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316.新入生歓迎会3

 五月下旬。

 新入生歓迎会の日は、少し雲が浮かぶくらいの晴れ模様だった。

 暑すぎることもないし、光の入り方としては優しいくらい。


 そんな中で、各サークルはそれぞれブースを出していて、新人勧誘に躍起だった。

 特撮研ももちろん与えられたテーブルの上に、きたれ! 若人的な装飾をして話を聞きに来てくれる人の相手をしているようすだった。


 木戸は今回はコンテストの方があるので、そちらでの勧誘はおおむね免除。

 風景撮影でもしておいで、と言われたとおり時間までは歓迎会の風景を撮影させてもらった。

 去年も撮ってはいるのだけど、二回目であることや、去年よりも過ごした時間が長いことによる慣れで、去年は見えなかった景色が新しく発見できたりして、すごく楽しかった。

 あ。はい。イベントが始まる午後の一時までは男子の格好をしてまわりましたよ? あまりしのさんを目撃されてしまうとインパクトがないからね。


 さて。そうこうしていると、時間は割とあっというまで。

 お昼御飯を食堂で食べ終わればもう、イベントも目の前になってしまった。

 御飯中に赤城に、おまえ今日はどんな女装すんの? とつっこまれたけれど、内緒、だよ? と人差し指を口にあててあえて女声でいってあげたら、口調だけでこれだよ、こいつは……と呆れた顔をされてしまった。

 今日はほどほどに全力でいきます、といっておくと、まあ頑張れと生暖かい応援をいただいた。

 

 そしてついに、予定の時間がやってきた。

 会場は、以前にもHAOTOのステージで使われた中庭の一角。

 ステージは飾り付けがされていて、女装コンテスト「じょそこん」というファンシーな看板がつけられている。

 普段はちょっと高くなってるだけの台という感じなのだけれど、しっかりとお祭りの雰囲気である。

 

 観客席のほうは前回のHAOTOの時と同じくほぼ立ち見。

 ただ、中庭は少しだけ段差があって低くなっているので、その段差部分に腰を下ろしてゆったり舞台を見るなんて言うこともできる仕様になっていた。

 今回のイベントは学内の、しかも例年やっつけ感ばりばりなものでもあるので、みなさんまったり席のほうで見ている人達が多いようだった。


「さぁ、撮っちゃいますかね」

 十分前に舞台裏に集合して流れの確認はすでに終了済み。

 撮影許可にかんしてはもう、志鶴先輩の口利きで取得済みだ。

 今回のイベントは美人路線でいく! ということなので先輩の発言力はそうとうなのである。

 たしかにあの人の協力がなかったら、ここまでのものには仕上がらなかっただろうしね。まあ木戸さんが手伝ってもよかったんですけれど。


「なぁ……あれ。なんかうさんくさくね?」

「だな……コートに眼鏡にマスクはやべぇよ」

 そろそろイベントが始まる、というところで空のステージを何枚か撮影。

 おぉ、とか一人で喜んでいたら、こそこそそんな声が聞こえた。

 言いたいことはわかる。

 今の木戸の服装は、女装姿を隠すためにコートを着ているのだ。


 どうしてこんなに面倒なことをしているかといえば、木戸さんも参加者だからなのです。

 順番は、撮影したいですっ、ということもあって、トリにさせていただいた。

 だって他の子たちの撮影優先だもん。参加なんてはっきりいっておまけなのです。木戸さんはすみっこ暮らしなのです。

 とはいっても、五人目が登場したあとにタイムラグなく壇上に立たなければならないので、ロスをなくすためにはコート大作戦が必要というわけなのだった。

 そう。すでにこの中には舞台衣装を着込んであるのだ。あとは、ばさぁーとコートを脱げばお披露目ができる状態なのである。


 ウィッグもすでに装着済み。

 本日はちょっと長めのものを使用させていただいている。

 ポニテである。うなじのあたりが思い切りでるという後ろ姿も良い感じなしあがりなあの髪型にしている。

「しかし、マスクで眼鏡が……」

 眼鏡は顔の一部なのでいいのだけど、マスクをつけていると吐息で眼鏡が曇るのがよくない。

 とはいえ、お化粧もかっちりやっているので、残念ながらこれもはずせないのだった。


「では、みなさんお待たせしましたー! 女装コンテスト! じょそこん、スタートです!」

 壇上に上がっているのは、二人。かたっぽは志鶴先輩だ。コメンテーターという感じで仕切りはあくまでももう一人の男の子の方が担当という感じなのだろうか。たしか同学年のやつだったと思う。

 大学のイベントのメインをはるのは大体は二、三年でこういうのは二年がやることが多い。それを思えば突然学園祭のMCに抜擢された木戸なんかはちょっと異例なのだろうと思う。


 そんな彼は、なんというか。残念女装をしていた。

 二人とも、どこぞのブレザータイプの高校の制服風の衣装を着ているのだけど。

 スカートをはいただけ。お化粧のたぐいは全然していない。

 これで、女装、だと。


 志鶴先輩のほうはさすがの着こなしで、なんちゃって女子高生風だった。まあちょっと大人びて見えちゃうからコスプレ風味にはなってしまっているけれどね。

 その二人の対比がすごくて、司会が登場しただけで会場のみなさんからは、うわーっと声が上がっていた。

  

「ま、参加者はみなさん可愛いから、引き立て役って感じなのかな」

 そういうことなら仕方ないか、と思いつつ、壇上の二人を撮影していく。

 そこから撮るかよといわれるだろうけど、もちろんここからスタートです。


「え。さっさとメインにいけって? はいはい。わかってますよ。今年は例年になく気合いの入り方が違うので、さぁ刮目してみよ! エントリーナンバー1、細馬・P・トランジスタさん。ちなみにPはフォトンだそうです」

 本名での登場はやだーという人は偽名参加となっておりますーと、注意が飛んだ。

 まあ、たしかに日本人の名前っていうか人名としてどうかって名前だしね。

 それぞれのサークルに関連のある名前を適当につけてる人が多い感じだった。


「ちょ、あれが女装かよっ」

「すげぇ……今年クオリティ高すぎ」

 トランジスタさんが登場しただけで会場がざわついた。

 いわゆる、お嬢様スタイルの彼は、白をベースとしたふわっとしたスカートをしっかりはきこなしていた。

 特筆は、靴下だろうか。お嬢様なのである。三つ折り靴下なのである。

 ごめん。全体を撮るべきなんだろうけど、どうしてもそこに目がいってしまって、ばしばし撮影してしまった。


「はじめまして。物理研のトランジスタです。虎子って呼んでねー!」

「虎子ちゃーん! かわいー! っていうか、声が男で安心したー!」

 壇上で話す表情はお嬢様のそれで、少し恥ずかしがりながらもはっちゃけました! という感じに仕上がっていて好ましかった。

 はっきりいって、志鶴先輩の暗示の効果なんだろう。

 さきほどメンバーで顔見せをしたときにも思ったけれど、こういうイベントだというのに、嫌々やっていますという感じがなかったのだ。

 ノリノリとまではいかないけど、それでも女装なんて無理という感じは見受けられなかった。

 そりゃ、志鶴先輩のプロデュースでけっこう見た目だけならカバーできてるから、これが俺? なんて話にもなるだろうしね。


「首元の処理、か。ほんと芸が細かいよねぇ」

 自分でぞっぷり女装をしているから、なのだろう。見せたくないポイントはきっちり隠しているのだけど、そのやり方が秀逸だった。

 二人目はキャビンアテンダント風だったのだけど、スカーフの使い方がうまくて、しっかりのど元が隠れていたのである。

 あとは目立つワンポイントを胸元に持っていってのど元にいかないようにしていたりと、いろいろなバリエーションで攻めてくる。

 さすがは鈴音さんのお子さんである。女装の引き出しがさすがに多い。


「ふふふ。たまらぬ……」

 マスクをしているから、表情が緩んでいるのはあまり周りからは見えていないだろう。

 胡散臭いとは思われてるだろうけど、あともうちょっと待っていただきたいものだ。


「さて、四番目はー。おぉ。なんかアレですね。これを見せられると司会のボクの着こなしがダメっぽい感じでへこみますね! さぁ、倉知さんどうぞー」

「みなさーん、こんにちわー! 倉知マイっていいます! 今日は志鶴先輩に女の子の階段を昇らせてもらいましたっ。ちょっと恥ずかしいけど、マイの全力、見て欲しいな」

「おおおぉー、まいたんかわえー!」

 どよっと、会場がいっそう沸き立った。

 緋色のブレザータイプの改造制服は確かに、エロゲでデザインされるような可愛い制服だ。そして少し脱色されてる栗色の髪がかかっている。


「あ。声頑張ってるなぁ。でも、自然っぽさが……もっと肩の力抜くべきじゃないかなぁ。アニメ声に近いっちゃ近いけど」

 その周りのテンションに苦笑を浮かべつつこちらも撮影。

 うんうん。いいよいいよ、そのふくらはぎ。やっぱりすらっとした足は最高。ほどよい筋肉のつきっぷりと、脂肪の少なさがたまらなくいい。

 そして普段女装していないからこそ、さらされてないからこその真っ白さ。

 普段スカート姿で生活している子はなかなかこうはいきません。

 え、ルイさんはって? 普段から足にも日焼け止め塗ってますがなにか?


「では、エントリーナンバー六番。しのさん、どうぞー」

 さて。そしてしのさんの出番がやってまいりました。

 さっきまで観客席からがんがん撮影をしていたので、もちろんまだそっちにいるわけだけれど。

 MCのおにーちゃんは、登場しないしのさんに、ぽかーんとした演技をしてみせた。

 打ち合わせ通りである。


「んじゃ。まいりますかね」

 かつかつと他の参加者とは違う場所からステージに立った。

 観客席から上がる、というのはなかなかにない演出ではないだろうか。

「おまたせしました。さっきまで撮影してたので、変な場所からの登場ですまん」

 マイクを借りてみなさんに男声でご挨拶。

 エレナと話し合って出した作戦の一つ目がこれだ。

 

 ルイちゃんは男装してるときはちゃんと男の子の声出せるんだから、これでいこうよ? というのが彼女の提案なのだった。そりゃまあ女子でここまで低い声が出せる人はそんなにいないからね。もちろん男子としてはやや高めの声ではあるのだけど。


「ちょ、あの怪しいコート、参加者かよ。っていうかマスク怪しいって」

「でも、スタイルはいいよな……あの尻が……ごくり」

「おまえ、尻フェチかよ」


 会場からそんな声がちらちら上がっていたのだが、こちらはこちらのやることをやるだけである。

「では、本日最後のエントリーのしのさんのご登場ということで!」

 ぱさりっ。ちょっと芝居がかった感じでコートとマスクを外すと、会場から、おぉぉぉー! という感嘆の声が上がった。

 うん。掴みはオッケーだね。


「特撮研の方からやってきました! 趣味は撮影、本業も撮影です! 本来ならさっきみたいに隅っこでカメラ握ってにまにましてるんですが……今日は志鶴先輩に、おみゃー二年なんだから、女装するだがよー、とか無理矢理こんな舞台に立つことになりました」

「……ええと。しのさんって、ボク、授業中に見たことあるんですが?」

 ざわざわと、観客席の方からも疑問の声がいくつもあがっていた。

 四月はほとんどしのさんで大学にきていたし、その時に見たという人達も多いのだろう。


「そりゃ、スカート姿で大学に来たことありますしね。今日みたいなのは滅多にないですが」

 さぁどうよと軽く腰に手をあてて、周りに笑顔をふりまく。

 ジーンズのごつごつした感触が少し手に触れるのは新鮮だった。


「……はい。ボクもさすがに女装コンテストでこんな異色がくるとは思ってませんでした」

「まさかこう来るとは思わなかった……」

 MCさんも志鶴先輩も、うわぁとこちらの体に視線を思い切り向けてくる。

 MCさんは胸に、志鶴先輩はお尻にだ。予想通りの視線である。


 エレナと話し合った結果だした結論は、「パンツスタイルの女装」なのだった。

 普段はふんわり系、お嬢様系、メイド服に水着、ガーリッシュ系と、たいていスカート派なしのさんなのだけど、今回はこちらにしてみました。

 ちなみに、ショートパンツも穿いたことはあるけど、痴漢にあってから控えるようにしています。


 そして、狙い通り志鶴先輩がやってきたキャラは全部が見事にスカート姿。

 生足とか綺麗だったけれど、それとの区分けという意味ではこのスタイルが一番だろうということになったのだ。

 おまけに女装ということもあるので、体型補正用のアイテムを使っている。女装の醍醐味といったらやはりおっぱいとかをつくるところだろう。


「しかし感慨深いものがありますねぇ。半年前にはHAOTOの舞台のMCをやってたわけですが、まさか女装で再登場するはめになるとは」

「……ええと。いちおうそれ、女装になるんでしょうか? 女装というとスカートという風に思うのですが」

「確かにメイド服もドレスも、かわいいし好きなんですが、普段着で女装ができるクオリティを目指しました。それと……みなさん。私のこと、男性だと思います?」

「しのさんかわいー! 全然男とは思えないー」

 会場から声が聞こえた。きっと友達の誰かなんだろうな。


「スカートイコール女子ってわけじゃあないですしね。それにそこにいる志鶴先輩なんて普段からパンツスタイルなのに、凜々しいかわいいっていう感じですから! ちょっとそれを目指しつつです」

「……うぅ。馨。そのスタイルは卑怯……」

 志鶴先輩が、うわぁんと脱力気味にステージに崩れ落ちた。

 ぺたんという座り方である。そうとうショックだったらしい。


「ええと。去年のMCということは……もしかして、しのさんってあの噂の木戸くんなんですか?」

「ちょ、えっ……」

「あのもさ眼鏡が?」

 MCの一言で会場はざわついてしまった。

 本名嫌って人は隠して良いよといってるのに暴露とかやめていただきたい。


「あまりそれは言って欲しくなかったんですが……まあそうですね。もともとHAOTOの蚕に頼まれたのも、こういうスキルがあるから、だったわけです。騒ぎになっても隠れられるんで。マスコミの人には内緒だよ?」

 しぃーと人差し指を唇につけてみんなにお願いをしておく。

 嘘は言っていないし、今くらい落ち着いていればまあ言ってしまっても問題にはならないだろう。マスコミに漏れてもいまさらーって感じになるだろうしね。そもそもこっちより翅さんの女装のほうがクローズアップされるにちがいない。


「まさか、蚕くんはしのさんにベタぼれとかはないですよね」

「ないですよー。彼とは男同士のマブダチというやつです」

 男同士にみえんがなーという突っ込みが入った。

 そうでしょうとも。


「それじゃ、崩れ落ちてる志鶴先輩から総評をどうぞ」

 ちらっと時計を見ながらそろそろ進めなきゃやべぇと思ったらしい彼はあまり蚕との話は膨らまさないでくれた。ありがたいことである。


「馨。そのお尻は? 胸は? どうしちゃったの?」

 志鶴先輩はジーンズ姿に驚いたわけではなくどうやら、その奥のボディーラインの方にダメージを食らっていたようだった。さすがに見る目が違うお方である。


「これは、友人からの入れ知恵なんですよ」 

 ちらりと回りを見てからこほんと、喉の調子を整える。

「普段通り女装してたら普通になっちゃうでしょー。しのちゃんどうせ地味女装しかしないんだから、って言われてちょっと大人っぽくセクシーな感じをめざしました」

 どうです? 舞台の上ではえる感じでーというと、会場がざわついた。うーん。さっきの人もかわい目の声を出してたんだしあんまり驚かなくてもいいんじゃないかな。


 それともでぃーかっぷのおっぱいが揺れたのがみなさんに刺激的だったのでしょうか?

 ちなみに今回はお尻もパットをいれています。エレナからは、ルイちゃんってば骨盤は横に広めで女の子っぽいけど、やっぱりお尻の肉付きはちょっと少ないもんね、と言われていているし、こんなんありますよ? とおすすめされたのだ。


「かわいい声まで織り込んでくるとか。馨あんたどこまで……」

「ええぇっ。アニメボイスのほうが出しやすいじゃないですかー。結構最初はこっちからで。そのあと落としてって日常声にしません?」

「わかるけど、初めてじゃん! そんなかわいい声だせるなら、あんたちゃんと女装コスでイベントでてよ!」

「だが断る! 一日ハイテンション声は疲れるし、しのさんはローテンションな生き物なんです」

 しのさんはローテンション。なんかウェブ漫画のタイトルにありそうな感じだけど、しのさんは基本はローなのである。

 ルイさんははっちゃけぎみなので、それもあってあまりテンションはあげないように心がけている。


「はいはい。特撮研の内輪話はあとでやっていただくとして。そろそろ時間もおしてきているので、投票方法の説明に入ろうと思います。みなさんお持ちの新入生歓迎会のしおりの末尾に投票用紙が入ってます。それに、この子かわえぇーなぁ。美人さんやぁと思った方に一票をいれてあげてください」

 のちほど発表はしますのでー、これにてじょそこん、公開の部終了でーす、というアナウンスと共に、新入生歓迎会の恒例イベントはとりあえず一旦終了となった。ステージでは次のイベントの準備があるらしく、少し慌ただしい感じでの撤収である。


「さて。では、女装の皆さま方にお願いがあります!」

 やっとおわったぜー、やれやれだぜーとか、舞台裏でもろに女の装いを解いている参加者のみなさんに声をかけると、ふぁっ、と怪訝そうな視線を向けられてしまった。

 まあそりゃ、やっと終わったってところで、いきなりだものね。

 でも、ここだから撮れる景色というものがある。


「馨さんや。あんたはなにをやる気だい?」

「え。せっかく志鶴先輩がこさえたんです。きれいに撮ってあげたいじゃないですか?」

 さぁかわいく撮ってあげるよ? ん? と、カメラを向けると、みなさん疲れているだろうに、たじっと後ずさってしまった。

 えぇー、怖くないよ怖くないよ。ちょっとばかりポーズ撮ってもらって、五十枚くらいばしばし撮影するだけだよー。


「ほいっ。あんまり地を出さないの」

 ふふふとカメラを片手ににじりよると、背後から頭にぽすんと軽いチョップをかまされてしまった。


「奈留先輩っ。なにすんですかいきなり」

「なにもかんもないです。ごめんなさいねみんな。この子ったらカメラを握るとちょっと、あれになっちゃうあれな子なの」

 怖くないからねーという奈留先輩に不満そうな視線を向けていると彼女は、ぽそっと耳元でささやいた。


「あんまりはっちゃけると、地がでちゃうから、危ないよ?」

「うぐっ」

 奈留先輩の忠告はまさに、女装でカメラいじってるとヤバイよという警告だった。

 ま、まぁたしかに。木戸馨として撮影しているならそうでもないんだけど、今つけている眼鏡は防御力も弱いしたしかに印象としてはルイのほうに近くなってしまうのかもしれない。テンションあげないように気を付けてるのになぁ。カメラ握っちゃうとダメらしい。


「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ。さきっちょだけ。ね? せっかくの被写体ー、これを撮らないとか、死んでしまうから!」

「死なないから! っていうか、この子ほんといろいろ手遅れだわ」

 あう。と奈留先輩が肩をすくめた。

 うん。大丈夫。ルイさんほどはっちゃけずに終わらせるからさ!


「じゃあー、せっかくなんでならんで! 集合写真とろ!」

 ほれほれっ、と、てきぱきみなさんの肩とか背中とかを押しながら一枚だけだから! というとなんとかその誘導にしたがってくれた。


「……ええと、しのさんよ。女装してる俺らがいうのはなんなんだがな」

「「お前のすでに女装じゃなくね!?」」

 何人かの声がハモった。

 うんうん。女装イベントに参加したみなさんは仲良しさんということで。

 あきれ顔まじりの集合写真が完成したのである。



 さて。肝心の結果に関してだけれど、一位になったのは、かわいい声をだしてた倉知さんだった。

 その結果を聞いたときは、へ? と正直固まった。

 な、なぜにしのさんが優勝じゃないねん! と思ったわけなのだけど。投票結果の紙にその答えはあった。


 たしかにかわいかったけど、女装じゃねぇから除外だ、というのが大半の人の意見だったらしい。

 ばかなっ。このしのさんの格好が女装じゃないなら、世の中の女の子がほとんど男子扱いになってしまうではないか。パンツスタイルだって女装だよ!


 そんなことを特撮研のみんなに話したところ。

 うん。しのさんは頑張ったんじゃないかな? と視線を思いきりそらされてしまったのだった。

 もう、わけがわからない。

 あんまりにもしょんぼりしていたら、志鶴先輩が、しかたないから今度男装で一緒に町に遊びにいってあげると言ってくれた。

 

 うん。なんか。ありがとうございます。

おそくなりました! まさかこんな長くなるとは。

イベントは書いててたのしいのでどうしても長くなってしまいますね。


最後まで結果をどうしようかって悩んだんですが、まあしのさんっぽいラストかなということで。

やっぱりしのさんはアホな子だなとしみじみ思いました。


さて。お次のお話は、ほめたろうさんな話になります。久しぶりに海斗くんたちが登場予定です。ルイさんのターンです。

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