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270.カメラ購入

 賑やかな音が周囲を流れていた。

 町。

 ここら辺で一番の繁華街の駅前で、周りの景色を見ながら待ち合わせの時間を待つ。

 待ち合わせの十五分前。

 本日はカメラを買うためにあいなさんとデートだ。

 まあ、それなりにかわいめのコーデにしているし気合いも入れているつもり。まああいなさんに気があるというより、可愛い姿を撮らせておくれーという言葉を受けてのことだ。


「いつにもまして人がいっぱい……かな」

 たいていさくらと待ち合わせるなら現地集合が多いし、駅前でというのも久しぶりな感じだった。

 コンタクトレンズの宣伝看板を持った人が呼び込みの声をかけている。

 素顔の自分のデビューとかなんとかいうキャッチコピーを前に聞いたことがあるけれど、眼鏡もいい相棒だと思っているのでとりあえず無視。

 まあ、ルイさんの時はコンタクトなんだけどね。


「どうも」

「は、はぁ。どうも」

 そんな風にしてあいなさんを待っていると、いきなり声をかけられた。

 いちおう律儀に返事をしておく。

 二十代くらいの男性だろうか。当然見覚えはない。

 これは、久しぶりなアレなんだろうか。

「すごく綺麗な子だと思って、つい声をかけちゃったんだけど」

 迷惑かな? と笑顔を浮かべられても、こちらは眉をぴくりとも動かしてやらない。

 変に反応して脈ありと思われても困るからね。


「はい。人と待ち合わせをしてるので。迷惑ですね」

 きっぱりはっきりと否定をしておく。それこそ清々しいほどに。

 それでも絡んでくるようなら、カメラを使って脅すとしよう。

「はははっ。つれないなぁ。別にナンパってわけじゃないんだよ。ただカットモデルとかに興味あったらどうかなって思ってさ」

 これでも美容師やっててさ、と彼は名刺を押しつけるように渡してきた。

 ああ、そっちですか。さすがにルイさんもこちらは初めてです。


「カットモデルはさすがに……これ、ウィッグですし」

 それにほら、美容院はすでに決まったところに行っているんでと答えておく。

「……ウィッグか……顔のイメージでぴんときて、そこまで見てなかった」

 がくりと彼はうずくまるようにその場にへたり込んだ。

 相当ショックだったらしい。まあそりゃね。髪のプロがウィッグか地毛かを見分けられないとかへこんでもしょうがないかもしれない。


「でもっ。髪の毛伸びたら是非っ。是非ともうちにっ」

 たのんますっ、と彼はいいながらも他のモデルを探しに離れていった。

 ふむ。ホント、美容師さんも大変だと思う。仕事もしなきゃいけないだろうに、モデルまで自力でさがさなきゃいけないだなんて。

 最近はカットモデル斡旋というか、そういう新サービスもあるらしいから、そういうのを使ってもいいんじゃないかとおもう。

 というか、むしろモデルじゃなくて撮る側として雇ってはいただけませぬか。


「あらあら。ルイちゃんったら相変わらずもてもてで」

「もう、あいなさん。見てたのなら声かけてくださいよ」

 入れ替わるようにして、あいなさんがにまにまして笑顔を向けてくる。

 きっとちょっと早めに来ようとか思ってたんだろうなぁ。

 しかもカメラ構えてるところを見ると……確実に撮られてるよね、これ。


「撮ってますよね」

「ええ、撮ってますとも」

 もちろんですとカメラをちゃきりと見せびらかされた。

 事後承諾ですよねー、わかっておりますとも。


「んじゃ、お店行こっか」

 さぁ、もうちょっとで開店だから並んで売り場にいこーとあいなさんはテンションアップの様子だった。

 うん。こっちもテンションアップしてますよ。

 まー、今までさんざんカメラのカタログとかとにらめっこしてきたので、ここしばらくはずっとテンション高かったのですけれどね。

 え。機種選びはあいなさんに丸投げなんてことはしないですよ。

 自分で使う道具だもの。しっかりと絞り込んでいって、最後のアドバイスをいただこうというところなのである。

 

「しっかし、なんとかカメラーってついててもカメラより他の家電の方がいっぱいあるって言うのになんとなく違和感がありますね」

 開店一番でお店のエスカレーターに乗りながら、周りの景色を物珍しそうに見回しておく。

 カメラ購入の場所として選んだのは前の時と同じく、大型家電量販店といわれるところで。周りにはスマートフォン売り場やビデオデッキ売り場、さらに先に進むと時計やオーディオ機器の売り場が広がっている。朝の準備をしているのかスタッフさんたちもぱたぱた動き回っているようだ。


「そうねー。まあ、そういうのを商ってもらった方が利益もでるし、その分お安くカメラが買えるならいいんじゃないかな」

 専門店に行ってもいいんだけどね、とあいなさんに言われて、うんうんと頷いておく。

 そりゃ、カメラだけやってる渋い店もかなり好きだけれど、単価は高くなるしそれこそ「よっぽどの買い物」の時に使うか、馴染みになるほど惚れ込むかでないとなかなかいけない。


「あいなさんは行きつけのカメラ機材やさんってあるんですか?」

「んー。いちおうね。壊れたときの修理とかやってくれるところはある。佐伯さんのところつながりなんだけどね」

 取り寄せとかになるとそっちかな、とあいなさんはにこりと笑顔を浮かべている。

 うーん。結構なお値段の機材を使っているのだろうなぁ。


「それとさ、店員さんの質の問題もあるんだよね。そりゃレンズのマウントくらいはしっかりわかっても、撮れ方がどうとか、特徴とかそこまで抑えてない店員さんしかいない、とかさ。その点専門店なら、みんなカメラ実際にやる人ばっかりだし、知識量も半端ないから、アドバイザーの居ない初心者の場合はいいのかもね」

 ま、そこらへんは、あたしが居ればカバーできるから、泥船に乗ったつもりでいるといいよと胸をはられてしまった。

 お世話になります。どうせあいなさんの泥船は高熱加工とかしてあって、沈まないのでしょうし。


「さて。売り場にご到着です。一応方向性とかいろいろ考えてきてるだろうから、思う存分試すといい!」

 んはー、カメラいっぱいあるとわくわくしちゃうねーとあいなさんは目をきらきらさせていた。

 うんうん。いつ来てもここはいいよね! いろんなカメラが置いてあって、そしてレンズがケースの中に展示されていて。

 あいなさんはボディはそこそこしっかりしてるのを持っているので、ケースに入っているレンズに首ったけだった。

 気持ちはちょっとはわかる。レンズはよっぽどじゃないと本体以上に高いしね。


 そんな姿を見ながらこちらもお目当てを物色。 

 狙いをつけているカメラは、木戸として使っているくらいのランクのものから。メーカーはルイとして普段使っているものと同じものにする。ま、今のヤツのバージョンアップって感じだね。

「……色だけがなぁー」

 俄然、十万超えたあたりから、カメラの色は黒になる。

 ルイのカメラは白のカラーなわけだけれど、これは低価格帯だからこそだ。

 高いカメラはそんなにカラーバリエーションがない。


「あはは。そういうところ、女の子っぽい発想だよね、ルイちゃんったら」

「まー、あっちとの差別化というのもあるんですよ。そりゃメーカーごとの形の違いはありますけど、色が違うっていうのは明確な違いじゃないですか」

「そこまで気にする人は、カメラの違いにも目が行くと思うけどな」

 そもそも、あんまり隠す気がないんじゃなかったっけ? とあいなさんに鼻の頭をちょんとつつかれた。

 むぅ、と少しだけ唇をとがらせる。


「ゼフィ女に行ってしまったところがおっきいんですよ。あそこは本来あたしが入れるところじゃないですし」

 ばれたら大惨事デスーと悲壮な声を上げてみても、あいなさんは、は? という顔をするばかりだ。

 この人まったく危機感がないよね。


「まー、いいですよぅ」

 いちおうゼフィ女関連には安全策があるにはある。沙紀ちゃんのコネはかなり安心だ。

「ご予算の方はどんな感じ?」

 ぷぃとそっぽを向いてカメラを構えて比較していると、ひょこっとあいなさんが後ろから覗き込んでくる。

「15万から20万ってところです。この前のコスROMで儲かったのと、コツコツ貯めてたので」

「うわ……けっこーな額ね。コスROMってそんなに儲かるもの?」

「売れれば、ってところですね。アイドルの写真集が通常一万枚でヒットと言われてますけど、それよりも購買層が狭く少なくて千枚越えで売れてるので」

「そして、さらにあのエレナちゃんだったら、気前よくぽんと分配しそうね……」

 折半だよ、折半とか、あのお嬢様ならいいそう、とあいなさんが羨ましそうな顔をした。

 

 通常、カメラマンがアイドルの写真集を撮って貰える印税は5~10%程度らしい。

 もしくは撮影料という形で一定額が支払われるわけだけど、もちろんそれだって売り上げ予定の10%も行けばいいほうだろう。

 そこらへんの常識を無視というか、まったく知らないエレナは純粋に二人で作ったものだから、とぽんと報酬をはずんでくれるのだ。


「でも折半はさすがに断ってます。衣装代とか、印刷代とかはあっちもちですし、なによりエレナの人気で売れてる部分が大きいので」

「まね。カメラマンはあくまでも影だし。被写体のネームバリューの方が公告としては威力抜群だからねぇ」

 ルイちゃんの場合は、撮影者としての人気もありそうだけどね、とあいなさんはつんつんとおでこをつついてきた。

 うぅ。他のカメラマンさんと比べて、かつ、あの場限定でということなら、その自覚はあるけど、被写体の人気のほうがやはり大きいとは思っていますよ。


「さて。それだけ予算があるというなら、結構よさそうなものも買えそうかな」

 さぁ候補を見せるがいいっ、とあいなさんに言われるまま、悩んでいるところを彼女に伝えることした。

 悩んでいるのは三機種。さて、あいなさんがどういうアドバイスをくれるのか楽しみだ。



「やっぱり兄弟弟子といいますか……石倉さんと同じようなアドバイスでしたね」

 まあ、あんな風にあおりはしたものの。

 迷ったのなら本体高いのにして、レンズはあとから買い足そう、が今回のアドバイスの要約だった。

 もちろん石倉さんよりも丁寧にいろいろ解説はしてくれたのだけど、おおざっぱにいえばそうなのだ。

「……うぅ。悔しいけど間違ってないことだもの。高い方が確実に安定性は増すし、その瞬間を見逃さないで済むから、お金に余裕があるならその選択をオススメ」

 っていうか、すでに実感してるのでは? と聞かれて、まあそうですけどと答えておく。


 正直、ルイが使っているカメラよりも木戸が使ってるカメラの方が性能がいい。

 一時期、安いカメラと高いカメラの論争が出たこともあったけど、腕が上がれば上がるほどに、入門機だとできないことが増える感じがすると、今なら言える。

 あの頃は純粋に、いろんなものを撮りたいだけだったから、手間を惜しまなければ撮れるものだと思ってたけど、センサーの違いっていうのは確かに実感としてある。

 

 それでもルイの写真の方が好き、と言ってくれる人が多いあたり、どうなってんのーとは思うのだけど、ルイとしてあっちのカメラを使ったときの出来はとてつもなく良かったので、やっぱり服装での心理状態が変わるみたいなのがあるのだろう。


「それに、レンズ自体は、あっちでつかってるの共有するんでしょ?」

「ええ、それはもちろん。本体はともかくレンズは長いか短いかくらいしかデザイン変わりませんし、マウント同じなら使えますから」

 あちらでも持っている望遠レンズなんていうのも今日購入したものには装着が可能だ。

 そうすれば動物の遠隔撮影なんていうのもばんばんできるようになるだろう。


「前のはどうするの?」

「いちおーサブとして持っておくつもりですよ。ここまで一緒にやってきましたし」

 高いのなら中古で売り払えるでしょうけど、入門機はさすがにねぇ……と答えておく。

 幸い、置き場所は家にあるし、ルイとして二台持ちの状態にしておいて悪いことはない。

 ちなみに、高級機になってくると中古販売してもそこそこのお値段がつくそうだ。

 もしあわなかったら買い換えもしやすいらしい。まあ、その気は今の所まったくないけど。

 その答えに、あいなさんも愛着が感じられていいねぇとほっこりしているようだった。

 

「さて。そんなわけで、これからどうする? ご飯でも食べてく?」

 それとも撮影行っちゃう? と誘われて、んーと、悩ましげな声を上げてしまう。

 正直なところ、すぐに試し撮りをしたい。

 けれども、一つ問題がある。バッテリーがからっぽなのだ。買ったばかりだからね。

 なので今日購入したものは、今日の夜から使うしかない。

 撮影にでるにしても、今までのものでということになる。

 それはそれで楽しいからいいのだけど。できれば町中よりもちょっと郊外にでて撮影したいよねとも思う。


「っと、ゴメン。電話だ」

 そんなやりとりの最中に、唐突にあいなさんのスマートフォンが鳴り出した。どこかで聞いたことがあるピアノ曲だ。

「どうぞどうぞ」

 あいなさんは少し離れたところに移動しながら電話にでる。

 

 応対をしている間にこちらは新しく買ったカメラをちらちらみながらにまにましていた。とりあえずバッテリーの充電をしてSDカードを入れて、夜には撮影できるようになるだろうか。銀香にいっておばちゃんにお金払ってでも充電させてもらって銀杏様の撮影とかでもいいかもしれない。


「はぁ? またですかっ?」

 そんな風にしてまっていたら、あいなさんがすっとんきょうな声をあげた。普段テンションが上がってもここまでの声は聞いたことがない。痴話喧嘩かなにかだろうか。相手はいないだろうけど。


「はい。わかりましたー。偶然というか、近くにいますので、お仕事はします。ええ、ルイちゃん使うからよろしく」

 ぷつんと電話が切れてあいなさんは満面の笑みを浮かべてこちらに地近寄ってきた。先ほどの声が嘘のような笑顔っぷりである。


「さて。おまたせー悪いんだけど、近くで仕事入っちゃってさ。ルイちゃんも一緒にいく?」

 いくよねという確信がこもった声にはもちろんイエス。

 あいなさんの仕事現場が見れるならこれ以上いいことはない。


「また、三木野さんですか?」

「ええ。まったく三木野くんったら、まいどまいど仕事だけとってきて本人へばるとか勘弁してほしい」

 健康管理も大切なことだからねっ! と真剣に言われて、あまりの迫力に、はひっ、と答えてしまった。

 どうやらまた佐伯さんのところの病弱男性がやらかしたらしい。


「近くのお仕事なんですか?」

「ええ。会場はここの入り口だからね」

 朝、看板あったでしょ? と言われて記憶を掘り返す。

 たしか、入り口脇にあるスペースにちょっとした舞台みたいなのがあって、そこでトークショーと、くまさんと一緒に撮影会を、みたいな感じだっただろうか。子供向けに商品を買うと撮影してもらえるという感じのイベントだ。


 そう。つまりあの(、、)等身大クマさんがご光臨なさるのである。


「そして、ルイちゃん。貴女にオファーよ。その会場でカメラマンをやってちょーだい」

「はい?」

 自分でもそうとうまぬけな顔をしていたのだと思う。

 だって、プロのカメラマンさんが目の前にいるというのに、お前が写真を撮れとはどういうことか。

「あー、もちろん報酬はだします。というか今回のお仕事の報酬は全部ルイちゃん総取りでいいです。カメラもいままで使ってるヤツでおっけーです」

 記念撮影みたいな感じだし、いつも撮ってる感じでやってくれればそれでいいと言われて、はぁ、とあいまいな返事を返す。


「あいなさんがやればいいじゃないですか」

 十分、代わりは出来るでしょう? というと、ふるふるとあいなさんは首を横に振った。

「だって、ちっちゃい子の撮影、あたし苦手だから」

 というか、ちっちゃい子そのものが苦手なのです、とあいなさんは珍しい一面を覗かせていた。

 この人なら、誰とでも仲良くなりそうって感じがしていたのに意外である。


「……わかりました。それならお引き受けします」

 ちっちゃい子の撮影はルイとてそこまで経験がない。けれども、あいなさんが言うほど嫌でもないのだ。

 そんなわけで、臨時収入のためにも、経験を積むためにもやらせていただくことにしたのだった。

どうも! にん……いえ。ナンパの一声目ってどんな言葉をかけるものだろうかーということで、今回は調べて書いてみました。カットモデル探すのも大変だといいますけど、ルイさんの専属美容師は別にいるので残念ながらご縁はなさそうです。


そしてカメラ購入はけっこー高級機までいけるくらいのご予算にしてみました。

ケチのルイさんですが、中級機より一足飛びの方がよさそうだなという感じです。家電売り場って、なんか楽しくて好きなのですよね。


そして次話ですが、ルイさん、クマさんと写真を撮る人になる、その他、です。その他の部分は、巻き込まれ体質故のものでしょうね。体調崩さないようにご注意です。

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