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248.

「さあーみなのものー、仮眠は取ってきたかなー」

「ばっちりでーす」

「あー、あたしはちょいとー、イベントの打ち上げで……」

「さくらは相変わらず、コスプレ大好きよねー」

 ああ、かしましい声が目の前で展開されています。

 本日集まったのは、高校から十分くらい歩いた高台。

 スポットとしては車の通りもそんなにないし、開けているのでちょうどお日様が上がってくるのを押さえられる場所だ。あいなさんオススメの場所ということで、さすがに良い場所を見つけるなぁと感心してしまうほどだった。

 集まっているのは、あいなさんの提案で、卒業生枠から佐山さんとさくらを合わせた合計四人だ。

 ま、ルイのことを知ってる人達オンリーの方が気が楽だろうっていうのもあるけど、ぷち同窓会みたいな感じとでもいえばいいだろうか。現役生は今回はお留守番という形だ。

 高校の部活の方は十二月に去年もやった夜景撮影のお泊まり回とかもやったそうなので、日の出の撮影はこっちに付き合っちゃおう! っていうのがあいなさんの提案なのだった。

 まー部活っていう枠からはもう出てしまっているので、あいなさん的にはもうこちらの面倒を見る必要性はまったくないんだけど、それでもたまにはこういう付き合いもーというのでこんなイベントも出来たわけだ。

 個人的にさくらとあいなさんと三人っていうのもプランとしては有ったのだけど、せっかくだからあの二人も誘っちゃおうよーとさくらが言い出してこうなっていたりもする。もう一人は残念ながら彼氏と過ごすとかで欠席であります。

 佐山さんが、うぬぬって言っていたのだけど、その姿は撮らせていただきました。

 んー、モテそうなんだけどなぁ。

「さくらったら、今日は手伝いお願いしてたのに、ひどいんだよー。午後になってからの参加で、しかもこっちが無事に終わったって話をしたらレイヤーさん撮影に行っちゃうし」

「あはは、もーそれはゴメンっていってるじゃないのよ。お手伝い賃も無しでいいし、それに、無事に終わったんでしょ?」

 そりゃそうだけどさぁ、としょぼんと言うと、あいなさんも苦笑を浮かべていた。

「あれが無事だったら、あらかたいろんなことがなんでもおっけーじゃないかな」

 ぷぅと膨れて見せると、さくらに、まあまあと宥められてしまった。いや、さくらさん。貴女あの行列を見てないからそんなことを言えるのですよ。

「え、なんの話?」

 佐山さんが不思議そうに会話に混ざる。

 なので、つい先ほどあったばかりのことを彼女に伝えた。

 それこそもう、さくらがこなくて大変だったよーってことを中心にね。

「もう、そんな言い方しなくたっていいじゃない。無事に会場の同志達の助けでなんとかなったみたいだし、しかも完売でしょ? 600だったっけ? エレナたんならいける数だとは思うけど……十分快挙なんじゃない?」

「……うん。もう本当にありがたいカギリデス」

 周りと比べてもあの光景は異常だったとは思っている。エレナのファンが多いのは元からわかっていたことだけど、実際こうやって数字で見てしまうと、うわっとなるものだ。

「で? ルイさんったら、その収益で今度は何を買っちゃうのかな-?」

 ふふーんと、さくらがわざと話題をずらすために言った言葉にきちんと対応する。

 うん。今回のコスROMは、前回よりも単価が1.5倍。利益だって順当にそうなるはずだ。全部売りさばければ、ね。

「今の所は半分売ったに過ぎないから、これからの委託販売でどれくらいでるかってとこだよ。エレナは利益確定したところでとりあえずお支払いをって言ってくれてるけど……なんか、こっちの懐事情を思い切り心配されてしまってる気がして複雑」

 うん。エレナはただ純粋に善意からそういうことを言ってくれてるのだと思う。

 でも、利益がある程度確定するのはもうちょっと先のことなんじゃないだろうか。この業界、利益を出す方が大変だっていうし。

「んー、ルイちゃん。お金は貰えるときにもらっといた方がいいよ? わかってるだろうけどそろそろカメラの買い換え時期だろうし」

「う……そりゃわかってるのですが、どうしたって二台持ちになるので……」

「あ、木戸くんの方でもカメラ買ったんだっけ?」

 佐山さんがおぉーと少しテンションをあげてこちらの顔をのぞき込んで来た。

 新機種となると彼女も興味深いらしい。そういや卒業旅行を断る理由としてカメラを買ったのでと伝えてはあったけど、現物を見せるのは初めてだ。

「大学に入るに当たって、学校にも持ってけるしね。ルイ状態のカメラを良くしようかあっちで新調しようか悩んだんだけど、平日の行き帰りも持ってたいしねぇ」

 んで、こっちを装着なのですよ、とちらりとカメラを取りだして見せる。

 いつも木戸状態で使っている方のカメラだ。

 今日は朝日の撮影ということで、あれなら実はルイのカメラでもなんとかなるわけなんだけれど。

 それまでの間、夜の撮影をしないだなんて誰がいいましたか。撮るに決まっていますがな。

 そうなると、ルイが使っているものより、新しいヤツの方がいいに決まっている。

 これで、写真部の後輩がいれば遠慮もしたのだけど、このメンツなら自重もしなくていいだろう。

 朝日を撮るついでに夜景も、星空も撮ってしまおうと考えるのはごく自然なことだと思う。

「おぉー、さくらのも新しくなってておぉーって思ったけど、木戸くんのも本体スペックたっかいなぁ。入門機から卒業みたいな感じでちょっと羨ましい」

「えー佐山さんは換えないの?」

 高校時代と同じカメラを首からつっている彼女にそう問いかけてみる。

 思えば高校に入ってから彼女はずっとカメラを換えていない。いちおう一眼は使っているけれど入門機である。

 ダブルレンズキットといわれる一番手がでやすいやつだった。ルイのもちなみにそれである。

「ん-。あたしは正直、そこまではって感じかな。今ので十分きれいな絵を撮れるし、貴女たちみたいにプロを目指そうとか思ってないし」

 ちょっと撮影できればいいから、お金ができてかわいい機種があったら買い換えようかなってくらい。

 彼女はそういうとまったく引け目の無い透き通った笑顔を向けてくれた。

 うん。自分(ルイ)やさくらは必要なら無理をしてでもカメラを買い換えたりするものだけれど、写真をやる人が必ずしもそうするわけではない、ということだ。

「そういうスタンスも良いことだと思う。写真やる子がみんなプロを目指すんじゃ、あたし達のお仕事がなくなっちゃうし」

 楽しんで撮ってくれればそれで教えたかいもあるよ、とあいなさんが朗らかに笑っている。

 うん。

 確かに高校の部活の写真部なのだし、全員が全員プロを目指そうだなんて思っているはずはないものね。

 好きになってくれればそれでいい。それくらいの感じであいなさんはあの講習をやっていたのだと思う。

 そんな中で写真馬鹿のさくらと会えたことは、結構貴重なことなのかもしれない。

 同じくらい夢中で、節操がなくって、のめり込んでいる宿敵(とも)の存在は、もっとがんばろうって思えるきっかけになる。

 さくらは、もしかしたら、一人でほわほわ撮ってるだけだってルイに対して思ってるかもしれないけど、半分くらいはそういう刺激も糧になっていると思う。残り半分はおっしゃる通りなのだけど。

「それに華の女子大生なのですぜ。他にもいろいろと出費はかさむし、合コンの費用とかは男子もちーってこともあるけど、そうじゃないときもあるし。他にも旅行とかでお金かかったりとかね。さすがにカメラに全部つぎ込んで旅行にいけないよーなんてことにはなれないかなぁ」

 にまっと、佐山さんが昔の話を持ち出してくる。そういやカメラの話あったっけなぁってのを思い出したらしい。

「うぅ。その節は……いろいろあったんですって。父親経由で仕事がきたりとか、エレナの撮影したりとか」

 ま、まぁもちろん金欠だったというのが一番の理由ですけど、というと、ぷははと佐山さんが吹き出した。

「ほんっともう、相変わらずルイさんのそのぼけぼけっぷりが可愛くていいっ。見た目はちょっと大人っぽくなったかなって思ったけど、中身は相変わらずって感じ」

「大人っぽくなった、かな?」

「んー。昔に比べればね。雰囲気がなんかこう、あわあわしなくなったというか」

 昔もカメラのことにだけ夢中な感じではあったけど、今はおねーさんって感じになった気がすると、佐山さんに断言されてしまった。

「男としては一ミリも成長してないけどね」

「あ、さくらそれひどいっ。あたしだって……うぅ。育ってる自覚が一ミリもないや……」

 うん。いちおー木戸馨としての活動も増えたには増えたのだけど、正直あんまり男として大きくなったーとかはまったくもって意識することがない。そもそも男としての自分というものに対してはあんまり興味ないからだからだろうけど。

「美容に気を使うけどそれは女子限定、か。案外男子の状態でも着飾ればイケメンになりそうなんだけどな」

 美人さんなんだし、素材はすっごくいいんだから、男の子っぽくしてみればいいのにという佐山さんに軽く首を横にふるふる振った。

「……あのね。美容院で髪切ってたのね……そしたら普通に女子だって思われたのね……」

「眼鏡外しちゃうとダメなのかぁー。でも中性的っていうのは男性アイドルの必須条件みたいなのでもあるし、やりような気がしなくもないけど」

「いちおう暇ができたら今度試してみようかと思います」

 うん。最近いろいろと不穏な付き合いもあるし、変装のバリエーションが多くあるのはそれだけでいいことかもしれない。

「ちなみに、ルイ。エレナちゃんのコスロム1500円で1200枚って言ってたけど、600売れてるならもう、元は取れてると思う」

「は?」

 さくらがスマホをいじりながらぱちぱちなにかをやってるなと思ったら、どうやら先ほどのROMの話を調べてくれていたらしい。ちょっと話題が前後してしまうけれど、実際の会話なんてこんなのはよくあるものだ。

「いや、まあそりゃ衣装代もかかってるかもだけど、あの子の場合生地にこだわりつつだけど自作でしょ? 一着せいぜい行っても2,3万じゃないかな。下手するともっと安いかも。で、それが六キャラ。十万前後くらい? 撮影場所はスタジオ借りるとか全然してないだろうから交通費程度。当日の売り子さんの手伝いがせいぜい一万くらい? あー、あとはイベントの参加費用もあるか」

「でもプレス代って結構かかるんじゃないの?」

「さっきぱっと調べたけど1200部で40万くらいみたい」

 ROMのプレス代は枚数を作れば作るほど単価が安くなる。前回は300作ってから追加で発注をかけていて追加分は割引料金になったみたいだけど、今回よりも費用がかかっていたと思う。それでも利益はでていたのだから、たしかに一気に作ってしまった今回の方が純粋に利益は出やすいのかもしれない。

「じゃあ、もしかして1000円販売でも良かったってこと?」

 今回の値付けに関しては前回の量と比較して、そのための時間やら労力やらクオリティやらを計算して金額を上げている。コストの計算は全部エレナ任せなのであまり意識はしていなかった。

「ま、赤字にならなきゃいいって発想ならそうなんだけど……ま、前回のROMが1000円なら、今回はこの値段っていうのは納得価格。クオリティを上げて値段据え置きだと、労力に対する対価が入らないし、それになにより他のレイヤーさんが悲鳴を上げちゃう」

「その心は?」

 佐山さんがさらりと相の手をいれてくれる。

「一日で600部完売は、レアケースだってこと。多くのサークルは100とか200とかそれくらい作って、それでも売れ残っちゃう。エロならそこそこいけるんだろうけど、それでも数をすれるところはそう多くないわけよ」

「いや、エレナのやつあれで、エロシーンもやれなくはないんだけど」

 ぽそっと突っ込みを入れたのだけど、さくらさんに思い切りスルーされました。まあ作ったのは全年齢向けなのですけれどね。

「それでクオリティの高い作品を大手にばんばん安く出されたら、単価が高い作品しか作れない所の負担が大きくなっちゃうってわけ。ただでさえあんたのところはブックレット型なんだし、それで1500円はむしろ安いんじゃない?」

 下手すれば2000円くらいで出してるところもあるよ、と言われてまぁそりゃねぇと納得する。

 基本コスROMは1000~2000円くらいの間の価格設定がほとんどだ。

 これは原価から導き出しているのでは無く、作品の価値からの値付けをしているのが一般的。

 なので売り上げの枚数が多いほど、一枚あたりの原価が下がってくれるのだ。

 また、人によってはカメラマンは外注で用意したり、スタジオを借りて撮影したりと、出費がかさむケースもあるという。そこらへん我らのコスROMにはまったくかかってないので、純粋な利益になってしまうというわけだ。

「にしても、あんたそれだけのお金を扱ってて、実感なかったわけ?」

「途中から、販売マシーンやっていたので……だんだん、お金がただの紙みたいに思えちゃって、危ない感覚だったなぁ」

 それもこれもさくらが朝から来てくれなかったからなんだからね、というと、それはすまんと目をそらされた。

 にしてもあのレイヤー大好きなさくらさんが、イベントをほっぽってまで何をやっていたのかは気になる所だ。

「よっと。なんだか、景気のいい話が聞こえたんだけど」

「あ、ありがとうございます」

 ほいと、みなさんにコーヒーの入ったマグカップを渡しつつ、あいなさんも会話に参加してきた。

 寒空の下では、温かいコーヒーはとてもありがたい。

 しかも仮眠は取っているとはいえ、あと数時間は夜中に起きていなければならないし、普段夜にそこまで強くは無いので、こういうアイテムはそういう意味でも助かる。

「同人誌は売れればリターンがおっきいって話をしてました。あいな先輩はそういうのには進出する気はないんですか?」

「あくまでも自然の写真をメインに撮る人だしねぇ。そりゃ人物撮影も佐伯さんとか見てると楽しそうかなぁとか思うけど、とりあえずは今は空とか海とかそういうの中心に撮ってたいな」

「……うわぁ、どこかの誰かが言ってた台詞と被るわ……」

 じぃとこちらにさくらから視線が向けられるけど、どうせこちらはそんなに自然の写真撮れてないですよーだ。

「なので今晩もしっかりと夜景撮っておきましょー。三脚はみんな持ってきてるよね!」

「もちろんですとも」

 バッテリーだけには注意するようにねーと言われて、バッグに入っている予備バッテリーをちらりと見る。

 当然昨日は、というか、まだ今日なのだけど、イベントで少しは撮影をしたので、家に帰ってから充電はしっかりとしてきた。ずっとブースに張り付けだったので枚数こそ少ないものの、それでも行き帰りにいくらかは使っているので油断はしていない。

 さくらもおそらく、それはかわらないだろう。付き合いで宴会に出たりはしてただろうけど、充電器とか普通に持って歩いてそうだ。

「それじゃー、ほどほどに撮影タイムというわけで」

 好きに撮っちゃいましょーというあいなさんの号令の元、合同撮影回は始まったのだった。 

もうちょっとあいなさんがいっぱい出る予定だったけど、大人の余裕で若い子達の会話を微笑ましそうに見てるような状態になってしまいました。

でも、いちおう今回の撮影はまだまだ続くので後編はもうちょっと女子ノリでいこうかと思っています。


後輩達に関しては、今回は受験とかあるのでおやすみで。天音ちゃんくらい呼んでも面白かったかもしれませんが、あの子は人を撮る子だし、なにより込み入った話ができなくなるので。


さて、そんなわけで次話は三時過ぎくらいからのお話です。

主人公が前半不在になります。と、といれー。

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