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285.他県へのお出かけ2

遅くなりましたがなんとか本日アップです。

「さぁ、やってまいりました、ここが……」

「魅惑のケーキ屋さん、カスターニャでございます」

 車を上手いことコインパーキングに止めて、歩くこと数分。

 そこにはででんと、ここはお菓子を売っていますと言わんばかりのメルヘンな建物が姿を現した。

 すっごく可愛いおうち、という感じで、年頃の男の子ならちょっと、ここからおでかけは勇気がいるかもしれない。

 三角屋根のケーキ屋部分と、その後ろに生活空間である自宅がくっついている構成になっている。


「あら、いらっしゃい」

「こんにちはー! あの、ここがカスターニャで間違いないですよね?」

 看板はしっかり見ているものの、出迎えてくれたお姉さんにいちおう確認をしておく。

 あれだけの味のものなのだし、もしかしたら支店でしたーなんてこともあるかもしれないしね。


「ええ。旅行雑誌かなにか見て来てくださったのかしら。ここが噂のカスターニャです」

 ノリのいいお姉さんはにこやかにお出迎えをしてくれた。

 自分で噂のなんていってしまうところが面白い。


「雑誌に載るほどですか。まだまだ、とか巧巳くんはいってましたけど」

「あら。巧巳の知り合いなのかしらね。まったくあの子ったらこんな可愛い娘の知り合いができただなんてまったく言ってくれないんだから」

 巧巳くんの名前を出すと、お姉さんは、あらあらとさきほどよりも嬉しそうな緩んだ顔をしてくださった。


「え……まさか」

「はい、巧巳の母です」

 やばい。木戸母も若いほうだと思っていたけれど、巧巳くんのお母様ったら、アラサーといっても十分通りそうなくらいの若さである。


「ふふっ。やっぱりこういうところで驚いてくれるのは女の子ならでは、かしらね。灯南くんも確かに可愛いけど、最初にここにきたときはあまりそういう反応はしてくれなかったし」

「灯南くん?」

 はて、と小首をかしげておく、ふりをする。

 おそらく、音泉ちゃんのことだろう。可愛い男子なんてそうそう同じ町にわんさといるものでもないし、巧巳くんつながりだとその線も見えてくる。


「ああ、息子の同級生なんだけどね。ほんっともう、女の子としか思えないような子で。ちっちゃくってかわいくて。メイドさんとかやったらたまらない感じなの」

 あぁ、もう、うちで売り子さんしてくれないかしら、とキラキラした目で彼女は呟いた。

「って、かーさん、なに話してんだよ」

 話し声を聞き付けたのか、コックコートを身にまとった巧巳くんだった。

 今まで中でケーキでも作っていたのだろうか。少しだけ甘い香りがする。

 いづもさんも甘い香りがしてるときがあるけど、男子高校生からこの匂いがするっていうのはなんか慣れてなくてちょっとドキドキしてしまう。


「あ、ルイさん?」

 そして、こちらの顔を確認した彼は、へ? なんでこんなとろにいるの? という不思議そうな顔をしていた。

 隣の県とはいえ、そこそこ距離はあるから、わざわざ来ていることが不思議というところなのだろう。


「やほっ、巧巳くん。きちゃった」

 やぁと軽く手をあげて挨拶をすると、お母様は、あらあらそんなに親密な間柄なのかしらと好奇心満載という様子だった。

 うん。ちょっと挨拶が軽かったかもしれない。

 でも、散々撮影もしたし、ルイとしてはもうお友達気分なのである。


「きちゃった、って。そんな気楽な挨拶をするほどの関係じゃないと思うんですがね」

「東京ではあんなに情熱的だったのにー」

 いけずな子だなぁとにんまり言ってあげると、巧巳くんは、うへぇと嫌そうな顔をした。


「ケーキについて熱く語っただけだろうに」

「あらあら。あなたったら、てっきり灯南くんのこと好きなんだと思ってたのに、出先で女の子ひっかけてくるとか、やるじゃないのー」

 でも、二股はダメだからね、と変な注意が飛んだ。

 巧巳くんったら、選択肢が男の娘限定というハードモードに突入とはなかなかの運命の持ち主だ。

 八瀬あたりなら、なにその天国とか言っていたかもしれない。


「え。音泉ちゃんとのことは遊びだったのねー」

「あれは……その。前も言いましたけど、悪い虫よけなんで」

 俺は別にあいつと付き合ってるとかそういうわけじゃなくて、とぽそぽそした声が聞こえた。

 そんな様子を一枚カシャリと撮影。

 うん。あとで嫌がったら消してあげる予定だ。


 そんなやりとりをしていたら、ちょいちょいと、服の裾をひっぱられた。

 はいはい。先ほどから無口になっているのをしっかりと存じておりますとも。


「オーソドックスなケーキがたんまり……ねね、ルイちゃん。どれ食べる? どれ持って帰る? イートインとかないのかな? 公園なのかな? どうなのかな?」

 エレナさんは目をきらきらさせながらショーケースを眺めていた。

 思えばいつもシフォレに行ってしまっている関係で、ケーキ屋さんのような大きなショーケースってあんまり見たことがないんだよね。

 もちろんシフォレも入り口の所にショーケースがあって、そこにケーキが鎮座していたりするわけだけど、ここまでのサイズというのはあまりない。


「巧巳くんは、ふわっふわなものの方が得意だと思うよ。ムース系はオススメ」

「うちは、ショートケーキとかも美味しいですよ」

 ま、ムースやゼリー系は、あいつが大喜びするから、若い女性はそういうのいいのかもしれないけどと、彼は何かを思い浮かべながら言った。あいつが、灯南(あいつ)なのか音泉(あいつ)なのかがわからないので、深くつっこまないようにしよう。


「ええと、お客さん。うちはイートインはないけれど、なんだったら居間でお茶していかない? そろそろうちの人も帰ってくるだろうし、そうしたら店番押しつけていろいろお話聞きたいから」

「いいんですか? それは嬉しいなぁ」

 東京での巧巳(むすこ)のことをいろいろ聞きたいし、という提案に、ちらりとエレナの顔色をうかがう。

 話をしてもいいけど、エレナは完璧に部外者になってしまうから、それでいいのかなぁと思っていたのだけど。


「じゃあ、ここで食べるのと後で食べるのを選ぼっか」

 すぐにいただけるのなら是非に、というエレナはまったく居間にお邪魔することに躊躇の無い返事をしてくださった。

 まあその後、ケーキ選びにはかなりの時間がかかってしまったのだけど、そればかりは仕方がないことなのだろうと思う。




「そわそわ、してる?」

 ん? とエレナに顔を覗き込まれて、うわっ、と巧巳くんはのけぞった。

 居間に移動して、紅茶を入れてもらったあと、テーブルの端で一人硬直気味な彼を襲った悲劇である。

 ときどきエレナさんはこうやって男子をからかうわけなのだけど、高校二年の清い男子には少し刺激が強すぎるようにも思う。


「し、仕方ないじゃないですか。俺、そんなにその……女の人に免疫ないっていうか。お二人はその……綺麗すぎるというか」

「えー、音泉ちゃんとは仲良かったのに?」

 貴方がそれを言うのはどうなのー? と両手でカップを抱え込むようにしながら、小首をかしげて見せる。

 真に女の子に免疫が無い人というのは、あんな風にメイド服の子の手を握ったりはしません。できません。

 それに、フォルトゥーナのホームページも見たけれど、在籍してるメイドさんはみなさんそれぞれな方向性の美人さんばかりだ。ちんまい子や、美人系、活発系、癒やし系、そして天然系な音泉ちゃんも含めて、本当にレベルが高い。

 人が少ない、しんどいと言っているけれど、あれはただ面接の時のハードルがやたらと高いだけなんじゃないだろうか。


「あ、あいつのことはその……慣れたっていうか、どっちかっていうと守ってやらなきゃいけない妹みたいな感じっていうか」

「へぇ。じゃあ他のメイドさんは?」

「そりゃ、ちょっと美人オーラに気圧されたりはするけど、仕事相手だから」

 ルイさんだって、仕事相手なら年上だろうと遠慮はしないだろうといわれて、まーそうだけどねぇと答えておく。

 ということは、私的ではあんまり女子との付き合いはない子なのだろうか。


「でもさ、このお店ならお客さんは女の子ばっかりなんじゃない? まー、男性が食べてもくどくない絶妙さはあると思うけど」

 あむっと、イチゴショートを口にいれつつ。んふーとエレナが歓声を上げている。

 ああ、シフォレでもそうだけど、ほんっと食べてる時の顔は可愛いよね。あ~んとかついやっちゃうのってこれを見たいからっていうのもあるのかもしれない。


「それもやっぱり仕事ですって。そりゃ、女性客が中心になるってのはあってますが」

 おや。巧巳くんったら、ちょっと視線をそらしていて、エレナさんのほんわかした笑顔を見ないようにしているらしい。その破壊力にやられてしまいそうとか思っているのかもしれない。


 そんな姿を見ながらリンゴのヨーグルトムースをはむりといただく。

 アップルパイの場合、リンゴがかなりくにゃくにゃになるけれど、食感がしっかり残っていてこれはこれで好ましい味わいだと思う。そしてムースがやっぱり口の中で溶けていく。

 んー。幸せすぎる。


「でも、それならあたし達もお客だし、仕事相手なのだから、割り切ってお付き合いしてくれればいいんじゃないかなあ?」

 どうなのかなー? とムースのスプーンをぺろりと舐めながらそんな問いかけをしてみる。

 ふふーんと少し挑発的な笑顔を浮かべているのは、まあルイさんとてこの青少年をからかってしまいたくなってしまっただけのことだ。


「あらあら。すっかりお二人にやり込められてる感じね」

 うちの子にこんなに絡んでくれる娘がいるだなんて、お母さんは嬉しいぞーと、エプロンを脱ぎながらおばさまがテーブルの席の一つに腰を下ろした。先ほど物音がしていたけれど、どうやら旦那様が帰ってきたようだ。


「ちょ、かーさん。親父は帰ってきたのかよ」

「ええ。和人さんにお店変わってもらってきたの」

 ほっぽってきたわけじゃないからね? と気さくに笑う彼女はやはり高校生の子供がいるとは思えないくらいの若々しさである。


「うちの子、ケーキにしか興味がないケーキバカだと思ってたけど、ちゃんとそっちのほうにも興味がでてきてちょっと親としては安心かな」

 高校生くらいの男子って、たいてい女子の胸とか凝視しちゃうものだけど、この子ったらぜーんぜんそんなそぶりないしさーといいつつ、巧巳くんの前に置かれてあったマロングラッセを一口奪う。息子さんはもう諦めているようで、やられるままにしている。

 まあ自分で作ってるわけだから、新しく作れば良いとか思ってるんだろうけれど。


「あはは。じゃールイちゃんと一緒ですね。この子も異性に興味がない写真バカなんで」

「……エレナさん。本当のこととはいっても、ほぼ初対面の相手にどうどうと宣言するのはどうなのかな?」

 それに、男子高校生のそれと比べられても困ります、というと、女の子だって恋愛には興味あるものですよねぇ? とおばさまにエレナは問いかける。

 あの、エレナさん。男子校に行っていたあなたが年頃の女の子のメンタルを理解しているってどういうことなのでしょうか?


「そうねー。女の子の場合はもっと早いというか。小学生くらいから、きゃーきゃーいったりするじゃない?」

「……う。ぜんぜんそういうのに縁がなかった……」

 遠い目をしながら、昔のことを思い出す。小学生の頃は天然(あんな感じ)だったので、クラスメイトから恋バナを振られることはなかったし、中学に入ったら告白されすぎて、女子の恋バナなんて聞くチャンスはなかったように思う。

 高校に入ったら入ったで、周りにいるのは趣味全開な女子ばかりで、あの人かっこいいよねーなんて話も、そんなに聞いた記憶はないように思う。

 まあ、ハルのやつにきゃーきゃー言ってる子はいたけどね。あれが恋愛なのかどうかはわからないし。


「べ、別にいーじゃんかよ。俺もルイさんも好きなものがちゃんとあるんだしさ。ちょっと情熱が入りすぎて他が見えないだけだろ」

「だよねぇ。あたしたち悪くないよね!」

 ひしっと、巧巳くんの手を包み込むように握ると、うぶぉっ、と変な声が彼から漏れた。

 あれ。そこは、仲間としての共感に目を見つめ合うところではないのかな。

 にしても線が細い印象の彼だけど、手はちゃんと男の子の手をしてるなぁと感じた。

 ルイの手も女子よりちょっと大きいはずなんだけど、それでも彼の手の方が大きいのだ。


「ルイちゃん……健全な高校生をたぶらかすなんて、悪いんだー」

「ちょ、さっき二人とも朴念仁ってことで決着ついたのに、どうしてそこでたぶらかすとかって単語がでちゃうかなぁ」

 いいですよぅと手をひっこめて今度はバナナタルトに手を伸ばす。

 ねっとりとした感触が心地良い。タルト生地に関してはシフォレの方が美味しいかなとは思うけど、これはこれで優しい味わいである。


「意識しないでやってるんだとしたら、ルイちゃん相当なハート泥棒さんね」

「大丈夫ですよ。本気になられたことは……数えるほどしかないですから」

 はぁとため息をつくと、エレナが頭をぽふぽふしてくれた。

 しかもその数えるほどというのは、相手が勝手に好きになった感じなのばかりだ。翅と青木なわけだけど。

 特別誘うようなことはしてないし、他の男子を魅了したりもしてないと思う。


「そうそう。さっきからちょっと気になっていたんだけど、前に巧巳君が出してたムースってすっごい綺麗でかわいかったんですけど、このお店のってオーソドックスですよね」

 魅了で思い出したけど、と、先ほど店に入ったときから感じていた違和を尋ねることにする。

 夏にいただいたのは、なんかオシャレな感じなムースだった。それこそ都会のお菓子屋さんで出てきそうな感じの。でもここに置いてあるのは、ザ・ケーキなのである。

 悪いとはいわないけれど、目新しさはあまりない。


「そこは親父の方針ってやつでね。ケーキって言ったらイチゴのショートケーキから始まるって感じで、あのスタイルは外で働くときのオリジナルなんだよ。フォルトゥーナ……は今日は定休日か。明日行ってみればわかる」

「あの人、ケーキってやつはこういう見た目なんだーって頑固なんだもの。この子が作ったフォルトゥーナ用のケーキの方が綺麗でかわいいって、私も言ったんだけどね」

 あの人は町のケーキ屋さんを目指すっていうのがあるから、そこは譲れないみたいなの、とおばさまがフォローを入れる。


「ま、こだわりがあるということは、いいこと、でもあるのかな? 執着とか固着でなければね」

「実際おいしいからねぇ」

 味だけでお客さんをがっちり掴めるなら、それはそれですごいことなのかも、とエレナも満足そうに少し冷めてしまった紅茶を口に含んでいた。

 紅茶もしっかりと出ていて、渋みがしっかりとケーキと合ってる。

 いれかたを見ていたけれど、なんとこれ、ティーパックだった。しっかりカップを温めて、しかもお湯を注いだあとに蓋までしたからこそ、しっかりと出ているのだろう。


「さて。そんなおいしいケーキをお持ち帰りしようかと思っています。ホテルで夜食べようかなぁなんて」

「……これだけ食べて夜も食べるんすか……」

 エレナの宣言に、巧巳くんはうへぇーと呆れたような声を漏らしていた。

 でも、せいぜいケーキ三つとかしか食べてないし、まだまだ全種類制覇には手も足もでてないような状態だ。

 これだけもなにも、たったこれしか食べてない、という状態である。 


「女の子には別腹という臓器があることをご存じないかな?」

 ふふふ、と笑顔で悪のりをしながら、ルイもそんなことを言ってのける。

 まあ、我々女の子じゃないので、そんな臓器はついてないんですけれどね。甘いものは美味しくいただきますよ。


「そんなに気に入って貰えるなんてありがたいわね。保冷剤いっぱいつけてあげなきゃ」

「あはは。実は車に保冷バッグを積んでいるので、宿まではばっちりなのですよ」

 おばさまの申し出にエレナはちょっとドヤ顔をしてみせた。

 うん。後部座席に確かにおっきな箱がつんであったよね。あれ、ケーキのための保冷バッグだったとは。

 あとで、聞いたら、どうせルイちゃんったらケーキ買った後もよろよろ撮影しまくるでしょ? じゃあバッグ必要でしょ、だなんていわれてしまった。まあ、反論の余地もないので感謝である。


「えっと、実は町で宿はとってあるんですけど、夕飯は決めてなくって。どこかオススメがあったら教えていただきたいのですが」

 地元の人が良く行くようなところがいいのですが、というと、ああそれなら、と二人はそれぞれ別の名前をあげたのだった。

 というわけで、まだあっちでは登場していないカスターニャの店舗です。三角屋根のメルヘンなお店は巧巳君のお父様の趣味です。そして甘い匂いの男の子です。乙女シリーズに触発された部分がないとはいわない。やっとプレイが折り返しです。

 そしてケーキとお茶ですが、巧巳くんが初々しくて可愛いです。

 ケーキバカと写真バカ、通じるところがどこかあるのかもしれませんね。

 そして、まったりスローライフ。


 さて、次話ですが、巧巳くん達のオススメスポット→フォルトゥーナの外観撮影の予定です。

 いちおー、明後日アップできるように、がんばります。

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