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252.

と、とりあえず本日中は上がったけど……更新ペースはちょっと落ちます。

「いいお兄ちゃんぶりですね、クロにゃん」

「にゃんはやめてっ。それと、さっきから何度そのネタでからかうんだよ、ルイねーは」

「ふっふっふー」

 移動中、幾度目かになる、さきほどの神社でのやりとりをからかうと、思い切りクロキシは嫌そうにぼそっとあえて男声で呟いた。


「つーか、ルイねーなら助けに入るかと思ったのに、黙って見てるとかー」

「ねーさま。ルイねーさまは黙って見てないです。カメラ構えて見てました」

 あ。ちょっと楓香さんがこちらに怨みがましい視線を向けてくださっております。

「いやぁ、そりゃ構えるっしょー。クロにゃんが助けに入りそうなのは見えたし、こりゃーいい絵が撮れそうだなって」

 実際に、先ほどの写真を見せてあげると、うぅ、なんですかこの姉妹な感じは、とおののかれたりもしたので、いまいち責めるに責めきれないお二人だった。


「でも、クロねーさま。その……ホントにあのお友達の前にその格好で出てしまってよかったのですか?」

「ん? まあ。あいつらアホだけど、なんつーかほら、ルイねーも高校時代に散々男子を虜にしてきてたっていうし、ネガティブな方にはいかないと思うんだよな」

 んー、と目をつむりながらクロキシどのは、女声を維持しつつも、ボーイッシュな口調で答えた。

 散々丁寧に喋れといっているのに、どうもちょっとボーイッシュな俺っこを目指すつもりでいるらしい。声だけは女子にしているので、それだけでぐぐっと女装をしている雰囲気は消えるのだけど、和装にはあまり合わないキャラかもしれない。


「でも……」

「あとは、三ヶ月だけってのもでかいかな。誰も彼もが受け入れられることでもないとは思うけど、まー最悪クラス中に噂が広まって居心地悪くなったとしても、三ヶ月でリセットできる」

 さすがにあと二年以上あるとかってんなら自重するけどね、と言われてしまうと、なんだかこちらとしては複雑な気持ちだ。

 うん。ルイさん、あと二年以上あるときに、さくらに女装(これ)のことをすっかりはっきりお伝えしてしまったのですが。

 そんなに女装ってやばいこと? 駄目なこと?


「そんなに気にしないでも大丈夫だと思うけどなぁ。しかもクロにゃんクラスだったら、むしろもっとやれって言われると思うよ」

 実際、コスのほうだとみんなの反響すごいじゃないって言ってあげても、クロキシは、それとこれとは違うもんと唇を引き結んでいる。ちょっと弱々しくて可愛いので、その姿も撮影。まさにこんなにかわいい子が女の子のわけがない、である。


「ま、それはそうと、こっからは人がいーっぱいいるから、普通にしてるようにね」

 あんまり目立つことしちゃうと、目立っちゃうからねー、と注意をしながら、その神社に足を踏み入れた。

 先ほどのところとは人口密度がまったく違うそこは、お正月といったらここに詣でる! というような感じの有名なところだった。

 敷地自体も相当広くて、これだけの人に埋め尽くされているというのにそれを受け止めきっている。


「今度、人が居ないときにきちゃおっかなぁ……」

 ふふふと、目の前の光景から人を排した景色を思い浮かべて微笑を浮かべる。

 こんなに混んでいるのはおそらくお正月だけだ。日本人はイベントに弱いからね。

 となると、それ以外の時。できればキンキンに冷えた冬がいいかな。そんなときに朝日が斜めから降り注ぐ中で撮影ができたなら、幻想的な空気がそのまま写真にできるように思う。


「かなり混んでますね……恋愛成就を売りにしてるだけあって、さすがに女の子多いですね」

「うへ、あたしに一番縁がなさそうな社だ」

 建物と雰囲気はたまらないんだけどなぁと、何枚か撮影を続けながら苦笑を浮かべる。

 若宮さんがここには行ってねと言っていた理由がよくわかる。

 これだけ女性がいれば、この振り袖も目立つだろうということだった。

 むしろその中には振り袖姿の人もそれなりにいるので、あんまり目立たないのではないだろうか。


「あれ。ルイさん!? こんなところまで初詣ですか?」

「……沙紀さん。あいかわらずゴージャスですね」

 そんなことを思いつつ、参拝の列に並ぼうと歩いていたら、不意に声をかけられた。

 地元からは結構離れてるところなので、こんなところに知り合いが居るとは思っていなかったので驚いてしまった。


 沙紀さんは、これでもかというくらい豪華な振り袖姿。赤い生地に金糸と黒でなんか鳥とか枝とかいろんな模様がついていて、帯やらもこれは高そうだなぁという感じだ。

 うん。若宮さんが着せてくれてるこれって、あくまでも庶民向けなのねってのがありありとわかる差が目の前にあった。


「……うぅ。さすがにわたくしもここまではやりたくは無かったのですが……」

 事情を知っている人相手だからか、沙紀さんはすこしだけしょぼんと弱気な声を漏らした。

 ま、まあ、家庭の事情で女装してるだけの子にここまでゴージャスな振り袖っていうのは、なんかもう、可哀相でしかないのだけど、なまじ似合っているのでもう、こう言うしかないのだ。


「いちま……いえ二十枚撮らせていただいてもよろしいですか?」

「多いよっ! で、でも……はい。母様からもノリノリで、写真いっぱい撮られてきなさいとか言われているので」

「……理事長先生なにやってんですか……って、まぁ。それだけ馴染んじゃったってことか」


 写真は、女装者にとって福音であり鬼門だ。

 誰彼構わず撮られていいわけではない。

 エレナの性別がわからない、といわれているのは、ふっと男っぽい表情をだす角度があるからだし、もちろんルイは狙ってやっているけれど、他の人達がランダムに撮ったものの中にそういうのが混じるからだ。

 最近は狙ってエレナも男っぽさを出しているところもあるかもしれない。自然にしてると女子の方に大幅に雰囲気が寄ってしまうからね、あの子は。


 それと同様、沙紀さんだっていろんな人に撮られまくったら、エレナ以上にその男っぽい部分は切り取られてしまうのではないかと思うのである。

 特に下からのアングルはまずい。ルイも気にはしているけれど、わずかに出ているのど仏が目立つのだ。

 エレナさんの場合は、声変わりがないからほとんどのど仏ないのだけどね。


「ええっと、まりえさんと一緒にいる子は、ゼフィ女の子だっけ?」

「はい。寮の子達が是非一緒にということでしたので」

「それで、恋愛成就な神社に来ちゃうんだ、へぇ。かわいい子いっぱいだし、どうなっちゃってるのかなぁ?」

 ふふーんと沙紀さんにこそこそ言ってあげると、彼女は、いえっ、そのような下心はないのですとわたわたした。

 もちろんその姿もカシャリと一枚。

 うん。慌て顔の沙紀さんなんてレアなのではないだろうか。普通に女子に見える角度でばっちり収まった。


「後輩達に、行くならここで! と言われてしまったのです。ルイさんもご存じの通り、我が校は男子禁制、殿方との縁なんてできようはずもないですから、神様に是非縁結びをとお願いしたい子が多いのです」

「……学院長先生、はげないといいですね」

 うん。なにげにゼフィ女の子達は、お嬢様もいるけどミーハーな子も多い。そこらへんの影響もあって、こういうイベントでキャーキャーいうのは楽しいのかもしれない。


「まりえは普通に学業成就のほうに行くべきだって最後まで言っていたのですが、それはそれで、なんだか神様に申し訳ない気もしますし、自力でがんばろうかと」

「あはは。ここにもいたか……神様と服装の関係を気にしちゃう人」


「ええっと、ルイねー? こちらの方は?」

 そんな話をしていると、クロやんが話に混ざってきた。

 沙紀さんは、後輩達に知り合いを見かけたので挨拶をしてくるとでも言ってあるのか、まりえさんも含めて離れたところで話をしているようだ。まりえさんとしては、気が抜ける友人と少しでも話させてあげたいという気配りだろう。


「ああ、ごめんごめん。こちら、聖ゼフィロス女学院の生徒会長の藤ノ宮沙紀さん。沙紀おねーさまと生徒から慕われてる方で、前に学園祭のお仕事で知り合ったんだけど」

 じぃーっとクロキシどのは沙紀さんをしっかり見た上で、呟いた。

「へぇ……マジか」

「こらっ、クロにゃん。その言葉遣いはだめです」


 そのあとに不穏なことを言いそうだったので、とりあえず先に牽制をしておく。そりゃ沙紀ちゃんの女装は我々からすれば一目見ればわかってしまうだろうけれど。

 いちおう頼れるみなさんのおねーさまなのだよ。


「あいかわらずルイさんの周りにはビックリ人間ばかりですね。まったくもう。おちおち外に出られません」

「あはは。そんなにいっぱいはいないし、この子にも言い聞かせますので、とりあえずは落ち着いてね?」

 ちらりと視線を彼女の背後に向ける。なにも知らない後輩もいっぱいいることだし、騒がないようにしましょうというアピールだ。


「ところで、ルイさん。わたくしにもそちらの可愛らしい方々を紹介していただきたいのですが」

「あ、従姉妹です。健と楓香っていいます」

「たけ……し?」

 え。とそこでがしんと沙紀さんが硬直する。エレナの時よりも衝撃は大きいのだろうか。


「おあいこと言うことでいかがでしょう? って、まーこの子はエレナと違って、男性の男の娘コスプレイヤーを自称していますから、ナイショの話というものでもないのですが」

「それでこの品質というのは、なかなかに……」

 なんだか自信がなくなってしまいますと沙紀さんは上品に笑った。


「ああ、品質というとルイさんが来ている振り袖もなかなかに良いものですね。ご自分で選んだのですか?」

「あ、これはですね」

 お。振り袖に食いついてきた人一人目でございます。

 ここはしっかり若宮さんのお店のことをアピールしておく。庶民よりちょっと上くらいな感じなので、咲宮のおうちからすれば、ちょっとカルチャーショックな場所かもしれませんが、とも付け加えておく。


「いいえ。それは立派なものですよ。もちろん着物関係はピンキリですけど、キリの方でもお値段はしますし材質もいいものです」

 その中でもかなり素敵なものだと思いますとはにかまれてしまうと、若宮さん、かなり力入ってたんだなぁと逆に不安になる。

 そう。汚しちゃったらクリーニングとか大丈夫なのかしらとか、ちょっと思ってしまったのだ。


「そういえば、楓香はゼフィロス受けて落ちたんだったよな」

「って、今ここでその話題ふらないでくださいよ、お・ね・え・さ・ま」

 怨みがましいような視線を楓香がクロやんに向けていた。たしかにその学校の生徒会長さんを前にしていう言葉ではないようにも思う。

 それでも、楓香がもし合格していたら、潜入のときに同じクラスだったーなんてこともあったのかもと思うと、ちょっと不思議な気分にもなる。まあ、それはそれで危険がいっぱいなので実現しなくてよかったけれど。


「あははっ。仲の良いご姉妹ですね。では、そんなみなさんのご交流を邪魔してはいけませんし、わたくしはそろそろ失礼を」

 そんな二人のやりとりを微笑ましそうに見ながら、沙紀さんはまりえさんたちの所に戻っていった。

 ちらりとそちらを見ると、まりえさんがぺこりと軽く会釈をしてくれたので手を振っておいた。


「すげーな。ルイねーの人脈。もともと、半端ないとは思ってたけど、お金持ち学校のお嬢様と知り合いとか。しかもあの人すっごい上流階級って感じじゃん」

 それを言うならエレナもそっち側なんだけどなぁとクロやんの言い分を聞きながら思うものの、そこでふと先ほどの話がひっかかった。


「でも、そこに入学をーって考えてたわけでしょ? 黒木家もそうとうなセレブなんじゃないの?」

 よくよく考えれば、黒木家は二人とも私立の高校に入れているし、子供二人での生活なんていうのをやらせているお宅だ。それを思えばそこそこの稼ぎがあると見ていいのではないだろうか。

 今のご時世、寡夫にも支援があるわけだけど、それ以上に稼いでいるようにも思える。


「まあね。うちの親父あれで仕事だけはできるっていうか、仕事に逃げちゃった感じだからさ。優秀で出世も上から三番目くらいには早いっぽいんだよ」

「その分、家のことはこっちで担当って感じ。最近はいくらかマシにはなったの。海外に行く前はもう、ほんと……ずっと表情も暗くて、それを私たちには隠そうとしてて」

 きゅっと楓香がクロの着物のすそを掴む。二人の母が亡くなったころのことを思い出しているのだろう。

 出発前のバーベキューパーティーのことはそこまで覚えていないのだけど、おじさんあのときは少し無理してたのかもしれない。


「それでも、あたしに求婚とかはさすがにドン引いたけどね」

「あー、うん。それは血縁者として大変申し訳なく思っております。まじすんません」

 クロが真面目顔で謝ってきた。

 うん。よっぽどさっきの出来事が衝撃的だったらしい。


 それからずらっと並んでいる列に混じって参拝をすませた。

 これだけの人混みだ。沙紀さんの姿はもう見つけられなくて、その代わりというわけではないけど、振り袖姿の人達に声をかけられた。

 若宮さんの狙い通り、というのもあるのだけど、どうやらみなさんカメラの方に興味があるようで、是非一枚! みたいな風に絡んでくるのだった。

 まあ、振り袖でカメラつってればそりゃ目立つよね。


 全部、これが狙いですか、若宮さんっ。十分宣伝したからあとでちゃんと報酬はいただきますよ!


 そんなわけで、撮影をしつつデータを転送してあげるとみなさん大喜びだった。

 スタジオでの写真もいいけど、外での撮影でこれは嬉しい! とかって声を聞くとこちらも頬が緩んでしまう。

 

「あ、親父からメールだ」

 そんなやりとりを繰り返していたら、途中でクロのかごバッグがぷるぷる震えた。中に入っているスマホがメールを着信したらしい。


「親父さんとはLINEじゃないんだ?」

「まー、親となんてそんなもんだろ。ルイねーだって、あんましLINEでつながってない感じがする」

「んー、まぁ、目の前で会ってる人の方が大切だからねぇ。崎ちゃん、っていうか珠理奈さまからのメールは音速で返事しますが」

 後が怖い。ホント怖い。とぷるぷる震えておく。

 LINE自体はタブレットを通信可能にしてからというもの、いちおう使えるようにはなった。

 なったけど、大学に入ってからその仕様にした関係もあって、どうにも知り合いと繋がってはいないのだった。


「あはは。もう、お似合いなんだから付き合っちゃえばいいのに」

「えー、それはないんじゃない? あの子は、芸能界以外の友達が欲しいってだけでさ。実際最近はさくらとかとも連絡取り合ってるみたいだし、そういうのとかわんないよ」

 付き合うとかどうとか、いくら恋愛成就の神社だからって、そっちのほうに話が行っちゃうのは、まさか楓香もスイーツ(笑)ですかーと行ってやると、腐(笑)ですと答えられた。

 ぶ、ぶれないのね、この子も。


「で、でもほら、どれだけ腐らせられるかってところもあるし、百合ホモってジャンルだってあるしっ。見た目女の子同士でも、心はホモって名言もこの世の中にはあるの」

「ふ、ふーかさん? 珠理奈×ルイの関係性でびたいち男同士っぽい妄想はできないわけなのだが」

 どう考えても百合だろ。普通に百合だろ、腐らないだろ。腐らせないでお願いと、なぜか健が妹に泣きついていた。

 っていうか、どうしてルイさんが受けなんですか。


「仕方ないなぁ。それならクロねーさまとルイねーさまで……」

 でゅふふと普通に言い始めたので、クロやんがうちの妹さまはーと言いつつ、手をぐいっとひっぱった。

「親父がそろそろ迎えに来てるから、行くぞ。うまいもん食わしてくれるってさ」

 そろそろ小腹が空いてきてるころだよねーと言うクロキシの表情は、少しだけうっとりしているようなのだが。

 おじさんが連れて行ってくれる予定のお店はそれなりに期待していいらしい。

神社二軒目は恋愛成就です。

しっかしびたいち珠理奈さんは成就しないですね、かわいそうに。

そして、沙紀さん再びです。振り袖の宣伝もしないといけないですからね。


次話は、おじさんがご飯を食べさせてくれます。べ、別に援助交際じゃないんだからね!(え、その単語自体が死語か……そうですか……)

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