319.キャラクター博覧会3
遅くなってすみません。ちょーっと忙しくて更新ペースおちぎみです。そしてキャラ博はまだ終わらず。
「おまちどおさまです。なんか……大騒ぎになってしまって申し訳ない」
「……事件のあらましは存じておりましたが、ここまでとは思いませんでしたわ」
おかわいそうに、と冬子さんは素直に心配してくれた。
無意識にきゅっとお手々を掴んでくれるあたりが、親愛の証を感じたりもする。
男同士だとこういうふれあいってないんだよね。
そこ。すべすべの木戸氏の手を触るとはとかいわないでね。
う。いちおう、口に含まなければオッケーです。
あれ、あれはダメだからね! 普通のふれあいで指舐めるとかおかしいからね!
きもちわるいし、なんか変な感じするし。
ダメったら駄目デス。
「……なんていうか、写真を撮る方がおっかけられるとか。身近にも一人いるが、その……なんだな」
ぼそっと海斗までもがこちらを心配してくれたようだった。
まあ、彼は木戸の方の騒ぎも知ってるだろうから、それで思うこともあるのだろう。
あいつまた女装してるよ……とか普通に思ってたんだろうしね。
「ご心配ありがとうございます。でも、まあ、騒ぎになったらカメラ向けて脅すことにしますよ」
そういや、いつもそうしてたんでした、とにこりと答えると、まじかーと海斗は目をまるくしていた。
騒ぎにはなってしまったけど、そのおかげか彼の態度が少し軟化してるなら、それはいいことだと思う。
「それで、これからはどうしましょう?」
「なんやかやで、お昼ですからね。そちらにまいりましょう。きゃらぷれーと、とかいうのがオススメだそうですよ」
約束は守ってくださってますよね? と冬子さんにいわれて、はいはいと答えておく。
今回のイベントで彼女がお願いしてきたのは、なにも同行だけではなかった。
撮影はもちろんしてもらうとして、ほめたろうさん仲間として、仲良くすること。
そして、お昼ご飯はごちそうさせること、なども含まれているのだった。
そりゃ、普段は自前でお弁当をつくってくるルイさんではあるけど、お外での御飯がいやというわけではもちろんない。貧乏性なだけだ。
そんなわけで。
「半分くらいの混みっぷりですか、明日明後日はもっとなんでしょうね」
「今日はプレオープンみたいなものですからね、きっとそこまでではないのでしょう」
会場にあるカフェスペースはこれもまた見事にファンシーなぬいぐるみたっぷりなデザインとなっていた。
壁面はぬいぐるみがならんでいるし、椅子やテーブルこそ普通なものの、店員を呼ぶためのボタンが、猫の肉球型。これはどうも座る席で異なるらしい。お隣はわんこだったし。
「まあ。こんなところにも演出がありますのね」
注文を終えてほっと一息ついていたら、冬子さんがそわそわし始めた。
うーん。話すことがなくて、どうしようって思ってるっていう感じじゃなくて、アレですかね。
「冬子さん。そんなにうずうずしてるなら、見てきてもいいですよ? 限定ほめたろうさん」
「……はいっ」
彼女はこちらに感謝をしながらも一人とてとてと表示看板を見ながら移動しているようだった。
好きな男の前で、トイレという単語を言えないとは……さすがにお嬢様である。
「女同士だと、連れションに行くって言う都市伝説を聞いたことがあるんだが、一緒に行かなくていいのか?」
「あらら、ばれてましたか。まあ私は一人で行く派ですね。知り合いと個室で隣り合うと最初のころはちょっと罪悪感もありましたし」
さすがに最近は慣れましたがと答えると、彼はいまいちよくわからないと首をかしげていた。
まあ、そりゃそうだよね。
そしてそこでぱったり会話が止まった。
うーん。なんの話をしようか、というのがこちらとしてはある。
手持無沙汰なので、肉球ボタンを少し弄んだ。
ついついぷにぷにしたくなるものの、押しちゃうと店員さんがきてしまうのでさすがに我慢だ。
「ええと。一応確認させてほしいんですが。海斗さんどうしてそんなに不機嫌なんです?」
さすがに、最初からの海斗の態度に感じたものがあるので、それを質問しておくことにする。
いろいろな事情を知らなかったら、きっとこの疑問は当然するべきところだろう。
「無理やりこんなところに連れてこられたからな」
「ぬいぐるみはお嫌いですか?」
キャラグッズも合わせての質問なのだけれど、彼は、少しだけ考えて、まあなとだけ答えた。
「いまいち、女の感性ってのがわかんねーんだよ。どうしてそこまで盛り上がれるのかむしろ疑問だ」
「そっかなぁ。男の人だってこういうの好きな人はいっぱいだし、実際、にまにましてる人はいませんでした?」
ほれほら、こんな感じで、とタブレットに表示させた写真を見せると、きらきらした目をぬいぐるみに向けている男性が表示された。
今日は企業専門の日なので、一般人はそんなにいない。
この手のキャラクターグッズを扱っているバイヤーさんなんかが割ときているのである。
「そりゃ……身近にも可愛いの大好き男子はいるけど。お前らみたいなテンションじゃないし」
正直、その熱量が疲れると、彼はグラスの水を飲んだ。
いや。海斗さん。あんただって、大学じゃあうぇーいって盛り上がるときは盛り上がるじゃんよ。
「なら、無理に盛り上がれとはいいません。ぬいぐるみとかかわいくてわさわさしたいっていうこの気持ちは、共有してくれなくてもいいです」
でも、とそこで言葉をつづける。
「いくらなんでも雰囲気悪すぎです。婚約解消したとかでしたっけ? それでも友達に戻るために冬子さん必死ですよ。なんでそんなに邪険にしちゃうんです?」
うん。今日の海斗は彼らしくなさがたんまりなのだった。
「冬子のためでもあるんだよ。俺はどうしたってあいつと付き合うことはできないし、趣味だってそんなに合うわけじゃない。それで一緒にいてどうしろってんだ」
「まあ、確かに趣味は違うみたいですが……」
うーん。冬子さんが彼にこだわっているのは、ほめたろうさんキーホルダーの件からもよくわかっている。
でも、脈がないのもわかってるんだよね、これが。
「せめて今日くらいはもうちょっと普通にしてもらえませんか? いつもの大学でのバカ話してるような感じで」
媚を売れとはいいませんが、仏頂面を撮り続けるのもなかなかにくるものですよ、というと、それはなんかすまんと彼は謝ってくれた。
基本的にこういうところは素直なんだけれど、同性愛者っていう芯が女性を避けさせているのだろうと思う。
そんな話をしていると冬子さんもお花摘みを終えたようで手をふきふきしながら席に戻ってきた。
「いっぱいもふれましたか?」
「え? ええ。たんまりです。堪能です。あとでルイさんももふりましょうね」
一瞬、何を言ってるんだろうと思った彼女は、ああと気づいたようでこちらのふりに反応してくれた。
そして、そうこうしている間に注文したものがやってくる。
「お待たせいたしました、ハニーくまくまオムライスです」
「きゃっ、とナインてーるです」
ネーミングがなんだかとてもラブリーで、少しだけ海斗が胸焼けしそうな顔をしている。ふむ。
たしかに、見た目もすごいものがでてきた。
オムライスは、どうやってつくったのか、クマコーデ。ケチャップで絵がかかれてるのはいいとして、オムライスの形も絶妙にクマの輪郭なのだった。しかもとろとろである。
そしてもう一枚のほうは猫さん。ナインというように、九つのソースをお楽しみください、というご飯ものだ。
正直、なんだかわからないので、ルイさんが頼んでみた。
「超獣ギガです。大きいですから分けて食べても楽しいですよ」
両手に花でうらやましいですね、とウエイトレスさんが微笑ましそうに声をかけてくるものの、これは渡さねぇ、俺が食うんだ、と彼は自分の料理をかこった。
こちらは、鳥獣戯画がもととなったのだろう、こちらの動物の絵柄はファンシーというよりは渋い。
「つーか、俺はヒトクチーってやつはダメだ。がつがつ孤高に食えばいいんだって」
「鍋とかはどうなんです?」
「……う。いちいちつっかかってくるよな、お前」
「はいっ、そりゃもう、冬子さんに嫉妬されるくらいにつっかかろうかと」
にまにま、と冬子さんに視線を向けると、もぅ、ルイさんったらとあきれられてしまった。
「では、いただきます、ということで」
あむりと、猫さんの頭部をがぶりといただく。しその風味がふわりとかおるゾーンだったらしい。
初夏の今頃には、食欲も落ち気味なので、こういう味はありがたい。
でも、なんというか、この感じ、どこかで食べたことがあるような……
「よう、写真屋。こんなところで会うとは珍しいじゃねえか」
「……それはこっちのセリフですね。フォルトゥーナはいいんですか、磯辺焼やさん?」
そう。それはフォルトゥーナの味にどことなく似ているように思ったのだ。
そしたら、作ってる人も、フォルトゥーナの料理人の戸月くんだった、というわけで。
……どうしてこのイベントに来ているのかわけがわからない。
「あっちはいま一週間休みでな。メイド連中はみんなで旅行中。二年間がんばって働いてくれたからって、感じらしい」
なぜにメイドだけだよ! と彼はぷるぷるしていた。
ああ、よっぽど音泉ちゃんと一緒に旅行したかったのね。
でも、メイドさん達だけでってなると、あの子は大丈夫なんだろうか。
ちらりとケータイを取り出してメールを打っておく。
なんかあったらおねーさんが助けてあげるからね、と。
「そして、あなたはここでお仕事……と。どういう奇縁です?」
まあ、おいしいからいいですけどね、とお箸を止める気はまったくなく話を進める。
お、今度はウニソースだ。苦みよりも甘みが強くておいしい。
とうぜん、こちらがそんな姿勢なので、海斗や冬子さんもスプーンを止めずに食事を続けている。
こちらのやりとりを静かに見守りながら、だ。
「千恵里オーナーもこのイベントの出資者の一人だからな。たぶん今日もきてるぜ。あらぁ、かわいいわぁとかいって歩き回ってるだろ」
「まーあの人もこういうの好きそうですもんね。いつかもふもふぬいぐるみたんまりのメイド喫茶とか出しそうです」
「あり得るな……うちは正統派をうたってるからやらんだろうけど」
ま、才覚だけはある人だから、なんかしらの商売にはするだろうと彼は言い切った。
そして。それで退散するのかと思いきや。まだ話したいことはあるらしい。
「そういや、写真ありがとな。メイドさんの写真がきれいになってかなり好評なんだ……」
それでだな……と彼は、少しこちらに近寄ってきて耳打ちしてきた。
うーん。ちょっと近いと思うよ。そりゃソースの匂いとかして、悪い匂いはしないけどさ。
「音泉のプライベート写真とかがあったら、ちょっとこっちに分けてください」
「ダメです」
「サラダおごるから!」
「ダメです」
「デザートもつける! ケーキ屋よりうまいもん食わせるから!」
「……だ、ダメです……」
危ない危ない。巧巳くんのケーキよりうまいもんと言われて、ぐらついてしまった。でもあくまでも音泉ちゃんの写真は彼女の所有物である。
それをほいほい他の人に配布してしまうわけにはいかない。
「彼女にお願いすればいいじゃないですか。あそこに公開されてるやつ以外のサンプル画像だって結構な数を納めてきてるし。あとはプライベートは……なぁ」
残念ながら、音泉ちゃんのプライベート写真の手持ちはない。
あるのは、灯南くんのほうのものだし、しかも、巧巳くんにあーんってしているという、彼にとっては判断にこまる写真しかないのである。
「うぅ。写真屋に頼めばもらえると思ったのに……」
「まあまあ、それをきっかけにもっと仲良くなればいいじゃないですか」
ほれ、頑張れ若人っというと、おめーのほうが若いだろうがよーと恨みがましい視線がきた。
でも、どこかでブザーがおされたのだろう。彼は厨房に呼び出されて戻っていった。人がそういないとは言っても、お昼時なのである。
「今の方はお知り合いなんですの?」
「ええ、まあ。春先にいったメイド喫茶のコックなんです。ちょっとしたやりとりがあって、いまみたいな感じで」
冬子さんは少しうらやましそうに眼を細めながら、こちらに問いかけてきた。
「昔からのお知り合いみたいな雰囲気でしたわ……どうすればそんなにすぐにお友達ができるのかしら」
「冬子さんはあまりお友達を作るのは苦手なほうですか?」
友達いないんじゃね? とはあえて言わずにちょっと言葉は選んだ。
彼女は取り巻きは持っていても、実際の友達となるとそんなにいないんじゃないかと思ってしまったのだ。
「……苦手、ですわね。一緒に話をする相手はいるのですけど、対等となると海斗さんくらいしか……」
「俺も、友達ってわけじゃねぇけどな」
「そんなっ、つれないですわ……」
海斗のそんなデリカシーのない一言にちょっとテーブルの下でどげしと足をけっておいた。
「名家となると習い事も多い印象ですけど、そこから広げるというのは? 私の場合はだいたいカメラ向けていろいろ話しかけて、はい、お友達って感じですけど」
「軽いよな……そこは、はい、お知り合いってところだろ」
「お尻愛?」
ごくり、とイントネーションを変えながらいうと、彼は、一瞬ぽかーんとしつつ、首を横に振った。
ルイさんがそんなことをいうはずがないと思った感じなのだろう。
こちらとしては、同性愛者な彼への揺さぶりのつもりでいっただけだ。
これでもBL系の原典もやってますからね!
「正直、もっと気楽でいいと思うんです。お互いを高めあえなければならないと友人ではないとか、変に凝り固まらずに、一緒に話をして楽しいなって思えればそれで」
だから、私たちもお友達ですっ、とカメラを向けながら言うと、冬子さんはまぁ、と花が咲いたような笑顔を向けてくれた。
先ほどまでもキャラグッズに囲まれて幸せそうではあったけれど、その顔がなによりも嬉しそうで。
もちろん一枚、その写真は撮らせていただいたのだった。
なかなか海斗さんたちの仲が進展いたしませんね。
でもちょっとずつな感じで。
ルイさんは相変わらずずけずけいきます。
キャラ博のレストランはどうなるのーっていうのでこんな感じに。キャラ弁的なものをルイさんも覚えてしまいそうな勢いです。
次回は、ぬいぐるみをもふります。そして撮影されます。またちょっと時間かかるかもです。
そしてーーついに1000pt達成です! ありがとうございます! あんまり意識はしないようにしてましたが、数値で見ると嬉しいものがあります。今後ともゆるぐだで行きますのでよろしくお願いします。




