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288.他県へのお出かけ5

今回はちょっと短めです。撮影まで行くつもりだったのですが、それは次話で。明日あげられるといいなぁ……なんて。

 フォルトゥーナの更衣室は、厨房のわきのところ、店舗の後ろ側のほうにある。

 その前で、ルイはんーと、その表示を見上げながら、声をあげていた。

「しかして、入ってしまっていいものか」

「いいんじゃない? ここってさっきの戸月くんとかも使ってるっていうし、女子更衣室ってわけじゃないもん」

 エレナは茜さんから預かったメイド服を片手に、ほけーと緩やかな感じだった。

 あえて、エレナのために言ってみたのだけど、あまりなにも意識はしていないらしい。


「あの、お二方はいったいどういう話をしているのでしょう?」

 更衣室の前で戸惑ったようすをしていると、昴ちゃんがどうしたんですか? と不思議そうな顔をしていた。

「あー、これでもエレナったら、性別不明のコスプレイヤーとしてやって来てるからね。あんまり女子更衣室とかっていう明確に性別がでちゃうところにはいけないなぁっていうのがあるのね」

「性別不明っていうと?」

 どういうことでしょう? と小首をかしげている。うん。かわいい戸惑い顔である。


「見た感じ女子だけど、実は男の子かもっていう話題性で、周りの人の注目をひいてるの」

「えっ。エレナさんって男性の方な……訳ないですよねぇ」

「はい、実は女の子派陣営へようこそー。ってな感じで二つの陣営でファンのなかでもまっぷたつなのです」

 こういう話題性みたいなのがあると、みなさんちょーっと注目してくれたりとかして、これでそこそこのファンを持つコスプレイヤーさんなのです、と言い切ってあげると、そんなでもないよーとエレナは照れた。

 更衣室の前でこんな顔をしているなんて、きっとファンの人たちが知ったら、ボクたちも見たいでござるっ、キリッ とかしそうである。


「なので、普通に更衣室ってだけだと、そういうの気にしないでいいから楽でいいねぇっていう感じでね」

 さぁ、オーナーさんたち待たせるのも悪いし中にはいるよ? とエレナに先導されながら更衣室に入った。

 そこそこの広さのあるところだと思う。中央にベンチのような長椅子があって、壁際には背が高いロッカーが10個程度つけられている。現在使われてるのは七個。他にスタッフが追加されるのを見越してつけてあるもだろう。

 オーナーとしてもシフトの関係でこれくらいは人がいないと厳しいと読んでいるのかもしれない。

 そして、窓際のほうに大き目な姿見があった。

 窓際といっても、外から見られるわけにはいかないから、壁の上のほうに採光用の小さな窓が付いているだけだ。


「うぬぬ。男性かもしれないだなんてどうしたって思えないですよ」

 じぃとエレナの全身を見つつ、昴ちゃんはため息をついた。男の子かも、と思っちゃう人がいるというところに何か思うところはあるようだ。


「でも、男女で更衣室一緒にしちゃって大丈夫なのかな?」

 ラッキースケベとかあったりして、とにこにこいうエレナに答えておく。

「普段は、さすがに時間別で着替えてるみたいよ。シフトも違うみたいだし、それでうまく回してるとか。他のメイドさんと一緒に着替えってことはあるかもしれないけど、厨房の人たちとは別になるじゃないかな」

 さすがにそこらへんはきっちりしているだろう。

 音泉ちゃんが他のメイドさんと一緒になるところを想像すると、なんか緊張しまくりな様子が浮かびはするけれどね。


「あ、それなら、安心です」

 男性と一緒の着替えだなんて、緊張しちゃいます、と昴ちゃんはほっと肩の力を抜いた。

 まあ、目の前の二人とも男性なのですけれどね、というのは言わないお約束です。


「ああ、ちなみにルイちゃんも男性じゃないかっていう疑惑があってねー」

「その疑惑はあたしも初めて聞いたけれど?」

 エレナがにまにま変化球を投げてくださった。

 ルイとして生活するようになってから、正直男性疑惑をかけられたことはないので、少し新鮮である。


「あははっ。エレナさんったら。こんな人捕まえて実は男子ですなんていっても、笑い話にすらなりませんよー」

「ですよねー」

 そういいながら、メイド服への着替えを始める。

 フロントでボタンをしめるワンピースタイプで、その上にエプロンを装備する感じのものだ。


 さて。どうしてここで男性疑惑なんてきわどいものをだしたのか。

 それには二つの理由がある。

 それは、実際そうきかされて昴ちゃんがどういう反応をするか見たかったため。本気で嫌がるようなら着替えは別にしようかと思ったのだ。かけらでもその可能性があるなら、嫌ですっ、みたいなことであればそれは尊重してあげたい。

 ……まあ、最近身近な女性が、まーったく事実を知ってても自重せずにばんばん脱ぐので、恥ずかしいですー、てれっ、みたいな方が珍しく感じてしまうくらいなのだけど。


 そして、もう一つの理由は、音泉ちゃんへのサービスだ。

 将来的に、あの子が男子だということがばれたときに、この会話が少しでも残っていてくれれば、世の中にはそういう人はいるものだ、という認識になってくれる。

 初見だから気味が悪い、となることをさりげなくカバーしようという魂胆なのだ。


「にしても、どうしてメイド服をこんなにいっぱい持ってきてるのか、謎だよね」

「ああ、なんだか採用がきまったら、どのメイド服にするかを決めるみたいな話で、何着かまでは絞ったあとに、実際きせてみて様子を見るようです」

 7のBとか、型番があるそうで、という昴ちゃんはホワイトブリムをつけるのに苦労しているようだった。

 

「それで基本はいっしょだけどちょっと違うメイド服ってわけか」

 よいせと鏡をみながら頭にホワイトブリムをつけて完成。

 こちらと昴ちゃんのメイド服を見比べても、全体的な印象はそこまで変わるものでもなかった。

 ひざ上15センチくらいのスカート丈と、あとは装飾の有無といったところだろうか。

 フリルの量がそれぞれ微妙に異なる。

 

「ふむ。膝が見えるメイド服っていうのは結構久しぶりにきたかも」

「ルイちゃんあんまり膝だししないもんね。こんなキレイなのにもったいない」

「だいたいロングメイドばっかりだったからねぇ。それに、ショートパンツで思いっきり痴漢にあった経験がちょっとトラウマです」

「あー、電車にのってたらってやつだっけ? それはガード力不足だと思うな」

 それだけ魅力的だったというやつなのだろうけど、危険が危ないとエレナに注意されてしまった。

 くっ。エレナさんは電車にろくに乗らないから痴漢されないだけなのではないだろうか。


「ってことは、あたしたちが着た後、それを昴ちゃんが着替える感じになっちゃうのかな?」

 それはなんか申し訳ないような気もしなくもない、というとふるふると彼女は首を横に振った。髪がぱたぱたと横に揺れている。


「実際に着せるっていう段階にいく前に、オーナーが、これで決定って言ってましたので」

 おかしくないですよね? とちょっと恥ずかしそうにしている姿は、確かに見事といえる。

 膝を覆うようなニーソックスと、絶妙なスカート丈。絶対領域とよばれるそれは、たぶん他のお店よりはずっと狭いのだけど、ちらりとのぞく肌色は、男性なら視線をそらさずにはいられないだろう。


「でも、メイド喫茶って聞いたときにはもうちょっと、スカート丈短いのかなって思ってたんだけど」

 なんか、そうでもないね、とエレナがくるりと自分の姿を見回しながら、そんな感想をいってくださった。


「あくまでもここのオーナーさんの発想では、メイドさんはサービスでお客を魅了するべきだ、ということみたいです。あまりスカート丈が短いと、そっちばっかりに視線が行ってしまうので、理念に反するとかなんとかおっしゃってました」

「あー、千絵里オーナー的には、フォルトゥーナは趣味店舗らしいからねぇ。自分が考える最強のメイド喫茶を実現したかったみたいなことらしいし」

 それに合格した昴ちゃんはよっぽどのものなのだと思うよ、と言ってあげると、あうあうと頬に手を当てながら照れていた。かわいい。ぜひ撮りたいところだけど更衣室の中なのでさすがに自重することにする。


「でも、お二人こそ、その、おきれいです……」

 その流れなのか、こちらをじぃと見ながら彼女はそんな感想を言ってくれた。 

 かわいいはよく言われるんだけど、きれいと言われるとなんかむずがゆくなる。

 それだけ年を取ったということなのだろうけど、女子として年齢を重ねすぎているような気がするのはいいことなのだろうかと最近少し思ってしまう。


「それじゃ、お店のほうに戻りましょうか? 戻れば好きに撮影させてくれるっていうし」

 ほれ。さっさと。さっさかいきましょうか、というと。

 まったくルイちゃんったら、とエレナのかわいらしいあきれ声が聞こえたのだった。

更衣室での一幕ーということ。更衣室だけで終わっちゃいました。そのあとの撮影タイムまで行きたかったのですが、時間がなんせないので。

GW前の一週間は忙しくなるのはセオリーなのですが、普通の生活がしたいものです。

さて。次話ですが、メイド服をきたのだから、撮影をします。ええ。しますとも。

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