307.
「ええと、しのさん。講義の間中考えてたんだけどさ。やっぱ、あの二人にいきなり特濃な背脂チャッチャ系とかって厳しいよな?」
「見つけたお店ってのが、それなら別に良いとは思うけど……その、背脂チャッチャ系がよくわからないので」
放課後。
講義を終えて赤城と合流すると、彼はうーんとなにか考えている様子だった。
大学の入り口付近で、沙紀さんたちを待っている間中そんななので、どうしたんだろう? という風には思ってしまう。
「ええとなぁ。脂のうまさがぎゅっと濃縮されたような、激アツの一杯なんだよ。最後に背脂をラーメンの上から振りかけて完成する、てらってらなやつなんだけれどな……」
ちなみに、味の好みの変更はできて、女性や子供は最初は脂少なめで頼んでくださいとか書いてあるんだと、赤城は言った。
「赤城くんは、どんな味にしたの?」
煽りはそんな感じですごいわけだけれど、赤城自体が食べたのを基準に考えるのがいいだろう。
しのさん的には、脂系も嫌いではない。ないのだけれど、あまり縁がないというのが正直なところだ。
家で使うのは赤身肉が中心だし、和食メインでご飯を作っているとそこまで脂たっぷりというようなご飯を作る機会がない。
おまけに、霜降りなお肉なんてエレナの誕生日会くらいしかいただけない貧乏性なので、どうにも美味いのかどうかすらわからない、という感想になってしまうのだ。
そりゃ、とろっとろに煮込んだお肉とかは、はわんとなってしまうけど、それと脂系は若干別物のような気もする。
「俺は、脂多め、タレ普通の麺カタだな。お替わりの麺はハリガネにしてもらった」
「……ハリガネって……あのハリガネじゃないよね?」
「ああ。悪い。極細麺をあまり茹でないでだすのをハリガネっていうんだ。さらに入れてすぐに上げるのを粉落としなんていうんだけどな。濃いめの汁に硬めの細麺が良い感じなんだよー」
あぁ、思い出すだけでまた行きたくなる味、と拳を握りしめている赤城を前に、冷静にそのラーメンを想像する。
たぶん、美味しいんだとは思うんだけど……
問題は、まりえちゃんの趣味にあうのか、という点だ。
沙紀ちゃんも心配は心配ではあるけれど、お嬢様が一番最初に触れあうラーメンとして、豚骨背脂というのは大丈夫なんだろうか、という気はしてしまう。
「他にはメニューはないの?」
「ん? 背脂醤油と、背脂味噌、そんで、あとは魚介つけ麺とかやってたかな。期間限定で、塩バターレモンとかもやってたみたいだが、脂っぽさとかはさっぱり」
ふむ。あっさり系もいちおうある、ということならば、二人が何を選ぶにしても選択肢はそろっているということになるだろうか。
「ああ、さっぱりで思い出したけど、一応店は綺麗なほうだぞ? カップルで来てるのとかもいるくらいだし」
「それはいいことかな」
いちおう良家のお二人ということもあるので、お店がこぎれいなのはいいことだろう。あんまりなところに連れて行くとどんな反応をするか予想がつかない。
ま、まぁしのさんはちょっと汚れててもあんまり気にしませんけどね。美味しければ。
「まあ、悩むよりさ、二人に決めてもらえばいいんじゃないかな? 私は今日は背脂パスして魚介つけめんで様子見をさせてもらおうかと」
ええっと、店の名前を教えてちょうだいな、とお願いをして、タブレットでそのお店のホームページを検索する。
最近は自前のホームページを持っていなくても、大手のコミュニティサイトで写真が掲載されていたりするので、それを二人には見てもらって、どうしようかと相談してみようかと思ったのだった。
「それ、男状態だったらどういうチョイスになるんだ?」
「んー、背脂味噌かなぁ」
性別で好みまで変わるのかよっ、とか悲壮な顔をされてしまったのだけど、別に味覚が変わるってわけじゃないよ。
ただ、気分が変わるだけ。さすがにちょっとこの格好だとがっつり背脂という勇気がでなかった。
「お待たせしました。結構待たせてしまいましたか?」
「お。ちょうど良いところにきたねぇ」
少し早足で歩いてきたのか、息が上がっている二人の姿を確認して、やっぱり良い子達だなぁとほっこりしつつ、タブレットに赤城のオススメのお店を表示する。
「なるほど。結構活気がありそうなお店ですね。背脂……男ならがつんと背脂……ですか」
沙紀がそのページをみて、うっ、と微妙に頬をこわばらせていた。
ちなみに、彼は男声で喋っている。文字に起こしてしまうと丁寧語は男女どちらが喋っているのかわからなくて困りものだ。とはいえ、ここでは先輩後輩っていうのがあるので、丁寧語を崩したりはしない。
三枝のセカンドキッチンで会うときは、ふっつーにタメ語なんだけれどね。
「ええと、なんか限定であっさりしてるのもあるみたいよ? こってり系苦手ならそっちもあり」
場合によっては、別のお店でもよいよ? と言ってあげると、えぇぇっ、オススメのお店って話じゃなかったでしたっけ、と言われてしまった。
でも、オススメっていうのはね、相手を選んで薦めるものなのですよ。
けっして背脂が男の物だとは言わないけれど、沙紀矢くんのイメージじゃあないのです。
もちろん、まりえさんも。
二人ならどっちかというと、トマトとバジルとかが乗ってる西洋風ラーメンとか食べてそうな感じがする。
実際あるのか、よくわからないけど。
「まあ、あっさり系もあるというのなら、オススメのお店に行ってみたいです」
では、先輩。案内お願いしますね、と少し上目づかいで沙紀矢くんが言うと、赤城は、お、ぉぅ、と、いつになく挙動不審な様子だった。うーん。普段しのがやっても特に反応しなかったのに、沙紀矢くんにやられて反応するとは。
好みのタイプがちょっと違うのかもしれないね。
それと。沙紀さんや。一年で染みついた仕草だというのはわかるけど、年頃の男性を誘惑するのは勘弁してあげてください。……ねぇ。どうすれば誘惑しないで済むんでしょうか? とほほ。
「じゃあ、それで。まりえさんもいいかな?」
「はい。それでかまいませんよ。しのさんがご案内してくださるお店ですもの。興味はあります」
きっと、ざ・庶民というお店に連れて行って貰えるに決まっています、となぜかまりえさんがすごく乗り気だった。
うーん。まあ三枝邸でのルイさんの手料理はたいてい庶民料理になるわけで、それをなぜかまりえさんは気に入ってくれているのだよね。そこからの派生で期待されてるのだと思うけど。
庶民のものをなんでも気に入るわけじゃないと思うので、そこだけは注意してもらいたい。
「では、赤城さん。案内をお願いしますね」
「おうよ。あんまり遠くないから、歩きでいいよな」
ほい、じゃー行きましょーと赤城を先頭にして、歩き始めた。
しのさんに慣れきってしまっているのか、赤城はとくにこちらが笑顔を向けても相変わらず反応はなにもないのだった。
「おっ。良い感じに列が少なめだ」
歩くこと十分くらいだろうか。
その間は赤城を先頭にしつつ、こちらは三人でついていくというような隊列だった。
移動中は会話はしたものの、大学生活はどうよーとか、そういった無難な話題ばかりになってしまったのは、全部赤城がいるからだ。ルイさんとしての会話は一切できないので、その点は徹底してもらっている。
「いつもはもっと混んでるんですか?」
「ああ。割と人気店だからな。前に来たときはあの角くらいまで、あと二十人くらいはいたんだろうな」
「おぉー、それはすごい」
行列というとどうしてもシフォレを基準に考えてしまうのだけれど、赤城の話が本当ならあの店よりもちょっと長いくらいの列になるだろうか。今日は、数人が待っているだけだからすぐに入れそうだ。
「ああ、実は先に食券を買うシステムなんだよ、ここ」
その列の一番最後にちょこんとまっていようかと思ったのだけれど、赤城に止められて店の中に誘導された。
ふむ。受付で名前を書くような店はあるのだけれど、先に食券をと言われたのは初めての経験だ。
「へぇ。先に食券って珍しいね」
メニューを見ながら食券を買っていると、並んでいる人達が、一瞬ぴくっとなって壁際に寄ってくれた。
う、うん。一年コンビがキラキラしてるから、反応してしまったのですよね、わかります。
そして、それぞれでうーんと悩みつつも購入。
そのまま列の最後尾に移動した。
「列の長さにもよるんだろうけどな。食券買うのに並ぶところもあるし、むしろ並んでいる順番で注文とるところとかもある。まあ並んでる間にオーダーをいれて、あらかじめ準備しとくっていうスタイルの店は割とあるんだよ」
「待ち時間を減らすための工夫ってやつだねぇ」
このお店は、カウンター席が16席という割と狭いお店だ。
だからこその行列という部分もあるのだろうけれど、それをうまくさばいていくのもお店の腕の見せ所なのかもしれない。
「沙紀は結局、あっさり系にしたの?」
「うん。実際、他のお客さんが食べてるのを見て、ちょっと勇気がでないというか」
こちらが赤城と話していたら、後ろは後ろで初めてのラーメン体験におっかなびっくりという感じだろうか。
沙紀矢くんはめざとく回りの様子をチェックしていたらしい。
そんな二人の様子をじーっと見ながら赤城は首をかしげた。
「っていうか、さっきから気にはなってたんだけどな。どうしてしのさんがこの二人と知り合いなのかが……」
なんか、住む世界違う感じじゃね? と言われて、まあそうですよねという感想しかでてこない。
「まりえさんとは、あの無かったことになったお食事会がきっかけ、ではあるんだけど、実は共通の友達がいてね。その縁で知り合ったの。ちなみに私の女装の件はばっちり把握してる……んだけど、沙紀には男の方の格好見られてないような気がするな……」
「はい。まだ拝見してないですね。普段がそれやあれなら、男性の格好もとても映えそうです」
「……沙紀。今のうちに言っておくけど。しのさんの男装体はひどいわよ。まあどんななのかは当日が楽しそうだから、言わないけど」
さぁ果たして、見つけらっれるっかなー、と節をつけて笑う姿は、以前のまりえさんとは別人のようだ。
なんだかんだでこの子も高校時代はかなり心労があっただろうしね。
にしても、まりえさんの言い分に思い切り深く頷いている赤城さんの姿も見えるのですが。
べ、別にいいんですけれどね。男女で見た目変えてるんだもの。
「そこまでいうなら、休み明け是非とも私を見つけて声をかけてちょーだいな」
「あ、見つけられたら、次回、肉じゃがをリクエストしてもいいですか?」
「いいよー。っていうか、それくらいなら普通に作ってあげるってば」
いちおう、男状態の木戸馨を見つけられる可能性は、そこまで低くないと信じて、軽めのご褒美に頷いておく。
まりえさんが、私もそれいただきたいです、とか言い始めたので、もちろんご一緒にと答えておいた。
「しのさんの手料理か……ていうか、普通にご飯の話をしあってるあたり、ずいぶんな仲だよなぁ」
「えっへへー羨ましいだろー。お泊まり会とかもしちゃう仲ですよー」
仲良しだからこそできる無礼講なのです、と言い切ると、しのさんで参加してるのかよーと、赤城に少し呆れたような声をもらされてしまった。
「そりゃ、可愛いこばっかなお泊まり会に耐えるなら、沙紀矢くんくらいキラキラしてないと無理だろうけどさ」
「いえ、そんな……別にキラキラしてるからってわけじゃ」
どーせまりえさんの絡みの付き合いなら、男子の入る隙はろくにないんだろうし、と少し残念そうにしている赤城を前に、まりえさんはあらあらと苦笑を浮かべていた。
実際は、まりえさん以外全部男子という構成ですしね。笑いますよね。
「おっ。そろそろ順番みたいだな。中にどうぞ」
そんなやりとりをしていたら、割と時間はあかずに席があいたようだった。
赤城の誘導に従いながら席を埋めていく。
入った時のタイミングというかなんというか。
先頭に赤城で、その次が沙紀矢くん、まりえちゃんで、最後にしのさんという並びになった。
「水はセルフなんだけど、まぁ初回なんで俺からのサービスで」
「あ、ありがとうございます」
てきぱきとお冷やを用意してくれる赤城のさまは、とても甲斐甲斐しいもので。
荷物置きのかごを用意してくれたり、いたれりつくせりという感じだった。
「あとは、服にスープが飛ぶのがいやなら、紙ナプキンとかも出してくれるから」
「あ、じゃあ、お願いしようかな」
赤城がいうように、たしかに紙ナプキンが必要な方は遠慮無くどうぞーなんていう張り紙がしてあった。
うーん。どうしようかなぁ。
回りを見てみるとあまり使っている人っていないんだよね。
「私はこのまま挑みますよ! つけ麺だしね」
「飛ばさないように気をつけろよー。地味にクリーニング代とか大変とか前に嘆いてただろ」
「それはそうなんだけどねぇ……」
気をつけます、と答えたところで、新入生二人に笑いがこぼれていた。
え、ここ笑うところじゃないじゃない。
「お二人とも、すごく仲良しなんですね。そしてしのさんの女装が恐ろしく浸透しちゃってるというか……」
「去年である程度慣れたしなぁ……それにこれだけ違和感がないとなると、なんかもーそれでよくね? って思っちゃってさ」
「い、いちおう弁解しますけど、今は非常事態で、そうほいほい学校で女装してるわけじゃないですからね」
勘違いしないでよね! というと、三人から、あー、はいはい、というスルー力全開の返事がきた。
なんでこの子達は、女装のことを当たり前みたいな感じで受け入れているんだろう。
まあ、沙紀はルイさんにしかほぼ会ってないから、そういう風に思うのはわからないではないけどさ。
学校じゃ、そんなに女装してるわけじゃないのですよ。
「あいっ、おまちどー、脂多め、麺堅の背脂醤油と、普通の背脂、そして、塩バターレモンです。つけ麺はゆで時間かかるんでもうちょっとお待ちください」
「あ、あったかいうちにお先どうぞ」
ほれ、みなさんさっさと食べ始めるといい、とちょっと箸をつけるのに躊躇していた三人に声をかける。
どうしたって、つけ麺の方がゆで時間が長くなるので、こういうことはおきてしまうのはしょうがないことだ。
「にしても、まりえちゃん、背脂ですか……ちょっと、意外」
「脂を取ると、幸福を感じる物質がいっぱいでるっていいますから」
今、ちょっと幸せが欲しい感じなんです、といいながらまりえちゃんはスープをすくってそれを口に運んだ。
ちょっと白いふぁさふぁさした背脂が浮いている。
「あっ、思ったほど脂っこくはないですね。しっかりどっしりした味が来ますし、私、これ好きです」
「おぉー、さすがだねぇ。これで脂仲間が一人……」
ぐっと拳を握りながら喜ぶ赤城を横目に、むしろ沙紀と二人でまりえさんのどんぶりの中を覗きこんでしまった。
中身はかなりとろっとろな感じのスープである。
「あ、沙紀もしの先輩も味見します? 次回の参考ということで」
「うわ……がつんとくるね、これ。脂の甘みはぐわっとくるけれど……」
レンゲを借りて一口、沙紀が味見をして、少しばかりうぐっとなっていた。
いわゆる、ちょっと一口味見といわれる行為は、あの三枝のセカンドキッチンでご飯を食べてるメンバーだと解禁である。
しのとしては、相手がオッケーというなら別段嫌がる理由もない。
「ほら、しの先輩もどーぞ」
「はいはい」
おすすめされて、こちらもレンゲをかりて一口。うん。麺と絡まると良い感じな濃さかもしれない。
好みとしては、もうちょっと薄くてもいいかなという感じだ。
「美味しいけど後半しんどくなるかもって感じかなぁ」
「替え玉は麺の堅さかわるから、それで割と印象かわるぞ」
ずるっと麺をすすりながら、赤城は一言解説してくれた。
かなり気に入ってるらしく、頬が緩んでいる。
「つけ麺おまちー」
そんなやりとりをしていたら、やっとしのさんのオーダーの品が到着した。
「おぉ。こっちは鰹の風味満載って感じだねぇ」
良い香りーと頬を緩めていると、外でも緩んだ顔しちゃいますか、この人は……と沙紀ちゃんからげんなりした声をもらされてしまった。
いや、でもルイ状態でもわりとふわふわはしてたと思うんだけどなぁ。
いまさらそんなことを言われても。
「沙紀のはどう? さっきの一口に比べると」
「同じお店でこうも味が違うものを出してるっていうのに衝撃を受けます。鶏ガラベースであっさりはしてるけど、味はしっかりしてて、しかもレモンの酸味が最後引き締めてくれる感じですね。限定と言わずこちらもずっと続けて欲しい感じです」
「それはなにより」
つけ麺を箸でつまみながら、沙紀の感想にほっとひといき。
気に入っていただけてなによりです。
そしてこちらもつけ汁に麺を少し浸してつるつるといただく。
熱々にしてあるスープに麺がからんで、すっごい口の中に鰹の風味が広がっていった。
「うわぁ……ラーメンってこんなにのどごしいいものだったっけ?」
比較対象が家でのものや、給食というものなので、その麺の弾力には驚いた。
たいてい給食のラーメンなんていうのは、茹でてから提供されるまでの時間がかなり経ってしまう影響で、くたくたぽろぽろな物になってしまう。
それに比べるまでもなく、これは別物だった。
「麺も良い感じだろ? 自家製麺って銘打ってるお店も多いし、ここは麺の堅さとかにかなりこだわって作ってるんだってさ」
あー、脂がしみるーと、つるっと赤城は麺をたぐっていく。
なかなかのハイペースである。
「そう頻繁には来れないだろうけど……ラーメンもいいね。かなりがらっと印象変わった」
「だろー。まあおまえの懐事情はしってるつもりではいるから、また来たくなったら是非いってくれよ?」
一緒にいこうぜ、と赤城に言われて、次はどんなお店になるのだろうかと少しだけ想像する。
赤城はこれで割といろいろなお店を知っているほうだと思う。
そのオススメなら、適度についていくこと自体はいいだろう。
次回からは男子の格好だろうしね!
「それはもうっ。でも……やっぱり頻繁にはこれない、かなぁ」
ちらりと値段表をみて、うぅ、と少しだけしょんぼりしてしまった。
外食をすればこれくらいかかるものだ、というのはわかるけれど、それでも結構なお値段なのである。
「相変わらずの節制ぶりですねぇ、しの先輩ったら」
「まあねぇ。働いてはいるから無理ってほどじゃないけど、それでも節約癖はついちゃってるから」
「いいことだと思いますよ。うちのおじいさまも、節約はしろ、でもしすぎるな、っておっしゃってましたし」
「あああ、ご当主様かー。しすぎるなってあたりが、なんか含蓄のある言葉だね」
あの花火の日にあったお祖父様は、その日だけを見るとゆったりしたご老人という感じだったわけだけれど、さすがに多くの企業を束ねるだけあって、お金を使うバランス感覚はばっちりらしい。
「その言葉を知ること自体は簡単なんですが……あいにく、実践するとなるとなかなかバランスが難しそうです」
リターンが大きいと判断したら、節約するなってことですけど、その判断をするためにはまだまだ勉強不足ですし、と大学に入ったばかりの後輩はきちんと将来を見据えているようすだった。
ちゃらんぽらんに撮影だけできりゃいいーって思ってるルイさんとは大違いである。
「……うぅ。見た目もキラキラしていたけど、中身までとは……くっ、骨の髄からオーラがあふれ出るようだ」
「煮込んじゃダメだからね?」
わーってるよーといいつつ、赤城は煮卵に手を出していた。
半分にわられたそれは黄身が半熟になって、ねっとりとしていた。うん。あれは純粋に美味しそうだと思う。
「ま。次回はあっさり系でオススメの店を探しておくとするよ。すっげーいろんな種類のラーメンあるからさ。是非ともはまっていただきたい」
「りょーかいです。また美味しいお店見つけたら教えてくださいね?」
男声のままではあるのだが。にこりとキラキラしたスマイルを浮かべながらいう沙紀矢の様子に、やっぱり赤城はわたわたしたようで、やべぇ、かわいいとぽそっと呟いていたのだった。
さぁ。ラーメン回です。
作者、いろんなラーメン店にいっている人ではありますが、今回は背脂系にご案内。
いやぁ、いわゆる「今時女子にはあんまりうけなさそう」な所ではあるんですが、これが時々食べたくなるのですよね。
脂系のお店にあっさりがあるかどうか、ですが行きつけのお店は両方あったりします。
また、激辛と普通のがおかれてあるお店も。ラーメンいいですよね。
さて。次回ですがーGWに入る前の一日のお話です。HAOTOの新マネージャーさんが事後説明にくるのと、特撮研話です。




