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314.新入生歓迎会1

まずは準備段階からです。

7.1の夜に、しのさんとしての学校イベントで間違いがあったので時宗先輩の台詞を修正しました。

学園祭でのMCはやったけど、あれは男でだった……

 その話題が出たのはGWに入る前の最終日の事でした。

 HAOTO事件もまだ落ち着ききっていないその日は、まだまだしのの装いで学校内を過ごしていた。

 サークルへの参加ももちろんしのとして、なのだけど、もうすでにみなさんは慣れてしまって、あーしのさんだーで済んでしまっている。

 おまけに言ってしまえば新入生からも、コンビニ同様に女性の先輩という認識をされてしまったので、今だけ、今だけねっ、と熱心に説得したものだった。

 

「ちわーっす。あれ。なんですか、なんかどんよりしてますが」

「ああ、しのさん。今日までそっちなんだっけ?」

 今日はちょっと男の子っぽいテンションなのかな? と入り口付近に座っていた花涌さんが声をかけてきた。

 うん。もちろん女声ではあるものの、ちょっと元気な感じな仕上げにしている。

 しのさんは、基本女装をしている木戸馨なので、女装してるっぽく振る舞う必要がある。

 全然わかんねーと赤城なんかには言われたのだけど、そこはこだわりなのでしかたない。


「GW明けには戻す予定だね。あんまりこっちの格好してると、かーさま達にどやされるし」

「さすがにご家族は認めないよねぇ、それ」

「はっきり、こっち側にくるってんなら良いけど、って感じかな。ま、それよりこの時宗先輩のどよーんとした感じと、つやっつやな志鶴先輩のコントラストは一体なんなんです?」

 部屋に入って感じたどんよりは、時宗新会長のもので、あー、どうしてこう俺の代になってから面倒事がくるんだよぅ、と頭を抱えているようだった。

 奈留先輩は普通に爪のお手入れをしている。

 まるで漫画の光景のような、我関せずっぷりである。


「あ、しのさんいらっしゃい。……ってしのさんだよなぁ。ほんとこれだしなぁ……オッケーしてくれるのか、すさまじく……疑問な気がする」

「もー、朝日くんさっさか言っちゃえばいいじゃんよ。当たって砕けろ新会長」

 奈留先輩は甘皮を丁寧に処理しつつ、その後は刷毛でつめに何かを塗っていた。マニキュアではなく、爪の栄養剤みたいなやつだ。夏を目指して今から爪を元気にしておこうという魂胆かもしれない。


「ほれほれ、あっさひー。こっちは準備万全だし了承したんだからさ、あとはうちの主戦力をどどんと投入するべきだってば」

 にまにまと、入学が一年早い志鶴先輩があおっている。

 うーん、一体何があったのだろうか。


「ええと、しのさん。去年今頃、何があったか覚えてるか?」

「朝日たん爆誕事件ですか?」

「……うん。間違いではない。ないけど、タンはやめろ」

「ええぇーたんかわいいじゃないですか。しかも朝日。その名前ですよ。女装するために名付けられたような名前ですよ?」

「やめてっ。俺はまだお尻は守りたいっ。そりゃお嬢様は美しかったけど」

 うんうん。去年の今頃というと、ちょうど木戸が特撮研に出入りし始めた頃だ。

 そのころちょうど志鶴先輩が海外から帰ってきたところで、いきなり女装の呪いなんていう話をし始めたのだった。

 当時の二年の男子会員は彼だけだったし、新入生歓迎会は結局彼が女装で参加したわけだけど。

 ちょっとした、事件としてみんなの記憶の中に残っているのだ。


「とまあ、少しほぐれたでしょうから、本題どうぞ」

 そこまでネタばらしがあればもうあらかた想像はつくのだけど、志鶴先輩のにこにこ顔がすごいのできっとなにかオプションがついてるのだと思う。そこはきっちりと聞いておかないとならないのだ。


「新入生歓迎会で例年女装コンテストをやるって話は知ってるよな。んで、それの生け贄が二年の男子学生ってのはわかってるよな?」

「人が居ないと三回生、四回生っておはちが回ってくるとも聞いてます」

 実際、木戸がオープンキャンパスにきたときに知り合ったお人も、男子会員がいなかったから例年女装していたという話も聞いている。写真は見せてもらったけど、割とがんばってたと思う。


「えっと。うちの場合は時宗会長がやるんですか?」

 きょとんと、新入生である柊さゆみちゃんが疑問を漏らす。

「いんや。二年男子がいるんだから俺はやんないの。で、その役目はしのさんに行くわけだが」

 じぃと、思いっきり女子の装いをしているしのに視線を向けて、時宗新会長は、これで女装とか……どうよ、と遠い目をしていた。自分がやったときとのギャップなども影響しているのかもしれない。


「……ええと。しの先輩はどうみても女性なんだから、女装イベントにはでれないのでは?」

「出れます。というか出させます。これでも学籍は男子なので」

「……しの先輩の妄言のたぐいではなく?」

 じぃと、視線をこちらに向けつつ、柊さんはまだ信じられないという顔をしている。

 まあ、彼女は男の姿の木戸馨を見ていないからね。え。そっちを見せても信じないって? それはもうどうしようもないと思います。

 

「だからさんざん言ったじゃん。私はこれでも男なんですって」

 そんなわけだから、女装イベントも参加しなきゃなんないわけ、と柊さんに言うと、大学怖い……と呟かれてしまった。ええと。そんなに怖がらなくてもいいと思うな!


「まあ、そんなわけだけど、まずは、お前。歓迎会出る気あるか?」

「そりゃ……後輩もできたし、新会員獲得っていう目標もあるので、出てやらないでもないですよ」

 よしよし、と時宗新会長は、ぐっと拳を握りしめていた。

 どうやら綱渡りの交渉というような意識らしい。


「それで女装コンテストにでる気は?」

「……この前の騒ぎの後ですからね。できれば避けたいところではありますが、歓迎会自体は五月末とかでしたっけ?」

「そうそう。あと一ヶ月はあんの。それまでにはお前のスキャンダルも下火になるだろうってことで」

「ちょ! 私のじゃないです! 被害者なんですってば!」

 あ、悪い、と時宗先輩は素直に謝ってくれた。


「ええと、しの先輩がコンテストにでても、え、なんで女性がこんなところに? ってなって会場混乱すると思うんですが……」

「そうなんだよな。知ってるヤツは知ってるんだけど……去年の春先にエロい格好で校内歩いてたしさ。その場で見たことあるってやつは、え、なんでしのさん参加してんの? ってなると思う」


「なら時宗先輩がやったほうがイベント的にはおいしいんじゃないですか?」

 私がやっても、そういう空気とマッチしないんじゃ? というと、ふるふるふるふるふると、彼は頭を何回も振って、こちらの手をがしっと掴んだ。


「もう女装はこりごりだよ! どうして押しつけられる相手がいるのにやらにゃーならんのか!」

 いろんなところで笑われるし、意外にきれいーとか言われるし。しかも後輩にはぼろくそダメ出しされるし、もーいやぁ、と彼はそのまま頭を抱えてうずくまってしまった。

 別に女装くらいでトラウマにならなくてもいいと思うんだけどな。


 実際、去年の時宗先輩は、他のメンバーに比べれば十分に良い方だった。

 木戸が指摘した粗を、動きなどでカバーをしながら、それらしい仕上がりになった。もちろん志鶴先輩の監修もあり。

 初心者だろうと抑えるポイントが明確化されるので、それだけで他とは段違いの女装に仕上がった。

 そう。この大学の女装イベントは、女装している姿を笑い飛ばして、盛り上がろうみたいな、仮装パーティーなコンテストなのである。


「と、朝日がぐったりなので、変わるけどね。馨。今年の実行委員はちょっと変なヤツがやってるみたいでさ。おふざけじゃなくで、ガチでやってみない? 美を競ってみない? みたいな感じになったんだよ」

 テーブルにへたり込んでいる会長どのの代わりに志鶴先輩が話しはじめる。

「これまた、豪快な路線変更ですね」

「まぁね。でももともとは別に美人さん女装がダメってわけじゃなかったんだよ。ただみんなのスキルの問題もあって、美人すぎて困るみたいな子があまり出なかっただけ」

 出たらそれはそれで面白いんだけどなぁ、と志鶴先輩は遠い目をした。


「そこで今回は、方向性的にそっちに絞ろうってことになったの。もちろん無理っぽいって判断したところは下りるのは自由。参加者はちょっと例年より減っちゃうかもだけど、質で攻めようみたいな感じ」

 これなら、しのさんも参加出来そうでしょ? と言う質問に、それならまぁと曖昧に答える。

 参加は出来たとしても、付け焼き刃女装なみなさんの中にぽんと混ざるというのはどうなのだろうか?

 ちょっとその温度差が怖い。


「それで。その全体のオブザーバーとして、私がつくことになったんだな、これが」

「は?」

「だから、ご意見役というか、サポーターというか」

「オブザーバーの意味はわかるんですが、なんだって志鶴先輩がよそのお手伝いなんて話になるんです?」

 全体の、と言ったところで、しのさん相手に志鶴先輩がすることは、まずまったくもってないだろう。

 あー、そっちのほうが可愛いんじゃない? とか好みの問題でのアドバイス程度で終わってしまう。

 なので、彼女はしの以外のメンバーに対する助言役ということになる。こちらはこちらでやることになるだろう。


「あたし、これで女装してる人として学校中で有名なのね。なので、そんな役になったわけなんだけど。しのさんが立っても違和感ないくらいの舞台を作ってみせるよ?」

 どうかな? と言われても、なかなかに悩ましいところだ。

 たぶん、一月あれば、衣装と身のこなしくらいはしっかり整えてくれることだろう。

 肌に関しては、よっぽどじゃなければ、ファンデーションを塗ればカバーもできるだろうし。

 二十歳前後の男の肌は、若干オイリーだけど、毎日お手入れをしなくてもちゃんと見れるものに仕上げることはできる。やった方がもちろんいいのだけどね。


 なので、さっきまで思ってた、一人だけ悪目立ちするんじゃないの? というのはとりあえずいくらか払拭はされると思う。でもなぁ。

 女装した人っていうので表にでる機会って今まであんまり無かったんだよね。

 ルイは言うまでもないけど、しのさんだって女装してますアピールをしたのは、せいぜいディベートの授業の時くらいなものだもの。

 正直、いまさら出るの? という気分の方が強い。 

 

「志鶴先輩が全体のオブザーバーになるっていうなら、私は朝日たんのプロデュースに全力を注ぐ方向でもいいのかなと思ってしまいました」

「やっ、やだ。やだぁ。朝日たんはもうやだぁ」

「あ、会長がちょっと可愛い声を出してます」

 なりゆきをうつぶせになりながら聞いていた時宗先輩が、朝日たんという単語を聞きつけて、男声でわめき始めた。一ヶ月あれば、それが綺麗な可愛い声に変わったりするかなぁ。ふふふ。 


「さすがに時宗可哀相だから、馨がやってよ。普通は女装しようって言ったらこーなっちゃうんだから」

「……身近な人達、割と嬉々として女装するので、こういうのは新鮮です」

「どういう生活を送ってきたんだか……」

 鍋島さんがぼそっと突っ込みを入れてきた。

 そうはいっても、知り合う男子がことごとくそうなんだから仕方ないじゃあないですか。


「普通で思い出しましたけど。志鶴先輩がレクチャーして、それで目覚めちゃったらどうするんです?」

 ふと。八瀬の姿が頭をちらついた。

 あいつは……仕方が無かったとはいえ、ルイが女装の扉を開いてしまった相手である。

 今回の件で、もし本気で女装をさせてそのままはまってしまったら、その人の人生はどうなるんだろうか。


「しのさんったら、いまさら変なことをいうなぁ。そこで目覚めるようならもともとその人の素養でしょ。うちらがあたえるのはきっかけだけ。それでそのあと本人が楽しむならそれはそれでいいじゃん?」

「そりゃまあ。これがボク、っていってはまっちゃうなら、元からそのケがあるのか……」

 うーんと、あごに指をあてて、ちょっと考えて見る。

 たしかに、時宗先輩なんかはいくら綺麗に仕上げたところで、無理、ヤダ、というのだろう。

 綺麗に着飾るというところをどれだけ許容するか、求めるかっていうのはもうその人の感性の問題なのかもしれない。


 にしても、どんどん外堀が埋まっていく感じだ。

 参加するのが絶対に嫌だ、というのはそこまでではないのだけど。

 どうにもこう、熱心にはなれないってのが正直なところ。

 うん。そうだ。なんかもやもやしてたのはこれだ。


 参加者になるのではなく、やはりその場を撮影していたいんだ。

 参加してたら、カメラ握れないじゃん。


「ってことは、私が時宗先輩を完璧な乙女にしても問題なしということで」

「えー、そこでその話を蒸し返しちゃうの? その流れだと、受けて立ちますぜ! って感じじゃん」

 そう思って、お断りの方向によっこいしょと方向転換すると、志鶴先輩は、えーと声を漏らした。

 時宗先輩は……ああ、まだテーブルにへたり込んでるね。


「だって、参加しちゃったら写真撮れないし……」

「……馨はこういうやつだったよね。時宗、これどうすんの?」

「……え? なんのはなしっすか?」


 きょとんと、俺はなんもしらなーいとへんにゃりしている時宗先輩は、会長としての威厳のようなものは欠片もみえなかった。

 うわぁ、と他のメンバーもその脱力っぷりに呆れ声だ。


「やれやれ。なら、馨に二つ、条件つけたげる」

 あーあ、と志鶴先輩は時宗会長の頭をぺしぺししてから、こちらに向けてブイっ、とピースをしてみせた。

 二つという表示だろう。


「一つ目は、撮影について。衣装はお披露目までは隠してもらうとして、上着きながらでよければ撮影してもいいよ。どうせ我慢しろっていっても、できないでしょうし」

「コート羽織った人がカメラ片手ににまにま撮影する感じか……」

 目立つだろうなぁ……と鍋島さんが苦笑混じりにその光景を想像しているようだった。

 たしかに、ちょっと目立つかもね。でも、撮影優先です。


「そして、二つ目ね。もしあたしが作り上げた子を抑えてあんたが優勝したら、一日馨の玩具になってあげる」

「へ?」

 玩具って……どういうことなんだろう。


「一日、どんな衣装でも着てあげるから、好きに撮影していいよ」

「それ、男装もですか!?」

「……うん。いいよ。まー馨にあたしの刺客を破れるとは思わないけどねー」

 ふふふーんと言われると、なんだかこちらもちょっとやる気がでてくるもので。

 志鶴先輩はなにげに、ずーっと女装なので、たまには凜々しい男装コスも見てみたいと前から思っていたのだ。


「なら、勝負と行きましょう。撮影のタメなら私、本気出しますから」

「楽しみだねぇ。馨ったらなにげに自然に女装しちゃうから、本気っていうのは楽しみ」

 よっし。これで当日は盛り上がりそうだ、と志鶴先輩は満足そうだった。


「着飾ったしのさんは確かにちょっと楽しみです」

「ですね。やっぱりセクシー系なのかなぁ。大人っぽいのも似合いそうですー」

 鍋島さんと柊さんがこそこそ二人で言い合っていたのだけれど、それはまぁ言わせておくことにした。

 さて。どんな服装で攻めるのか。とりあえず考えなければならない。 

 期限は一ヶ月。先輩のコスプレ姿のために、どうすれば良いのか。今からイベントが楽しみだった。

学校で女装イベントがあったとき、木戸くんはのりのりでやるか、と言われたら……今までの傾向をみると「しないよなぁ」と思いつつ、今回も撮影でつらせていただきました。

高校の頃も「学校で女装させるにはどうすんべ」ってみんなで言ってたくらいなので、彼にとって女装は見世物じゃないんだよなぁとしみじみ思いました。


さて。次話ですが、準備からの当日の話という感じで。木戸くんがどんな女装をするのか、お楽しみに!

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