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233.

今日は短めです

大空奏おおぞらかなでともうします。この度は無茶な体験入学をきき入れてくださった皆様に感謝しております。一週間という短い間ですが、みなさまどうぞよろしくお願い致します」

 ぺこりと頭をさげるとさらさらな髪が顔をかすめた。

 今回使っているウィッグはショートのものだ。蠢に呼ばれて媚薬をもられたときのと同じもの。ルイとしてもこの学校には来ているから、少し印象を変えたいと言うことで装着している。

 そして服装はもちろん目の前の皆さまが来ているワンピースタイプの制服だ。冬服ということもあってそれなりの生地の厚さがあってほどほどに温かい。うん。見てるだけだとわからなかったけど保温性能はわりとしっかりしていて驚いてしまった。学校標準の黒タイツもかなりの厚手で、冷え性対策だなぁこれ、としみじみ思ってしまったほどだった。ちなみにしのさんは男子なので冷え性とは無縁です。

 え。名前はどうしたって? それは学院長からの提案で、一週間だけの偽名をつけて欲しいということになってこうなった。なんたら院とかって仰々しい名前にされそうになったのだけど、さすがにそこまでお嬢様は無理ですと断固拒否してこの名前になったというわけだ。一週間の後半では気軽にカナさんとでも呼んでいただけるとありがたい。

 とりあえずの挨拶をすませると、ひそひそとささめく声が聞こえる。十一月も末のこの激しく中途半端な時期の話だから、いつもはきっちりなさっているみなさまでもひそひそとお話をしてしまうようだ。

 うわぁ、こりゃ注目されてるなぁ、自分変じゃないかなぁ、なんて思っちゃう場面、なんだろうけど。

 こちらは笑顔のまま、特別動揺なんてものはしない。騒がれている理由が女装がばれているからだ、なんて思うようなことはもうないのである。

「学院長先生のご推薦だなんてよっぽどですよね」

 着席して教諭の話が終わると、隣の席の子にいきなり話しかけられた。

 佐月ほのかという名の彼女は目をきらきらさせながらこちらを見つめていた。クラスメイトの名前と顔はすでに生徒名簿で把握済みだ。転入生、しかも限定期間だけというのが珍しいのだろう。ツインテールにしている髪がぴょんぴょんとはねている。

「そんなにいい理由ではないです。おばさまに貴女はもう少し女らしさを身に付けないといけません、と言われてしまい」

「えーでも話し方とかすっごくおしとやかだし、なによりかわいいのに」

 はい。こちらも存じております。数日かけてお嬢様言葉をなんちゃってで覚えてここまで来ましたもの。その参考資料がエロゲなのはもうエレナにすがったこちらのせいですよね。わかっていますとも。

 エレナならそういうハイソサエティなツテとかで言葉遣い知ってるかなぁって思ってたんだけどネ。え、お嬢様言葉覚えるならこれが鉄板でしょ、とか言われて渡されました。いいですけどね、潜入モノ楽しかったし。

「おばさまに言われて、ここにくるまえに一夜漬けしました。さすがに浮いてしまって学園に馴染めないとなるとこまりますから」

「そこまでしゃべれてれば別に問題ないと思うけど。というかお嬢様学校っていってもそこまで言葉遣いが厳格というわけでもないし」

 一部、本格的なお嬢様という人もいるけど、そんなの学校の二割くらいだと彼女はいった。

 二割いるだけで十分だと思うけれど、時の流れというのもあって、ある程度一般の家庭の子供も入学しているということらしく、年々一般家庭の育ちの人も増えているのだという話だ。

「うちの弟なんかも反抗期まっさかりで汚い言葉いっぱいだから、むしろあたしのほうが言葉遣い緩いかもしれないよ」

 にははと笑う姿は年相応に屈託がなくてかわいらしい。ああんもう、カメラが手元に無いのが悔やまれる。

 二つ年下のクラスに入れられているわけだけれど、さすがはよいところのお嬢さんたちだけあって、育ちの違いみたいなものは感じられる。一般家庭だなんてほのかは言うけれど、それでもこういう所に娘を入れさせるようなご家庭は教育熱心だし、それなりに裕福なのではないだろうか。木戸家も貧乏な方ではないけれど、まずこういう学校に行かせようという発想がない。

 そんな挨拶をかわしてからは普通に授業。紹介のあとはすぐに授業だから、周りの生徒さんはこちらをちらちら気にはしているものの、きちんと授業のほうに耳を傾けている。うん。さすがはお嬢様学校である。

 教科書一式はとりあえず学院長先生から借りているので、それを使わせてもらっている。なるべく折り目がつかないように使って返却をしよう。

 ノートは割と真面目にとった。一度やってるところのおさらいなのでついて行けないと言うことは全くないのだけど、理系ベースで生活している身としては文系の授業は割と新鮮だった。数学の定理は変わらなくても、国語は扱う教科書が変われば載ってくる話もかわるという寸法だ。

 授業が一段落ついて昼になると、とても質問攻めにあった。

 やれ、学校には通ってるのか。それはどんなところなのか。共学なのか。彼氏はいるのか。モテるだろう。家柄は。学院長とはどういう関係なのか。

 転校生に聞くにはデフォルトな質問ばかりだから、もともと想定していた答えをすらすらと答える。

 学院長との関係は、遠縁の娘という設定だ。あとの関係は受け手側にお任せということにしている。まあ、気をかけてくれるおばちゃんと若者という感じのゆるっとした感じと思って貰えるのが一番だろうか。

 そこらへんはともかく、共学に行っているという話をしたら、みなさん大変驚いて、それから火がついたようなテンションで、殿方についてのあれこれをいろいろ聞かれてしまって、どうなのお嬢様学校と苦笑交じりの答えになってしまった。

 うん。いわゆる一般的男子像をお話しておきました。エレナの高校をベースとしてね。さすがに自分の経験から男子を語ってしまっては、この子たちには刺激が強すぎてしまう。

 男子にされたこととかももちろんだけど、木戸がやってきたことも言えはしない。

「学校案内してあげる」

「はい。お願いいたします」

 そして放課後。ほのかに手をぎゅっと握られる形で誘われたので、少しだけ考えてからはいと笑顔を浮かべた。

 正直、ルイとして学内はかなりまわっているから特別必要はないのだけれど、クラスメイトがそう言ってくれるなら、断る理由なんて何一つないだろう。無難にこっそり一週間すごしたって学校側はこちらを認めてはくれないだろうしね。

 面倒くさいだけかなぁと思いつつ、あんがい生徒視点での校内の案内というのはおもしろくて、ここで何があったとか過去の思い出話を絡めつつ、ほのかはおもしろおかしく話してくれる。

 これで手元にカメラがあったのなら、彼女の表情も併せて風景を撮るのになぁとちょっと残念な気分だ。

 うん。さすがに潜入中にカメラは無理だろうということで、今回は封印しているのだよね。カメラがないしのさんだなんて、もう、筆を持ってない書道家みたいなものですよ、もう。

「私が通っているところにも思い出はありますけれど、ここは景色が綺麗なのもあってなんというか、美しい? そんな感じがいたしますね」

「そうでもないよ。確かに環境はいいけど楽しいかどうかはその人達次第だもん」

「それはそうなのですが」

 んーと、あいまいな笑みを浮かべる。確かに場所より人という側面は確かにあるとは思う。

 けれども、木戸の高校時代があんな感じだったのもあって、ここで高校生活を送れたら楽しいかもなぁとは思ってしまうのだ。

 もちろんあれはあれで楽しかったけど、学園内の設備の差というのはうらやましい。

 なにより人が立ち入らなさそうな、ぼっちスペースがけっこうあるのがありがたい。へたすると木戸の大学よりも設備はいいんじゃないだろうか。

 そんな風に中庭を見ながら廊下を移動していると、カメラを胸元につった生徒二人とすれ違う。

 彼女達は一瞬こちらを、正確に言えばほのかを一瞥して目をそらした。

 そんな仕草がわかってしまうほど、奏をやってる木戸はその二人を凝視していたのだ。

 おもにカメラを。胸元をを見てたけど視線はおっぱいじゃなくて、カメラに向かっていますとも。

 そして、そのお値段が頭にちらついて愕然とする。女子高生がぽんと持てるようなもんじゃないだろう。いま木戸状態で使ってるカメラより高いよあれ……

 エレンの学校に行ったときの写真部もそうだったけれど、いくらなんでも格差ありすぎでしょうこれは。

「今の人は?」

「あーあはは。ちょっとした知り合いっていうか……写真部の人たち」

 こちらのこと見てませんでした? と聞くと歯切れが悪い返事がきた。仲が悪いのだろうか。

「へぇ。女子校で写真部があるだなんて、なかなか珍しいですね」

 カメラ女子は確かに増えた。おしゃれなカメラも多くなったし、小さなカメラも多くなった。けれども高校生でというのはどうなのか。もちろんコンデジでという選択もありだし、ポップな感じにスマートフォンで撮った写真を加工するみたいなやりかたもありかもしれない。

 そして、忘れてならないのは、あいなさんやさくら、他の女子もうちの学校の写真部にいたという事実だ。

 それでも女子校に写真部が発足するというのが想像しにくいのは、自分も偏見みたいなものがあるのかもしれないと、奏は思う。

「奏の学校にはないの?」

「うちは、あるけど共学だから……今は男の子の方が多いくらい、かな」

 うーんと、今の世代の人たちを思い浮かべてみる。今の部長こそ夏紀ちゃんがやってるけど、その下は男の子の比率の方が多かった気がする。カメラを趣味とする人がそこまで多くないから世代で性別の比率が変わるのはしかたがない。ルイさん目当てで男子が増えてるのよきっととかさくらにはからかわれたものだけど、純粋にうちの学校にはいったカメラ好きの性別がランダムなだけだと思う。

「共学かー。それなら……」

「ん?」

「ああ、なんでもない」

 うん。なんでもないよ? と彼女は途中まで言い出した言葉を引っ込めた。

 なにか一瞬浮かんだ思い詰めたような表情が気になったものの、それ以上彼女はその話題を出すのを避けて、再び校内の案内が愉快に始められたのだった。


潜入一日目スタート。

カメラ取り上げられるとかもう、かわいそうすぎですね!

でも奏ちゃんのうちは、カメラは持ってはいけませぬ。ということで。

お嬢様ことばは「あの」男の娘ゲーで覚えた設定です。表現がハイソでよい雰囲気でしたよね、あれ。


一週間といっても、実は月曜から金曜までの五日間しかないのですよね。とはいっても、体育とかトイレとかで「慌てない」奏さんなので……いわゆるテンプレ潜入ネタはあんまり発生しなさそうな……

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