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310.絵のモデル1

「待ち合わせはここでいいんだよね」

 きょろきょろ周りを見渡しながら、今日はしのモードで待ち合わせ場所に着いた。

 ルイとしてカメラを持ってうろついてもいいのだけれど、いささか時の人になっているので混乱を避ける意味合いでも眼鏡をかけている。服装は自由にしてきてといわれているので、ルイよりのアクティブな感じだ。


 今の所、しの状態だと周りからあまり注目されないのは、学校に通っている時点でよくわかっている。

 最初はルイさんとの類似点とかで気付く人は気付くかなぁとか思っていたけど、そんなことはなかった。


 校門の外で待っていると、とてとて歩いて近寄ってくる人影が見えた。

「うすうすまたじゃないかなぁとは思っていたけれど……あぁ。ほんともうどうしてこんなに遭遇率が高いのか」

「今日はありがとねー! もーね、いいモデルに出会えなくてもんもんとしてたのよ。それで自暴自棄になってお風呂に入る回数も減っちゃってー。ああ、うん今日はねさすがにねモデルさんの印象悪くなるといけないからちゃんと入ったよ? 場合によっては四日入らないとかざらなんだけどもー」


 ぶんぶか手を握って振り回している相手は、市村律(いちむらりつ)。姉の先輩に当たるということは当然年齢だって姉より年上なのは確実だ。なのにこの少年のような無邪気な目はいったいなんなんだろう。これがあーちすとというやつだろうか。


「っと、豆木ルイです。先輩から頼まれてきました。お話は聞いてると思いますがモデルの経験とか全然ないんで、駄目なところがあったらどんどん注文つけてくださいね」

「おぉっ。さすがは牡丹の後輩だけあって、丁寧だなー。おねーさんは嬉しいですよ」

 ささ、とりあえずアトリエの方へカムヒアーといわれてまずは、大学の敷地内に足を踏み入れる。


 大学院も大学と同じ敷地内に存在する、ということを実はルイさんは大学に入るまで知りませんでした。

 なんていうか別の建物があって、そこにいるっていうイメージだったんだけど、そうではなくて同じ敷地内で同じ研究室に居るけど、肩書きは大学院生みたいな感じと言えばいいんだろうか。

 美術系だとまた違うのかもしれないけれど、まあ、この建物自体は大学と大学院共用のモノと言うことになるだろうか。

 GW最中と言うこともあって、割と中にいる人はそんなに多くはなさそうだ。

 とくに大学生達がいないのもあって、かなりひっそりとしているという印象だった。


「ルイちゃんは別の大学とか来るの初めてかな? いつもならこの道もわりと通学してくる学生でぱらぱら人がいるーって感じでね。これだけひっそりしてるとなんか別の光景みたいで、ちょっと別なところに迷い込んじゃった感じするよね」

 景色としてはわりと面白いんじゃないかなぁと言いつつ、彼女は周りを見渡した。

 まあ、それはこちらも同意である。すでに敷地に入ってから取りだしてあるカメラで、周りの風景を抑えておく。


「撮影はおっけーですよね? 大学の敷地内って」

「そうだね。特別問題にはならないかなぁ。ルイちゃんはいつもそんな感じなんだ?」

「そうですねぇ。たいていカメラもっていろんな景色みてる感じです。……とはいえ最近はちょっと周りが騒がしくて身を隠してるんですけどね」

「きいたよー。なんか芸能人と良い感じになってて、周りが騒いでるとかなんとか。まーあのゴスロリ服を見事に着こなしているあたりで、もてそうだなぁって思ったけどね」

「もてるだなんて……面倒なだけですって」

「あはは、そこは否定しない、か。わたしにはまーったく縁がない話ってやつだねぇ」

 どーせ、世の中の男は可愛い子にしか興味がないのさ、と律さんはおちゃらけた笑いを漏らしていた。

 あんまり恋人欲しくないって思ってるタイプなのかな。


「人は何でもてて、何で幻滅するのかわからない生き物ですからね。もしかしたら絵を描いてる律さんが大好きっていう人も現れるかも知れませんよ」

 そうじゃないと、結婚してる人の数が減っちゃいます、と言い切ると、えー無理だよーという力のない言葉がきた。

 まあ難しい事を言っている自覚はあるのだけど。その気があるのなら付き合っても良いんじゃないかとは思う。


「それよりは、今は絵をずーっと描いてたいかなぁ。描けば描くほど、ああ、あそこをこうしたいああしたいってなるからね。結婚とかは二の次な感じ」

「あら、残念。それならそれで、まあいいと思いますけどね」

 好きなものをつきつめる。それも生き方の一つだとルイも思っているので、そんな律さんの生き方にちょっと共感のようなものある。


「ルイちゃんも口コミを集めるには、お仲間なのかなぁと思ってたんだけど、どうなんだろ?」

「口コミで人柄がわかるようになってしまったのが、少しショックではありますが……まぁ、私も結婚とかは二の次ですね。ああ、ネットでハラポテがどうのーとか書かれてましたけど無視してください」

「あはは。みんなたくましいよね。夢見がちというか。でも、男の人ってそんなに子作りしたいものなんかね」

「それはなんともですね。でも魅力的な人がいたら、ちょっと思うところはあるんじゃないですか?」

 たとえば律さんとか、と言ってあげると、やめてーそういうのはやめてーと頭を抱え始めてしまった。

 まぁ、そうだよね。芸術の方が優先だよね。


「うちの大学と比べるとちょっとオシャレな感じなのは、美術系のところなんでしょうか」

 数ある建物のうちの一つに入ると、その内装に少し驚かされた。

 ルイの……というか木戸馨が通っている大学の建物は、確かに歴史は感じさせるつやはあるのだけど、装飾はどちらかというと質素なものだった。

 それに比べてこちらは、なんというか。

 無機物を美しいと思ったのは久しぶりである。


「そうだね。他の学部だと内装はもうちょっと手抜きかな。ええと……撮りたければどうぞ」

 うずうず、カメラを握りながらしていたら、あははと苦笑まじりに律さんが撮影許可を出してくれた。

 うん。しかたないじゃない。撮影したいモノが目の前にきたらシャッターを切りたくなるのが人情というものだ。

 

 そして何枚……二十何枚か撮影をさせてもらって、彼女に合流する。

 ちなみに、しっかりと律さんはレンズを向けた方向から避難していた。

 うーん。せっかくだからこの建物と律さんっていうのも撮ってみたかったのだけど。


「最初は見た目だけで選んだけど、その行動を見てしまうといい拾いものをしちゃったなぁ」

 ふふっと、合流するとほんわかした笑顔を向けられて、いいなぁと少し思ってしまった。

 律さんはお化粧っ気のまったくない人だ。それこそ本人曰く四日風呂に入らないこともあるとか言っていたので見た目に無頓着な感じといってもいいだろう。

 でも、ちゃんと磨けばすっごいかわいいと思うんだけどなぁ。


「律さんはどういう基準でモデルを選んでるんですか?」

「んー、昔はいろいろと基準を持ってたんだけど、最近はカンかなぁ。びびっと描きたいものがあったら、それを描くって感じ」

 ルイちゃんは? と聞かれて、んーと少しだけ考える。

 正直、上手く撮ろうという想いはあっても、被写体選びはカンだ。まさに律さんと一緒である。


「私もそんな感じです。まあカメラの場合は、ばんばん撮ったあとに選別するから、そこでの基準みたいなのは自分の中でありますけどね」

 絵と写真の一番の違いは、やはりこの迅速性だと思う。

 絵だと描き上げるまでに数日かかる。それを写真は一瞬で済ませてしまう。

 なので、その分枚数が撮れるというわけだ。

 

 では絵画はなにがいいのか。そこらへんは多分、今回の絵が仕上がった時にわかるこなんだと思う。正直この道には詳しくないしね。


「では、普段写真ばかりな貴女に、私もこちらの味を見せていこうではないですか」

 さぁどうぞ、と彼女が使っている研究室の一室に足を踏み入れる。アトリエという扱いなのだそうだけど、ちょっと小さくしたような美術室というような感じだ。

 デッサン用の石膏像とかはないけれど、キャンバスがががんとおかれてあったり、絵の具の匂いがしたりと、その雰囲気なのは変わらない。


「おぉ……これが大学院の部屋ですか」

 長谷川先生の研究室は……あそこもフィギュアとかががんがん置いてあるから異色だろうけど、本やら資料やらもたんまりあるところだった。それを基準に見ているから、そのすっきりした部屋は少しだけ新鮮に見える。


「てきとーにかけて。それと眼鏡はいつもはずしてるよね?」

「はい。伊達です。ちょーっと最近有名人ぎみなんで、変装のために」

 ここなら外しても問題なし、といつもつかってるシルバーフレームの伊達眼鏡を外す。

 コンタクトをすでにいれてあるので眼鏡を外しても特別問題はない。


「やっぱり眼鏡かけてないほうがかわいい。イメージぴったり。なんかもーありがとう」

 やーんと両手をぎゅっと捕まれて歓迎されてしまった。

 そしてモデルの席のようなところにつれていかれる。

 衣装はそのままでいいらしい。いろいろとポーズがどうのという話がでて、何枚かラフを描いていたのだけれど、うーんと悩まれてしまった。いまいち構図が気に入らないらしい。


「ルイちゃんって写真家さんなんだよね? 今日はカメラ持ってきてるよね?」

「ええ。さっきもばしばしやらせてもらってますしね。それがなにか?」 

 お言葉に甘えてすちゃりとカメラを装備する。一緒に照度計を使って周りの明かりを反射的にはかる。

 すぐにでも撮影したいですアピールである。


「おおぅ。すごい。カメラも体の一部ですって感じ」

 こっちのがよさそうだなーと言いつつ、彼女は話を続けていく。

 どんな風景を撮っているのか。どんなものがスキなのか。

 話をしながらいろいろと同調したり、へぇーとうなずいたり。

 ガールズトークといわれるものが永遠展開される。いやぁ自分のことをこんなに話すというのはそうそうないのでちょっと新鮮だ。たいていルイとして撮影する側だから質問はこちらからすることの方が多いのだ。


 改めて、自分の趣味というか撮影以外の部分が極端に女子よりなのを再認識させられる。

 ルイはかわいいもの大好きである。姉とその友達と町を回ったときもガールズトークをしっかりしていたし、さくらと出かけるときに、あんたはねぇ……とあきれられたこともたんまりある。ウィンドウショッピングも割と好きな方だ。

 ただ、家庭のことや正体がらみのことはとりあえず内緒な方向にさせてもらった。

 気づかれてしまったら仕方ないかなとは思っているけれど、あえて自分から性別のことを言おうという気にはならない。

 その会話の中に彼女が何を見たのかはわからないけれど、かりかりと鉛筆を動かす速度は徐々に上がっていった。




 二時間が経って、ひと休憩いれましょうと律さんがお茶を入れてくれた。

 お菓子は市販のクッキーだ。電子レンジに入れるとまた別のおいしさがあるといわれるアレである。


「はふぅ。あんまり硬直してなくていいとは言っても、ちょっと肩こりますね」

 今日はそのままでいただきながら、紅茶を口にいれる。あたたかくてほわほわで幸せな味がする。

 いわゆる、モデルといわれると、がじっとポーズを決めてというのを想像するわけだけど、律さんとしては、最初のポーズだけ確定すれば、そのあとは自由にしていていいよ、ということだったので、カメラをいじりながら過ごさせてもらった。

 先ほどまでに撮ってきたものを背面パネルで見ていたりもしたわけだけど、そこまでデータも入れてきてないのでそれでも二時間は割と暇だった。むしろ途中からここから見える景色を眺めて、あそこをこうしてとかそんな想像をし始めてしまったほどである。

 

 さて。そんなわけで。紅茶をほっこり飲みながら、ちらりと律さんに失礼にならない程度に視線を向けて観察する。彼女はいってみれば、とてもやぼったい感じで、安いのがうりな衣類やさんでとりあえず集めましたという無難な格好をしている。そう。しかもスカートではなくパンツスタイルですらあるのだ。

 絵の具で汚れるから、というのはわかるけれど、それにしてもここまで着飾らない人は珍しいと思う。


 うん。もちろん芸術肌でということであれば、自分は二の次になるって人もいるだろうけどさ。

 でも、わざわざ女装までしていて、着飾らないっていうのがよくわからない。


 はい。そうです。遭遇率がどうのーといっていたのは、まさにこれ。

 律さんも、こちらの見立てでは、女装した男性だ。もしくは千歳みたいなタイプかもしれない。

 女性として生きたいというようなタイプの人。

 となると、華美な格好をするのが怖いから無難にしてるのか、という風にも思いがちだけど、昔の千歳と比べてはっきり違うのは、律さんに怯えがまったくない点だろう。


 そして、一般水準で見れば女の人にちゃんと見える。姉が彼女(、、)といっていたのもそういう理由だ。たぶん姉も知らないんじゃ無いだろうか。知ってたら一言伝えてくれてるはずだしね。 

 誰しもきっと律さんのことは女性だと認識している。


「そういや、最初からちょっと気になってたんですが、律さん自身は自分のコーディネイトとかしないんですか?」

 芸術家さんならすぐに自分を飾れそうなのにと、素直に質問をもらす。


「んー。イマジネーションを出力するのに精一杯でねぇ。別に今の外見に不満があるでも問題があるわけでもないからあんまり気にしたことがないんだよね。もーこの体はたんなる出力装置みたいなもんでそれを着飾らなくてもいいかなって」

 にひひと困った顔で笑われてしまうと、なんとなくその質問はまずかったかと思いつつ引っ込みもつかないので続ける。


「結構面倒くさがり……なんですかね。磨けばいくらでも光るんだろうけど……確かに最低条件はクリアしてますし……」

 ルイからみて律さんの装いはなかなかのものだと思う。

 あまり女の子っぽい格好をしなくても女性に見えるというのは、なかなかに難易度が高めなのだ。

 そして声。ここらへんもやや低めに感じるけど違和感はない。高すぎず聞きやすい落ち着いた声だ。


「おろ。もしかしてルイちゃんわかっちゃう人?」

 うわぁと目をぱちくりさせながら、律さんがハスキーな声でうめく。

「ん-。いちおうそっち関係の友達もわんさといますし、これでも男の娘キャラの撮影じゃ有名ですもん。でも着飾らない人って初めて会ったので」

 ちょっと不思議な感じかもと答えると、律さん自体もあー、そりゃねーと軽く息を吐いた。


「わたしはほら。性転換しちゃおうって感じの人だからね。着飾るの目的じゃないんよ。最低限でいいやって感じ。求めたらキリがないし、あんまり情熱注げない。まー変わってるって業界でも言われるんだけど、自分自身を見るより周りの景色を見て描いてたいの」

 だから、最低限と付け加える。

 ちらりとこちらを伺うように見ているのは、それでなんか言われるかなとでも思ったからなのだろう。


「そういう主義なら、特別なーんにも言うべきではないのでしょうね。牡丹先輩からも聞いてますがすごい綺麗な絵を描くって話ですし」

 そういう生き方は、もちろんありだ。美貌に気をつけるのが女のつとめというわけはない。

 性別を変えるというと「美容意識が高い」という印象を一般の人は持ってるかも知れないけど、そうじゃない人がいたっていいと思う。まあ外から見てるともったいないなぁとは思うんだけどね。


「周りの景色を撮りたいって私も思いますもん。まあ自分自身のコーディネイトも苦ではないですけど」

 面倒ってほどでもないし、テクニックだけでも持っておいて、使うか使わないかは時と場合で選べばいいんじゃないかなぁと言うと、でもさーと律さんは困ったような顔をしていた。


「それは、ルイちゃんがコンプレックスもった体してないからだよきっと」

「そうですか? 律さん割とうまくごまかせてるし、ボディーラインだって綺麗なのに。それに私だってコンプレックス無いわけ……でも、なくもない、か」

 一瞬、姉のおっぱいが頭をよぎった。いいや。コンプレックスじゃないから!


「牡丹のおっぱいと比較すると確かにルイちゃんほどないと、コンプレックスかなぁ」

 あはは、と苦笑を浮かべてる律さんはどうやら、パットをいれているところを見破っているらしい。


「わたしのは人工乳なのだけど……いちおー人並みに育ってくれたのでありがたいかな」

 なんなら触ってみるかい? と言われたので、指を伸ばしておく。

 ふにりと柔らかな感触と、そして弾力がくる。

 マシュマロみたいっていう形容をされることもあるだろうけど、もうちょっと硬い感じ。コンニャクまでいっちゃうとちょっと硬すぎるかな。

 律さんは人並みっていうけど、Bくらいだよね、それ。ちょっと小さいってくらいに思います。


「いづもさんどれくらいだったっけかな……Cあったっけ?」

 んーと、いづもさんの見た目を想像しようとしたのだけど、ついつい甘いケーキの印象のほうばかりを思い浮かべてしまった。

「人によっては、パットをインプラントっていう話も多いみたいだけど、DとかEとかにしちゃわなくても、別に気にならないからねぇ。むしろ重くて生活に支障がでちゃうよ」

 どうして、みんなおっきいおっぱいを目指したいのかよくわからない、と律さんは腕をくみながら、うむーとうなり声を上げた。


 別に胸がなくても、女の子に見える子は見えるってば、という意見は確かに同意だ。

 胸はジェンダー記号である。これは間違いではないけれど、それがすべてではない。

 町中で胸観察をしていると、小さい子も確かにいるし、その子が男の娘か、といわれたらそんなことはない。

 

「ルイちゃんはちょっと足らないから、しっかり睡眠をとって女性ホルモンを分泌させたほうがいいかもね」

「寝てるほうなんですけどねぇ」

 残念ながら、寝ても女性ホルモンはそんなにいっぱいでませんから。

 

「ていうか、それでコンプレックスないってことは、主観的な問題でもあるのだろうね、コンプレックスって」

 そこまで気にしないで済むなら、それはそれでいいことだし、と律さんいいつつ、じぃとこちらの姿を改めて上から下へとじぃと見ていった。


「それに? それ以外は完璧だもんね。ていうかバランス的にはそれでばいんばいんとかないわー」

 まるで、美の女神みたいなボディーラインなのに、そこに均衡を崩すものがあると、ゲンナリしちゃうよ、と笑う律さんの姿は、芸術家の目になっていた。もちろん男性としての視線というものは最初から微塵もない。


「そういう姿を描くのがわたしのお仕事。だから自分の事は二の次三の次ってね」

「えぇー、そうかなぁ。私はあれですよ。見た目に気を配ってるのは被写体を萎縮させないためってのもあるんです。そのためにケアとか頑張ってる感じで。もちろん自分が可愛くなるの楽しいからってのもありますけど」

 可愛いは正義ですっと、いってあげると、まあわかるけどー、と微妙な反応をされてしまった。


「被写体のため……か。わたしももうちょっとなんとかしたほうが、モデルがリラックスしてくれるものかなぁ」

「ですですっ。まあ律さんそのものっていうよりは、空間全体でモデルに効果的な状態を作るといいと思うんです」

 たとえば、緊張するような被写体さんの場合は、最初にまず気持ちをほぐすところから始めますしね、と人差し指をあげながら解説する。

 部屋の中で撮るのならば、話術はもちろん、気持ちが静まるような香料をたいたり、こうやってお茶をしてからというのもありだろう。

 がちがちのカメラ目線では、ルイが求める絵はできないからね。


「でも……いまさら。お化粧覚えたいとかはなんかちょっと……」

 二十歳すぎてあんまりやったことないっていうのも恥ずかしい、と律さんは視線を伏せた。

「それにね。昔のトラウマっていうか……うん。そりゃ小学校高学年あたりって、お化粧とかに興味もつ年頃じゃない? その頃に……まぁ、いろいろあってね」

 うう。中学に上がる前後って、まさにルイさん姉さまたちの玩具になって、がりがり可愛い服きさせられてましたけれども。


「よっし。ならこうしましょう。絵のモデルがあらかたおわったら、今度は律さんをモデルにして写真を撮らせてください。もちろんお化粧がっつりとさせてもらいます」

「ええぇっ。むりっ。むりだからっ。そもそも写真のモデルとか……」

「ふっふっふ。私の魔手から逃れられた被写体さんはあまりいないのですよ? 観念して初めてを私に下さいな」

「もっ、もー、ルイちゃんなにその卑猥な発言は!」

「着飾った律さんの顔を見たいなー。それが確約されたらもっと良い表情できちゃうかもなー」

「うぅ。ルイちゃんったら顔に似合わずこっちがわの人間か……わかりました。いい絵が描けたらお付き合いします」

「やたっ」

 ぐいぐいと押していくと、一瞬まよった末、律さんは恥ずかしそうにしながら頷いてくれたのだった。

お前もか! ということで。

美容系に走っていないトランスの子がいてもいいのではないか。というのが私の提唱したいことであって、そんなわけで登場な律さんです。

ルイさんはかわいいは正義な子なので、割と真逆なんですが、だからこそ混ざると面白い結果になるよねーって感じデス。


次話は、律さんをいじくりまわして、ルイさんがたんのーするお話です。

しかし、律さんからみてもルイさんの女装が見破れないって……

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