら、それが終わり、一人前としてお目見えが可能ということですかな。たしかに以前お会いしたときよりも、ずっと大人びてみえますしな」

「大人びてるだなんて。僕たちより、ルイさんたちに向けてあげて欲しい言葉です」

 ちらりと視線がこちらをむかう。

 思い切り、サーロインステーキをはむはむしている姿を大人っぽいと表現するとは、さすがに沙紀ちゃんは大物である。


「……微笑ましいところだね。我が家のパーティーも彼女が来るようになってからブラッシュアップしていてね。エレンも、もっとご飯食べよ? って言っていて、年々ご飯をちょっとずつレベルアップしてるところなんだ」

「驚きました。咲宮のパーティーでも、ここまで豪華なご飯はあまりないですよ」

「よしてくださいよ。ご当主が美食家なあちらでは、参加したなら、とにかく話より食え、じゃないですか」

 ははは、と苦笑を浮かべているエレパパは、咲宮のパーティーも参加済みということか。

 くっ。ここより豪華な食事か……悩ましい二択が目の前にあるように思ってしまった。


 沙紀ちゃんにお願いをすれば、来年の誕生日とか友達枠で呼んで貰えないかとちょっと思ってしまったのだ。

 でも、エレナんちのはなれたけど、もっと格式高いと大変かなぁなんて思ったりするところもあったりして。

 さくらあたりは、やだよ、それはちょっとって言いそう。

 それにあっちの家の場合協力者はいないから、ドレスも自前になっちゃうのは、厳しいところだ。

 まあご当主であるお祖父様に全部話をすれば、喜んで準備とかしてくれそうだけれど。


「そこにご飯があるなら、満足するまで食べないとってエレンさんに言われましたし、社交をするにしても、私たちのような普通の学生には、あえてツテを作るような相手はいないのです」

 ツテを作るのだとしたらそれこそ、この会場に来ている記念撮影のカメラマンさんくらいなものだ。


「さきほど追い払っていただいたように、変なのに絡まれるのも嫌ですしね」

 はむはむと、今度はキッシュをいただきつつ幸せそうに頬を緩ませる。

 周りにいる人達はなんか、ほっこりしているようだった。


「そもそもはエレンさんの誕生日を祝う会ですから。小難しい話は抜きにして楽しく成人を祝ってあげましょうよ」

 お皿を片手に、にこりとそう言ってあげると、一瞬おじさまは呆けたようにこちらを見ていた。

 

「はいっ。じゃーボクらは他に挨拶もあるから、そろそろ行くね。まだまだ時間あるから、ゆっくり食べてって」

「いえっさ。えれっちも疲れたら帰っておいで」

 ん。ありがとルイちゃんと言い置いてエレンは忙しそうに離れていった。


「あれが、二十歳の殿方……」

 それで通じるものなのでしょうか、とまりえさんはフライをはむつきながら、疑問の声を上げていた。

 あ、揚げ物おいしいですぅーととろけそうになっているのは、見ない振りをしてあげよう。


「ま。可愛すぎる後継者って特集があったらダントツだろうけどね」

 誰かさん以上ですよ? と言ってあげると、沙紀ちゃんはなんのことやらーと、視線をそらした。

 さて。そろそろデザートにまいろうではないですか。

さぁ。パーティーといっても結局やることといったら、撮るか食べるか。

撮影の許可も今回はいただいているのでばしばし撮りながらのお食事です。


にしてもエレナさんちのパーティーって若い子あんまり来ないんですよね。そこらへんは次話でちょろっとふれようかと思っています。

そして。まったり風味できましたが次話に事件は起きます。

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