表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
275/794

267.

「それで? これから木戸氏のご予定は?」

 あたしはそろそろ写真部に合流の頃合いかなーとさくらに言われつつ、どうするよYOUという質問にんーと、眉根を寄せる。

 場合によっては写真部にもおいでよというところもあるのだろうけど、写真部関連は明日ルイとしてが、最初に決めていたことだ。そりゃめぐたちとは男としても接点がないではないんだけど、ほんとうに時々しか無いのでやっぱり送り出すならルイとしてがいいと思っている。


「あとは千歳たちのところに行って本日は終了……かな」

「あら。木戸くんのテンションがわりと低めだ」

 どうしたの? といわれると、だってさーと小さな女声で答える以外にない。


「きっと青木がいるのですよ」

「おうふっ。あの写真ダメな弟さんか」

 さくらはそこまで青木との接点はないので、こんな反応である。

 こちらとて別に邪険にしたいわけではないけれど、なんというか……うん。

 あれだけのことをやらかした相手、かつ千歳の彼氏っていうのがもやっとする。

 いちおう、許してはいるし、千歳をけしかけたのもこちらなのだけど、なんというかこう、ね。

 それに。


「卒業式終わって、一年もたって。男友達とどういう顔して会えばいいかがわからんっ」

「……ちょ。なにその、あたし男の人とあまり触れあったことがなくて……みたいな人の発言」

「木村とはまー共通話題があるからいいんだよ。八瀬もまあ最近会ってないけど、全然普通に女子トークでいけると思う」

「いくなよ、そこは……」

 さくらから呆れ混じりの否定がきたけど、でも八瀬とだよ。そりゃ、美容系とか気になる男の娘の被写体は居ないかとか、二次元がどうだーとかそういう話になるに決まっている。


「それをいうと、青木と日常どんな会話してたっけ、みたいな感じになるんだよな」

 んー、ホント友達だったけど、何を話していただろうかなんて思い出さないといけないくらいだ。

 でも、日常の友達って言うのはそういうものかもしれない。馬鹿話を逐一覚えているわけでもない。

 あいつと、というかあいつが一方的に、彼女欲しいと言い続けていたこととか、あとは……


「おっ。カラオケネタがあるか。あいつ女声で歌えるっていう属性持ちだし」

「ああ、そういやそんなこともあったね。ああ、あんな人まで餌食に……」

「ちょ、さくらサン。それは言いがかりだよ! あいつは自分でそうなっただけ」

 なんでもかんでもルイさん出発の、男→女技術じゃないよ! というと、なにいってんですかというしらっとした視線を向けられてしまった。


「つーか、俺は、女声で歌は無理。千歳とかはたぶんいけるだろうけど訓練しないとちゃんと歌えない。短い鼻歌くらいがせいぜいだよ」

 それを、青木は普通に強力な肺活量でやりこなすからな、というと、うへぇ知られざる秘密を知ってしまったとさくらは呆けた顔をしていた。

「あいつ自体は、家族以外には別に知られてもいいみたいな感じだったし、お前の前でもノリノリで歌ってただろう」

「あー、確かに。あの体格で魔法少女ものかーってショックを受けたけど。あのあとのエレナたんの声が綺麗すぎて……」

 はわーと、両手に頬をあててさくらは身もだえていた。

 男制服で、普通にすっごい可愛い声で歌っていたものなぁ。


「エレナの場合は声変わりろくにしてないからできるだけで、声変わりしたあとに女声で歌うにはそれなりな訓練が必要になるからな」

 あれは特別製といいつつ、とんとんとのど仏のあたりを人差し指で叩いてみせる。あのときは木戸も驚いたけれど、通常の男子ではあんな風には歌えぬのです。


「まあまあ、事情はわかったさ。それなら久しぶりの男友達との再会のためのアイディアをこのさくら様が提案してあげよう!」

「ごくり。さくらが男と会うというのになんか自信ありげなのは、彼氏ができたからでしょうか」

「ちょ、そこっ。女声でそんなつっこみいれないのっ。それと木戸くんからさくら呼ばわりされるいわれはない」

 ちょっとその場の雰囲気でルイさんっぽい感じになってしまったのだけど、さくらはぴしりと仕切り直しをしてくれた。

 

「で? 久しぶりにあった男友達とのやりとりは?」

「え? しらないよー。それにほらめぐみから、先輩マダですかぁ~とかラインきてるし」

 あとは一人で頑張りなさいなと、さくらは一歩身を引いた。

「えっ、ちょ。なにその思わせぶりでスルーって!」

「ルイになら教えてあげてもいいけどー、木戸くんに教える必要はないかなぁ、なんてね」


 ふふんと、言われるとむぅと少しだけ唇をとがらせてしまう。

 あー、まったくもってさくらといると、ルイに引っ張られるなぁとしみじみ痛感する。

 周りの人達はこちらのやりとりをあまり気にはしてないらしく、それぞれの卒業式を過ごしているようだった。


「なら仕方ない、か。自力でがんばるよ」

 ほれ、写真部の方に向かうといいよというと、えー、そこでかわいいおねだり無いノー? と少ししょんぼりされてしまった。

 いや。だって、公衆の面前で男子の姿で可愛らしいおねだりもなにもないだろう。

 ルイでならいくらでもやってやってもいいんだけど、これでっていうのはいろんな意味で危ないと思う。


「まっ。いっか。レア写真も撮りたかったけど、誘いに乗らないならしかたない。あとで青木くん絡みの話もおしえなさいよね」

 ちょっと気になるから、といいながらさくらはまた今度ねーと手を振っていった。

 また明日、じゃないのは、こちらがルイをやっているから、ではなく、さくらが純粋に明日は予定があってこれないからだ。


「んっ。じゃあまた今度だ」

 次は卒業旅行リベンジになるだろうか。

 木戸馨として彼女に会うのはいつになるのかはわからないけれど。

 

 それよりは今は目の前のことだ。千歳達を探して少しだけ校内を散策。

 あの子達は部活にも入っていないので、教室なのかなとか思ったのだけど、校庭にいた。


「あっ、木戸先輩っ。実は来てくれないのかなーってちょっと心配になってたんですよー」

 時間は十二時過ぎ。

 式が終わってから、澪と絡んでいたので少しだけ遅くなってしまった。

 部活や委員会に入っている生徒なら、そちらのほうで昼食なんてこともあるけれど、この二人は帰宅部なのでそろそろお昼ご飯を食べに撤収といった感じだったのかもしれない。


「まっ、一条姉妹(、、)の相手をするなら、大トリかな、と思ってね」

 帰るなら帰る連絡くらいはきそうだし、というと、まーそうですけどと、千恵ちゃんが苦笑を浮かべた。

 姉妹二人はいつものように隣り合っていて、二人の手には卒業証書の入った筒が握られている。

 その姿をとりあえず一枚。うんうん。卒業式っぽい感じがいい。


「そして、青木氏。久しぶりでござる」

「……ござるはないだろ、お前……」

 その脇に立っているそこそこ身長のある男子を前に、どう話そうかと思っていたら急に口をついて出たのは、ござる口調でした。でも青木はなにげに、「普通の男子高校生」だったし、八瀬ほどのオタクではなかったので、ござるってなに!? な感じな反応をされてしまった。


「……うん。なんつーか、どんな顔して会って良いかわからなくて、その……」

「お、おう。まあ、その、だな」

「人の彼氏をたぶらかすのはこの顔ですかー」

「ひゃ。ひょっ、やめへ、ちーひゃんそれふぁ」

 なんか妙な空気ができあがりそうだったところで、背後から千歳が口を思い切りぴろーんと引っ張ってきた。

 ときどきさくらもやるけど、まさか千歳にまでこの技が伝わっているとはっ。驚きである。


「って、相変わらずだなお前」

「まっ、そだな。そういうお前こそ、よく千歳を泣かさずここまでこれたと、感無量だよ」

 ぽふぽふと千歳の頭に手を置きながらそんなことを言って見せたのだけど、青木は特に反応なし。

 ふむん。これは別の男に彼女を触られてなんも感じていない、ではなく、こちらのやりとりの問題なのだろうなぁ。どう見たって同性同士の、いいや、「女同士の先輩後輩」の付き合い方だと思うし。


「青木さんはその……やさしくしてくれますし、あの……受験の間はとりあえずは、手は出さないって約束してくれたので」

「それが終わったら手を出すと?」

 じぃと青木の目を覗き込みながら、先輩として心配な千歳の貞操について尋ねておく。

 まあ、これ大事だよね。いろんなことがもろもろそのとき(、、、、)に判明するとか、心臓に悪い。

 決心した上で、打ち明けてこそだと思う。


「そ、そりゃぁ、お前。付き合ってる男と女だし。出すだろ!」

 けれども青木は、なにを心外なという様子で欲望をむき出しだった。

 ちょっと千歳がびくんとしている。

 女子の前ではちきんで紳士な青木は、木戸さんの前ではすっかり男同士ですか。そうですか。

 

「いや……手を出すっていっても、映画館でこの前、手をぎゅってしたりとか……」

 そんなもんしかできんとそっぽを向いた青木がちょっとだけかわいく見えた。

 普段はただのアホなんだけど、照れた顔ってのはそんなに見たことがないから新鮮だ。


「うぅ。(しん)さんやめてっ。それはちょっと恥ずかしい」

 ちょいちょいと上着の裾をひっぱりながら千歳が抗議した。

 あ、呼び方が、名前呼びになってる。かわいい。

 にまにまとそこらへんをついておこう。


「まったく、下の名前で呼び合っちゃって。たまりませんなー」

「ほんと、たまらないです。こんな風になってくれるなんて、最初は思っていませんでしたから」

 千恵ちゃんのほうもそんなてれってれな姉をみて満足そうだ。もちろんその顔も撮っておく。うんうん。

「その……私たち双子だし、一条って呼ばれるより、名前で呼ばれることが多いんで、青木さんも最初から名前呼びだったんです。で……なら、こっちもそうした方がいいかなって」

「これはこれは親密なことで」

 うぅと、いいわけっぽい言葉を並べる千歳の前でにまにましてしまう。

 ほんと、変われば変われるものだなぁといった感じだ。


「あ、千恵ちゃんこれ。花束じゃなくて申し訳ないんだけど」

 卒業おめでとうと、なにかと日陰になりがちな妹さまにクッキーを渡したおく。

「あはっ。ありがとうございます。まさか卒業式でお手製のクッキーって発想はありませんでした」

「んー、まあ花より印象に残るってのと、花より団子っていうのと……なにより経費の問題で!」

 花束一つ分で、何人分も作れてお得! と言うと千恵ちゃんはすぐに包みを開いてぽりぽり食べ始めた。味見をして、はわー幸せですーと頬に手を当てている。

 千歳がなにか言いたげにしていたけれど、まあ言葉にはならなかったようだ。


「ほい、ちーちゃんにもこれね」

「えと、俺には?」

 手を広げてまっている青木にはもちろんあげない。

 そこで手をだしてくるあたりはさすがに、青木クオリティである。


「それは卒業生用だからな。お前の分は作ってないっての」

「ええぇー、まて。親友だろう俺達」

「親友はさすがにクッキーつくってこないだろ」

 こくこくと二人から同意のうなずきがきた。

 そりゃそうだ。今回のこれは花束の代わりだと先ほどもいったわけだし、さすがに花束を青木にあげる必要はまったくない。


「ほら、信さん。お裾分けです」

 えい、とクッキーを一つ千歳が彼の口に放り込む。

 かりっといい音がなって、それはもぐもぐと咀嚼されていく。


「……普通に美味い」

「これ以上はあげませんよ? いつか、作ってあげますから」

 いずれ木戸先輩のより美味しいの焼いてあげますと、千歳はふふんと不敵に笑った。

 あれか。いづもさんにいろいろ教わっていこうということなのか。

 さすがに、木戸さんのクッキーのベースは王子からの産物だから、いづもさんのレシピならもっとおいしくできるかもしれない。ちょっと羨ましい。


「はいはい。ごちそうさまです。まっ、あれだ。三人とも寄って。一枚抑えておこう」

「ああ、ぶれない写真を頼むぞ」

 さぁ、撮ってくれたまえと仁王立ちをする脇にちょこんと千歳ちゃんと千恵ちゃんが並ぶ。

 これならば、もちろん中央に配置するのは。

 いや。青木を端っこにするのは当たり前だよね。


「良い写真撮れました?」

「んっ。まあ、そこそこ。ガンガン撮っていくからさぁ、姉妹二人いってみよー」

 ほれ、青木はちょっとお留守番、と二人だけにしていろいろな角度から撮影をしておく。 

 そしてその流れで、青木と千歳のツーショットもかなり撮った。


「つーか、お前そこまでガンガン撮るヤツだったっけ?」

「ま、俺も一年でいろいろあったわけさ」

 ちゃきりと一眼を見せながら、にやりと答えておく。

 ま、青木がそう思っちゃうのも仕方のないことだろう。高校時代はホントイベントの時くらいしかカメラを握れなかったのだし。


「それに、高校時代からカメラは好きだったぞ? 学園祭のイベントとかも俺がいないと成り立たなかったし、他の大きなイベントだってカメラ握ってただろ」

 コンデジだったけど、というと、おぉ、そういえばと言われてしまった。

 青木氏はほんと、あんまりカメラに興味ないらしい。

 ……まぁ、ガッコのSDカードの容量がへぼかったから、ここまでがつがつ撮れてなかったというのもあるけれどね。


「でも、なんかそこまで行ってると、ねーちゃんとかルイさんみたいな側の人間って感じするよな」

「ははっ。さすがにあそこまでは行ってるつもりはないな」

 まールイさん本人ですから、当然そちら側なのですが、青木にはそこらへんの話はナイショなのです。


「まあ、そうだよな。生活の主体がカメラっていうか、ねーちゃん時々写真の選別しながら寝落ちしてたりするし。極上の笑顔で」

「なっ。それは、なんたる至福……」

 うぉ。あいなさんの私生活が垣間見える発言。そりゃ良い感じに撮れたのがいっぱいあったら仕分けとかもにまにまやってしまうし、ついついそのままこてんと行ってしまうこともあるかもしれない。


「って、それを理解できるお前は十分あっち側だな……」

 せいぜい、はまりすぎないように注意しろよと、なぜかかなり実感がこもった声音で諭されてしまった。

 うーん。別に好きな物を好きなだけ続けられるっていいことだと思うんだけどな。

 

「まっ、とりあえずあれだ。ちーちゃん。思い出の場所とかがあったら、背景変えて撮影とかどう?」

「あ、それなら裏庭のベンチがいいです」

「あーあそこか……」

 青木とちーちゃんが二人でご飯食べてたぼっちスペース。

 あそこを八瀬と一緒に覗きに行ったときには本当に衝撃を受けたのだっけ。


「いいよ。お昼ご飯は何時からの予定?」

「えっと、両親との合流は一時の予定です」

「んじゃその五分前にアラームセットしとこうかな」

 よいせとガラケーのタイマー機能をセット。

 これで時間を忘れてということはないだろう。

 澪の撮影もできなかったし、ここはそのぶんちーちゃんにいっぱい写ってもらおうではないですか。


「……アラームって……おま」

「細かいことは気にしない。ほれっ、さっさといく」

 ほいほい、と青木の背中を軽く押して誘導する。ふむ。大きい背中である。

 つい、熱中すると時間を忘れるのは、前から痛いくらいに理解していることだ。

 小一時間もないような状況が一番中途半端だと思う。

 試し撮りくらいの十分二十分っていうのなら短時間でもいいけど、本格的に撮ると時間を忘れちゃうんだよね。


「では、ほどほどにお願いします」

 にははとこっちのやりとりを苦笑混じりに見ていた千歳は、千恵ちゃんの手を引いてこちらのあとをついてきてくれるようだった。

卒業式長めな感じですが、青木氏がでてくると、「おぉ、卒業して一年たったかー」なんてしんみりおもってしまいました。そして大学編がやたら濃密で量が多いなぁと。

ま、まあまだまだ続きますけどね! 二年目はそこまでこまこましたネタがないので、ネタ出しから頑張らねば。


それにしても千歳ちゃんたちも、てれってれでいいのですが、ひそかに木戸氏、ちょっと女子っぽい空気がでてますよね! 気取れられるレベルではないですが。

いい卒業式でした。

さて。次話なのですが、いちおう高校の卒パ予定。その次がカメラ買いに行きます。ゼフィ女はその後で!

きょ、去年と卒業式:卒パのスケジュールが逆なのは仕様ですよ? うん。すっかり……ええ、ご都合で。はい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ