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284.他県へのお出かけ1

さあフォルトゥーナへ遊びに行くよ!

「ちょっと疲れてる?」

「そんなことないよー。車の運転任せちゃってるし、大丈夫大丈夫」

 二つ隣の県への移動の車中で、運転席に座ってハンドルを握るエレナが不安そうに眉根を寄せた。

 助手席で少しぐったりしているところを気にされてしまったのだろうか。とりあえず背筋を伸ばして大丈夫なように見せることにする。


 実際の所は、エレナの車の助手席のクッションがふかふかでつい、ふかふかしてしまったってのもあるのだけど、今月、三月の出来事が多すぎたのも確かなことだった。それぞれカメラ関係だったから気分的には全然なのだけど、なんせやることが多すぎだとも思う。


「なんならちょっと寝ちゃっててもいいよ。目が覚めた頃にはきっと雪国だから」

「いやいやいや、トンネルを抜けたらそこはーみたいなそんなことはないから。そんな北にはいかないから」

「あはっ。まあそうなんだけどね」

 ぐんとアクセルを踏み込んで加速をすると、エレナは高速にのった。

 うーん。ルイも教習でやったものの、この合流に見事に乗れるというのがさすがだなぁなんて思ってしまう。


「相変わらず、エレナは運転上手いよね。あたし高速はちょっと怖いなぁ」

「慣れだとは思うけど……ルイちゃんぜんっぜん運転とかしてない感じなんだっけ?」

「電車移動がほとんどだね。っていうか車がない」

 庶民なので……というと、あー、うんとエレナが肩の力を抜いた。

 ここからは少し直線が続くので、リラックスというところなのだろう。


「どうしてもカメラ関係の機材の入手が優先されちゃうからさ。それに買うとなると車庫借りたりとかで維持費がね……」

 木戸家にも車はあるし、車庫もあるわけだけれど、そこまで大きな家でもないのでこれ以上新しく車を置くスペースはない。

 父様も電車通勤の人だから、空いている時に家の車に乗るということはできないではないけれど、女装状態じゃ乗っちゃダメと母様に言われていたりする。まあ免許の兼ね合いもあるし、仕方ないとも思っているけれど。

 ……免許の写真はひどいできですしね。


「そこらへんは、父様に感謝、かな。敷地だけは無駄に広いし」

 それを言うなら、母様に、かもしれないけどとエレナがにこりと笑顔を浮かべている。可愛いのでカシャリと一枚。

 あの場所の洋館を気に入ったのは、エレナの母親だという話だしね。

 仕事の兼ね合いを考えると都会の交通の便がいいところを選ぶ手もあったのだろうけど、外国育ちのエレナのお母様は、ある程度の広さがあってのびのびしたところがいいと言ったのだそうだ。

 こちらとしてもエレナとの付き合いは本当にありがたいので、あの場所に住んでいてもらって本当に良かったと思っている。 


「あれだけ広ければ、駐車も簡単そうだしね」

 ふふっと、からかい気味に言ってあげると、んーとエレナは可愛い声を上げてくださった。

「いちおう屋根付きの駐車場も作ったから、そこに入れるにはちゃんとした駐車スキルがないとだよ?」

 外の駐車場だって、ちゃんと線の中に入るからだいじょーぶ、と無い胸を張った。


「それによーじよりボクの方が運転は上手いからねぇ」

「あらら。なんていうか、車は男のモノだぜぇとかっていう気風があるわけですが」

「それって、空間認識能力がどうのーとかって話でしょ? それとあくまでも運転は技術だし、慣れだと思う」

 だって、よーじったら、二人のデート以外車あんまり使わないし、まだまだ危なっかしいんだよ、と彼女(エレナ)は苦笑を漏らす。

 エレナは免許を取ってからこれで、車はかなり使っているほうだ。

 主にイベントに行くときは衣装がいーっぱいつめるし、さいこーだよー! とか大はしゃぎだった。


「お父様は、車は運転手と一緒に買うもの、みたいなことを心配そうに言ってたけど、さすがにそれは忙しく働いて収入がある人の台詞なんじゃないかと思うんだよね」

 車中で働く必要があるから運転手がいるわけだし、そうでもない身としては自分でやってあたりまえだよとエレナは真面目な顔で言った。


「あ、それ、沙紀ちゃんも言ってたね。運転手が必要になるのは、超多忙なビジネスパーソンか、誘拐リスクがあるお嬢様だってさ」

「あはは。沙紀ちゃんとかはちっちゃいころ、送り迎えされてたから、なおさらそう感じるのかもね」

 あの子、お金持ちの子なのに、苦労人だもの。とウィンカーをつける。

 そろそろサービスエリアがあるので、そこに入って少し休憩を取る予定だ。

  

 本日の目的地は、メイド喫茶フォルトゥーナがあるあの町だ。

 同じ郊外の町ではあっても、距離はけっこうある。

 電車で行くと三時間くらいだろうか。

 当然車で行くのもかなり遠出、ということになるわけで、一泊してせっかくだからいろいろ見て回ろうよというような計画になっているのだった。


 そして、その目的地の一つが、高速のサービスエリア。

 今日日、たんなる休憩所ではないいろんなサービスがあったりすると言われているところである。

 電車での移動が主なルイとしてはまず寄らないところの代表みたいなところなので、どうせ高速に乗るならご飯はそこで! なんて話になったのだった。


「ほい、ご到着。駐車もばっちりだよ。お駐車しましょうねーって感じで」

「それ、どんなキャラ?」

 看護師コスはさすがに経験はないけどねーと笑うエレナの顔を一枚。

 いわゆる、世間的に言われるコスプレのバリエーションとして看護師さんのコスはあるけれど、エレナはそういうのはあまりやらない。

 やるのだとしたら、女装で看護師してますとかいうキャラがいたら、ということになるだろうか。

 どういうシチュエーションになったら、そんな展開になるのだろうかと少しだけ考えてしまう。

 別に男性の看護師さんだって最近は増えているし、敢えて女装してという展開にするのは大変そうだ。

 それこそ、ルイと同じ目的で、相手を萎縮させないために、なんていうことはあるのかもしれないけど。


「んー広々してて、いいねぇー」

 そんなことを考えていたら、エレナは車の外にでて大きく伸びをしていた。

 相変わらず胸はぺたんこで、伸びをしても目立ちはしないけれど、それがなくてもずいぶん色っぽくなったと思う。

 うん。これを見ていると、自分って普通に男子だよなぁと思ってしまうのだ。

 さくらとかは、あんたがいうなーと言うんだけど、やっぱりエレナさんは突出して可愛い男の娘だと思います。


「ルイちゃん、お腹の具合はどう? 先にご飯にする? それとも足湯行っちゃう?」

「んー、そだね。まだお腹空いてないから、足湯から先に行っちゃおうか」

 ぱたんと車のドアをしめて、エレナに答える。

 初めてのサービスエリア体験なわけだけど、ご飯を食べる以外にもここには長距離運転の体力回復のために、いろいろな設備が用意されている。

 その一つが、足湯だ。


「混んでないわけはないとは思うけど」

 空いてるといいなーと思いつつ、タオルを片手に貴重品だけを入れたバッグを肩にしょった。首元にはカメラがしっかりと装備されている。

 ぴぴっとエレナがキーのついてるボタンを押すと車の鍵が閉まった。

 

「まー、そりゃずーっと同じ姿勢で長時間ってなると、足湯は人気出そうだよね」

 近くに温泉があるんだっけ? というエレナの指摘のとおり、このサービスエリアから外に出ると温泉が近くにあるのだそうだ。それの宣伝も兼ねて足湯を無料で開放しているという部分もあるらしい。

 気持ちよかったら、近くの町も観光していってね、という所なのだろう。


 そしてその足湯は、駐車場から歩いてさほど離れていないところにあった。

 屋根はついているものの、建物の外に設置されたそこはそれなりな広さがある。

 まだ作られて数年というくらいだろうか。木で組まれた屋根と足湯の桶はまだまだ新しい色をしていた。

 テーブルを囲んで足湯が設置されているというような感じで、どうやらここでも食事がとれるような設計になっているらしい。  


「あ、あの端っこ空いてるね」

「うん。じゃあ、あそこで」

 よいせ、と履き物と靴下を脱いでお湯の中に足を入れる。

 おぉ。ちょうどいい温度だ。ちょうどひざ下くらいまでが浸かるくらいのお湯の量で、服が濡れる心配もあまりなさそうだ。

 男の人達はズボンの裾をまくって入っていたりするのだけど、スカート姿なのでこういうときは便利だなと思う。


「はぁ。ちょっとぬるめでいいねぇ。ほっこりするというかー」

 ぴちゃりとお湯に足をつけるエレナさんを横から激写。

 相変わらず、綺麗な足をしていると思う。

「足湯なら、カメラも持ったままでいられるし、撮影自由な感じがいいね」

「あはは。ルイちゃんったら相変わらずだね」

 エレナに苦笑されてしまったけれど、でもこれは大切なことだ。

 温泉だとカメラの持ち込みは基本的に不可能。でもここならばそれが両立できてしまうわけなのである。 


 たまらぬーと、目の前にあるテーブルにつっぷしながら身体の力が抜けていくにまかせる。 

 周りを見てもかなり気持ちいいらしく、ぐでっとリラックスしている人達が多くいる。

 中にはスマホをいじっている人もいるけれど、食事をしている人はいなさそうだ。

 これからの旅の下調べなんかをしていたりするのかもしれない。


「おや、女の子の二人旅かい。珍しいねぇ」

 そんなことを思いながら、ゆったりしていると隣に座っていたおばちゃんが話しかけてくれた。

 飴ちゃんいるかい? と気さくに声をかけてくれる。

 エレナは普通に、ありがとうございますーとか言いながら、黒飴をいただいていた。

 もちろんこちらもいただくことにする。うん。

 甘さが強めの黒飴は、自分ではなかなか買わないのだけど、ちょっとだけもらったりすると嬉しい甘みだ。


「遠くに住んでる友達のところに遊びにいくところなんです。車で遠出なんて初めてなので、楽しくって」

「車で来てるってことは、高校生……じゃないか」

 ルイはともかくとして、エレナは少し幼さが残るほわんとしたタイプだから、高校生だと思われていたらしい。

 でも、もちろんもうちょっと我らの年齢は上なのであります。

 とはいっても、おばさまからすれば、18も19も変わらないのかもしれないけど。


「おばさまは、お一人なんですか?」

「いえね、うちの人と一緒なんだけど、食べ過ぎたとかでトイレにこもってるの。まったく久しぶりに遠出してるからってあれもこれもは、無理じゃないのっていったんだけどねぇ」

 もう若くないんだし、と言いつつトイレの方に視線を向ける姿は少しだけ柔らかい。

 夫婦で旅行に出るだなんて、仲がいい証だと思う。


 そういえば木戸家の二人は旅行とかあんまり行ってなさそうだけれど、夫婦仲は大丈夫なんだろうか。

 そりゃ、別の女性に色目を使ったりすると、母様はかなり睨むけれど。


「それは心配ですね。お薬とかはあります?」

「大丈夫よ。たんなる食べ過ぎなんだしさ。しばらくすれば出てくるからさ」

 酔い止めとかは持ってきたけど、さすがにお腹のお薬はないかなーとエレナは心配そうな顔をしている。

 そんな姿をおばさまは嬉しそうに目を細めながら見つめていた。

 

「おっと、噂をしてたら出てきたみたい」

 ちゃぽんと水面が波打って、おばさまは足湯から外に出た。

 もちろんタオルで足を拭いてからだ。

「それじゃ、私はもう行くわね。二人とも、楽しい旅行になりますように」

「ええっと……あの」

 そのままおばさまは、旦那様の方へと歩いて行くようだった。

 それを目で追いながら、ああ、どうしようかと少しあわあわしてしまった。

 足湯に入ったのはついさっき。このタイミングで外に出るのもどうなのだろうかと思う部分も大きいわけで。 


「いいんじゃない? 撮りたい時が撮る時、なんでしょ?」

「だよね。ちょっと行ってくる」

 エレナを置いて足を拭いてからおばさま達を呼び止める。

 せっかくの出会いなのだから、このままお別れというのも、なんか寂しいのだ。


「よろしければ、お写真撮らせていただきたいのですが」

「あらあら。こんなおばちゃん達を撮ってもしかたないでしょうに」

 いつものコスプレ会場とは少し異なる言い回しで写真を撮らせてもらう。

 急いで後を追いかけてきたのにおばさまは驚いたようすで、カメラを向けると苦笑混じりにどうしようかしらと旦那様の方に視線を向けた。


「割とみなさんそうおっしゃるのですが、ま、撮られてみてくださいよ」

 ね、おじさまもせっかくの旅行なのですし、飴のお礼ですというと、あぁと納得してくれた。

 少しげっそりしている感じもするけど、まーそこはなんとかしよう。


「それじゃ、サービスエリアの建物を背景に一枚と、反対側を背景に一枚いきましょう」

 さすがにいつもの撮影とは違うので、あっさりと撮影して、おばさまのスマートフォン宛に写真を転送しておく。

 ものの数分もあれば終わる作業だ。いつもならこれで小一時間とかかかるのだけど、さすがに町中での撮影にそこまでの時間はかけない。

 銀香のルイさんは、町中での撮影はスマートにこなすのである。


「あらあら。なかなかいいじゃない」

「ああ、良く撮れてる。おじさんもカメラは持ってきてるけど、さすがにここまで手慣れたのはなかなか」

 スマホの画面に写し出された写真を二人は大変喜んでくれたようだった。

 うんうん。人の撮影ってやっぱり見てもらう瞬間の反応が嬉しいよね。


「もう一人の子はどうしたんだい?」

「たぶん、足を拭いてこっちにくるところですね」

 撮影が終わったところでおばさまが、そういえばと声を上げる。

 エレナをほっぽって来てしまったので、どうしたのだろうと疑問なのだろう。

 そういえば、足を拭いてすぐに合流してくるかと思ったけど、まだみたいだ。エレナの性格からいっていったん外に出てご飯を食べてからまたゆっくりしようって感じになると思っていたのだけど。


「気をつけた方がいいわよ。貴女の隣にいた男性方、貴女たちを変な目で見ていたから」

「あ……それで……」

 あら。急に話しかけてきてくれたと思ったら、ナンパ防止の意味合いもあったのですか。

 そして、あそこだけぽっかり空いていたのは、もしかしたら少し前に声をかけられて逃げるように足湯を去った子がいたのかもしれない。


「おまたせー。撮影は終わった感じかな?」

「うん。無事に終了なのです。でも、エレナも来るの遅かったけど、もしかして待たせちゃった?」

 あんまり時間はかかっていないけれど、それにしたって足を拭いて出てくるだけならここまで時間はかからないはずだ。だとしたら邪魔にならないようにこっそりこっちを見ていたなんていうこともあり得ることだ。

 

「あー、うん。ちょっと足湯の方で男性の方に声をかけられちゃってね」

 それの対応で時間かかっちゃってさ、とエレナは苦笑を浮かべた。

 もう出るというところで声をかけるだなんて、なかなか強引な方々だ。


「それで? 大丈夫だったの?」

「もちろん。笑顔で、連れのことが大好き過ぎるのでごめんなさい、って言ったら、あ、ああ、そっちの人なのか、って崩れ落ちちゃったよ」

「……そっちの人かぁ。まーあたしとエレナの関係なら、その言葉もあながち間違いではないかなぁ」

 うんうんと頷いていると、おばさまは心配と疑問が入り交じったような複雑な表情をしていた。

 まあ、そういうふうに断る人もそうはいないだろうから、面を食らってしまうのはわからないではないけれどね。


「えぇー、ボクとルイちゃんの関係って?」

「親友として? 被写体と撮影者として? 大好き過ぎるでしょ?」

 ほれほれ。恥ずかしい台詞をばんばん言ってしまうよ? と言う頃にはおばさまも、あぁ、なんだと納得したようだった。

 百合百合しい展開から、普通に親友の大好きなのだとわかれば、とりあえず困惑は収まるというものだろう。

 少しばかり過剰なスキンシップをしてしまうのは、若い女の子の特徴だしね。

 まあ、実際は男同士なんですけれど。


「さて。じゃー、ルイちゃん。ご飯食べにいこっか」

 それが終わったら足湯また入るよ? というエレナに苦笑を浮かべておく。

 ナンパをされて断ったところにまた行こうと思える精神力はなかなかにすごいものだ。絶対になびかないという思いがあるからこそ、こういう反応もできるということなのだろう。

「おっけ。そろそろお昼ご飯ってことで」

 おばさまたちも気をつけて行ってきてくださいね、と言うと、ありがとうと言いながら二人は駐車場の方に歩いて行った。

 袖すり合うも多生の縁というけれど、旅行をするとこういうこともあるから、楽しいものだと思う。


「海鮮と鶏飯どちらにするかが悩みどころだね」

「デザートもいろいろあるから、迷っちゃうよね」

 そりゃおじさまもお腹痛くなるのかも、と苦笑を浮かべつつ、二人でフードコートに向かったのだった。さぁご飯の始まりである。

 ふつーにエレナさんときゃっきゃしてたら、町につけなかったorz

 そして、両方ともの町を関東のどっか、ということにしてるので、高速関連の設定とかどげんしようと思ったけど、いろいろ諦めました。

 サービスエリアですが、最近はいろいろなものがあって楽しいですよね。作者精神病んでいるので、車に乗るとそのままうっかりハンドルを危ない方向にきりかねないので運転は控えているのですが、旅行風景の一幕としてとても楽しいところだと思います。

 二十歳前のかわいい子が二人もいたら声をかけざるを得ないと思うわけで、ひさしぶりにナンパネタを入れてみました。


 次話は、フォルトゥーナのあるあの町に到着します。お店には翌日行く予定です。まずは巧巳くんちからです。食べ歩きはいいものだと思います。

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