322.男三人?の休日1
ここでは18禁コーナーに行っていますが、特別18禁的な展開はないので、年齢制限はなしで。
つい、うっかり長くなってしまいました……遅めのアップですんません。
待ち合わせ場所である駅前の時計の下で、カメラを構えていると、チラシを配っているにーちゃんが素通りしていった。
先日の美容師さんは相変わらず頑張ってモデルを探しているようで、びびっとくる子に声をかけているらしい。
「ま、素通りされるというわけで」
本日の装いは全力で木戸馨としてのもので、おまけに言ってしまえばがっちがちに黒縁眼鏡も装備済みだ。
それでも、すでに先日のHAOTO事件の名残はだいぶ収まっているし、いつも通り背景その一というような扱いでみんなには見えているのだと思う。
「ま、一枚いっておきますかね」
基本、木戸が一番年下ということもあって、待ち合わせの時間よりも少し早くきている。そんな待ち時間をただタブレットをいじるはずもないわけで。
木戸用のほうのカメラを構えて、近くをとことこしている鳩さんを撮ってみた。
どう動くかわからない動物というのはどうにもそこまで得意にはなれない被写体である。
「とことこしてるところとか、地面をついばんでるところとか、かわいいよねぇ」
ふふ、とカメラを覗き込みつつカシャリと一枚。
「つーか、自然にそのかっこでその声はキモイぞ、後輩」
「ああ、時宗先輩。おはよーっす」
鳩さんを狙っていたら、後ろから声をかけられた。
そのせいというわけではないのだろうけど、狙っていた鳩はばさばさ飛び立ってしまった。
「それと、声に関しては、まぁ、なんていうか……うーん」
一応撮れた写真をチェックしつつ、うっかり出た声に対しての反論を構築しようと試みる。
うん。自然に女声がこっちのかっこで出ているのは我ながらそうとうまずいように思う。
「手遅れ、というやつですか?」
顎に指を置いてうーんと首をかしげてると、時宗先輩はおいおい、と気づかわし気な視線を向けてくれた。
「おまえさ、どうせなら女装せん? 女のかっこしたら、俺てきにはもー、ちょーはっぴーってか」
さっきの問題も一気に解決だろ? と言われても、ふるふると首を振るばかりである。
今日は男同士という約束なので、こちらが女装してしまうわけにはいかないのである。
「せっかく男の服で外に出てるんですしね。男友達と、男の格好で、遊びに行く! ああ。なんたる稀なる体験」
わしりとこぶしを握りこんで、この稀なる体験にちょっとテンションを上げていく。
いや、高校時代も青木とカラオケに行ったくらいなもんで、男子との絡みってあんまりなかったしね。
あとは相談とかっていうことのほうが多かった。
「ちょ、なんか……うん。気のせいかな? なんかちょっと変な言葉が聞こえたんだが」
うちの後輩殿の交友関係について、と言われて、ちょっとがくんときてしまった。
たしかに、時宗先輩の感想はそのまんま正解。正しいと思います。
でも。たぶんきっと、志鶴先輩よりはいいと思うの。
あの人は学校でも常時女装だし、家もだし、ああいうのをガチというのです。
普段から、男子生徒として大学に通っている木戸さんはまだまだ、普通の範疇に違いないのです。
「お望みならやってあげてもいいですが、まわり、ひどいことになりますよ?」
ほれほれー、もー大騒ぎですってばーと笑顔を向けると、くぅっといいながら時宗先輩は視線をそらした。
そして、そこで、うわぁと大きな口を開けて声を上げる。
なんか面白い被写体でもいたのだろうか。
「おまえがやんなくても、ひどくなりそうなのな」
「ですねぇ」
歩いてきた美形なにーさんの姿を見て、時宗先輩が心底嫌そうな声を漏らした。
志鶴先輩は、まあいわゆる男子の長身ではない。
でも、低すぎるかというとそういうこともなく、木戸よりも十センチくらいは身長が高いのだ。
それをつかっての、おぱーいだのお尻だののライン設定ってので、女装を作ってるところもある。
もちろん細くないとってのはあるのだろうけどね。
そんな彼が、男の服装に身を包むとどうなるのか。ある程度の想像はついていたけど、なかなかにすごい。
周りを歩いている人たちも、そんな彼の姿には目を止めるみたいで、背景その一である木戸とは正反対である。
「やぁ、またせてしまったかな。まいエンジェル達」
普段よりも低めの声は、それでも男性としては十分高い部類に入る。
そんな彼に、恭しくこうべを垂れられてしまうと、イケメンアレルギーがざぁっと出そうになる。
周りの視線も痛いからそういうのはやめてほしい。
「つーか、バロン先輩のまがい物みたいなんでやめてもらえます?」
あの人の場合は、そういうものが文化として根付いているところもあるから、そこそこ許容はできるのだけど、さすがに男同士でこういうやりとりはきつい。
「お? 馨が言ってるバロンさんってのは、あのバロンさんかな? 宝塚っぽいねーちゃん」
「たぶんその人です。てか、志鶴先輩も顔見知りですか?」
「まあ、見かけたことはある、くらいな関係だよ」
それよりもっ! と志鶴先輩はわしりと木戸の両手を取って言った。
「どうして馨はいつものもっさりモードなの!? イケメンモードにしようよー」
「……はて。イケメンモードとはなんです? 女装と男装しかレパートリーはないですが」
しらじらしく視線をそらして言うと、とぼけるのはこの口かーと、志鶴先輩にほっぺたをぷにょぷにょ引っ張られてしまった。
「やっ。やめてくださいー。ほっぺはぁ」
「あー、もう、一見しただけじゃわからないなめらかさ。もーファンデ塗ってなくてこれって反則だよね」
「そういう先輩だって、ノーメイクでもかっこいいですよ」
ほれほれ、周りの視線を集めまくりです、と言ってやると、まーメイクしなきゃ男に見えるしね、僕と彼は鏡を見ながら、はぁーとため息をついた。
え。すっぴんで女子に見られたいってことなんですか? 先輩ったら。
「ええと、いちおう確認しとくぞ。これ、男三人ぶらり旅ってやつだったよな?」
どーして、自然に女子同士な空気になってんですか、二人ともと時宗先輩が頭を抱えそうになっていた。
うん。なんか。ごめんなさい。
「そ、そうですね! あくまでも男三人っていう設定ですから! きちんとそのようにしなければ」
「手遅れだよこいつ……なんか俺だけまともだよな、これな」
「正直、僕としては女装のほうが気楽でいいんだよなぁ。男言葉を使うより自然と女子よりになってしまうのくらいは許せ、朝日たん」
「たんはやめてください……口調に関しては大目に見ますんで」
ほんと、どうして普通の俺がこんな魔境にいるんだろう、と時宗先輩の沈痛な声が聞こえたのだけれど、まあそこらへんは、あれである。人生のスパイスとでも思っていただければいいのだと思う。
「それで? 俺、あんま男同士での活動ってやったことないんで、遊ぶっていっても何していいのかさっぱりなんで、先輩方がエスコートしてくれる感じでいいんで?」
「ちょ……って、もーいいや」
つっこむ元気すらねーよ、と言い放つ時宗先輩に小首をかしげつつ、今日はどうするの? という疑問の視線を向けておく。
男の人にエスコートされる経験は、いままで何回かあったわけだけれど。
男として男の先輩に案内されるという経験はいままでしたことはないので、今から楽しみだった。
さて。合流を果たした我々はそこから電車で移動をしていた。
もちろんそのまま近場の町をぶらぶらするというのもありだったし、え? 男同士でやるといったらナンパ? とかいう志鶴先輩の言葉もあった。「それだけはなしで」と全力で時宗先輩が否定していたのだけれど、まー、気持ちはわかるかな。
志鶴先輩が中性イケメンすぎるので、自分はおまけになるに違いないっていう懸念なのだろう。
木戸としては、それでも面白そうかなとも思わないではないけど、下手に女子がいるとうっかり女子よりに行動がシフトしそうでこわいので、なしならなしでいいのかなとも思った。
じゃー朝日が案内してよーと、にやにやいう志鶴先輩の言葉を受けるまでもなく、じゃー俺についてきてくださいね、と少し電車に乗って、我々は東京の東のほうにあるあの町へと向かっていたのだった。
「しかして、わざわざここですか……」
「まー、俺たち特撮研なわけよ。オタクなわけよ。しかも女子がいない! いいか? お前らここに女子はいないんだよ! 大切なことだからおまけにもう一回いうぞ。女子はいないんだ」
「俺はオタクではないです。カメラな人なだけで」
「つっこむのそっちじゃねー。ってか、男だけだからいける場所ってのがあるんだよ、木戸くん」
「あー、なるほどね。健全に男子としてのあれそれを可愛すぎる後輩に教えてみようかってところかな?」
まー、確かにどういう反応をするのか見てみたいところはあるかな、と志鶴先輩も訳知り顔で言い始めた。
どこに行くのかある程度の予想がついたらしい。
「そうです。志鶴先輩も割とそういうの行ける口ですよね」
「否定はしないけど、肯定するのもなぁ」
僕のキャラじゃあないように思う、とイケメンモードの先輩はにこりとさわやかな笑顔を浮かべた。
そいつを一枚カシャリと撮影。
撮ったあとちょっとむっとする顔も撮影しておく。
今日の最初の頃は、男の格好は撮らないでって言ってたんだけど、さすがにもうここまで遠慮なくいっていたら、もういいよう、ぐすんと折れてくれたのだった。
「メイド喫茶でーす、よろしくおねがいしまーす」
そして時宗先輩を先頭にして町中を歩き始める。その中ではメイド服を着込んだ女の子たちもいて彼女たちはイケメンな志鶴先輩に広告を渡したがっているようだった。
「馨はどのメイドさんが気になった?」
「あ、俺はあれですね。ちょっと紫がかったのを着てた子かな。あれくらいなら動きやすそうだし」
「僕は猫耳つけてた子かなぁ。首元の鈴がかわいかった」
断然着るならアレ! と言い切ると、あれもかわいかったですよねーなんていう話題になった。
「あのー、お二人さーん。俺の最初の忠告をちゃんと受け止めてくださいねー。男三人ですよー、わかってますかー」
「え、朝日はどのメイド服きたいの?」
「……男子としては、どのメイドさんがかわいいか、どの子に相手をしてもらいたいかであって、断じて自分で着たい服を見定める風にはならんはずなんですが」
「ええぇ。いいじゃん、可愛いのは着てみたいって思っちゃうよ」
ねー、と言われたので、はいはい、と答えておいた。
「二体一……なんか、木戸が入ってから俺の立ち位置がいろいろ危うい気がする」
まともなはずなのに……と嘆く彼はとりあえず何枚か自分でも手渡しでもらっていたメイド喫茶の広告を鞄にしまった。いつか行こうとでも思っているのかもしれない。
「……だが、ここならきっと俺のほうにアドバンテージがあるはずだ」
さぁ友よ! 一緒に新しい扉を開こうではないか、と時宗先輩が示した先は、大きなビルの一つだった。
一階はものの見事に二次元のキャラクターがいっぱい。
漫画も平積みでたくさん並んでいる。
しかも、普通の書店より萌えに特化したような構成になっているようだった。
「漫画買いに来たんですか? それとも同人誌?」
え? 確かにここは委託受付をやってくれるところだし、販売はしているけれど、それでアドバンテージというのがよくわからない。
「ふっふっふ。馨くん。君ももう19だ。ならば堂々ともうあそこにいけるというわけだよ!」
「あそこ、ですか?」
俺たちにとって大切なものだ! とこぶしをぐっと握るその熱意にちょっと興味がわく。
はたして何なのだろうと思ってついていくと、そこはなんかこう。
ちょっと独特の匂いがした。
夏場なのはあるのだろうけど、ちょっと汗ばんでいるというか。
とっても男くさかったのである。
ちょっと高校の時の体育の時の匂いに近いだろうか。
「んー、まぁなんだ。改めてきてみると馨をここに連れてきてよかったのか、ちょっと悩ましく思ってしまったかな」
「えー、いいじゃないっすか。こいつも男ですよ。自分でそう言ってるんだから、尊重してあげましょうよ。っていうか、男なら誰しもこういうの大好きなはずでしょう」
ほれっ! 堪能するがいい! と言われた先は、普通に書店だった。
もちろん手前のほうは萌え絵がたっぷりの二次元キャラがたくさん。絵の質もばらつきがあって、いわゆる同人誌というものだった。
「えっと。同人誌ですよね? 大学にもけっこうあるし、いまさらな感じがしますが」
「ちっちっち。我らの目的地はここではないのだよ。女子がいると入れない禁断の地があるのだよ」
すでにここは男性向けの階なので、女性が入ることははばかられるコーナーではあるのだけれど、時宗先輩は少し鼻息を荒くしながら、こっちこっちと小さく手招きをした。
「ああ。なるほど。だから19歳ならオッケーってことですか」
こそこそとなぜか気配を消しながら、時宗先輩はそのコーナーに向かっていった。
その先、その一角の上には注意書きの張り紙がはられてあった。
ーここより先、18禁コーナーです。それ未満の方は入らないでくださいー
良い子ははいっちゃダメだゾ☆ なんていう手書きの文字も入っている。
「んー、なかなかここまでそろってるお店もないよね。成人向け同人誌ってさ」
「でしょー。ってか、志鶴先輩ってそういうの買ったりするんすか?」
「まー、可愛いものは大好きだからなぁ。でも、さすがに留学する前の話だよ。ここのところは女装してることのほうが多いから、来たことはないね」
イベント会場なら別に男の子の日に参戦してもそこまで問題はないんだけど、こういう店となると……ねぇ、という志鶴先輩の言葉に、朝日先輩はうんうんと腕組みしながら頷いていた。
「ああ、馨に忠告。女装じゃこないようにね。他の人たちがちょっと、いたたまれない気になるからね」
「んー、そこらへんちょっとわかんないかなぁ。好きなものは堂々とでよくないですか?」
手近にあった薄い本をペラペラめくっていくと、あー、確かに18禁だわーとあっさり答える。
うん。女の子たちが、あれでそれでこれな感じのだった。
「……まさかの無反応。俺はなにを見ているのか……」
「え。俺、割とこの手のは抵抗ないですよ? きれいなものはきれいなのだし、可愛いものは可愛いです。そりゃ凌辱系とかはちょっとわかんないですけど」
お尻のラインとかいい感じですよねー、とさらっと言うと、この子ちょっとアレだわ、と志鶴先輩まで額に指をあてて難しい顔をしていた。
「それに、特撮研の一員としては、しっかり原典をやったうえで撮影に臨みたいですからね。友達にも散々、泣けるからやってみて! とか18禁ゲーとかを押し付けられます」
「あのさー、馨。一つ聞きたいんだけど、それって男性向け、だけだよね?」
「ふえ? 男の娘がでてくるのなら、割とやってますけど」
今までプレイしてきたものを思い出しつつ、そんな答えを返しておく。
エレナがああいう「大の男の娘好き」をこじらせている子なので、パートナーたるルイ……つまり、馨もそれに倣ってのプレイスタイルになるというものだ。
正直、自分からその手のものを買ったことはないし、資料だからプレイするというのがほとんどだ。
もちろん音泉ちゃんがキャラになってたアレは、楽しくやらせていただいたけどね。シナリオがしっかりしてて面白かったし。
なにより、他のメイドさんたちも可愛かった。
「まじかよ……乙女げーとかもか?」
「乙女ゲーは一本くらいですかね。正直いまいちでした」
これっ。ぜひともこれプレイして感想を! とエレナから言われたのが、いわゆる女性向けの恋愛ゲームだった。
ヒロインとしてプレイをして、男の子たちと交友していくというやつで、攻略対象のうちの一人が女装している子だったので、やってみたんだけど。
エレナさまご立腹の理由は、なんかわかった。
どうしても、女性向けの「女装キャラ」はイケメン路線になってしまうのだ。
そりゃ攻略対象なのだしね、っていうバイアスが製作者にかかってるのはわかる。
わかるけど、どうしてガラッとイケメンになっちゃうのー、とエレナさまは地団太を踏んでいた。
これで設定が、無理やり女装させられてるとか、病弱な子に対する呪術設定とかならわかるけど、趣味でやってんだよ! もっとこうさ、頑張ってよ! と嘆いていた。
これは、エレナの期待が高かったのもあったんだと思う。女性向けの女装キャラってどんだけかわいいんだろうっていうね。でも攻略対象としての需要がやっぱりあんまりないんだと思う。
BLものの男の娘とか、ショタっ子とかのほうが、断然可愛い。
「BLとかのがまだありですかね。っていっても、キャラ設定を熟知するため、というのが大きいですが」
エレナがやってきたキャラの中には当然そっちのほうから引っ張っているのもいる。
そんなわけで、そこらへんもしっかりと知識としては入れているのである。
とある掲示板に、ルイさんはエロゲの原典やってるはずって書かれてたけど、いちおー正解です。資料とかはちゃんと見ないといけませんって。
「ダメだこいつ……この楽園を、ただの資料室としか思ってねぇ」
「ねぇ、馨。読んでてこー、ドキドキするとかないの? たとえば、こういうのとか」
困った顔をしながら、志鶴先輩が一冊の薄い本を差し出してきた。
「女体化ものですか……うーん。どっちに感情移入すればいいのかいまいち」
あー、はいはい、暴力的なおっぱいですねーとかは思うものの、それがそのまま感情とリンクしない。
というか、どうして志鶴先輩はこれを出してきたんだろう。
「じゃあー、百合ものとかなのかな……ほれっ」
「百合ものも男性向けに入るんですか?」
「まあ、そうだね。がちなのはアレだけど、のぞき穴からこっそり見てたいっていう感じ」
「へぇ。男の人ってそういう感じなんだ……」
百合ベースで男の娘がいるっていうものも見たことはあるけれど、あー、きれいだなー、微笑ましいなーっていうくらいの感じしか持ったことはなかった。
「むしろこの子の場合、少女漫画でも与えたほうがいいのかもしれない……」
「あー、先輩方は好きに見てて下さい。俺もせっかくなんで、いろいろ見ますんで」
ほらほら、がっくりしてないで時間きめて見て回りましょう、というと、あー、うん。うん。とがっくり肩を落としている朝日先輩の姿が見えた。まあまあ、と志鶴先輩が肩をぽんぽん叩いている。
さて。そんなわけで、せっかくの街でもあるので、ちょっとお店の中を探検させてもらうことにした。
18禁コーナーを回ってもいいのだけど、まあ、気になったものをということでざーっと見て回ることにした。
正直、イベントにはいくけれど、同人誌自体をまじまじ見た経験はそんなにないのだ。
いっつもはコスROMのほうが中心になっちゃうからね。
「さって。じゃー、見て回っちゃいますかね」
男性向け同人誌の山が目の前にある。
ほとんど可愛い女性キャラばかりなのだけれど、そんな中にひょっこりと男の娘が混じっていたりして。
なるほど。発掘する楽しみというのはこういうことなのかな、なんていう気分になってしまった。
「あ、いつぞやの係員さん」
「お。九重さんだっけ? 楓香がいつもお世話になっております」
「はい。こちらこそです」
階段付近の本を見ていたら、ばったり見知った顔に声をかけられた。
はるかさんのお手伝いで去年の九月にBLのイベントに行ったときに知り合った楓香の先輩さんだ。
たしか、楓香より一つ上なので、すでにもう高校は卒業しているのだったか。
「にしても、係員さんがこの階だなんて。もう一個上だと思っていましたけど」
「もう一個上も、コスROMコーナーがあるからこれから行こうかなって思ってた所だけど。別にそこまで女性向けが向いているわけじゃないよ?」
そういう君こそ、この男性オンリーな階に用事? と聞くと、それがですねー、と彼女はにんまりと笑顔を浮かべたのだった。
「友達がなんかLINEくれたんで見に来たんです。いい素材がいるぞ、わっほぅって」
「いい素材?」
「一緒に見に行きませんか?」
誘われたら、まあ見に行ってもいいかもしれない。この階にあるというなら一目くらいは見ておこう。
彼女は男性向けの階だというのをまったく無視して、ずんずんと進んでいった。
周りの男性がびくっとなっているけれどそんなのおかまいなしである。
そしてたどり着いた18禁コーナー。そこにはすでに一人の女の子が棚の影からこそこそしていた。九重さんのお友達という人だろう。
「ねえねえ、朝日。これどうかな? こういうシチュとか結構萌えない?」
「いやっすよ。俺はどっちかっていうと」
これっすね、といいながら、ぴらぴら薄い本を見せびらかす時宗先輩の肩が、志鶴先輩の肩に当たった。
そう。隣で本を見せるという行為をするときにはこの距離感になるのである。
そして、それをこっそり見ていた女の子は、きゃー、と声を上げていた。
「やだ、ちょーイケメン。どっちが受けかな。あっちの普通な子かな」
「あ、みさっちゃん。だよねだよね。でも、リバもありだと思うの」
「……ええと……」
どうやら、いい素材というのは、志鶴先輩と時宗先輩のことのようだった。
腐女子であられるお二人にとっての良い素材なわけだから、それは間違いなく、そういうことなわけで。
あの。お二人さん。めっちゃカップリングされてますが。
これ、どうすればいいんだろう……
「……そっとしておこう」
目の前できゃーきゃー言っている女の子たちを見つつ、木戸は二人に忠告するのを控えることにした。
そう。先輩方も、せっかく楽園とやらで楽しんでいるのだから。
まさか、カップリング対象になっているだなんて思わせたら可哀相である。
こういうのは、本人には言ってはいけない秘め事なのであった。
予告通り、男三人での休日を過ごそうということで、待ち合わせて遊ぶ話になりました。
初っぱなから時宗先輩がふりまわされっぱなしで、あー、可哀相にと思ってしまいました。
志鶴先輩は、ボーイッシュな女装して似合うので、中性イケメンになります。
喋らせ方とか一人称とか、ちょっと悩みました。僕っこです。
そして男だけでくるっていったら、エロだよねーってことで、特撮研男子によるエロコーナーの視察です。まあまったくもって、エロさの欠片も無いわけですが。
でも、男性向け階と女性向け階の区別って大切ですよね! ま、作者さん的には男の娘もの、女装ものなら、どっちもオッケーなスタンスなんで、男性向けも普通に買いますけれどね。
最後の九重さんはお久しぶりの登場でした。まさか最後のオチがこれとは……
は、はい。で、次話ですね。まだ休日は続きます。
せっかくこの街にきているのだから、行かねばならないところがあるのです。
女子同士なら猫カフェとかもありなんですけどねー。あ。でも猫撫でてる志鶴先輩とか撮影したい……




