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291.他県へのお出かけ8

お待たせいたしましたー!

夜アップになってしまって、申し訳ない。

「可愛い顔が台無しだよー」

「いいです。可愛くないからいいんです」

 お店に向かって歩き始めてから、少し先に巧巳くんとエレナ、そしてその後ろをルイと灯南という感じに分かれた状態で、カメラを向けながら声をかけた。


 ぷぃっとそっぽを向いた灯南くんもずいぶん可愛らしい。これで高校三年になるとか、なかなか想像し得ない感じである。

 ルイさんもよく子供っぽいと言われるけれど、輪をかけてこの子のほうが幼いのではないだろうか。

 え、お前もあんまり変わらないですか……

 

「それでどこまで知ってるんです? って全部か」

「全部は知らないよ。知ってることだけ」

 あの名台詞を引用してみたのだけど。灯南っちはきょとんとしてるだけだ。

 いちおうあんなゲームをだしちゃうようなオーナーに雇われているわりにはオタ文化にはそんなに詳しくないらしい。そりゃルイさんだって、青木や八瀬、そしてエレナにいろいろ吹き込まれた結果こうなっただけで、カメラが第一なのだけど。


「まさかこっちの格好をあっさり見破られるとは思わなかった……自分でも別人みたいになるって思ってるのに」

「んー、まぁ先入観ってものがなければ、案外ばれちゃうかもね。それにほら、あたしの場合はカメラやってるから、あぁって感じで」

 わりと一発でわかりました、というと、あううと情けない声が漏れた。

 んーそうはいっても世の中先入観だらけなのだし、被写体として音泉を撮った人が、灯南くんの前に現れるということはそうあることでもないと思う。

 いちおう「音泉」のクオリティとしては、単体だけみれば普通に女子だと十人中十人が答えるだろう。

 千人に一人……いや万人に一人であるルイは、すぱっと見抜いたけれどね。


「いちおう言っておきますけど、こっちが素です。あっちは演技をしてるんですからね!」

 本当ですよ、と胸元で軽く拳を握りながら言う灯南くんは素の姿でも十分にかわいいのだけど、それを言ってしまっても否定されるだけに違いない。

 確かにメイドさんをやっているときのぱぁっとした感じとは違うとは思うけど、(じぶん)に比べると全然男っぽさの欠片もないように思う。

 え。馨も男らしさがないとか、そんなことはないのです。


「はいはい。で、とりあえず内緒ってことでいいんだよね?」

「もちろんです。あの事を知られたらどういう顔して会えばいいか」

 ちらりと少し先行して、エレナと談笑している巧巳くんの姿を見つめながら灯南っちは体を軽く震わせた。

 なんというか、身に覚えがある話だなぁと思ってしまう。

 青木ったら今はどうしてるだろうか。千歳からの連絡だと落ち着いた大学生活だ、という話なのだけど。


「んじゃ、そういうことで。前の二人と合流しましょうかね。あんまりエレナと話させると、ころっといってしまうかもしれないから」

「なっ。それは困りますっ」

 確かにエレナさんはおきれいですが、といいつつじっと巧巳くんをにらみ付ける。

 もう、鼻の下伸ばしてまったくもぅという声が漏れてきそうなその表情を見ていると、さすがにその手のことに鈍感なルイさんでも、あらあらと思ってしまうのだった。



 そして歩くこと数分。

 目的のお店は商店街の一区画にあった。

「うわぁ、なんかスイーツのお店っていうから、巧巳くんちみたいなのを想像してたんだけど」

「なんか百歩譲っても団子とかそっち系な感じな店構えかな」

 

 そのお店は、古民家を改修したということで、古い木造和風建築という感じの建物だった。

 新築の香りも好きだけれど、飴色になっている黒光りする建築というのもとてもよいと思う。

 

「おっ。入れそうかな。すっげー混んでるかなって思ったけど」

 扉の中を覗き込んで巧巳くんが、頬を緩ませながらこちらに手招き。

 普段なら並んでるもんなんだぜと、彼がいうように入り口には順番待ちの名前を書くようなところも設置されているし、人気店という感じはたしかにあった。 

 今が夕食の時間とかぶっているから、スイーツ専門となると少し空いているという所もあるのだろう。

 さすがに、夕食をスイーツのみで済ませる人はそう多くはないものだ。


「えっと……見たことがある機材が置かれてるわけですが」

「ああ。なんかテレビの撮影が入るって話らしいっすよ。グルメレポートみたいなやつ」

「へぇ。……これで某女優どのが現れるようならさすがにあたしも運命感じちゃうところだけど……ま。今は四国だって言ってたからさすがにそれはないか」

 少し見慣れてしまった撮影機材を眺めつつ、今朝きていたメールの内容をちらりと思い出す。

 撮影というと、崎ちゃんにばったりというパターンが多いのでつい今回もか、と身構えてしまうわけなのだけど、物理的な距離は彼女も越えはしない。


「にしてもそんなのが入っちゃうくらいなお店なんだね。放送日のあととかすっごい混みそう」

「そうっすね。しばらくは寄りにくくなるかも」

 有名になるのも客としては善し悪しっすね、と巧巳くんがエレナの感想に頷いていた。


 そんな風にして入り口であたりをきょろきょろ見回していると店員さんがテーブル席に案内してくれた。撮影そのものは三十分もしたら始まるそうで、映り込みを気にするのなら、早めに出た方がいいというアドバイスもいただいた。うーん、エレナをちらりと見た上での反応だったのだけど、なにか勘違いでもさせてしまっただろうか。


 三十分という時間はもともと巧巳くん達に提示している時間でもあるのでちょうどいいかなと思いつつ、テーブルの上にメニューを広げた。

 テーブルのほうも古材を使っているらしく、少し黒ずんだ色をしていて、ファンシーというよりは渋い。

 そんな所に置かれたメニューが思い切り西洋菓子の店なのだから、そのギャップもあって期待は高まるばかりだ。


「ふっふっふ。女子しか頼めない、限定品、ジャンボストロベリーパフェ。やっとお前に会える……」

 ふふふふ。と巧巳くんがメニューとは別にラミネートで覆われたメニューにじっと熱い視線を向けている。

 スイーツ職人として、他のものも大好きというところなのだろうけど。なかなかにこの子も熱心である。


「んじゃ、それは確定として、あとは何を食べよっか。けっこーいろんなのあるし、迷っちゃうね」

「そうだねぇ。お店の雰囲気に合ってる抹茶スイーツとかもあるみたいだけど」

 そして、当然こちらもメニューを熱心に眺めていく。メニューの種類は豊富で、どれにしようかと思ってしまう。

 傾向としてはパフェ系が多い感じのお店だろうか。

 焼き物とかもあるけれど、カップケーキとかも多い感じだ。


「黒糖じぇらーとのパフェ、かなぁ。普段あんまり食べないし、行っちゃおう」

「んじゃ、ボクはポンカンのすっぱいパフェで。酸味が良さそうな気がする」

 よしっ。決定とエレナと二人で言い合っていると、そこに声がかかった。

「って。結局食べるのかよっ」

「えー、そりゃねぇ。巧巳くんがオススメっていうお店だったら期待大だし。それに、これでお茶だけとかちょっと考えられないかな」

 ねー、と灯南くんに話を振ると、えっと、その……と、遠慮がちな反応をされてしまった。

 ああ、もしかしたら灯南くんったら、巧巳くんに我々が奢られるのに抵抗があるのだろうか。


「ああ、さっき言ってた、お茶をごちそうになります。はそのまんまの意味でお茶だけ奢ってくれればいいよ? セット価格のほうだけで」

 さすがに年下の子にたかるつもりはないってば、とメニューのところに書いてある+300円でドリンクをセットに出来ますという表示に視線を向ける。

 普通に頼むよりももちろん割安な設定になっているので、より巧巳くんに対しては優しいだろう。


「いや、でもそれは……」

「いいのいいの。明日のフォルトゥーナでケーキ二点は無料でいただける予定だしね。これでここでまで奢られてしまうと少しもらいすぎかなって感じ」

「無料って……いくら仕事相手とはいえ、あのオーナーが対価をもらわないでそんなことをするはずが」

 えっ、と驚いた顔を灯南っちは浮かべている。

 ええと。いまいち彼とオーナーさんのつながりがわからないのだけど、男状態でオーナーの話をしてもいいのだろうか。


「そこは、ルイちゃんがさっきちょっとお仕事したから、だよ?」

 さすがに善意ってだけで商品をわけてくれたりはする人じゃないと思う、とエレナからフォローが入る。

 たしかに千絵里オーナーは、あれできちんと商売人だ。むやみに奢りますということはしない人だと思う。


「へぇ。フォルトゥーナ関係でまた仕事したんすか?」

「ええ。新しい従業員さんの面接に立ち会うことになってね。それでその子のテスト撮影とかを手伝いました」

「おっ。じゃあ、新しい人が入るってことで?」

 巧巳くんが少しだけ頬を緩めている。これは、新しいメイドさんへの期待からなのだろうか。まったく、彼女がいるというのに他の子に目移りするだなんて、さすがは男子高校生である。


「うん。無事に採用になったみたい。全然増えないって話だったから、追加メンバーは初めてなんじゃないかな?」

「そうなんですっ。追加は初めてで。やったー!」

 嬉しいなぁと灯南っちは思い切りこちらの両手をぎゅっと握りながら大喜びな様子だった。

 うん。すべすべで華奢なお手々は、まるで女の子のようであります。


「ちょ、どうしてそこでトナが喜ぶんだよ」

「えっと……それはその……可愛いメイドさんが増えると嬉しいなー、とか?」

 視線を思い切りそらしながら、素で喜んでしまったことに理由付けをする彼の説明はまったく説得力はなかった。

 こんな現場を見ても、巧巳くんは音泉ちゃんの正体を見破れないというのだから、常識という名の壁は高いのだよなぁとしみじみ感じさせられてしまう。


「ちなみに、そのとき流れでボク達もメイド服を着ることになったのだけど、その時のルイちゃんの写真がこれね」

 苦笑混じりに、エレナはスマートフォンに入っている画像を写し出した。

 身を乗り出すようにしてみんながその画像に見入っている。

 上手いこと灯南っちへの注目がそれた形だ。


「おおぉっ。膝上くらいのショートですか。普通にかわいいっす。ルイさんなら普通にあそこで働いてても違和感がなさそう」

「ちょっ、エレナ! なに撮ってんのさっ。あたしは撮る側なの。撮られる側じゃないの」

「えええ。これを撮らないだなんて、人類の損失だよ-。ルイちゃんったらなかなかこういう可愛い格好してくれないし」

 それに撮影中の顔がすっごい可愛くて、楽しそうで、つい、とバッグからとりだしたコンデジを見せびらかした。

 よーじ君と旅行に行ったときなんかは、時々それでいろいろ撮影をしているらしい。とはいっても一般の人が旅行の写真を撮るレベルで、ではあるのだけど。

 そりゃ、もちろん、周りの人がカメラを持っているなんてわかってはいるんだけど、いきなり撮影されているとなると、少しだけざわざわしてしまう。

  

「人類の損失っていうのはちょっと言い過ぎなんじゃないかな」

「いや。これでしかもレアとなると、あながちその言葉も……」

「ほんっと幸せそうに撮影してるっていう感じで。こういうキャラのメイドさんがいても面白そうかも」

 じぃと、灯南くんが視線をこちらに向けてくる。

 フォルトゥーナはそんなに人材不足なのですか。今度一人入るのでその子をしっかりと育ててあげてください。


「さて。パフェの注文しちゃおう? あんまり時間があるわけでもないし」

「そだね。灯南ちゃんはなにか食べる?」

 なんならおねーさんが奢ってあげるよ? とエレナが笑顔を浮かべている。


「いや。そこは俺が出すんで。お客に気を使わせる訳にはいかないです」

「……へぇ。ちょっとかっこいいね」

 さきほどのやりとりで、巧巳くんが出すんだろうなとは思っていた。でもそれで遠慮をしてしまう灯南っちのことを思ってのエレナの問いかけだったのだけど、それがすぱっと断られた。

 エレナは当然、あのゲームをやっているわけで。セリナの借金設定を知っている上に、そのモデルが目の前の子だというのを知っているからこそ、そんな提案をしたのだろうけど、それをしっかり断るところが偽装とはいえ、彼氏どのである。かっこいい。

 ま、どこまで巧巳くんが何を知ってるのかなんてわからないから、素直にクラスメイトの分は自分で持ちますということだけかもしれないけれど。


「じゃあ、僕はバナナチョコパフェで」

 遠慮がちに、並んでいるメニューの中から選ぶ姿はちょっと硬いなぁと思ったので、ここで一つ提案をしておく。

「んーと、ジャンボイチゴパフェのあーんの件をお忘れなきよう。灯南っちも被害者だからね」

「……キウイのカップケーキもつけます。それ忘れてました」

 そういえばそんなこともやらなければならないんでした、と呆れながらも一気に彼の肩から申し訳なさが抜けたようだった。

 うんうん。遠慮の前には義務とか被害とかを持ってくれば、上手く相殺できるものだ。

 せっかくの美味しいお菓子なのだから、しっかり味わえる体勢になっていて欲しい。


 そして。待つこと数分。

 巧巳くんが頼んだ、ジャンボストロベリーパフェはどかんとテーブルの真ん中に置かれた。

 女性限定、とうたっているものの、女性に頼ませて味わおうというカップルもそこそこはいるらしく、そのためどちらのご注文なのかーというのを聞かれなかったのだろう。


「うはっ。限定にしてはボリュームが……」

「あからさまに女性向けの量じゃないっていうか……まあ、美味しかったら食べちゃうだろうけど」

 ジャンボと名前がつくだけあって、いわゆるパフェ用のグラスの倍くらいはありそうなものにどごんとイチゴが惜しげもなく盛られている。

 世の中には金魚鉢でパフェが出てくる所もあるというから、それに比べれば小さいのだけどそれでもすさまじい量だ。


「ええと、巧巳くん……これって、女性限定をうたってはいるけど、実はカップル限定とかなんじゃないの?」

「ま、まぁ、そういう使い方もされるのかもですが。俺は一人で食いますよ」

 一口ちょーだいとかは音泉にしかしません、と彼は言い切った。イマイチ女子のあの感覚がわからないと言わんばかりだ。

 うーん。一口ちょーだいに関しては男女でそれぞれ考えがあるみたいだけど、一般的にちょっとずついろいろなものを楽しみたい女性がそれをする傾向が多いらしい。

 それを考えると、いろいろなもので構成されていた端切れ丼は豪華だったのだと思う。


「……偽装彼女だって話だったけど、そんなことまでしちゃうんだ?」

「うっ……それは、まあ。周りに人がいるときはそれらしくないと……っていうか」

 なんてことを言わせるんですか、と恥ずかしそうにしている巧巳くんの隣で、ほんのり頬を赤く染めている灯南っちがいるのだけど、それはさすがに撮影しないでおいてあげた。

 秘密をあえて暴く真似をしようとは思っていない。


「さて。我らのパフェも届いたところで。いただきましょう。時間もないし、さぁ、どうぞどうぞ」

 そのパフェを前にしつつ、スプーンではなくルイはもちろんカメラに手をかける。

 そして、さぁ、はよと灯南くんに催促をした。

 うん。あ~んってやるところを撮らせてねという約束を果たしていただかなければならない。


「で、では……イチゴにちょっとクリームを絡めてっと……」

 べ、別に好きでやってるんじゃないから、と言う灯南くんのそれはあきらかにツンデレさん風味なのだけれど、がちがちに固まった巧巳くんは、ちょっと標的がずれたようで、口の脇にクリームをつけていた。

「もう、どうしてそう、はずしちゃうかなぁ」

 口の脇についたクリームを柔らかな人差し指が撫でる。

「あ……」

 そして、そのまま灯南っちはぺろりと指を舐めた。

 うん。その瞬間を撮った自分ぐっじょぶ。というか。連写性能が上がってるカメラに感謝だ。

 さすがに、そこまでやってよとは言ってないのよおねーさんは。


「ちょ、トナ……おまっ。おまっ、なんて……」

「へ? 親友の頬にクリームがついてたからとった。それだけだけど?」

「無意識だこの子……恐ろしい」

 これだから天然は恐ろしい、とエレナまでもが頬をぴくぴくさせていた。

 エレナもこういう仕草は狙ってやることはあるようだけど、素でやることはさすがにない。


「それに、このクリーム美味しいね。ちょっとすっぱみにあわせた感じっていうか」

「ああ。クリームの甘みを入れる果物の種類で少しずつ変えてるって話だしな。なんなら、お前も食うか?」

「あ、うんっ。欲しい。って、でも一人で食べるってさっき言ってなかったっけ?」

 じぃと上目使いで覗き込まれて、おま、おま、と口をぱくぱくさせている巧巳くんの心情は少なからずわかるつもりだ。ときどきエレナもああいうことをやるけれど、抜群の破壊力なのである。


「若いお姉様とのちょっと一口は遠慮なんだが、親友なら別にいい」

「えー、あたしたちもちょっと一口いただきたいなぁ」

「スプーンはこっちの使うので是非にもっ」

 いただきます、とスプーンを伸ばしても巧巳くんは悲痛な顔をするだけで特に止めはしなかった。

 うん。ようは間接キス的なあれを気にしてるということなんだろう。ほんともう、お子様なのだからかわいい。


「んー。たしかに。イチゴのちょっとした酸味と甘さ。それとクリームのバランスがすっごくいいね。甘すぎず。たぶん一個を食べ切っちゃうこともできそうな感じ」

 ごちそうさまでした、と満面の笑顔を浮かべていると、ほれ、お前もつまめと巧巳くんは灯南っちのほうにパフェグラスを差し出していた。

 はぁ。ほのぼのした風景だ。

 そしてこちらも、グラスに盛られたパフェにスプーンをいれていく。

 どうして甘いものを食べているとこんなににやにやしてしまうのだろう。


 そんな風にパフェを思う存分堪能していたところ、お店の人がそれぞれのテーブルに声をかけ始めた。

「そろそろ収録を始めさせていただきます。お客様方が特に気にされることはなにもありませんが、割り込むとか、大声を向けるとか、そういうのは控えていただくようにお願いします」

「気付いたら三十分経ってたか……どうしようか? まだパフェ残ってるけど」

「んー、あんまり撮影に影響なさげな席だし、ボクはじっくりここでパフェ食べたい感じかな」

 がつがつ食べちゃうのはもったいないよ、というエレナの言葉には大賛成だ。

 夕飯の時間は少し遅くなるけれど、特に予約を入れているわけでもないしね。


「そして、目の前で食べてるジャンボイチゴパフェが半分くらいあるので……」

 ぽそっとエレナにだけそれを伝える。

 二人で仲良くパフェを食べている姿は、男同士の親友というよりはカップルのそれである。

 その極上の緩んだ笑顔を出してしまいつつも、ばれないとは……うん。まさにミステリー、だ。


 そんなわけで、味わうことに決めてスプーンを手に取ったときだった。

「まさか……こんなところで二人に会えるとは。三枝とルイさん……」

 聞き慣れた声がしてふいと顔を上げると、そこには、きらっきらな男性が立っていた。

 撮影をしている席とはかなり離れているのになんでこんなところに? と思っているとトイレを使った帰りだったらしい。


「年末ぶり……ですか。ほんとまさか、ですね。さっさと撮影に行った方がいいですよ」

 ほれ、お仕事、お仕事と追い払うように言うと、彼、(こう)さんは、えぇーと不満げな声を上げた。

 けれどもほら。彼ったら極度の男の娘好きなわけでしょう?

 そんなところに灯南くんを差し出したら、なにかいろいろぶちこわしそうじゃあないですか。


「つれないなぁ。まったく離れた町でばったりだってのに。翅に言ったらきっと、まじで!? うらやましす、とかいろいろいうぞ」

「彼は言うでしょうけど、周りの視線が痛いから勘弁してくれません?」

 スキャンダルは勘弁なんですけど、というと、あー注目されちゃうの相変わらずだめかぁ、と彼は肩をすくめた。

 

「ま、今日の所はこれで。ただ、挨拶くらいはさ。三枝も。今度、男の娘系の話題で盛り上がろうな」

 その手の話題ができる相手がいないので、たのんます、と彼はおどけてエレナの方にも生暖かい視線を向けていた。

 まあ、エレナが許可をするなら別にそれ自体はいいのだけど。ほんと虹さんったら、アイドルだっていう自覚がない人だよね。さすがに「オトコノコ」という音を聞いてすぐに「男の娘」と変換される人は周りにはそんなにいないだろうから、変な会話には聞こえないだろうけど。


「あ、ルイさん……その、さ。なんだ。これから迷惑かけることもあるかもしれないんだけど、悪意は全然ないから」

 なんかあったら、すまん。と彼は言い置いてカメラなどが置かれている席の方に向かっていった。

 最後に言い残していったことに少し不穏な空気は感じるものの。


「さて。あんなにーちゃんのことは忘れて、パフェろう。パフェ」

 うん。甘いものがなにより大切なのです、と切り替えることにした。

 今は、フォルトゥーナ関連のおでかけ中である。

 

「……ルイさん。あんなかっけー人と普通に知り合いとか……」

「しかもそうとう親しげでしたよね。あれもカメラ関係でひっかけたのかなぁ……」

 年下の二人にそんな声をかけられて、逆にうむーと、渋い顔になってしまった。


「ほい。ルイちゃん、あーん」

「うぅ。悪い男性に絡まれる苦労をわかってくれるのはエレナだけだよ」

 あむりと、パフェにはむつくと、ぽんかんのすっぱさが口に広がった。

 これで、あと少しは戦える。そう思える味だった。

 パフェりにいきました。

 クリーム系って、いろいろな演出に使いやすいアイテムだよね、と個人的には思っています。ぺろっ、がね。ぺろっ、がいいのですよ。


 そして、お話の長さも割とボリューミーになりまして。パフェ食べさせてたらついつい。男友達だからこそできる距離感! ということで。


 撮影クルーの登場人物は、虹さんでした。崎ちゃんはないな、と最初にかいてあるわけですが。地方ロケであの男の娘スキーさんのご登場です。

 あの可愛い男子はなんですか? とあとで絶対絡まれるに違いないのです。


 さて。次話はよーやく翌日に入ります。え、夜は? ホテルは? お風呂は? みたいなのは……多少回想ははいる、かも?

 と、とりあえずですね。朝、ホテルにて。です。

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