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317.キャラクター博覧会1

おそくなってすまぬさん。なんとか今日中には間に合った。短いけどね!

「あぁーー落ちたぁー」

 パソコンをいじりながら、表示されたその画面に、がくんと体を机に突っ伏してしまった。

 木戸の部屋は、ベッドと机と、本棚にぎっしり写真関係の本があるわけなのだけど。

 そのパソコンが置かれているデスクに思い切りへんにゃりとしてしまったのだった。


 ああ。ひんやりした感触が気持ちいい。

 まだ五月も中旬だというのに、今日の部屋はいやに暑い気がする。

 これからもっともっと暑くなると思うと、ほんと、エアコンの出番はすぐそこな感じだ。


 とはいえ、あっついよねーって感じで衣替えをすると、梅雨寒になるという感じで。

 本当にこれくらいの季節というのは衣類に大変こまってしまう時期である。

 え。どうせ男の服装は適当なんだろうって? そりゃ、適当だけど衣類気候は大切にするほうである。

 まあ、普段の、じゃない。女装してるときの方が季節は意識しているように思う。

 ちょっと寒くても頑張っちゃったりとかね。


 さて。そんな話はどうでもいいわけで。

 どうして木戸がへんにゃりしているかといえば、パソコンの液晶に表示されてるとおり。

 今度行われるイベントの入場チケットの抽選に落ちたからなのだった。


 そう。とあるキャラクター会社が行う三日間のイベント。

 そこには、はしっこのほうに、でっぷりとしたほめたろうさんの姿もある。 

「テンション落ちるなぁ。うぅ」

 ぺたりと机にへたりこんだまま、あーあ、と息を吐いた。


 すでにぬいぐるみがほとんど発売されなくなった、あの鳥さんが、今回のイベントでは限定で復刻するという話もあって、これは是非とも参加しなければ! と息巻いていたのだけど、会場の問題もあるため入場制限がかかるようになっていたのだ。

 え。ほめさんそんなに人気ないだろうって? もう販売終了だしって?

 いやいや。他の今が旬のキャラクター達もいっぱい登場いたします。

 ゲームセンターに行けばいっぱいいるお馴染みのキャラも大登場。そんなわけで、制限なしだとひどいことになるという判断は正しいと思う。


 公開は三日間で、一日目が企業や関係者を呼んでのオープンで、二日目三日目は一般公開。もちろん木戸は一般人なので、公募のほうに登録しておいたのだけど、落選のお知らせというメールがきてしまったのだった。


「残念だけど、しかたない、かな」

 部屋に鎮座しているほめたろうさんをなでまわしながら、うーんとちょっとテンション低めな声を上げる。

 いちおう知り合いには、お金持ちな人達はいる。転売を使うとかってわけじゃなくて、もしかしたら関係者の方で潜り込ませてくれたりはしないだろうか、という淡い期待はないではない。

 ないけれど、さすがにそこまでするというのもどうなのだろうと思う。


 いや。好きだけどね! 心躍るけどね! キャラクターの祭典! もふもふのぬいぐるみがいっぱいなのだろうし。

 おさわり自由コーナーもあるんだって。一緒に撮ろう撮影コーナーなんてのもあるよ!

 可愛いぬいぐるみと一緒に撮影されるもよし、可愛いぬいぐるみと一緒の小さなお友達を撮影するもよし。


 なんたる天国なのだろうか。ぬいぐるみパラダイス。

 えええぇ。二十歳間際の男がぬいぐるみだっこはキモいですか!? キモいですか♪

 でも、最近の若い男の子もぬいぐるみはけっこー装備するものなのですよ?


 たとえば今の高校生。バッグにぬいぐるみつけてたりします。彼女からもらったものでしょう、リア充です。ルイさんがつけてるのは木村の手作りです。男からもらった手作りです。リア充……じゃないけど。

 まあ、ごてごてつけちゃうのはあれとしても、ワンポイントくらいなら可愛いかと思います。


 なんてことを言い張ってしまうくらいのルイさんにとって、抽選に落ちたのはかなりへんにゃりする内容だった。

 ほめたろうさんとの出会いを楽しみにしていたのにとても残念だ。

 おうちにいる子をとりあえずぶにぶにしておく。

 うん。相変わらずの弾力で和む。

 ぷにぷにぷに。あぁ、でっぷりした鳥さんらぶ。


 そんなことをしていたら、ぴろんとメールがきた音がなった。

 パソコンの方の受信の音だ。

 音の設定を変えているので、ケータイとパソコンの違いはすぐにわかる。

 さらに、メーカーの宣伝メールかそれ以外でわけていたりもするので、ある程度どんなメールなのかがわかる。


「……あらら。ここでこういう巡り合わせがくるとは……」

 そのメールの差出人をみて、こういうこともあるものかーと、素直に感心してしまったものだった。

「いいよ。その依頼、お受けしましょうではないですか!」

 そこに書かれていた内容は、突然のメールをわびることと、今度のぬいぐるみイベント、是非カメラマンとして参加していただけませんか!? という、冬子さんからの依頼なのだった。

 冬子さんとは、全く知らない仲ではないし、ほめたろうさん仲間としても、そしてなにより関係者の日に会場に入れるこの条件を、ルイさんが断るわけなどなかったのである。




「急に連絡が来たときはびっくりしちゃいました。お正月以来、ですね?」

 待ち合わせ場所につくと、すでに彼女は待ち合わせの場所に来ていた。

 お正月の時とは違って、洋装ではあるのだけど。

 まあ、なんというか。

 お金持ちそうな感じ、といえば良いのだろうか。オートクチュールっぽいといえば通じ……ないね!

 

 普段のルイやしのさんは、なんでかんでブランドと安いお店のはざまで買い物をすることが多い(男の服装はちょーやすいよ!)なんだけど、それにくらべると生地もしっかりしてるし、デザインも可愛い感じ。

 やっぱワンピースってお嬢様っぽいなぁなんて思いつつ、さらに帽子までつけてるのがなおさらな感じだった。

 ちょっと古風な感じでもある冬子さんには、そういう衣装は確かに似合っているのだった。

 え。ルイさんの衣装の方が……気になる方はもうちょっとまってね。


「はいっ。お正月にあのキーホルダーを拾っていただいて以来です。まさかカメラマンとして有名な方だとは知らず、最初はもし良かったら一緒にほめたろうさんを愛でませんか、という感じだったのですけど」

 記念撮影もばっちりしていただけるのなら、素敵ですわ、と彼女はふんわりした笑顔を浮かべてくれた。

 本当に。しのさんに馬の骨扱いした人とは思えないふんわりっぷりだ。


 女は化けるというけど、こういう相手によって態度が180度変わるってところもあってそういう話になるのかもしれない。まあ冬子さんの場合は、大好きな海斗をとられてあんな感じになったのだろうけどね。

 でも、ゲイなんだからしゃーないじゃないと思えるのは、こちらが少しお利口すぎるだろうか。


「お誘いいただいて嬉しいです。私もほめたろうさんは大好きですし、なによりこの環境での撮影は、嬉しいかぎりです。今日は撮影禁止的なところも撮ってしまっていいんですよね?」

「はい。企業デーですからね。一般だとご遠慮いただいてるところもばっちりと」

 とはいっても、あんまり撮影にばかり集中しちゃいやですよ? という冬子さんはちょっとばかりうきうきしてるようだった。

 これはあれだろうか。取り巻きはいるけれど、友達は居ないっていうタイプなのだろうか。

 海斗からはそんなに冬子さんのことは聞いていないし、想像でしかないわけだけど。

 もしそういう子であるなら、友達にはなってあげたいと思う。なにより同じぬいぐるみを愛する人でもあるのだし。


「あはは……ほどほどに……。はぁい。なるべく自粛しますよー」

「……たしかに書いてあった通りですわね。カメラバカで、ぐいぐいいっちゃうって」

 あう。一般のほとんど接点がない人にまでそういう風に思われるルイさんってどうなんでしょうか。


「でも、そういう熱心な方は素敵だと思います。見てる分には影響はないでしょうし。微笑ましく思います」

 わたくしはそこまで突き抜けられない臆病者ですけど、と冬子さんはちょっと寂しそうに顔を伏せた。


「まあ、そういうときは、もふもふもこもこな子達で癒やされるべきです! 緩んだ顔、是非いただきたい」

「緩んだ顔ですか? カメラマンさんってきりっとしたのを撮ってくれると思ってましたのに」

「これは、私の撮り方ってやつです。撮られてるのを意識しない、自然のふわっとした顔が大好きなんです」

 もちろんかっちりしたのも撮りますけどね、というと、恥ずかしいですわ、と彼女は自然に頬に手をあてた。

 うん。写真っていったらスナップよりも記念写真なんだろうね、こういう人って。


「ああ、そうだ。ルイさん。実は今日は……同行者がもう一人いるんですの。もしお嫌で無ければ一緒にまわらせていただきたいのですが」

「えーっと。たいていの人ならいいですよ。先日私に告白して玉砕した人ーとかじゃなければね」

 HAOTO事件がおちついてきたとはいえ、いまだ、翅と一緒にイベント会場を歩く無謀を持ち合わせてはいない。

 そんなわけで、冗談交じりにそんなことを言っておいた。

 それ以外なら、そうね。青木がいきなりでてきても頑張っちゃうよ? もちろんその時は、千歳ちゃんはどうしたのって説教するけどね。


「さすがに、それはないですよ。玉砕したのはむしろわたくしですから」 

 少し自嘲ぎみに、時計をちらりとみた。

 そして歩を進めると、そこにはかなり退屈そうに文庫本を読んでいる男性の姿があった。


「おまちになりまして? 海斗さま」

「いいや。今来たばかりだ。で? そちらの方は?」

 当然、そこにいたのは海斗だった。いつもは馬鹿な若い男性という感じでにこにこしててテンション高いやつなのだけど、今日ばかりは、ぶすっとした顔をしている。

 んー、うすうす想像はつくけど。冬子さんがトイレかなにかにいってるときに、声をかけてみようかな。無理矢理連れ出されて迷惑とかそんなんだろう。


 でも、正直よく来たと思う。お金持ち同士の接待みたいなのになるのだろうけど。


「こちらは、お正月のときに知り合った、ほめたろうさん仲間のルイさんですわ。実はカメラマンさんだって話だったので、撮影係としてやとわせていただきましたの。もう気合い十分な服装ですし、かわいいですわっ」

「……そりゃ、まあ……このイベントっぽいとは思うが」


 本日のルイさんの服装のコンセプトは、メルヘンである。

 この前は、ちょっと大人っぽいかっけーねーさんを目指したパンツスタイルをしたわけだけれど。

 今回は真逆。さすがに幼女っぽくとはいわないけれど。

 ベレー帽とかちょこんとのせてるし、フレアスカートや、靴も乙女チックな感じなまとめだ。

 全体のカラーはグリーン。うん。お人形さんっぽいのを意識して今日はちょっとメイクもアイメイクまでしています。

 きっと掲示板の人達には、「こんな娘が欲しい」と騒がれるに違いない。うん。新妻より百倍マシかと思います。


 ちなみに海斗はこの格好はちょっと不満らしい。

 前の時はお嬢様モードだったわけだけど、それよりももっとかわいさのベクトルがずどんとでてますからね。

 でも、ほめたろうさんを抱っこして撮影されるなら、これ! これなんだよ!

 胸元につってるカメラは左脇にくるっとして抱っこして撮るのである。

 いいカメラマンさんがいるかも気になるポイントなのだった。


「はい。ルイと申します。海斗さんでよろしいですか?」

 すいとお手々をチェックのために差し出して、握手を求めてみる。

「ああ。企業デーにいることからわかるように、今回のイベントに出資してる会社の息子だ。その……さ」

 差し出した手はからぶりしながら、海斗はそこで、冷ややかな視線を向けてきた。

 理由は知ってるけど、おにーさん。女子を敵に回すとやばいのだぜ?


「握手というか、女の子と触れあわないようにしてんだ。ゴメンね」

 婚約者がいるから、その人のためにさ、という海斗を目の前に、なんだか可哀相な気分になってきた。

 いや、いいのよ。防波堤としてしのさんのことは使って良いよといってあるし、ときどきアンマンくれるし。海斗はいいやつなのよ。

  

 でも。そうか。海斗からみて、ルイさんは「なんかオーラが違う」的なのはないのか。

 それなら、ルイとして、ちょっと情報を制御しつつお節介をするばかりである。


「その方に操を立てるってやつですか。でもなら、冬子さんはどうなのです?」

「こ、こいつは……ただの幼なじみだって。会うのも久しぶりだよ。いわば腐れ縁って感じかな」

 友達とは思ってるけど、それだけ、という言葉に冬子さんはしょぼんとしていた。

 ううむ。いろいろしっててもさすがに、なんもできる感じではないね。この二人をくっつけようというチャレンジをしてみようとは思えない。


「ええと……」

 ちらりと冬子さんを見ると、やれやれですわと肩をすくめていた。 


「忌々しいことですが、婚約は解消されてしまってますしね。今日は友達同士(、、、、)としてしっかり……ええ、しっかりやってますわよね?」

「……ああ」

 海斗の答えは少しバツが悪いものに聞こえるものの、それでも許容範囲内だっただろう。

 普段の彼を知らなければね。


 そんなわけで三人で受付にGO。 

 あーあ。そりゃもとから上手く行くとは思ってないけどさ。このパーティーはさすがに波乱しかおきないようにしか思えないのですが。


「ええと、海斗さんに一つ聞いておきたいのですが。撮影は、大丈夫デスか?」

 カメラを構えて、にっとそんな顔をしてあげると、好きに撮っていいとぶっきらぼうな答えが来た。

 あう。そりゃ、女子は男を振り回すもんだっていいますよ。いうけど、ルイさんは男女両方を振り回す気まんまんなのですよ? もーちょっとフレンドリーにいっていただけないものでしょうか。


「せっかくの復刻イベントですもの。ルイさんには悪いことをしたと思わないでもないですが、アレのことはあまりきしないで、楽しみましょう」

 楽しまないともったいないですから、と、少しだけ寂しそうな顔をしながら、冬子さんはこちらの肩をぽふぽふ叩いてくれた。


 この二人は上手く行かない。それはわかりきってはいても。

 せめて、二人が一緒に笑ってる写真くらいは撮ってあげたいな、と思ってしまっても。

 わざわざこの、ぬいぐるみたっぷりな幸せな世界に連れてきてくれた彼女たちに悪いことではないだろうと、その時は思ったのだった。


ほめたろうイベント! 最初は導入部分になりました。三話くらいにおちつくといいなぁ。

悪徳令嬢風味の冬子さんが、実はちょっとかわいいところも見せたりするっていう。


でも、海斗はゲイです。すんませんってのをどう決着つけようってのが、今回のお話のきもではあるものの。


「冒頭から男状態なのにぬいぐるみ話で一喜一憂する木戸くん」を見ての通り、ぬいぐるみ系はちょっといろいろもふもふしたい。そして木戸君乙女やん!(いまさら)


 さて。次話ですが、続きです。が。ちょいまえにルイさんはどうなっていたか……な感じ・

 予定では3までですが。どうなることやらー

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