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315.新入生歓迎会2

ちょいと遅くなりました。

あまりに長くなりすぎるので分割で。まだまだ当日にたどり着けなくてすみません。

「へぇ。それでうちに来ちゃった、というわけかー」

「ごめんねぇ、面倒くさいこと頼んじゃって」

 エレナの家のセカンドキッチンで紅茶をいただきながら、部屋着姿のエレナに事情を説明し終えたのは、お昼過ぎのことだった。

 エレナの都合もあったので、お休みの最終日になってしまったのだけど、イベント本番は月末なのでまだまだ余裕はある。こちらはこちらで、姉様の依頼とかいろいろあったしね。


 ちなみに今日はルイの装いだ。自然とスカート姿にしているわけだけど、相変わらずほっそりしたふくらはぎが露出されている。

 こちらに出てくるまでの間はだて眼鏡をかけて変装はしてきたけれど、意識の上ではすでにルイだ。

 執事の中田さんにも、ルイ様、ご心労のご様子で心配しておりました、と労られてしまった。

 かなり下火になってきたものの、まだまだ素顔で思う存分外回りをやるのは、危うい状態だ。

 

「ま、ボクを頼るのは大正解だと思う、かな。スキャンダルの時は、珠理ちゃんのほうに行っちゃったじゃない? だからちょっと嫉妬しちゃってたんだよ?」

 もー、ルイちゃんったら、遠慮無くボクにも声をかけてくれればよかったのに、と少し頬を膨らませているエレナ様は部屋着も思いっきり女性もので、ふわふわしていた。寝具とかも可愛いものが多いというし、この子はどんどん女の子っぽくなるなぁと思ってしまう。

 ……それで父親は何も言わないというのだから、エレナの偽装工作がうまいのか、お父さんが鈍感なのか。果てしなく謎である。


「スキャンダルは芸能関係だったからさ。それならプロに聞くのが一番かなってね。実際、助かったのは助かったし」

「あはは。珠理ちゃんもなかなか頑張るよねぇ」

 ま、応援はしないではないけど……うーん、とエレナはぽそぽそ呟いていた。


「ルイちゃん的には、珠理ちゃんってどんな子なのかな?」

 実はいい仲です、とかそういうのはないの? と彼女は身を乗り出してこちらの顔をじぃーとのぞき込んで来た。

「ん? 友達だよ? 時々被写体と撮影者って関係になるけど、一生懸命なのは好感が持てるし、困ってることがあったら助けてあげたい。そんな感じ」

「親友……みたいな立ち位置、なのかなぁ」

 ちなみに、さくらちゃんは? と言われて、うーんと首をかしげる。


「さくらも友達、だけど、最近上手くなってるし、ライバルって感じかな。学校が別になってからほとんどイベント会場とか撮影でしか会わないからさ、余計にそう思うのかも」

 ほんと。あの子ったら、ここ一年でぐぐっとレベルアップで、びっくりなのですよと答えておいた。

 実際、動物の撮影とかだとさくらのほうが上手かったりするし、いろいろと新技術を持ってきたりしてて、うかうかしてられないなあと思わせられるのだった。


「あ、さくらちゃんっていうと、来月の誕生日パーティーは参加してくれるんだよね?」

「うん。おっけ。予定は入れてないし、二週連続で予定はあけてあるよ。例年通り」

「あはは。なんか二次会の方が楽しいっていうと、お父様に申し訳ないけどね。是非ともパーティーの方も一緒に居て貰えると嬉しいな」

「それで、変な噂が立つのですね。うちのエレンをとらないで! って許嫁から詰め寄られたりとか」

 お金持ちあるあるですか? と言いつつ、そういや、海斗はその後どうなったんだろうねぇなんていうことを思ってしまった。泣き付いてこないのでひどくはないのだろうけど。


「許嫁なんていないよー。っていうか、ボクあんまり女の子から人気ないよ? 大学とかでも、スキンケアの仕方を教えてーとか、そんなんばっか」

 まあ、楽しく教えちゃったりするんだけどね、という顔に嫌悪感は欠片もない。

 エレナならそうだよね。いままで男子校にいたから、大学で共学になったら、一気に女子スキルで女の子と仲良くなっちゃうだろう。え。ルイさん以上に、ですよ?


「あ、エレナの大学生活はちょっと気になるかも。思いっきり男っぽくしてるわけじゃないんでしょ?」

「そだね。中性的にしてる感じだけど……初対面だと、女の子だと思われるかな。でもほら、ボクの場合はハーフってのもあるから、教授とか講師の人とか、そこらへんは、まぁハーフだから可愛くてもーくらいな感じみたい」

 これでも、いちおーがちがちで女子っぽい服は控えてるんだよ? とちょっと責めるように言われてしまうと、まあ、なんか事情があるとはいえ、ふっつーに女装して大学とかいっていてゴメンという気分にもなる。

 悪い事なんてなにもしてないんだけどね!


「その点、ルイちゃんの所はいいよね。ほとんど出席は学生証のチップでしょ? どんなかっこで行ってもいいって天国だよね」

「潜り込めるのって大きなところだけだよ。ちっちゃい所とかディベート系は無理だってば」

 そもそも、仕方なくしのさんやってるだけで……と、言いかけたところで、はいはい、わかってますとにんまり笑顔を浮かべられてしまった。うぅ。


「そんなこといっても、エレナったら大学でもよーじくんとべたべたしてるんでしょ?」

「それは……うん。手を繋いだりってのはあるよ? だって、男子校ならまだしも共学だもん。これ、私のですってちゃんとアピールしなきゃ」

 うわ。この子にとってはライバルは女の子なのね、というのを改めて思う。そりゃよーじくんは、普通に女好きだし、同性愛者じゃないからね。共学で知り合った女の子に骨抜きにされるっていう可能性だって、ないとはいえない。


「そんなわけで、なにを勘違いしたのか、よーじは同性愛者っていう風聞が広まって、僕のことも愛して下さいとかって、男の子から告白を受けたことが一回あってさ。ちょっと説教してやりました」

 おぶっ。やれやれだよと肩をすくめるエレナには悪いけど、思い切り噴いてしまった。

 よーじくんが、目をまんまるにする姿が目の前に浮かぶ。

 俺、ノーマルだよね? と言う事もできず、きっと、えっ、えっ、と視線をいろんなところに向けて、助けを求めていたことだろう。

 ……こういうのが普通なのか? そこで呆然としない時点でダメなのか……


「それは、よーじくんを? その子を?」

「もちろん、その子をね。男だったら誰でもいいの? って。男が好きなんじゃない! お前が好きなんだっていう黄金展開を無視しちゃうの? ってね」

「いや、黄金展開っていわれても普通わからんからそれ……」

 あまりの無茶ぶりですよといってあげると、えぇー、と可愛らしい返事が来た。

 そりゃさ。BLものの名台詞だとは思うけどね。


「そりゃさ。恋人欲しいってのはわかるの。特に、自分が同性愛者だーってわかりたてで、それは世間的にキモいって言われて、孤独感がひしひし有るような感じなら、運命の相手じゃなくても、一緒に居るだけで安心ってのはあるじゃない?」

 ルイちゃんみたいな人にはたぶんわかんないだろうけど、とにやにや言われてしまったら、ちょっとこちらも反論を試みねばならない。


「別に友達が居ればそれでいいじゃない? というか男子高校生はがっつきすぎじゃないかな? 彼女欲しーってさ。その熱気にやられて、おいらも一緒に居られる人が欲しいぜ、とか思っちゃって、誰でもいいからってなるのは、なんか……ねぇ」

 若人には恋愛以外にいろいろやることがあるじゃあないの! というと、まあ、そうなんだけどさ、とエレナさんは、あぁ、まったくこの子はーと、へんにゃりされてしまった。

 いつもにこにこしてるエレナさんの脱力シーンはレアである。

 もちろん一枚撮らせていただいた。


「いちおう。その子には、友達を一杯つくって、その中で縁を結んで行けば良いんじゃないの? って言って置いたよ。それと、重婚はダメってね」

 そりゃ、本気だったらアレなんだけど、身近にいる同性愛者っぽいから、声かけとこうってのはいくらなんでもダメでしょうと叱ったのだそうだ。

 おまけに、よーじは全然同性愛者じゃないからね! とも伝えて、え? とぽかーんとされたらしい。


「エレナのことだから、どーせ、よーじはボクと付き合ってるんだけど、これでも同性愛? とかいって、べたべたして見せつけたんじゃないの?」

「えー、それはちょっとルイちゃん深読みしすぎだよ。確かに彼は、よーじが男と付き合ってるらしいって噂を聞いてそんなことを言い始めたようだけど、すんなり、よーじの彼女です♪ っていったら、あ、あああ、ってうなだれてくれたよ?」

「……なんか、それはそれでえぐいなぁ。まあ彼女って単語はお似合いだけどね」

 うええと疲れた声を上げながらいってあげると、えへへとエレナはちょっと照れたように笑った。


「って、脱線だよ! そうじゃなくて」

 もうちょっとエレナの話を聞いていたい気もするけれど、それはあとでお茶を煎れながらでも話していただくとして。今は、こちらのイベントの話をしなければならないのだった。


「どうすれば、鈴音さんのむすこめさんの女装よりも、評価されるものを作れるか、だっけ?」

「志鶴先輩の表現が難しいよね。娘じゃないし息子じゃないし。あたし父の会社の人に娘っ子さんって呼ばれたけど、それだと思い切り女子だし」

 まあ、志鶴先輩はその呼び方でいいとは思うのだけど、と言うと、じゃあ先輩Sで! とエレナが苦笑混じりに命名してくれた。


「評価のベクトルに関しては、美人系にいっちゃってもオッケーなんだっけ? その先輩Sさんのおかげで」

「うん。きれいーってうっとりさせる方向でいいかなとは思ってるんだけども……」

 どうだろう? と恐る恐る上目使いでエレナを見ると、うーんと腕組みをしながら彼女は可愛らしく小首をかしげていた。


「ボクの懸念としてはね。ルイちゃん……まあしのちゃんでもそうなんだけど。普通にそのクオリティで出ちゃうと、いくら美人系だっていっても、浮く以前に……なに紛れ込んじゃったのお嬢さんって言われそう」

 だって、ルイちゃんの女装って日常に溶け込むやつなんだもん、というエレナの言葉はまさしくその通りだ。


 ルイの女装は、いわゆる一般的な「女装」とは少し違う。

 そりゃ、着飾るのは楽しいし、可愛いねっていわれると嬉しくはなる。

 ただ、それは日常の延長上なのだ。

 最初の頃ならつゆ知らず、別に女性の装いをすることに対しての気負い(、、、)なんてもんは欠片もない。

 ただ、一般的な女装って、そうじゃないと思うのだ。

 コスプレ的とでも言えばいいんだろうか。別の自分になる感覚というのが確かにあるのだと思う。


 もちろん木戸だって、ルイをやってるときは、別の自分になってるような感じはある。

 あるのだけど、まあ、慣れてしまっているのだ。

 慣れて染みついて。だからこそ、女装をしている人だ、という印象が周りにでない。


「あからさまに、男ですってのを見せる、か。そうだねぇ。スクール水着で力一杯もんまりしてみるとか?」

「……タックしちゃダメ?」

「しちゃったら、それこそ、男だと思われないよ? なにあの場違いな水着女はってなるよ?」

「そりゃ、イベントの趣旨とは違う乱入扱いになっちゃうだろうけどさ」

 なんなんだろう。この、女装イベントにまともに出るための苦労というのは。

 同じ土台に立つまでにここまでの苦労があるとは、本当に驚きである。


「でも、女性用水着をもんまりさせるのはちょっと抵抗があります」

「逆にその、公開するときに、ちらちら恥ずかしさを我慢する視線を周りに向けたら、勝てる気がする」

「……やだ! なんだってそんな、これで、おかしくないかなぁ? なんて演技しなきゃなんないの? 勝てても失うものが多すぎだよ!」

 ちゃんと、その後学校に通わなきゃなの! というと、ああ、はいはい。そうでしたとエレナさまは自分の想像に満足なようで、可愛いなぁ見てみたいなぁとぽそぽそ呟いている。

 二次元ベースの煩悩はちょっとこういうところでは横に置いておいていただきたい。

 

「しかたないなぁ。一番男の娘ですアピールができるのが、あそこなのに」

「スカートの中を撮られてもどっちかわからないと言われてる人に言われたくはないよ」

 それを言われるとなかなか言い返せないかなぁとエレナが苦笑を浮かべた。

 そんな写真がでても結局、そこまで作り込んでる子だ、ということで実はエレナたんは女の子派の勢いは衰えてはいない。


「他にとなると。どんなんだろうね」

「男の娘キャラのコスをやるとかは?」

「特撮研の人たちはわかっても一般認知度がないよ」

 ただの、コスプレした子で終わっちゃうといったら、え-、そんなに認知度低いかなぁ、とエレナがしょぼんとしていた。でも一般的に女装キャラをこんなに網羅するのは、好きな人だけだし、普通にキャラデザは女の子なので、見る人が見ないとわからないと思う。


 うーんと悩みながら、差し入れのチーズケーキを二人でいただく。甘いものがないと良い案もでないからね。いづもさんのところは、GWということもあって大繁盛していた。

 彼女に相談というのは、世代差もあるしなにより、そういうイベントは絶対近寄らないだろうから、最初から除外してある。沙紀ちゃんには、サークルに入るなら同学年の男子は絶対いれとけとアドバイスしておいた。

 今年は良いけど来年お鉢が回ってくることになる。彼の場合はそこから、みんなのおねーさまな事実が露見する恐れもあるのでなるべく避けた方がいいだろう。


「あ、じゃあ、こんなのはどうだろ?」

 あごに手を当てながら、考え込んでいたエレナは、ぱんと手を打ち鳴らした。

 なにか考えついたらしい。

「えっ、まじでそれやるの?」

「うん。インパクトはあると思うよ?」

 エレナさんは耳元とで、こそこそと、これどうかなとわざわざささやいた。

 甘やかな香りがふわりと香ってくらくらしそうになる。

 二人きりしかいないんだから、別にこういう演出しなくていいのに!


「ま、他には案はないのだし。悪くはない、かな」

「ボクもルイちゃんの新しい一面を見るために、がんばるからね?」

 はむりと、チーズケーキの最後の一欠片を口に入れると、エレナは楽しみーと、月末のイベントに向けての意欲を燃やしているようだった。

 本番が激しく不安である。

さぁ、どういう女装をしようか! という相談回にしました。

ほんとは、さらっとエレナたんと話をして本番に行くつもりが……エレナちゃんが可愛くて、ついつい喋らせてしまいました。

よーじくんは同性愛者のカテゴリに入るのかどうか、みたいなのは前からちょっと気にはしてたのですが。

「男が好きなんじゃない、お前が好きなんだー」ってやつですね。BL大好きな人としては言わせてみたい台詞です。

 そもそも、今回思いっきり女子会ですし。エレナたんが男子だということ自体が、ふぁ!? って感じですよね。


 さて。次話ですが、今回ぶったぎってしまった後半部分、本番! です。ルイちゃんがどういう女装をするのか。そしてそれは「女装」の範疇でおさまるのか。

 今しばらくお待ち下さいませ。

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