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280.卒業旅行リベンジ1

お待たせしました! 本日から一日おきで更新再開です。

「親友達のカメラがかわいくないごついなにかになっている件について」

 むすぅと、背景の緑の中でほっぺを膨らませている佐山さんが持っているのは都会の女子が持っていそうな軽そうでおしゃれなカメラだった。

「しかたないよー。中級機超えちゃうとカラバリないんだもん」

 ねーというと、さくらがこればっかりはしゃーないっすとすちゃりとカメラを構えた。

 なんというか、さくらがちょっとだけ不機嫌である。

 同意はしてくれているけれど、それでも佐山さんと同じくむすぅーとした表情なのだ。

 せっかくの卒業旅行リベンジで、山にやってきているというのに、さくらさんったら電車に乗ってる最中もこんな様子だった。


 ちなみに、卒業旅行で来ている場所は昔、高校生の頃にみんなで来た山の合宿所なのだった。

 どこに行こうかという話題になったときに、入れる温泉というつぶやきを佐山さんが拾ってくれた結果こうなった。うん。あの山の方にある混浴のお風呂ならルイでも入れるからね。


「正直、あんたのカメラのバージョンアップがアホみたいに高すぎてびびってんの」

 どうして一足とびにフルサイズかなぁといわれて、いやぁお金ためましたもんとドヤ顔をしておく。

 もちろん、道具でなにをするかの方が大切なので、これだけででかい顔をするわけには行かないのだけど、まずはここまでの努力を褒めていただきたい。これでも節制をしながら貯めたからこそのカメラの更新なのだ。

 

「くぅっ。エレナちゃんのコスROMは卑怯よ……」

「あれは、まぁうん。頑張ったってのもあるけど、臨時収入としてはありがたかった」

 でも、それだけに購入資金を頼ったわけではないよ? とも伝えておく。

「ああ、ルイさんの友達をモデルにしたーっていう写真集だっけ? お正月の時は結構な売り上げがーとか言ってたよね」

 詳しくは知らないけど、と佐山さんは首をかしげている。

 いまいち、どう儲かるかが想像できていないのだろう。彼女はオタクってわけではなく、どちらかといえば一般でカメラを持つオシャレ女子である。


「そうそう。あんな可愛い子が被写体なのだもの。それだけで宣伝効果抜群で羨ましすぎる」

「でも、写真自体もいい仕上がりだったでしょ? かなりいろんなのを試して、時間もかかってるからね」

「そうだけどさぁ。だからこそ、やられたっていうか……」

 むぅと頬を膨らませながら、さくらは山の風景をカシャリと撮影。

 本気の撮影というよりは、とりあえず撮りましたというようなものだ。


「さくらだってしっかりパワーアップしてるじゃない? 動物の撮影とかなんかかなり手慣れちゃったし」

「そりゃ……成長してないとは思ってないけど」

 あとで、今まで撮った写真の見せあいっこしようね、とにこりと笑顔を浮かべると、こいつはぁとさくらは大きなため息を漏らした。


「あはは。ほんっとルイさんって、変わんないなぁ。写真のことになると屈託無いというかなんというか」

 目がキラキラするよね、と佐山さんに言われると、そんなに変わるものかなぁと自分でも思ってしまう。

「確かに写真を撮ることは好きだけど、自分ではあんまりテンションが上がってるーとかは思ったりはないよ? というか、普段のテンションが低すぎるのかもしれないけど」

「こやつ、基準が明らかにルイの方に傾いておる……」

 さくらからぼそっと呆れ声が来たけれど、とりあえず無視しておくことにする。

 別に普段のテンションはあれはあれで日常風景である。


「それで、佐山さん。本当にいいの?」

 その話題から離れるため、というわけではないのだけど、目的地へのハイキングをしながら佐山さんに尋ねておく。

 そう。今回の卒業旅行リベンジは、山の中腹にある合宿所を借りることにしたのだけど、三人部屋をとっているのだ。当時は先輩方も合わせて五人部屋をとったわけなんだけど、その時は事情を知っているのはさくらだけだったし、佐山さんはこちらを他校の女子高生だと思っていたので、特別なにも思わなかっただろうけど、今は事情が違う。


「んーたしかにあたしはルイさんしか詳しく知らない。でもルイさんのことは知ってるし、その人が実は下心満載の女装魔だーなんてことは無いと思っているんだ」

 ほれほれ、こんなに接近しても特になんとも思わないんでしょーと、佐山さんが顔を覗き込んでくる。

 すんと女の子らしいシャンプーの香りがふわりとする。


 んー、たしかにこれ、清い男子ならドキドキしちゃったりするんだろうけどさぁ。

 ねーさまとかがいるし、エレナとかだってひっついてくるし、なにより自分自身がシャンプーの香りとかしてるから、あんまりぴんとこないんだよね。


「どうしても、遠慮しちゃうーっていうなら、答えは簡単。あそこをざくっと切ってしまえばいいんじゃないかな」

 こちらが難しい顔をしていたからか、佐山さんはさらに冗談まじりに笑いかけてくる。

「あー切るのは面倒だからヤだなぁ」

 冗談には冗談で返すべきところだろう。んーとあごに人差し指を当てて悪戯っぽく言ってみる。


「……まじでルイさんはルイさんなんだね。そういう返しは想像してなかった」

「あーうん。なんか、男らしい反応を期待しちゃだめよ」

 さくらまでうへーと嫌そうな顔をしながら忠告してきた。

 え、なにが正解だというのですか?

 ああ、普通の男子なら、股間を押さえて震え上がるわけですか、そうですか。


「実際問題、どんな感じなのかーってのはいづもさんに聞いたしなぁ。それを思えば恐怖がどうのよりも、やりたかないよ。痛いっていうし」

「麻酔とかは?」

「切れたあとやばいって言ってた。当日は咳するだけで激痛だってさ。一週間はベッドから起きられないっていうし、その間撮影ができないとか嫌すぎる」

 想像していただきたい。カメラのない生活を。

 そんなことはあり得ないのではないだろうか。


「切ることにたいしての抵抗はないんだ?」

 佐山さんはあきれ顔をしながら、疑問の声をあげる。

「んー実際、あってもなくてもあんまりかわんないなーっていうのが正直な話で」

 だって、ほら。トイレも座ってする派ですし、というと、さくらが、あーあと頭を抑えていた。

 訳がわからない。タックするときの窮屈感を考えると、手術の痛みさえなければ取ってしまってもいいんじゃないかなとすら思う。まあ、千歳達みたいに積極的に取りたいとまでは言えないけどね。

 

「ま、そんな感じの子なら、貴方が男だろうと女だろうとどうでもいいかなって感じ」

「うーん。まぁそう言ってくれるなら、いいんだけど……うっかり男っぽいところが出てしまったりとか……」

 からっとした佐山さんに煮え切らない答えを返していると、ぱしっとさくらが肩に手を置いてきた。なぜか首をふるふる横に振っている。


「あんたに限ってそんなことはないから、心配しないでいいわ。寝言ですら女声でしょうし」

「うぬぬ。寝てる間のことは知りませんよーだ」

 いちおう、あいなさんちで夜泊めてもらったときなんかは問題はなかったけれど、実際夜どうしているかは自分では把握できないものである。


「それに、今まで撮ってきた写真の見せ合いってなると、一緒の部屋の方が絶対にいいでしょ?」

「……それは、そうかも」

 わざわざ集合してっていうのは面倒くさいよと言われると、たしかになぁという気にはさせられる。

 このまえエレナの家でやったゼフィ女の卒業式の打ち上げの時も途中で切り上げて、寝ようかって話になったしね。

 そのまま話しながら自然に寝落ちをするほうが合宿という感じで楽しいものだとも思う。


「それに、あんた一人にすると写真整理とかし始めて、にまにまして朝でしたとかってことにもなりかねないし」

「さすがに寝るよ! 夜はちゃんと」

 朝はちょっと早起きするかもしれないけどさ……というと、相変わらずだ、こいつとさくらに疲れた声をあげられてしまった。


 でも、せっかくの合宿所である。三月末というこの時期に早朝の写真は絶対におさえておきたい。

「そんなわけでルイちゃん。今日はなーんの気兼ねもなく楽しむように」

 うちらも遠慮しないからさ、という佐山さんの表情はなにやらとても楽しそうだったので。

 カシャリとその笑顔を背景とともに納めさせてもらったのだった。



 さて。場所は合宿所に移る。

 山の散策をしながら撮影をして、目一杯過ごしたあとは夕食の時間がやってきたのだった。


「ふっ。あのときのリベンジも兼ねているので今日はあたしがつくります。ルイはコメでも炊いておけばいいよ」

 ふふふーんと今回はさくらが野菜の処理をはじめた。

 三年前のあのときは、先輩達も含めてみなさん料理が出来なかったものだけど、さくらもあれからずいぶんと上達したようだ。野菜を切っていく包丁の扱いにも危うさはない。

 あれか。彼氏に美味しい手料理をとかそういうやつなのかもしれない。


 とまあ、そんな姿を見つつ、こちらはこちらでご飯を炊かねばならない。

「……普通に手早いし慣れてるわ……」

 佐山さんからうわぁと声が漏れているけれど、米を炊くのは日本人の本能のようなものだ。

 ちゃちゃっと片付けるに限る。

 最初の一回はせっかく流した汚れを吸わせたくないのでもちろん手早く。

 そして、ある程度のところで炊飯器にセットして水を入れる。ちょびっと少なめにしているのは好みの問題だ。

 カレーを食べる時はちょっと固めの方が好みなのだ。


「佐山さんは自炊はしないの?」

「いちおー大学入ってからは一人暮らししてるから多少はーって感じだけど、まーまだまだ。これから覚える感じかな。二人のことを見てるとやっぱり出来た方がいいなぁって思っちゃうし」

 料理が出来る子って、ポイント高いよねと言いつつ、カシャリと彼女はシャッターをきる。

 そうはいうけど、こちらとしてはこれが日常なので、あまりことさらすごいとは思わないのだけど。


「料理っていうと、今年のバレンタインってルイさんとしてはなにかやったの?」

「あー、今年はこいつコンビニでお仕事よ。ぷらっと立ち寄ったらいきなり店頭で販売してて、普通に噴いたわ」

 あーやらかしてるよーって感じでね、とさくらは鍋の煮え具合を確認しながらはぁとため息をもらしていた。

 女子のイベントでなにをやってんだか、とでも言いたげである。


「やー、あれはお客さんからのリクエストでああなっちゃっただけだってば。クリスマスのときにサンタコスやった話はしただろうけど、それつながり」

 好きでやったわけじゃないんだよねぇというと、ノリノリだったじゃないとさくらにつっこまれた。

 う。ま、まぁそりゃ。精一杯やったけどさ。


「それにこいつったらアマロリ服なんて着ちゃってさ。えっらい可愛くてほんともう、どうしてくれようかって感じだったわ」

 あとで写真みせたげるから、覚悟しておいてねとカレールーをぱきぱきわりながら、さくらの声がはいる。

 ううむ。崎ちゃんに渡ったであろうあの写真はさくらも持っているというわけか。


「それは楽しみかな。ルイさん可愛いけど、そういうあまあまなのってあんまりやらないから、新鮮というか」

 たいてい撮影の時は動きやすい格好とか制服とかだったし、と少しだけ残念そうな声が上がった。

 そりゃ、佐山さんと撮影するときは学校絡みのことが多かったからある程度は仕方ないと思う。

 これで、私服の方は甘めの服もあるのはあるのだけどね。


「どっちかというと、女装としてやるときの方がこいつ、甘い衣装とか、きらびやかなのとか着てる気がする」

「あー、まあそうかなぁ。そりゃ女子として一目惚れするかわいい服ってのもあるけどさ」

 派手すぎるのはちょっと遠慮しちゃうのです、と答えると、そういうのあるよねーと佐山さんから同意の声があがった。


「その点、これは女装ですってことだと、冒険とかもできるというか。コスプレみたな感じになるんだよね」

 ルイとしては、あんまりコスプレはしない主義ですと言っておく。

 いまいち他の人に伝わらない感覚なのかもしれないけど、やっぱりルイはあくまでも、普通の女子としての存在なのだ。それに比べるとしのさんの方が、女装としての認識がいくらか強い。まーどうせ、いくらか(、、、、)でしょと言われたらそれまでなのだけど。

 

「あのさっ。今度目一杯おめかしした姿も見てみたいんだけど、どうかな?」

「うわ、それをこいつに言っちゃうか……まーヤマちゃんとかもそうだけど、そーいうことも言いたくなっちゃうもんかなぁ」

「さくらだって、男の娘が可愛く着飾るのって好きじゃないの?」

 佐山さんが、いまいち乗り気じゃないさくらに、不満というか疑問の声をあげていた。

 女子なら食いついてくださいよとでも言わんばかりだ。


「いい加減、いろんな服装見てるから、あたしは胸焼けしちゃってる感じ。そういう目ではもう見れないというか」

 他の男の娘にはテンションあがるけど、ことルイに関してはあがりませんと、鍋をかきまぜて溶けたルーの味見をしながらさくらは苦笑いだ。

 うーん。エレナが着飾っても日常になってしまってるように、さくらにとってルイがどんな服装をしていようが慣れてしまったということなのかもしれない。


「あたしとしては、女友達同士だと思ってるから、特別に見られるよりはさくらのスタンスの方が助かるかな。まあ着飾った姿を見たいというなら、見せないでもないけど」

 というか、六月になったら、どのみちドレス姿にはなるし、と伝えると、佐山さんが、なっ、と言葉を詰まらせた。

 そう。六月と言えばエレナの誕生日会がある月だ。

 その時は今年も当然のように、ルイ達にも招待状が届くわけだ。

 その時に、それなりなドレス姿としっかりとしたメイクもするので、いつもとは違う印象が見せられると思う。


「あー、今年ももうそんな時期になっちゃうのね。二十歳の誕生日会だとやっぱり派手になるものなのかな?」

「予定ではそうみたいだね。去年二十歳になったちょっと良いところの坊ちゃんは、大規模パーティーを開いていたし」

 少なくとも、あの規模よりは大きくなるのではないかと思う。

「あはは、あの子も災難よね。あぁ今年も憂鬱ーとかなんとか言いそう」

「ん。それに関しては、今回は幼なじみの二人にも参加依頼してるから、いくらかまぎれるんじゃないかな」

 すんごいキラキラした二人だから、さくらもきょどらないように注意ね、と伝えておくことにする。

 もちろんその二人はまりえさんと沙紀ちゃんなわけで。さくらがあの二人を見たらどういう反応をするか少し楽しみだ。


「うぅ。話が見えない……ルイさんがお金持ちの知り合いを持っていても不思議じゃないけど、さくらがそこに食い込んでいるのがよくわからない」

「し、失礼ね……あたしだって、お金持ちの知り合いくらいいますって。なんならあたしのドレス姿だって見せてあげるんだから」

 いちおう今日持ってきたカードに、その時の写真も入っているんだから、とさくらは胸をはった。

 となると、ルイさんのドレス姿もきっとそこに入っていますね。


「ま、それは夜のお楽しみというわけで、カレーは完成です。チキンカレーにしてみたので、味わって食べるように」

「はいはい、ご飯炊けたらいただきましょう」


 そのあとも会話は弾みながら炊けたご飯の上にカレーを盛り付けいただいた。

 まあ、とても普通でした、と言っておこうと思う。

 奇抜なアレンジを加えてしまわないというのは、とても大切なことである。

卒業旅行リベンジ、はじまりました。いやー書きため期間は大切だよねーとしみじみ感じた二週間でした。いろいろ充電したりとか、インプットもそこそこできました。

さて、それで卒リベですが、去年の旅行のリベンジ、かと思いきやな仕上がりにしました。

みんな成長してるなぁーというところであります。


切る切らないの話の発展で薬の話とかも入れようとしたんですが、「サラっと考えてる設定」のため、没にしました。ルイさんは知識こそあれ、性別についてまだそんなに深く考えてないので。


さて、では、次話ですが、リベンジということで「お風呂回」です。

ここまではちゃんと推敲まで終わってます。

その後も、旅行のお話は続きます。3話か4話になる予定。

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