289.他県へのお出かけ6
5.7 お仕事関係のやりとりが前の話と矛盾していたので修正。本筋は変わりません。
「やっぱり思った通りね。このタイプのメイド服が一番映えるわぁ」
若い子のふとももはグッドねっ! と千絵里オーナーはまずは昴ちゃんの検分をはじめた。まあ、そりゃこれから一緒に働く人ですしね。しっかり見ておかないといけないと思う。
「そしてルイちゃんたちも、たまらないわん。もーやっぱりそのままうちのお店で働いてもらいたいくらいね」
どうかしら。ウィッグとかつけてみたりとかして新しい自分の開拓とかしてみないかしらと言われると苦笑しかでない。
さすがに、今の生活でいっぱいいっぱいなのでメイド喫茶で働くことは難しいのである。
「あー、でもルイちゃんはもともとウィッグ派だからいろいろ変えてるとみた」
茜さんが専門家らしいところで意見を向けてくる。
おぉ。さすがだ。ウィッグであることを見破ってくる人はそうはいないのに。
そして、それに対しては慌てることのないルイさんです。
「へっ。ウィッグなんですか、それ」
「うん、普段は髪は短めなのですよ。諸事情により」
「諸事情ねぇ。どういう理由なのかしらん」
うふん、と千絵里オーナーが興味深そうにこちらに視線を向けてきた。
「まー普段はショートの方が楽っていうのはあるんですが、それに加えて休日は気分を変えるために、いろいろ使い分ける感じですね」
今使っているのが一番しっくり来ているし、皆さんに見慣れた髪型ではあるとは思うのですが、というと、まあ夏もそうだったわねんという反応が来た。
うん。夏は暑かったですが、やっぱりルイさんの髪型っていうとこれなので。
「おしゃれさんだなぁ。そんなルイさんにふわっふわなウィッグとかつけて、いろんな甘い衣装を着せてみたい」
「うっ、まるでお人形さんみたいな感じですか? さすがにそれはちょっと遠慮したいところです」
「ええぇ。絶対似合うよー。そのメイド服をそこまで着こなしてるんだしさ」
さぁ、ほれ。ウィッグつけかえちゃおうよ、と言われて、一歩後ろに引いた。さすがにその扮装をするのはちょっと困る。
そんなわけで。
「さて、それはともかく、着替えたら店内撮影し放題ってことでしたよね。さぁ撮らせていただきましょうか」
うふふとカメラを握りながら、笑顔を浮かべると、エレナはにこやかに、昴ちゃんは、えっ、という顔をした。
うんうん。今まで我慢したのだから、しっかりとその分は撮らせていただかないと困る。
「はいはい、先程の約束は生きているものね。いいわ、いっぱい撮ってちょーだい」
やれやれ、この子ったらと夏の一件を目の前で見ている千絵里オーナーはあきれ声をあげながらすとんと椅子に座ってこちらの成り行きを見守ることにしたらしい。
うんうん。変に声をかけないでくださいな。こちらは好き勝手撮らせていただきますから。掲示用写真の撮影は本気を出して良いとも言われているしね。
さて。撮影タイムである。
「本気を出していい、と言われているので、いろいろと質問してしまいますよ」
ふふふふーと、カメラをすちゃりを構えながらいうと、昴ちゃんはえっ、と驚いたような顔をしていた。
先ほどは本当に、撮っただけだったので、こちらの雰囲気のかわりっぷりに驚いているのだろう。
「では、まずは志望動機からいきましょう。どうしてメイドさんをやりたいと思ったのかな?」
ほれほれ、さーしゃべるがいい、といいつつもシャッターは切っておく。
ちょうどいい感じに陽も落ちてきてそろそろ世界が黄金色に染まる時間帯だ。
店内のほんわかした明かりがさらに増強される中、困惑顔が切り取られる。
「さぁさぁ、恥ずかしがらずに言っちゃおうか」
「えっと。その、可愛いものとか、そういうのが好きで、あと、その……みなさんに喜んでもらうのが好きというか」
うん。まだまだとっても硬い。これをなんとかしていくのが腕の見せ所である。
「じゃー、このお店の好きなところを上げていただきましょう」
ほれ。早く言わないと撮っちゃうぞと、かわいらしく脅しをかける。ま、言っても撮るんですけれど。
「まず、メイド服がそれぞれのメイドさんに合っているのがいいと思います。それとなによりケーキ。これにつきますね。ほんっと、おいしくて、幸せになれます」
最高です、とその味を想像してとろんとなったところを一枚。
ああ。巧巳くん。あんたはいい仕事をした。うんうん。女の子にこんな表情をさせてしまうのだからね。
「こんな感じで、夏のアレは撮られたわけですか……」
「ええ。ほんっと。これがあの子のスタイルなのだろうけど、はっちゃけすぎというか、猪突猛進というか。こういうメイドさんもいたら楽しいかしらぁなんて思うのだけどねぇ」
「ルイちゃんはメイド業よりも撮影のほうに集中してしまうので、ちょっと無理だと思いますよ」
ふふっと、エレナの声が聞こえたような気がするけれど、今は撮影に集中だ。
いい被写体には、力みのない最高の状態になって写っていただきたいものなのである。
「昴ちゃんは何回かこのお店に来たことはあるのかな?」
「はいっ。それはもう。メイド喫茶っていうと、男の人のものって感じですけど、ここに関してはおしゃれな喫茶店って感じですから」
メイドさんをやりたいと母に話したら、この店だったらいいって言われちゃったくらいですと、改めて全力で喜びを表現してくださった。
なるほど。他のメイド喫茶は少なからず男性をもてなすほうに注力してしまうから、若い娘さんをそんなところにはやれませんという感じだったのだろうなぁ。
「じゃあ、このお店の好きなメイドさん、尊敬できる人とかいたら教えて」
「それは……ちょっと悩ましいですね。それぞれみなさん魅力的なので。でも……やっぱり一番年齢も近い音泉さんでしょうか。なんか給仕をされると癒されるというか、安心するんです。座ってる子にも視線の高さを合わせてくれたりしますし」
まずはあそこを見習いたいです、と言い切る彼女の顔はキラキラしていて。
思わず始まりの顔が撮れてしまったことに、胸が震えた。
「よっし。じゃあオーナーさん。写真のチェックをお願いします」
いい写真が何枚か撮れたのでタブレットに移して、みなさんに公開。
さぁ、さきほどの事務的な写真じゃない世界を感じていただきましょう。
「相変わらず、良い表情を作るわねん。ホームページの特設コーナーも好評だったし、音泉ちゃんたちもあんな顔した覚えはないんですけどねーなんて照れてたくらいよ」
「うわ……これが私、ですか?」
表示させた写真を覗き込む昴ちゃんが、はわーとうっとりした声を漏らしていた。
うん。鏡で自分の姿は見てるはずだけど、ピンポイントでこういう表情してるところって、鏡じゃ確認できるもんでもないからね。
「ええ。店内掲示用の写真はこれでばっちりね。あとはホームページとかメイドさん紹介でもいろいろ使わせてもらうから」
普段からこの顔を振りまけるようにがんばりなさいな、とオーナーにいわれて、えぇぇーと昴ちゃんは悲壮な顔になった。その表情もいただきます。
「い、いきなりハードル高いですー」
「あらぁ、大丈夫よー。ここのメイドに選ばれたのだもの」
がんばりなさいな、とほわんとした風景をひきで一枚。
千絵里オーナーは、見た目は男性なわけだけど、なんか男っぽさがあんまりなくてオネエだよなぁとしみじみ感じられる絵が仕上がった。
「えっと。千絵里オーナー。店内掲示以外にも使うんですか? だったらもうちょっと報酬をはずんでいただきたい所なのですが……」
店舗掲示用の写真ということでお話は受けたけれど、それ以上に使用するということであれば、明日のケーキ代くらいだと報酬としてちょっと釣り合わないような気がする。
それ撮ったの私なんですけれどね、というと、まあまあ、この子ったら売込みまでするようになったのね、と驚かれてしまった。まあ、こちらもいろいろと活動してかなきゃならないですからね。
昔は、みんなにキレイだねとか言ってもらえればそれでよかったんだけど、最近は仕事として成立する写真を撮っている関係もあって、ちょっとだけ欲が強くなっているように思う。
そう。業務でルイが撮った写真が使われる場合は、それなりの報酬が発生するべきだ、と思うわけだ。
「それで? 追加報酬は何がいいのかしら? さっきのは明日のケーキということだったけれど」
「あと三十分ほど、店内で撮影させてください。エレナモデルで」
どうでしょうか? というと、あらっ、そんなことでいいのかしら、と千絵里オーナーは快諾してくれた。
そんなことというけど、普段は撮影禁止の場所だし、オーナーたちにも予定はあるだろう。
三十分も拘束するとなると、それなりな報酬じゃないだろうか。
鍵の問題があるから、誰かしら残っていてもらわないといけないからね。
「さて。それじゃー許可もいただいたことで、エレナさん。我らの本気を見せてあげましょう」
「はいなー。この服で、この場所で、セリナちゃんってことでいいんだよね?」
さすがはエレナさま。こちらの意図はばっちりと把握してくださっているようだ。
音泉ちゃんがモデルになっているエロゲのヒロインであるセリナちゃんの再現をこの場所でやりたいと思うのはごく自然の成り行きというものだろう。
もちろん、衣装まで全く同じってわけじゃないのが、完璧をめざすエレナとしては少しご不満かもしれないけれど、そこは表情でなんとかしていただこうではないか。
「んじゃ、お出迎えから、かな」
入口のほうにとてとて移動をして、少しだけ入口の扉に手をかける。かちんとあけて閉めるとカウベルの音がちりんとなった。
ここからが勝負だ。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
ほわっとした笑顔のエレナさん。すでに入っている様子で、お店で働いているメイドさんも真っ青な癒し系笑顔である。カシャカシャ撮りながら、次の動作を待つ。
「本日はおタバコは……はいっ。ではいつものお部屋にご案内いたしますね」
にこりと笑顔で席を案内してくれる彼女はまったく初めての店舗なのに迷うことなく席へと案内してくれた。
セリナが働いているメイド喫茶の設定はフォルトゥーナの物を基準に作られているらしく、禁煙か喫煙かを聞く場合も、吸う気があるかどうか、くらいのニュアンスの受け答えになる。
「まさかセリフまで再現していただなんて思ってなかったわねぇ」
「ですよね。あの写真集でのセリナちゃんは完璧って感じでしたけど、まさか所作までしっかりできるとか」
「すごいです、エレナさん……普通にここで働けちゃいそう」
外野からそれぞれの感想が漏れているのだけれど。さんざんゲームはやりこんだのだし、作りこみはしっかりやったから、すぐにやれといわれてもエレナならできてしまうのだ。
「もう、ほんっと、あの時音泉ちゃんが、ルイちゃんに捕まってくれてホントによかったわ。体験版プレゼントしてくれたからこそコスROMのキャラに入れてもらえたのだし……」
「えっと、オーナーが出したっていうゲーム、でしたっけ?」
店内でひっそり宣伝されてたのは知ってますが、やったことはないんですけど、と昴ちゃんが首をかしげる。
「昴ちゃんにはまだ早いわよ。大人向けだもの」
18歳になったらやらせてあげる、という千絵里オーナーの声が聞こえたのだけど、うーん。
正直シナリオはとてもよかったんだけど、エッチシーンが多すぎだと思います。
あれを18歳の女の子にやらせるというのも、ちょっとどうかと思うし、そもそも音泉ちゃんとしてはモデルになっててどういう心境なのだろうかとも思ってしまう。
「スマホアプリとかで全年齢版とかでないんですか?」
「出したいところなんだけどねぇ……って、スマホアプリで、か……んー。検討してみる」
「もともと、コンシューマー化するっていうと、携帯ゲーム機でっていうのを想定してたから、そうなるとあの売り上げだとちょい厳しいかなーって感じだったんだよね」
茜さんもいろいろと事情を知っているのか、しっかり話に参入しているようだった。
「ゲーム機版は別の制作会社にお願いする感じになるんだけど、そこでこれはいけるっ、て思ってもらわないとなのよ。確かにうちで作ったのは大成功の部類に入るけど……ちょっと足りないって判断されちゃったの」
「年末のブーストが初期にあれば、また話は違ったかもなんだけどね」
「ブースト、ですか?」
はて、と昴ちゃんが首をかしげる。
「なぜか年末からお正月にかけて、売り上げがあがったのよ。原因は目の前のお嬢ちゃんたちなんだけどね」
「エレナちゃんおすすめの男の娘ものならはずれはない、みたいな感じでね。そこからこぼれてきた人が数百人って単位で買ってくれたみたい。全体の数が数十万本突破! とかならさほどの影響でもないっていえちゃうけど、そうそう売れるものでもないからね」
一万本行けば大勝利って感じかな、と茜さんはさらっというけれど、一本6000~7000円するから、普通にそれでも7000万とかの売り上げって話になるんじゃないだろうか。それでも人件費やプレス費、広告代なんかを考えると利益がどの程度なのかはわからないけれど。千絵里オーナーの熱の入れっぷりを見るに、そうとうお金は使ってそうな気はする。
「オーナー。茶器とか借りてもいいですか?」
「ああ、はいはい。メイドさんにはお茶は必須だものね。なんなら淹れてくれてもかまわないわよ」
ついでにあたしたちの分も頼むわね~とねっとり言われてしまったものの、言質はとったので厨房をお借りする。
エレナさんは物色をしつつ、必要なものをそろえるとケトルに新鮮な水を入れて火にかける。
そのうちに、茶葉を選択。さすがは趣味店舗という感じで茶葉は透明なボトルにいれられていて、数種類が用意されていた。
「茶葉はメイドさんおすすめで」
「ウバにしましょうか。セリナの好きな茶葉なので」
ロイヤルミルクティーにしたいところだけど、さすがに牛乳まで拝借するのはちょっと抵抗が、というものの、エレナさんのロイヤルミルクティーはほっこり甘苦くておいしいんだよね。
時間もないし、今日はさすがにそこまではこだわれないけれど。
さて。お茶ができるまでは少し時間がかかるわけで。
その間は店内の撮影をさせていただくことにする。
照明、テーブル。そして窓。
窓というものはいつ撮っても面白い題材だと思う。外の景色がどうなっているのか、少し飛ばしながら撮ってあげると想像を掻き立てられるような感じになるのだ。
「あ、そうだ。茜さんにお願いがあるのですが、そこの席に座っていてもらえませんか? お客さんの代わりということで」
窓際の席に座るようにお願いすると、あー、はいはい。仰せのままに、と彼女は苦笑交じりにそこに座ってくれた。
メイドさん一人だけだと、お茶をサーブするシチュエーションがなかなかとりずらい。
そうなれば必要になるのはお客なのだけど、昴ちゃんはメイド服なのでこれでやると、お茶の勉強会というような感じの緩めの仕上がりになるのが予想される。
そっちも撮りたいとは思うけど、やっぱり接客しているセリナさんを撮りたいので今日は茜さんを選んだ。
え。千絵里オーナーじゃないの? という意見は……はい。女主人のアフタヌーンティー的なのを撮りたかったのです。オーナーは見た目男性なのでダメなのです。
「そして、ルイちゃんはこっちから狙う、というわけかしら」
「メインはメイドさんですからね。その顔がしっかりと写るように、角度は調整しますよ」
体が二つあればお客役もやらないではないですが、というと、んまっ、この子ったらと千絵里オーナーに満面の笑顔を浮かべられてしまった。
この人もこだわりがある人だから、共感みたいなものを感じてくれたのかもしれない。
「お待たせいたしましたお嬢様。本日の茶葉はお嬢様も大好きなウバでございます。熱いのでお気を付けください」
にまりと、信頼感最大の笑顔を浮かべているエレナさんをカシャリと撮影。
ふわっと紅茶の香りが香るくらいの写真が撮れているだろうか。いいや。撮れてる。大丈夫。
「こちらのお二人にもどうぞ。厨房貸していただいてありがとうございます」
「普通においしいわよねぇ。ほんともう普通にうちで働いちゃいなさいよって、あちっ」
「いい香りですー。ほっこりしますねぇ」
ふーふーしながら昴ちゃんがお茶を飲んでいるので、その姿もカシャリと撮影。
うんうん。緩んだ顔もかわいくて素晴らしいのです。
「のわっ。不意打ちですよルイさん。エレナさんを集中して撮るって話だったのに」
「そうはいっても、眼の前に被写体がいれば撮りますよ? 瞬間を逃すだなんてできるわけないし」
大丈夫、いい感じに撮れてるからね、と安心させつつ、カメラに手を伸ばす。
ああ。好き勝手に撮れるのがこれほど楽しいことだとは。
ちらりと時計を確認すると、さぁ次はどんな構図で撮ろうかと、思わず笑みがこぼれてしまうのだった。
半分撮影で、後半は灯南くん達と会わせる予定が、話が膨らみ……
やばい、撮影楽しい! 撮影してるルイちゃん書くのが楽しいです! メイド服着こんでカメラをいじり続ける姿に、カメラメイドの称号を与えたい。
ゲーム製作の話に関しては、製作費がどの程度かかるかは作者も知りません。かなり前に同人でゲームつくろう、ライターやってくださいってお誘いを受けたことはあるのですが、三か月くらいで原稿用紙2000枚は無理だろってことと入院する関係があったので、お断りしたのですが……
趣味満載、男の娘がふんだんにでる作品お話なら書けるような気がします!
まあ、他の制作陣みなさん男性でしたし、男の娘とかスパイス以上じゃねぇーって却下されそうですけれどね。いいのになぁ、可愛い男の娘がヒロイン。。
と、まあそんなわけで、次話は男状態の灯南くんと町でばったりします。




