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324.男三人?の休日3

遅くなってスミマセン。ちょいと残業の嵐が……日常せちがらいorz

「男同士でくるもの、といったらここかな?」

 さぁ、どうよと千紗さんと別れたあとの我らは昼の晴天の中を歩いて、ついに目的地にやってきていた。

 そこそこの人気店のようで、道に数人並んでいる人が見える。

 店は二階だというので、階段にも列ができていて、そこそこの人数が待っているようだった。


「……志鶴先輩。ここ、普通のメイド喫茶ではないのですが?」

「やー、だってせっかく来たんなら、いっとこうよ?」

「まじ、ここか……」

 一階の壁に貼られた看板を見て、ぼそっと一言。

 以前はルイとしてだったので、来たことがあるとかは言えないのだけれど、そこは紛れもなくあの男の娘カフェだった。

 高校生の頃に男性恐怖症になったルイを治すため、という理由でさくらが連れてきたお店だ。

 もう二年ぶりくらいになるけれど、あの時の記憶はしっかりと残っている。

 腕相撲とかまでしちゃったしね。あのときのちょっとごついおねーさんはまだいるだろうか。

 

「あれ。結構並んでます?」

「んー、三十分待ちくらいかな。まー物珍しくて一回は行ってみようってなるんだと思うよ」

 真似をしたくてもなかなかクオリティの高い女装の子って仕入れるの難しいからね、と言われてしまったわけだけれど、貴女先日、大量に学校の子を女装させてませんでしたか? しかもかなりの高いクオリティで。


「先輩、さすがに腹減ったっす。これから並ぶのは……」

「馨は?」

「俺は平気ですよー、並ぶのは慣れてるし」

 っていうか、さっきの映像見てれば時間は過ぎますーとにまにましていると、まぁ、お前はそうだよねと苦笑されてしまった。


「うぅ、腹が。お腹と背中がー」

「はいっ。そんな朝日に、これっ、ね」

「んぶっ」

 がっと無理矢理くわえさせられたのは、長方形のちょっと黄色い感じの物体。


「さぁ、俺のマグナムウェポンをあじわうがいい!」

「んむぅー、んもも、んままもう!」

 くわえたまま全力で抗議をしているようだけれど、何を言っているのかはよくわからない。

 それを、もぐもぐと減らしながら、最後にペットボトルのお茶を飲んで、ふぃーと先輩は人心地ついたようだった。


「いきなりはひどいです! つーか、まぁ腹の足しにはなりますが、カ○リーメイトがあるなら、素直に下さいよ」

「だってー、馨がなんか反応するかなぁって」

「びたいち反応してないですから!」

 マグナムもウェポンもわけわかってないですから! と熱く言われたけれどこちらは小首をかしげるだけである。

 ただ、腹持ちのいい食事を提供しただけのことだろう。


「やれやれ。ちょいちょい男装状態だと、エロいネタを入れて馨の反応を見ようとか思ったけど、無駄っぽいなぁ」

 あーあ、と投げやりになってしまわれた先輩がただけれど、うーん。なんか複雑な気分である。

 ネタとしては分かるけど、あんまりそれが恥ずかしいとかって気持ちとリンクしないんだよね。


 それよりいまは、周りの並んでいる人たちの会話のほうが気になった。

「あー、今日はつぐタンいるのかなぁ」

「拙者、つぐタンにぜひ接客していただきたいでござる」

 ござると言っているものの、もちろん長谷川先生ではなく普通にオタクさんだ。

 この街には、かつてより減ったとはいえオタク語を使いこなす人はほどほどいるのである。


「つぐたん?」

 きょとんとその名前を口にだしてみる。

「おぉ!? おぬしもつぐたんのファンでござるか? ふぉっ。イケメンでござる、いらんでござる」

 バンダナを巻いたにーさんが、こちらの声に反応しつつ、志鶴先輩を見たとたん嫌な顔をした。美女なら大歓迎だが、イケメンはいらんというのは彼らの共通心理である。 


「つぐたんってのはここの人気ナンバーワンの男の娘なんだ。まあシフトはまちまちだからいるかどうかは運次第だけどね」

 隣にいたにーさんが苦笑混じりに補足してくれた。

 そして、列は進んで彼らが敬礼をしながら中に入っていった。


「しっかし、オタクのにーさんたちって、どうしてこうござるだったり、敬礼だったり大好きなんだろう……」

「俺らとしては、身近にオタク語を使いこなす人がいるからあれだけど。長谷川先生に聞いたら教えてくれるんじゃね?」

「まだまだでござるなぁ、木戸氏ーとか言われそう」

 そんなの常考にござるよーとか、普通に言われそうというと、あーあの人ならありそうと志鶴先輩も同意してくれた。


「さて、それじゃ我らの番だね。二人とも会員権とかは作ったことはないよね?」

「ねーっす。初めてだし」

「……俺も、ないです」

 思い切りルイとしての名前が入ったものは持っていたりするけれど、あれは家においてきている。


「んじゃ、僕だけってことかな」

「いらっしゃいませ~」

 店に入ると、近くにいた店員さん達が声を上げた。高い声や低い声がまちまちだ。

 この店はメイド喫茶ではないので、挨拶がお帰りなさいませではないのが逆に新鮮である。

 挨拶を受けてからカードを見せると、常連さんにゃん、とイケメンモードの志鶴先輩に笑顔の男の娘が対応する。

「でも、にゃーは、長いこと働いてるけど、にーさんみたいないい男見たことないにゃ。このカードホントに、ゆーのものにゃ?」

「あはは。にゃーさん相変わらず疑り深いね。あー、こほん」

 どうやら知っている相手らしく、志鶴先輩は軽く咳払いをしてから、声を調整していく。


「こんな感じならわかるかな? 今日は男装してるんだよねー」

 声を女声に切りかえつつ、さらに表情の印象を柔らかくもっていく。これだけでかなり女性よりの雰囲気になる。

「にゃー。しづりんにゃー! 今日はそっちのかっこだなんて、珍しいんだにゃ」

「後輩との女装勝負に負けましてね。男同士で街中あるきましょうだなんて、かわいくないイベントやらされてるんです」

 ほんとこの後輩にはやられました、と志鶴先輩は言ったのだけど。はて。イベントは思いっきり彼女の勝ちだったように思うのだけどね。そりゃこちらも不本意な判定負けだったわけだけれど。


「にゃにゃ!? しづりんほどの猛者が負けるだなんて……えーっと、どっちの子かにゃ? ええと眼鏡の子はないだろうし……でももう一人の子も磨けば光りそうにゃけど……」

 しづりんには勝てなさそうと、じろじろ見つめられて、時宗先輩が頬を赤くしていた。

 にゃーさんは、ミニスカ姿をしているおねーちゃんだ。

 きっとわざと転んでもんまりさせたりする気まんまんなスタイルなのだろう。

 当然、胸はない。

 ないのだが、じぃと前屈みの上目使いで媚びた視線を向けてくると、視線はちょっとそこらへんにいってしまうものかもしれない。

 そして頭には猫耳カチューシャを装備中だ。


「この眼鏡の子は、変えると化けるんだよ。っていうか声も完璧だし」

「にゃー。しづりんに完璧って言われるだなんてよっぽどにゃー。是非とも聞かせて欲しいんにゃけど?」

「あー、俺、今日は男同士(、、、)な設定なので」

「そんにゃこといわずにー。さぁ、可愛い声でいってみるにゃん。僕、おねえちゃんと、一緒におねんねしたいなっ、はいっ」

 さぁ、どうぞ、と手を差し出されて思い切り振られてもちょっと対応に困る。

 うーん。あまり男同士状態を崩したくはないのだけれど。しかたがないか。っていうか、もー最初からちげーよという突っ込みがいろいろされてそうな気はするけれど。


「……姉様となんて、一緒に寝たくないです。おっぱいで窒息しちゃうから」

 ちょっと身を引いて、くすんと照れながらそんな女声を上げる。

「おごっ……」

「照れ仕草までおまけか……」

 でも本人はモサ眼鏡か……と時宗先輩ががっかりした様子だった。

 まあ外見自体はしかたがない。

 ここで女装体験ができるっ、だなんて展開になったらそれはそれでやらされそうだけれど、本日はやはり男同士デーなのである。


「完全体を見てみたい気もするけど-、そろそろお席にごあんにゃいにゃ。にゃーも他のお客さんの引き合いが多いからにゃー」

 また後でにゃー、と席に案内されてから、彼女は別の席の注文取りに向かっていった。

 なかなか忙しい御仁である。


「ホールが七人、厨房が三人ってところですかね」

 そこそこ広い部屋の中で、それぞれの衣類に身を包んだ男の娘がいる。

 コスプレの子もいるし、職業系の子もいるし。

 でも、前に来たときの姐さんである、さゆりさんの姿は見えなかった。

 本日オーナーお休みだから、ぶれいこうにゃ! って張り紙が壁際に貼られている。

 ああ。あの人オーナーだったんですか。


「ほほぅ。馨ったら経営学でもやるつもり?」

「いやぁ、実際どの程度の人員がいれば良いのかーってのは、気になっちゃうんですよね。俺コンビニで働いてるし、知り合いのメイド喫茶にいったときの感じでもどんなもんなのかぁと」

 結局、練度と愛着とかもいれないといけないから、プラスマイナス何人ってのはいけるんでしょうけど、というと、今は、可愛い子達を愛でてあげてよと、苦笑混じりの忠告がきてしまった。


 でもね。音泉ちゃんがこぼしてたけど、あの規模でもあの人数はきっついんだって。

 ここはお客さんの数もフォルトゥーナの三倍近く入るのだし、このスタッフの数でやるのは大変なんじゃないだろうか。


「いらっしゃいませ。男の娘カフェに迷い込んでしまった殿方たち。本日はどうか、たのしんで……で。で」

「でっていう?」

 お冷やをサーブしてくれた男の娘は、なぜか木戸の顔を見て長口上をフリーズさせた。

 本日緋色の制服姿の彼女の腰元あたりには、「つぐ♂」という丸っこい名札がつけられている。

 まるでどこかの有名ミュージシャンのようである。


「よ、よっしーとは、これいかに。ええ。お二人はご来店初めてということですよね。会員カードをつくらせていただきますね」

「おぉ、まさかつぐたんが付いてくれるとは、朝日も馨もついてるじゃーん」

 やったと、志鶴先輩が会員カードを見せびらかせながら、サムズアップをしている。

 どうやら、本日相手をしてくれるのは「あたり」の子ということらしい。

 へぇ。ふぅん。つぐたんがあたり、ねぇ。


「では、こちらにおふたりのお名前を記入おねがいします」

 あ。愛称などもおっけーですよ、というつぐさんのガチガチになった言葉を無視して、志鶴先輩はその二枚をふんだくって、きゅこきゅこと勝手に名前をかいた。

 まあ、いいんですけどね。どんな名前になっても。


「止めなくてもいいんですか?」

「止めて聞くような人じゃないのさ。巻き込まれ体質なのさ、今も昔も。なぁ、つぐたん」

「なぁ、と言われましても……」

 冷や汗をかきながら、あんまり騒ぎにするなよーという空気がしっかり感じられた。

 いや。でも。この場合は、どうなんだろうか。


 アウティングはダメだと思っている。


 だから、敢えてこちらから親しげにしようというつもりはないのだけれど。

 うーん。つっこみたいよねぇ、これ。目の前に高校卒業していきなり現れた「友人」が居たらさ。

 彼、八瀬紬の、晴れ舞台にばったりでくわしてしまったのならさ。


 うん。一年以上ぶりにあう彼は、本日はどこかの男の娘の衣装なのだろうけど、緋色ベースの改造制服のようなものを着込んでいた。足下にはニーソだ。個人的には卒業の時のパーティーの赤紫タイツも好きなのだけれど、これもこれでまあ悪くないと思う。太もものラインがきれいで、是非とも撮影させていただきたいくらいだ。


「よっし。かんせー。朝日は、名前でいったよ。え、名字登録とか受け付けないよ? 昔のファミコンの主人公の名前は本人の名前でしょう、名字はダメです。いくら本名嫌いで名字いれちゃったとしても」

 はい、どうぞとカードを渡される。うへぇ、この名前嫌いじゃ無いけど、朝日タン呼びはやめてと時宗先輩がうめいた。


「そして馨はこれね。カヲルにしてみた! いろいろ想像が膨らんだけど、せっかくだから薔薇風味な」

「前世紀的なのを持ってきましたね……でも、あんなに名言とかいえませんからね」

 それに、薔薇疑惑はやめて! というと、つぐたんが苦笑を浮かべた。

 あんにゃろ。青木との合成写真話でも思い出しているんだろう。


「それで、馨はつぐさんといつから知り合いなの?」

「……丸わかりですか」

「まぁねぇ、それだけつぐっちがきょどる相手とかそうそういないよ? 自然体でニュートラルってのが売りなこの子が、がっちがちなんて、そりゃぁ知り合いにあったから、かなぁってね」

「がっちがちまで行ってないです。そりゃぁ、師匠といえる相手を前に、ちょっと緊張はしてますが」

 失点は挽回しないと、お給料に響きますぅ~と彼は、さらっとアンケート用紙を渡してきた。

 どうもこの店のシステムらしく、任意で相手をしてくれた相手の評価をつけられるらしい。

 もちろん拒否るのもあり。ただ書いてくれたらその接客していた子の加点になるのだそうだ。


「えっと。アウティングにならん?」

「まっ、いいんじゃないかな? もう、どうにでもなーれですよ」

 ぷぃと、つぐっちは頬を膨らませながらそっぽをむいた。あざとい仕草である。


「にしても、八瀬っちずいぶん性格かわったね? こういう仕事してるから?」

「そんなことはないと思うけどね。かおたんと一緒の文化祭は、割とこんなんだったじゃない?」

「いや、あのときは、女装コスこねーって嘆いてる姿が印象強くて」

 あと、自分で女装してたのもあってさ、と答えると、うぅ、一大決心をこの子は踏みつぶしてくださる……とげんなりうめいた。

 悪かったよ。たしかに、男の娘としてのかわいさを振りまくのを受け入れたのだって高校二年ころで……って、それから一年経ってるなら、女装が常態化していても不思議じゃなくない? え。一大決心じゃなくない? そもそも修学旅行の時に可愛い声とか上げてたじゃないのさ。


「でも、結局あのときは極上体験できたと思ってるけど。こっちで仕上げた子も相当だったけど、お前があつかったこ、やばかっただろ?」

「うん。やばかった。あれはやばかった。中学生まじやばい。化粧水塗るときに、あっ、とか可愛い声を上げるの反則だと思う。ってか、昔のかおたんのがやばいっ。あのときもらった写真は家宝です、至宝です」

「ええと、つぐ氏。言葉、地がでまくりなのですがっ」

「おっといけねぇ。おほほ、周りのみなさんごめんなさいねー」


 ちょっと男っぽさがでたところをフォローするために彼は周りに声をかける。

「いいよーべつにー、つぐたんはそんなんだし」

「それに、男っぽいところを見ると安心するんだよー!」

「下手すると女子がやってるんじゃないかーって思っちゃうし」

 いろいろなところからフォローの声が上がった。

 先ほどのバンダナにーさんもそんな声を上げている。


「……あの。やせっち。その程度で、女子にしか見えない、なの?」

「……言うと思った。このお師匠さまは」

「え、でも志鶴先輩もそう思いません?」

「思うけど言わない。女装コンテストで、女装じゃねーだろって言われるような子の感性とおんなじだと思われたくないし」

 ほんと、アレはひどかったもんねーという隣で時宗先輩もうんうんと腕組みをしながら頷いていた。


「さて。旧交を温めたい気持ちはあるのですが、仕事しろってせっつかれてるので」

 さぁご注文をどうぞ、とにこりと笑顔を浮かべると、おぉー、すげーと時宗先輩の歓声が上がった。

 ふむ。ぎこちなさがとれたのはなによりなことだ。

 じぃとメニューを眺めて注文を済ませると、とりあえず彼女はオーダーを通しに厨房に向かっていった。


「まさかこうなってるとは……驚きです」

 その後ろ姿を見ながらぽつりと女声でそう呟いたのだけど、他の二人にはきっと届いていないのだろうな、と真剣につぐたんの様子を見ている二人の姿を見て思った。 


さぁ、やってまいりました! 大学シリーズもずいぶんと長くなってまいりましたが、ヤツは何をしているんだ! ということで、こーなってました。

うん。全部馨たんのせいです。扉を開いたらその先は楽園です。

そしてこのお店自体も印象がかなりかわりましたね。二年前はもうちょっと二丁目っぽい感じだったのですが、萌えのほうにやや方向転換しております。

にゃーさんも昔は猫耳つけてなかったし、にゃーにゃー言ってなかったのですが。くっ。これが猫カフェ(違います)


さて。そんなわけで、あんまり男の娘カフェでの内容が長くなりそうなので、前後編にわけます。

次話は、成長したつぐ♂さんといろいろ絡む予定です。まあ、女装しろよ~ やだよ~ 展開なんかもあるんでしょうねきっと。

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